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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
195/325

*** 195 ヒト族小国にてテストケース開始 ***

 



 2週間後。

 だいたいの準備が完了したんで、大陸東部の小国をテストケースにして孤児保護とスラム街での炊き出しの実践を始めることにした。


 すでにその国の国境沿いには、神界防衛軍や土木部の手で城壁の土台が埋め込まれている。

 工事を地元住民に目撃されることもあったけど、特に騒ぎにはならなかったよ。

 騒ぎになるようだったら工事は夜にしてもらうことになってたんだけど、どうやら目撃者がお上に届け出ても、誰も信用しなかったらしいな。

 それに造ったのは土台だけだし、それも隣国との国境付近だから、本格的な調査も出来ず、意味もわからなかったんだろう。



 王都の平民地区に土地を確保してサロモン商会の支店も完成した。

 スラム街に炊き出し用の建物も確保出来た。

 さあ、テストケース開始だ!




 まずはサロモン商会の支店長に扮したアダムブラザーが、当局者に孤児を引き取りたいと申し出た。

 サロモン商会が独自の孤児院を持っていて、従業員もその孤児院出身者がほとんどだということは、大陸東部では有名だからな。

 当局者も将来の従業員確保のためだと思って、特に疑いは持たなかったらしい。


 だけど、この国の王都の孤児院って、国王から命じられたある男爵が経営責任者だったんだけど、それで国王から預かった孤児院運営費を相当にピンハネしてたようなんだ。

 だから資金源が無くなると思って抵抗して来たんだよ。

 やっぱりヒト族の支配層ってロクでも無い奴が多いわー。



 でもまあ流石は海千山千のアダムだ。

 まだスラムには孤児がいっぱいいますよね、って仄めかして、男爵の部下の孤児院長に金貨1枚握らせて、孤児130人全員を引き取って来たんだ。

 まあ、孤児を渡して賄賂受け取ったことで、この院長も上司の男爵とともに有罪確定だ。

 ステータスチェックしたら戦場以外での殺人もけっこうあったし、そのうちに行方不明になってもらおう。



 孤児の確保が終わると、すぐにスラム街での炊き出しも始まった。

 街のちょっとした広場に面した大きな建物から、アダムブラザーとイブシスターが大量のパンとシチューを持ち出して住民に配り始めたんだ。


「みなさーん、サロモン商会の炊き出しですよー。

 いくら食べても無料ですー。

 美味しいシチューとパンが食べ放題ですー。

 さあさあ、こちらの列に並んで下さぁい!」


「お、おっちゃん、ほんとにタダなんか?

 いくら食べてもいいんか?」


「もちろん! サロモン商会からのプレゼントです」


「うわっ! なんだこのパン! や、柔らけぇっ!」

「おおおお! こ、このシチュー、肉が入ってるぞ!」


「なあなあおっちゃん、パン貰っていってもいいか?

 妹や仲間たちがいっぱいいるんだ……」


「だいじょうぶですよ、食べ物はまだ山ほどありますから。

 早くみんなを呼んで来てあげて下さい」


「うん、わかった!」



「サロモン商会さんとやら……

 ほ、本当にわしらも食べていいんかの?」


「ええ、どなたでもどうぞ」


「あ、ありがたいことじゃあ……

 暖かいシチューなんぞ3年ぶりじゃあ」



「こらジジイ、ガキども! どけどけ!

 おい! 早く俺様にもメシをよこせ!」


「あー、みんな順番です。列に並んで下さいね♪」


「なんだとゴルァ! お前ぇ死にてぇのか!」



 そのとき突然その場に白い軍服姿の兵士が2名出現した。


「はいキミ、威力業務妨害兼傷害未遂でアウトぉ~!」


 びかびかびかびかびかびか!


「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ!」


 ガラの悪い男は、ハデに光ったかと思うとすぐに白目を向いてその場に崩折れ、兵士たちに建物の裏に運ばれて行った。



「おうおうおうおうおう!

 手前ぇら誰に断ってこんなところで商売始めやがったんだ!」


「商売ではありませんよ。無料の炊き出しです」


「なんだとこの野郎っ!

 このスラムはなぁ、俺たち『黒い血』が仕切ってんだ!

 ショバ代払わねぇ奴はぶっ殺すぞ!」


「はいキミも、恐喝現行犯でアウトぉ~!」


 びかびかびかびかびかびか!


「「「ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~っ!」」」


 またその場にガラの悪い男たちが崩折れて運ばれて行った。



「はあ、ヒト族は国の支配層もロクでもないですが、スラムの支配層もロクでもないですなぁ……」


「な、なぁ、サロモン商会のおっちゃん……」


「おや、さっきの子ですね。

 ああ、後ろにいるのがお仲間ですか。

 さあさあ、パンとシチューをどうぞ♪」


「ほ、本当にいいんか?」


「もちろん! みんなお腹減ってるんでしょ」


「あ、ああ、もう3日もなにも食べてないんだ……」


「でしたらあんまりいっぺんに食べないでくださいね。

 お腹壊しちゃいますよ」


「そ、そんなこと言ったって、この先いつ食べられるかわかんないんだからさ。

 喰えるときに喰っておかないと……」


「大丈夫ですよ。

 この炊き出しはこれから3カ月間、朝から夜まで行いますから」


「ほ、ほんとかよっ!」


「お兄ちゃん…… このシチューすっごく美味しいよう……」


「あ、ああ、ゆっくり食べろな……」


「そうそう、あなた方は寝るところはあるんですか?」


「一応屋根だけはあるけどさ。

 でっ、でも場所は秘密だぞ! いつ襲われるか分かんないからな!」


「それではこの建物の中にどうぞ。

 中には暖かい服と毛布とストーブもありますから。

 よろしければここで暮らしてもかまいませんよ」


「お、俺たちカネなんか持ってないぞ!」


「ぜんぶタダです。

 サロモン商会からのプレゼントです。

 おーいイブシスターさん、この子たちが食べ終わったら建物に案内してあげてくださーい」


「はーい♪」



「なあ…… なんでこんなに親切にしてくれるんだ?」


「あなたはサロモン商会のことを知っていますか?」


「お、おう……」


「この大陸最大の商会であるサロモン商会の会頭は、もともと孤児を5万人も集めて孤児院を運営してたんですよ。

 サロモン商会の従業員も、ほとんどその孤児院出身なんですけど。

 それで、それを喜ばれた神さまが会頭を祝福して下さったんです。

 さらに大変な量の金貨も与えて下さったとか……

 だから会頭は、その金貨や私財も使ってこうしたことを始めたんですよ」


「そ、そうだったんか…… そんな人もいるんだな。

 な、なあ。お、俺もそのサロモン商会で雇って貰えないかな。

 や、やっぱ、施されるだけじゃあなくって、働いて稼いだ自分のカネで腹いっぱい喰いたいから……」


「素晴らしいお考えですね。

 もちろんご紹介出来ますけど、キミは何歳ですか?」


「いつどこで生まれたのか分かんないんだ。

 気がついたら妹とこのスラムにいたから……」


「それはそれは……

 でも見た感じ12歳ぐらいですね。

 それではまずサロモン商会の孤児院に入られたら如何でしょうか?

 サロモン孤児院には15歳になるまでいられますよ。

 そうして文字の読み書きや計算も教えてもらえます」


「な、なあ。そこってこんな美味い食べ物はあるんか?」


「ええもちろん。

 ここよりももっと美味しいものを毎日好きなだけ食べられますよ」


「お、俺には仲間たちが15人いるんだ。

 そ、その仲間もいいんか?」


「あなたは孤児たちのリーダーだったんですね。

 その歳で大したものです」


「り、リーダーとかそんなに大それたもんじゃないけど……

 で、でもみんなに『兄ちゃん』って呼ばれてるから……」


「素晴らしい。それではその孤児のみなさん全員でどうぞ」


「そ、そんなこと言って、俺たち全員奴隷に売り飛ばすんじゃないよな!」


「さすがです。そうした警戒もリーダーとして当然必要なことです。

 将来はサロモン商会の幹部候補生かもしれません。

 それでは、この建物の中ではサロモン孤児院の様子が『映像』で紹介されています。それを見てじっくり考えてください」


「えいぞう?」


「まあ見ればわかりますよ」


「な、なあ。俺の仲間にひとり孤児じゃあない奴がいるんだ。

 父ちゃんが死んじまって母ちゃんに育てられたんだけど。

 その母ちゃんが病気になって働けなくなったんだ。

 それでそいつ俺たちの仲間になってるんだけど……

 そいつは孤児院には入れないよな……」


「あなたは仲間思いの素晴らしい子ですね。

 その子の家はここから近いですか?

 そのお母さんはゆっくりとなら歩けますか?」


「あ、ああ……」


「それではよかったらここに連れて来てください。

 この建物の中には医者もいますし薬もあります」


「ほ、本当かよ!」


「ええ本当です。

 それで病気が治ったら、そのお母さんも一緒に孤児院にどうですか?

 孤児院では子供たちの面倒を見てくれる保育士さんも募集していますから」


「わかった! 今連れて来る!」



「やれやれ。ヒト族も子供のうちは捨てたもんじゃあありませんね……

 それも貧しい程E階梯は高いのかもしれません……

 おなじスラム街で暮らしていても、住民から搾取して逮捕されるようなクズと、こうして仲間と助け合って暮らしている子供たちに分かれてしまうのですか……。


 この違いはなにから来ているのでしょうかねぇ……」





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