*** 193 大武闘大会、並びに連合国王族会議終了 ***
次の試合までは少し時間がかかったよ。
武闘台の上を掃除したり、穴を埋めたりして。
それでも30分後ぐらいにようやく試合が再開されたんだ。
「そ、それでは第3回戦を始めます。
ビクトワール大王国3人目の選手はギルグゴール選手であります!」
あー、こいつもうビビってるわぁ。
脚もガクガクだし、腕もプルプルだぁ。
「た、対するはガイア国ベヒラン選手です!」
「おーい、ベヒラン。がんばれー」
はは、ベヒランが俺の方を向いて恭しく跪いて頭下げたわ。
さすがにコイツレベルになると、隠蔽してても俺がどの辺りにいるかぐらいはわかるんだろうな。
これで観客にも、ガイア国の選手がただの野獣じゃあなくって文明人だってわかるだろ。
「そ、それでは試合開始っ!」
「それじゃあベヒラン。
みなさんにお前の真の姿を見せてやれやー」
「御意!」
ベヒランがマントを脱いで光った。
まあそこに現れたのはいつものベヒランだよ。
体長15メートル、体重30トンの姿だ。
「ぶごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」
あー、観客が半分ぐらい失神しちゃったよ……
あ、相手選手も失神しとる……
まあベヒーモスなんか見たこと無かったろうからな。
でもまあよく見て欲しいからさ。
俺は会場全体に『ショックランス(Lv0.001)』をかけたんだ。
はは、みんな気がついてくれたようだな。
相手選手は腰を抜かしたまま、剣だけベヒランに向けてプルプルしてるわ。
「おーい、ベヒラン、やっちゃっていいぞー」
ベヒランが無造作に歩き出して、そのまま前足で相手選手を踏んだ。
「ぶちゅ」
はは、またもや金属と肉と骨が入り混じってエラいことになってるわー。
血も内臓も飛び散ってるしー。
もちろん中身のヒトは別の場所に転移させて無事だけどな。
周りに飛び散っているのはやっぱり地球産の豚の肉や骨や血なんだ。
「こら審判!
腰抜かして震えてないでなんか言ったらどうなんだ!
試合終わってないんだったら、ベヒランが暴れ回ってうっかりお前も踏んじゃうかもしれないぞ!」
「し、ししし、勝者ガイア国ベヒラン選手っ!」
また選手の残骸を片付けるのに多少の時間はかかったものの、すぐに次の試合も始まった。
「そ、それではビクトワール王国4人目の選手はゲオルグ・サンドス卿であります!
た、対するガイア国選手は、ブルードラゴ選手であります!
り、両者前へ。
それでは試合始めっ!」
「それじゃあ観客の皆さん。
またガイア国選手の紹介と解説をさせてもらおうか。
このブルードラゴ選手は、その名の通り氷龍族なんだよ。
それじゃあドラゴ、みなさんにお前の真の姿をお見せしなさい」
「はいっ!」
またドラゴがでっかい光に包まれた。
「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~ん!」
あー、こんどは観客がほとんど全員気絶しちゃったわ。
まあ、体高15メートルのドラゴンなんか見たこと無いもんな。
はは、相手選手は立ったまま泡吹いとるわ。
目玉も裏返ってるし。
それでまたみんなにショックランスかけて意識を戻させてやったんだ。
まあ最後まで見て欲しかったからな。
氷龍は口から冷凍ブレス噴き出して相手を氷漬けにした上で、しっぽでぶん殴って弾き飛ばしてたわ。
その氷玉は会場を飛び越えて遥か彼方まで飛んでってたぞ。
まあ、これも鎧の中身は氷に覆われる直前に転移させてやってたけど。
最終試合は焔龍の登場だ。
これも灼熱のブレスで相手選手(とすり替わった豚肉)は蒸発してたよ。
残ったのはドロドロに溶けた鎧と剣だけだったぜ……
第1試合がガイア国の完勝で終わり、ガイア国選手団はまた元の姿に戻って観客に笑顔で手を振ってたんだけど……
観客みんなどん引きだったわぁ。
そしたらさ、第2試合をするはずだった2カ国が、両方とも試合放棄しちゃったんだ。
万が一勝っちゃったりしたら次の対戦相手がガイア国になっちゃうからな。
それで3試合めの2カ国も両者試合放棄、4試合めも……
そうして参加国すべてが試合放棄で優勝は自動的にガイア国になったんだよ。
まあ仕方ないか。
ビクトワール王国相手にあれだけやっちまったんだから。
表彰式は行われなかったよ。
まあビクトワールの国王や王族も、全員ガイア国の選手たちには怖くて近づけなかったかららしい。
ただ、最後にフェミーナがアダムに頼んで『拡声の魔法』を使ってみんなに挨拶したんだわ。
「みなさま、本日はわたくしたちの戦いぶりをお楽しみいただけましたでしょうか。
私どもと致しましては、戦い足りなくって少々物足りなかったのですが……」
その美しい顔、華奢な体、さらにその涼やかな声を聞いて、観客たちは巨獣族や獣人族も自分たちと変わらないって理解したかな。
まあ戦いに於いては次元が違うけど。
「それでみなさん、我が国最強の戦士はどの種族だと思われますか?
私たちの国には、フェンリル族が500、オーガ族が2万、ベヒーモス族が350、そしてドラゴン族が350いますが、加えてトロール族2500とミノタウロス族3500もいます」
会場内から呻き声が聞えた。
(そ、そんなにいるのか……)
(ここの5人だけでも我が軍を壊滅出来そうなのに、その数百倍以上……)
「さあ、その中の最強である者は何族でしょうか?
実はその最強強者は、今日の試合には出ていなかったんです。
もし彼と戦えば、ここにいる5人が束になってかかっても瞬殺されてしまうでしょう。
実際には既に瞬殺された者が何人もいます。
もちろん神の恩寵ですぐに生き返りましたけど。
さらに、フェンリル族、オーガ族、ベヒーモス族、ドラゴン族が全員で戦っても、この絶対強者には1分ともたずに全滅させられてしまうでしょう」
ガイア国選手たちが腕を組んだまま大きく頷いている。
会場がさらにザワついた。
「我々のような種族は個の力を尊びます。
つまりまあ強そうな相手を見れば戦ってみたくなるのですね。
そのわたしたちが絶対強者さまとお呼びし、心の底から尊敬し、心酔し、挑戦する気など全く持てないお方様。
我が国にはそれほどまでに次元の違う強者がおります。
だからこそ我がガイア国は強者から弱者まで、等しく完全に統率されているのです。
そのお方様から見れば、我々とて皆吹けば飛ぶような弱者ですから。
そして、そのお方様はヒト族だったのです。
もっとも、こことは異なる世界からシスティフィーナさまに呼ばれてやって来たヒト族なのですが……
そのお方様は最近神界から神格を賜って『神』となられましたので、もはやヒト族とは呼べなくなりましたけどね♪
そう……
我が国最強の戦士、絶対強者は、実は我が国の代表代行のサトル神さまなんですよ♡」
観客席から大いなるどよめきが上がった。
「ということでですね。
みなさんは、どうやらわたくしたちのことを恐れていらっしゃるようですが、本当に『恐ろしいお方様』は、みなさんの隣に座っていたかもしれないんです……」
会場から悲鳴が聞こえた。
「代表代行さまは高度な隠蔽能力もお持ちであるため、たとえすぐ隣にいたとしても気づかなかったでしょう。
ということは、あのお方はどこにでも誰にも気づかれずに入っていけるということなのです。
例え王城の中でしょうが皆さまの寝室でしょうが……」
悲鳴が大きくなった。
「もしもあのお方さまがその『隠蔽』能力を解除したら。
そしてもしも威圧を放出したら……
みなさまは、1年ほど前に、なぜか多くのひとびとが一斉に気絶するという不思議な現象をご経験になられたことと思います」
多くの観客がコクコク頷いた。
「あれはサトルさまが、中央大平原の真ん中で、『隠蔽』を解いて『威圧』を放出されたからなんですよ♪
それで、6000キロも離れたこの地の皆さんまで気絶されたんです」
(あ、あれはサトル神さまの仕業だったのか……)
第8王子は冷汗を拭った。
「それから彼の力は1年で100倍になりました。
今なら多分、あの威圧を放出するだけで、大陸中の生命を、気絶させるのではなく一瞬で即死させることが出来ると思います。
ですからみなさん、あのお方さまをあまり怒らせない方がいいですよ♪」
観客席から絶叫が響いた。
(お、俺ってそんな危険物だったんかーーーっ!)
俺も心の中で絶叫した。
「それではみなさん。
またお会い出来る日を楽しみにしております。
それが戦場でなければいいんですけどね♪」
会場全体から悲鳴と絶叫が響いた……
その日の夜、旧領事館だった城で開かれた晩餐会はお通夜みたいだったそうだわ。
そして翌日の『親ビクトワール王国連合国家王族会議』の場……
がっくりと力なく項垂れる国王陛下に代わって、壇上に立ったのは第6王子だった。
第1王子は廃嫡の上幽閉、第2王子はとっくの昔に暗殺、第3王子も廃嫡の上捕虜、第4王子は戦死、第5王子は行方不明(たぶん暗殺)、第7王子も政争と暗殺の恐怖で心神喪失状態だったからな。
この第6王子は、暗殺を恐れて昨日の武闘大会には来ていなかったんでやけに威勢がいい。
きっと今まで逃げ回る生活をしていたのが、急に次期国王の芽が出て来たんで張り切っているんだろう。
「わが親愛なる連合国家の王族貴顕たちよ!
これより王族会議を始める!
まず最初の議題は、僭越にも我らの将兵を捕虜にしたと偽証する蛮族の国、ガイア国を如何に滅ぼすかということであるっ!」
会場中にシラけた空気が広がったが、第6王子は気づきもしない。
「もちろん最初は我ら精鋭軍を結集し、まずは蛮族共の城壁を包囲して奴らを封じ込めるのだっ!」
と、そのとき……
ずごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご……
不気味な音と共に、城全体が沈降を始めた。
次第に沈降速度を速めて3分ほどで200メートル下降する。
そう、城全体があの台座の中にすっぽりと落ちてしまったのである。
さらにその上空に直径20キロ近い分厚い円盤が出現し、台座に向かって下降して来た。
ずずずずずずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!
こうして、連合国の首脳たちは、自らが巨大な台座の中に封じ込められてしまったのである。
さらに……
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!」
「なっ、なんだこの匂いはぁっ!」
「こ、これはドブの匂いと第1王子の匂いだぁっ!」
そう、王都から流れ出ていたドブ川が、下水処理場を経由せずに台座の中に直接流れ込み始めたのである。
「ふう、これで文字通りクサいものにフタが出来たな♪
新型『ヒト○イホイ』の稼働実験は大成功だったか」
(ひとこと申し上げさせて頂いてよろしいでしょうか、サトルさま……)
「なんだアダム、別にかまわんぞ?」
(サトルさまは、ほんとにほんとにほんとに容赦がありませんな……
しかもやり過ぎがデフォになりつつあります……)
「まあいいじゃん。別に殺すワケじゃないし♪」
(はぁ……)
「そうそう、メタンガス中毒で死なせるのもなんだからさ、ときどき換気だけしといてやってくれや。
あ、あとそれからメイドや侍従、料理人なんかは可哀想だから全員収容所に転移させてやっておいてくれ。
城の中に残すのは王族と貴族だけな♪
第8王子と宰相は外に出してやれ」
(………… 畏まりました …………)