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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
189/325

*** 189 領事館奪取工作 ***

 



 第8王子一行は空から大武闘場を見学した後、城に戻った。

 そうして城の最上部にある展望室に移動したのである。


「こっ、ここは……」


 その展望室は、200メートル四方ほどの広さがあった。

 その1面には巨大なシスティフィーナ神の肖像画が描かれ、数多の種族たちが幸せそうに暮らしている姿を優しく見守っている。

 また、天上と壁の1面は、先ほどのロココの間よりもさらに精緻な彫刻が施された豪華な空間になっていた。


 そして残りの壁2面は……

 高さ30メートル、幅200メートルもの巨大なガラスの1枚板で覆われていたのである。


 第8王子はため息をついた。


(サトル神殿……

 あなた様はほんに『やりすぎ』がお好きですねぇ……)




 展望の間から外のバルコニーに出てみれば、バルコニーは幅が30メートルもあって展望室の全周を巡っている。

 手摺もすべてガラス製であり、慣れない者は近づくことも出来ないだろう。


 そうして一方のバルコニーからは、遥か眼下に王都とちっぽけな王城が望めたのである。


(この風景……

 陛下が見たらさぞかし激怒されるかな……)


 そう思って口角を上げた殿下が傍らの宰相を見れば、宰相もやはり口角を上げて微笑んでいた。




 それからは展望室にて昼餐会である。


 一行は地球産の20年物のビンテージワインに驚き、これも地球産のさまざまな料理に驚いた。

 メインディッシュはまたもドラゴンのしっぽの輪切りステーキである。

 巨大な皿に乗った直径80センチものステーキは、領事自らが切り分けてくれた。



 食後のデザートにも驚愕した宰相閣下は、満足げな顔で口を拭いている。


「それにしても……

 このような盛大なる領事館披露会に、我々2人しか来ていないとは……」


「ええ、王族の方々はもちろん、閣僚や軍の上層部、伯爵以上の上位貴族の方々にもご招待状はお送りさせて頂いたのですが……

 残念ながら皆さまからは欠席のお返事すら頂戴出来ませんでした」


「それはもったいないことを……

 ですがもし来月にでも再度披露会を開かれれば、そのときは千客万来となりますかな」


「はは、残念ながらその予定はございません。

 以降は本業である国交の協議と捕虜返還交渉に移らせて頂きます。

 ですが第8王子殿下と宰相閣下におかれましては、いつでもご来臨賜れば幸いにございます」


「それはありがたい。

 それで…… 

 その、その際には『友人』を連れて来てもよろしいだろうか……」


「どうぞどうぞ。閣下同様大歓迎させて頂きます」




 その後も地球産ウイスキーを嗜みながらの歓談は続いた。

 そうして夕闇も深まるころ、王子一行は領事館を辞去しようとしたのだが。


「こちらは僭越ながら『引き出物』でございます。

 よろしければどうぞお持ち帰りくださいませ」



 それは不思議な材質の包装に包まれた3つもの大きな箱だった。

 王子は、規則で護衛には荷物を持たせられないことを告げて謝辞しようとした。

 もちろん護衛としての本分が尽くせないからである。

 すると、領事閣下は微笑みながら言ったのである。


「ご心配無く。

 もちろんこちらのフロートカートもお付けさせていただきますれば」


 3つずつの大きな箱を収めた2つのカートは宙に浮いた。

 そうしてそれぞれ殿下と宰相の後方5メートルほどを、音も立てずについて行ったのである。


「そうそう、お怪我をされた護衛の方々は、後ほど城にお送りさせていただきますね」


 領事の言葉の中に『第1王子』という言葉の無かったことに気がついた宰相はまたにんまりした。


 いつのまにか第8王子一行の馬車と御者は地上に降ろされていたようだ。

 馬車までエアカ―で送ってもらう途中、閉ざされた城の門の外、台座の崖の上に、所在なげに横たわる第1王子と護衛の姿を遠目に見て、第8王子もまたにんまりしていたようだ。



「第1王子殿下は明日私が引き取りに参りましょう」


「宰相殿、大丈夫ですかな?」


「なに、『とっくにお帰りになられていたものと思い、ご不在にも気がつきませんでした』とでも言えばいいのですよ。

 私はこれより自宅に直接帰りますので」


「はは、それではわたくしも自室に直帰すると致しましょう」


「それがようございますな」


 2人は顔を見合わせてまたにんまりと笑ったのである。





 自室に戻った第8王子は将軍と直属護衛の前で『引き出物』とやらの箱を開けて、喜びの声を発した。


 ひとつ目の箱にはあのティーセットが5客と各種グラスが15個、2つ目の箱にはビンテージワインが12本、そして3つ目の箱には30年物のこれもビンテージウイスキーが12本入っていたのである。


 王子はその場でウイスキーを開けて将軍と護衛に振舞った。

 そうしてウイスキーとワインを祖父への土産に3本ずつ確保すると、残りの酒は全て配下の兵たちに下賜された。


(この『かーと』だけで十分だからな……)





 翌日、弱りに弱った第1王子の回収を終えた宰相の執務室を訪れた者がいた。


「これはこれは陛下、このような場所にようこそお越しくださいました」


「うむ。これは非公式な訪問じゃ。

 あまり気を遣わずともよい……」


(陛下も歳を取られたな……

 以前の覇気がすっかり無くなっておられる……)


「して…… かの領事館は如何であったか」


「はい、『神の神殿とはかくあるものか』と思わされましてございます」


「『神の神殿』か……

 あのガイア国の代表代行は、自らを神と僭称しているのではなかったのかな」


「それが真実かどうかなど小職にはわかりかねますが……

 それでもあの領事館、いや城はまさしく神の住まいと言っても過言ではありますまい」


「そうか、それほどか……」


「はい。

 ところで陛下。

 もしよろしければ陛下もご自分の目であの城をご検分になられては如何でございましょうか」


「いまさら招待せよなどと言えるわけが無かろう」


「いえ、公式の行幸ではなく、わたくしの友人と称してのお忍びならば……」


「そうか…… それではよしなに頼む……」


「御意にございます……」



 それから数日後、匿名の友人を連れて領事館を再訪した宰相閣下の姿が見られた。


 翌日から、何故か陛下はさらに覇気を無くされて、後宮に籠りがちになられたという……





 それからひと月ほど経った或る日。

 ビクトワール大王国の閣議の間。


「『親ビクトワール大王国連合王族会議』並びにそれに付随する『連合国大武闘大会』の開催が1カ月後に迫って参りましたが、開催概要は例年通りということでよろしいでしょうか……」


「よろしいわけがなかろうが!」


「どういう点がよろしくないのでしょうか、第1王子殿下」


「宰相よ、お前の目はフシ穴か!

 このビクトワール大王国が大陸東部の覇者であることを喧伝する『連合国会議』に於いて、その開催地たるこの王城を見下すようなあの野蛮人の小屋をそのままにして会議を開催するというのか!」


「それでは第1王子殿下はどのようなご提案を下さるのでしょうか?」


「そ、それはだな!

 連合会議開催までにあの邪魔な城を我が国の物にすればよいのだ!」


(どうしてこうも我が国の王子共は莫迦ばかりなのだろうか……

 まともなのは第8王子だけだが、肝心のイシス王子は国王の座を欲しているようには思えんし……)


「おお! それは素晴らしい……」

「さすがは第1王子殿下だ!」

「毎日蛮族共に見下されるのはもう耐えられませんからな」


(訂正するか。重臣と呼ばれる者共も莫迦ばかりだな……)



「はっはっは、そうしてあの城から蛮族共を追い出した後、あの城で『連合国会議』を開催すればよいのだ!

 さすれば我が国の威信は天まで駈け上ろう!」


「おおおおおおおおっ!」

「そ、それは誠に良いお考え!」




「ところでどのようにしてあの城を我が国のものにすればよろしいのでしょうか?」


「な、なんだと!

 そ、そのような些事を考えるのは、宰相たるお前の役目だろうが!

 王族たる者は大きな方針だけを決定すれば良いのだっ!」


「はぁ……

(この国ももう終わりだな…… 

 果たしてガイア国はこのような老骨の亡命を受け入れてくれるだろうかの……)」




「畏れながら申し上げます……

『我が王城より高き建物を建て、王の住まわれる地を見下ろすのは不敬罪に当たる』として、明け渡しを求めてはいかがでしょうか……

 それで明け渡しに応じなければ、我がビクトワール王国全軍で領事館を包囲すると。

 さすれば補給不能になるあの領事館も諦めるやもしれませぬ」


「おお! イシスよ!

 お前もたまにはいいことを言うではないかっ!

 さすがは『半分王族』だな!

 大方針を考えるのは俺様のような真の王族に任せて、お前はこれからもその方針に沿った『些事』を考えるのだ!」


「はぁ……」


「それでよろしいですな陛下!」


「………… よ、良きにはからえ …………」


「うははぁっ! 全てこの第1王子ジョインドにお任せあれっ!

 それでは皆の者、早速準備せいっ!」


「「「「「 ははぁっ! 」」」」」



(イシス殿下……

 ついにこの国を滅ぼされようとされるのか……)




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