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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
182/325

*** 182 サロモン会頭の半生 ***

 



 それから俺は、全員を連れて2時街の巨人・巨獣街にも行ったんだ。


 事前にさんざん注意したんだけど、やっぱりみんな本来の姿のミノタウロスやトロールを見て固まってたし。

 ドラゴンやベヒーモス見たら固まったまま倒れてたし。

 ついでに街の公衆浴場で、ベヒーモスとドラゴンが仲良く並んでハナ歌ハモりながら湯船に浸かってるの見て、また倒れてたし。



「あ、あの出城の城門前にいた儀仗兵たちは……」


「ん? ああ将軍、こいつらが『変身』してた奴もけっこう混じってたぞ」


「げげげげげげ……」



 それから『フェンリル街』の前を通りかかったんだけど……

 たまたまその日は学校が休日で、子供たちも本来の姿で大勢街にいたんだわ。


「あーっ! サトル神さまだぁ~っ!」


「「「「「 わぁ~いっ!♪ 」」」」」


 どどどどどどどどどどどどどどど……



 子供とはいえ、1~2メートルクラスの狼が100頭近くも突進して来ると迫力あるなぁ。


 それで俺はもみくちゃになったんだけどさ。

 サロモンたちは壁の上に転移させてやったけど、みんな腰抜かしてたわ。

 

 その後、子供たちがみんなハラ上にして寝っ転がったんで、全員のお腹1回ずつ撫でてやったんだ。

 またサロモンが手をわきわきさせながら、羨ましそうな顔してたよ。




 その後は、みんなで北の高原リゾートに行った。

 平原北部の駐車場に転移した後は、エアカ―に乗って清流や氷河の見物だ。

 それから湖畔の豪華ホテルに移動して、皆に屋上の露天風呂にも入って貰う。


 はは、周囲は新婚旅行客でいっぱいだよ。

 でもこの地の種族たちって、発情期以外にはほとんど性欲を持ってないから、異性に裸を見られても何とも思わないだろ。

 だから風呂はいつも混浴なんだわ。

 つまりまあ周囲の半数は若い娘さんなワケだ。

 それに毛深い種族でもナゼか胸や尻には毛が無いし、ほとんど体毛の無い種族も多いんだ。


 あ、将軍が前かがみになっとる。

 若いねぇ……

 まあ、フェミーナだけは俺の命令で水着着用だけど。

「お前の裸を見ていいのは俺だけだからな」って言ったら、またしっぽがぶんぶん丸になってたけど……


 大浴場から夕陽を堪能した後は、VIPルームでディナーだ。

 メインディッシュは、ドラゴンのしっぽステーキをご馳走してやった。

 直径80センチのステーキにはみんな驚いてたぜ。


 ビールもワインも地球産の高級品だ。

 そうして、酒も進んで少し顔を赤らめたサロモン会頭が、問わず語りに自分の半生を語り始めたんだよ。



「わしは3歳のころ、流行り病で両親を亡くしましての。

 田舎の街にある孤児院に入ったのですわ。

 ここの管理者である街長は稀有な男で、我々孤児にも手を尽くして食や教育を与えてくれたのです。

 まあ、食の内容は貧相なものでしたが、それでもそれは街の皆も同様でしたから仕方の無いことでありましょう。


 そうして成長していくうちに、わたしは自分の『すきる』に気がついたのです。

 驚きましたよ。

 街長の『いーかいてい』は4.5もありました。

 また、長いこと一緒にくらしていれば、仲間の孤児たちの本質もわかります。

 寡黙であっても、年下の子に優しい子は、『いーかいてい』が4.8ありました。

 いつも優しげなことを言っていた年長者は、隠れて街に出向いてはスリを繰り返し、また孤児院の備品を盗んでは売り捌いて自分だけ旨いものを喰っていたのですが、こ奴の『いーかいてい』は1.2しかありませんでした。


 また、街の露天商が売っていた『どれも銀貨1枚』と表示されていた武器を見ていると、その中に『価値:金貨3枚』などと表示されるものも僅かながらにあったのです。


 この『すきる』には『簡易』と『詳細』がありまして、『簡易』であれば日に100回ほど、『詳細』であれば日に5回ほど使えたのです。

 それ以上使うと気分が悪くなって来て最悪気絶するのですが、その後成長するにつれて多少は回数が増えていきました。


 そういえば、孤児院長兼街長が家宝だと言って見せてくれた剣が、『価値:銀貨3枚』と表示されたのを見た時はがっかりしましたな……



 10歳になった頃でしたか。

 わたしはそのとき天啓を受けたのですよ。

 この能力こそは、天が孤児院を救うためにわたしに授けて下さったものだと……


 そうしてその日から、街の雑用を引き受けて小銭を貯め始めたのですわ。

 ごみ掃除、ドブ掃除、排泄物の運搬…… 

 それこそ何でもしましたな。


 同時に信頼に足る仲間も集め始めました。

 多くは孤児院の卒院者で年上ばかりでしたけど。

 そのころには『そうごうれべる』が高い者程戦闘能力が高いということにも気づいておりましたので、『いーかいてい』も『そうごうれべる』も高い者のみに声をかけて仲間にしていったのです。


 12歳のとき、年上の少年たちと4人で王都に出向きました。

 もちろん地元の露店で『ひとつ銀貨1枚』と表示されていながら、実際には金貨以上の価値のあるものをいくつか買って。



 途中、盗賊などにも襲われそうになりましたが、仲間の中には『危機察知:れべる1』などという『すきる』を持った者もおりまして、なんとか危機を回避することも出来ました。

 まあ、遥かな祖先の血が、薄まりつつも拡散していっていたのでしょう。

 そうした『すきる』を持つ者は、稀ではありましたがそれなりにいたのです。

 本人たちは気づいていなかったですが。



 王都に着いてからは、まずは武器屋回りです。

 多くの店を回って、ひと月ほどかけて『いーかいてい』の高い店主を探しました。

 もちろん宿は取りません。

『いーかいてい』の高い宿の主人に頼んで、馬小屋で寝かせてもらっておりました。


 そうして或る日、ザルドという名の武器屋兼道具屋の主と巡り合ったのです。

 ザルドは見た目は恐ろしい大男でしたが、4.0の『いーかいてい』を持っておりました。

 そして、わたしはザルドの店で、街の露店で銀貨1枚で買った、『価値:金貨3枚』の剣を取り出して、恐る恐る買い取りを依頼したのです。


 ザルドは長いこと剣を見た後に言いました。


「この剣は買えば金貨3枚の価値がある。

 だから買取価格は金貨2枚になるだろう。

 だが……

 お前はどこでこの剣を手に入れたのだ。

 まさか盗んだのでは……」


「違います。

 街の露天商で、『どれでも銀貨1枚』と表示されていた物の中から見つけて買いました」


 ザルドは長いこと私の顔を見つめていましたが、そのうちふいと店の奥に引っ込みました。


「この5本の剣の価値を言ってみろ」


 1本は煌びやかな逸品に見えたのですが、銀貨5枚と表示されました。

 それ以外にも古びてくすんだ剣は、なんと『金貨20枚』と表示されました。

 そうして私は5本の剣の価値をすべて完璧に当てたのです。


「おい、出かけるぞ」


 ザルドは店の前に『休み中』の札を出すと、我々4人を伴って市場に出かけました。

 そうして、武器防具を売っている露店が立ち並ぶ中で言ったのです。


「ここに銀貨が3枚ある。

 これでそれ以上の価値のある武器を買ってこい」


 私は必死で値打ち物を探しましたよ。

 これがザルドの試験だということはわかっていましたから……


 そうして、『どれでも銀貨1枚』の武器の中から、『価値:金貨30枚』の短剣を見つけたのです。

 その短剣は鞘も無く、刃も一部錆びてはいましたが、ザルドの店に帰って柄を抜くと、中の刃身に貴族の紋章が刻まれていたのですよ。


 ザルドはさすがに王都の商人だけあって、その紋章を持つ貴族に気がつきました。

 その貴族家では、1年ほど前に当主の息子が旅の途中で行方不明になっていたのです。

 ザルドは衛兵を通じてその貴族家に短剣を届けました。

 そうして、その貴族家は、息子の遺品を届けた謝礼も含めて金貨40枚を送って来たのです。



「この金貨40枚はお前のものだ」


「いいえ、元金はザルドさんが用意されました。

 それに衛兵や貴族家に疑われなかったのも、ザルド商会の信用があったからです。

 ですから取り分は半々で如何でしょうか」


 ザルドは恐ろしげな顔を綻ばせて笑いましたよ。


「お前は物の価値だけでなく、商売すらもわかっているのだな」



 私たちはザルドに手紙を書いてもらい、すぐに孤児院のある街に戻りました。

 そうして院長に手紙と金貨10枚を渡したのですが、院長は号泣してましたよ。


 それから私たちは王都に戻り、ザルドの家の離れを貸して貰いました。

 そうして毎日、銀貨を持って王都中の露天商を巡り歩いたのです。

 そうして見つけたお宝はすべてザルドに買い取って貰ったのですが、半年もしないうちに、ザルドの店は『本物が手に入る店』として有名になっていましたな。

 同時に私たちもかなりの金を稼ぐことが出来ました。

 もちろん常にその半分は孤児院に渡しておりましたけど。


 王都中の露天商から掘り出し物が消えるようになると、露天商だけではなく、同様な武器・道具屋回りも始めました。

 それでも価値あるものが無くなって来ると、周囲の街、そして隣国へと足を延ばしてお宝を買いまくっていったのです。





 10年の月日が経ちました。

 そのころガルドは引退することを決めたのです。


「お前も知っての通り、俺には子がいない。

 これからは古女房と慎ましく暮らすことにする。

 それで相談なんだが、この店を商品ごと金貨1000枚で買わないか?」


 私は改めて大きく豪華になった店を見渡しました。

 商品の在庫も相当にあります。


「この店の価値は、店の信用も含めて金貨2000枚です。

 ですから2000枚でしたら買わせて頂きます」


 ガルドは大笑いしながら金貨1500枚にまけてくれましたよ。

 そうして店の名を『ガルド&サロモン商会』に変えることを提案してくれたのです。

 いきなり『サロモン商会』に変更したのでは、店の信用が低下すると配慮してくれたのでしょう。


 こうして我々は、武器・道具の買い取りから、小売へも商売を広げたのです。

 そのうちに、貧民街で『鍛冶:れべる1』を持つ若者を見つけましたので、彼に出資して工房を持たせました。

 とうとう生産にまで手を出したのですな。

 彼は現在王都有数の大工房を経営しております。

 私が当時の彼の試作品にあまりにもダメ出しをしたせいか、弟子を30人抱える今になっても、私を見ると引き攣った顔をするのですが……


 それから数年後、高齢のために寝たきりになっていたガルドに呼ばれました。


『お前のおかげで、俺の後半生は実に実に面白かった。礼を言う。

 ただ、俺の見るところ、お前の能力は神に与えられた特別なものだ。

 単にいくつかの孤児院を救うだけではもったいない。

 この上は『サロモン商会』をこの大陸一の商会にした上で、10万人の孤児たちを救ってみろ。

 俺は天からそれを見守るのを楽しみにしている……』


 そう言って大恩人ガルドは息を引き取ったのです。



 それからは道具屋を回って道具の商いにも手を広げ、農村を回って出来のいい作物を買い付け、次々に手を広げて行きました。

 従業員はほとんどすべて孤児院出身者です。

 もちろん『いーかいてい』が高いことが最低条件ですが、この頃になると孤児院も裕福になっていて、お腹いっぱい食べられる子供たちの『いーかいてい』も相当に高くなってきておりました。


 また、そのなかでも特に『すきる』を持つ者を重視して、彼らに得意分野を任せることにもしました。


『交渉』『行商』『剣技』『危機察知』『戦略』『権謀術数』『料理』『裁縫』『教育者』『鍛冶』『操船術』『商店管理』

『すきる』には本当にさまざまなものがありますな。


 そのころわたしも遅めの結婚をして娘も生まれましたが、残念ながら黒目黒髪の子ではありませんでした。

 それに『鑑定』のすきる持ちも、私以外に見つけることは出来なかったのです。

 おかげでわたしは常に多忙でした。

 今にしてみれば、もう少し家族と共に過ごす時間を持てればよかったと思うのですが……

 ですが幸いにして、妻は控えめで優しい性格でした。

 もちろん孤児院時代の妹分ですよ。

 私を孤児の英雄と思っていて、私が忙しくしているのもすべて孤児たちのためと思って耐えていてくれたらしいです。


 まあ、我が商会には『いーかいてい』の低い者はおりません。

 おかげで娘も実に素直でいい子に育ってくれましたわ。


 特にこのビストは『いーかいてい』が4.5と高く、また『剣技』や『体術』の『すきる』も持っていたために、幼いころから引き取って王都の剣術道場に通わせておりました。


 まあ、言ってみれば、将来は娘やその子を守ることを期待していたのであります。

 まさか、その娘が後に王宮に妾姫として召されることになるとは思いもしませんでしたが……


 そうして努力しているうちに、我がサロモン商会は従業員6万人を抱える大陸最大の商会になってしまったのですわ。


 故郷の孤児院の院長が高齢のために引退するころには、特に『いーかいてい』の高い部下を選んで後任を任せました。

 また私自身もこの王都にて孤児院を立ち上げ、今では5万人ほどの孤児を収容しております。


 そういえばこの孫が生まれたときは嬉しかったですな。

 待望の黒目黒髪の子でもありましたし。

 そうして産後間もなく娘が天に召されると、わたしはこのビストを王宮に送り込み、孫の警護と教育を任せたのです。

 もちろん当初はビストも貴族どもに差別されましたがな。

 ですがなにしろこの世界最強の男であります。

 全ての近衛兵を模擬戦で一蹴し、すぐに軍でも一目置かれる存在になっておりましたわ。


 加えて孫の『危機察知』の『すきる』もありまして、幸いにも孫は権謀術数渦巻く宮廷で生き延びることが出来ました。

 そのおかげで、こうしてわたしも人生の終わり近くになって神に拝謁することが出来たわけでして、まさに我が人生に悔いはございません。


 すでに5年ほど前に妻も亡くしております。

 残り僅かな人生ではございますが、是非ともこの老体をこき使っていただいて、あなたさまの威業のほんの一部でもお手伝いさせてくださいませ……」




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