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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
179/325

*** 179 捕虜たちとの対話 ***

 



 第8王子一行はひと言も発せずに画面に見入っていたよ。



「さて、それじゃあご要望にお応えして、捕虜と同じものを召し上がって頂こうか」


 ダイニングテーブルに、7人分のラーメンとチャーハンが並んだ。

 中央にはチャーシューやメンマや卵を山盛りにした大皿が置いてある。


 捕虜たちはラーメンを器用に2本の棒で食べていたが、ここにいる男たちにはフォークが配られた。



 画面を見ながらトッピングを終えた王子と護衛たちは、しばし料理を見て固まっていたが……


「さあさあ、この料理は熱いうちが旨いんだ。

 火傷に気をつけてすぐに喰ってくれ」



 ああそうか。

 この世界では、食事を取るのにはせいぜいスプーンまでで、後は手づかみだったな。

 まだ、フォークやナイフはほとんど普及していなかったんだっけか……


 お、さすがは王子だ。

 フォークを使おうとしてるけど……


「こうやってフォークに巻きつけると食べやすいぞ」


 はは、みんな見よう見まねでマネし始めたか。



 料理を一口食べた男たちが固まった。

 だが次の瞬間には猛然と手と口を動かし始める。


 チャーハンが喉に詰まりそうになって、目の前のジュースを飲んだ男がまた固まった。



「な、なんだこれは……

 これが捕虜の食事だと言うのか……」


「塩だ…… この料理には塩がたっぷりと含まれている。

 だから旨いんだ」


「いや塩だけじゃないな。

 微かだが海産物の香りも混じっている。

 それに……」


「こ、これは胡椒かっ!」


「塩といい胡椒といい海産物といい……

 まるで王侯貴族の食事だ……」


「はは、王族でもここまで旨いものは喰って無いぞ。

 サトル殿。これは貴殿の前世の世界の料理なのか?」


「そうだ。

 だけど材料はほとんどここガイアで入手可能だぞ」


「そうか…… 

 これも技術、いや文化、いやいやもはや料理芸術だな……」



 さすがはラーメンとチャーハンだわ。

 もはや日本の至宝と言っていい料理は、ガイア人の心も掴んだか……

 まあ外国人旅行者に『日本に来た目的は?』って聞くと、『ラーメン!』って答えるやつも増えたそうだからなぁ……




 大満足の食事が終わると、次は王子一行に『犯罪者用収容所』の様子を見せてやった。

 主に殺人歴のある貴族の指揮官たちの様子だ。


「こ、これは……

 サトル殿、彼らはラーメンやチャーハンを食べているのではないのだな」


「俺たちはあくまでも捕虜に食材を提供しているに過ぎないんだ。

 もちろん豊富な調味料も与えて、さらにはそれらを使った料理の仕方を懇切丁寧に教える機会を作ってもいるが。

 だが、どうやらお貴族サマは、料理などは下賤なものがすることで、自分たちではしたくないらしいんだ」


 画面上では4人の男たちが昼食を摂っていた。

 だが、彼らは小麦粉を水で練って焼いたものを食べ、野菜は全て生のまま齧っている。

 そして、肉はそのまま焚き火で炙って食べていた。


 そしてその姿は……

 もう半年も洗っていないと思われる服。

 もちろんこれも洗っていない頭髪は、アブラと垢でごわごわになっている。

 もちろん外には水場もあるが、貴族たちは沐浴すら侍従に頼っていたようで、自分で体を洗うことは考えもつかなかったらしい。

 そうして、画面の奥に見える畑も、雑草が伸び放題で荒れ果てていた。


 男たちは侘しい食事を終えると、そのまま無言で横になった。

 どうやら食事以外は寝ることしかしていないようだ。


「下賤な者たちがするようなことはしたくないと言っていた連中が、まるでスラムの住民のような姿だな……」




 画面はビクトワール王国第3王子の居る独居房に切り替わった。


「兄上……」


 そこには体重が150キロまでに減り、シワシワの肌を晒して半ば裸になった男が寝そべっていた。

 そしてこの男は、野菜はおろか、肉ですら生のまま食べていたのである。

 どうやら火の起し方すら知らなかったらしい。


 髪はぼさぼさのまま固まり、カラダもやはり半年以上洗った様子が無い。


 男はときおり何事かをぶつぶつと呟いている。

 よく聞けばそれは、

「もっと喰い物を……」

「侍女はどこにいった……」

「お、女をよこせ……」

 と聞えたが、その声といい目つきといい、もはや狂人のそれに近いものであった……



 第8王子とその護衛たちは、首を振りながらそうした画面を見つめている。

 しばらく経って、王子がようやく口を開いた。


「これは……

 与えられている設備、食材、環境なども全て同じだというのに……」


「それ以外にもこうした収容所にはすべてこの『スクリーンの魔道具』が置いてある。

 その魔道具に向かって質問すれば、担当者が何でも答えてくれる体制にもなっているんだ。

 例えば、火の起し方とか調理の仕方とか農産物の育て方とか。

 だが、どうやら貴族サマや王族サマは、そのような下賤の者の仕事はしたくもないようだな」


「それにしても、同じ条件下でも、これほどまでに生活水準が異なってしまうものなのか……」


「俺も驚いたよ。

 それじゃあこれからどうする?

 なにか希望はあるかい?」


「もしよろしければ、この一般収容者用収容所の皆と話をさせてもらえないだろうか」


「了解した。

 アダム、この収容所の代表たちを集めておいてくれ。

 準備が終わり次第俺たちが転移する」


「畏まりました、サトルさま」




 こうして俺たちは、収容者たちと直接話をすることになったんだ。

 場所は先ほどの食堂だ。

 椅子やテーブルは片付けられて、広い空間が出来ている。


 その一方には俺と王子。

 その後ろにはフェミーナと4人の護衛たちが立っていた。


 10メートル離れた場所には捕虜たちの代表が10人ほどいる。

 王子の要請で彼らにも椅子が用意してあった。

 そうして、その遥か後方には、不安そうな顔をした男たちが1000人近く集まっていたんだ。



「皆の者。私はビクトワール大王国第8王子、イシス・ビクトワールだ。

 今日は皆の者の暮らしぶりを視察に来たのだが、こちらのガイア国代表代行、サトル殿のご厚意でこうして話をする機会を作って貰った。

 固くなることはない。

 自由に皆の話を聞かせてくれ」


 だが男たちは俯いたまま誰も話をしようとはしない。


「どうした。なにか要望はないか。なんでもかまわぬぞ」


 中央に座っていた男が口を開いた。


「お、畏れながら王子殿下……

 ひ、ひとつだけお願いがございます……」


「なんでも言ってくれ」


「どうか、どうか俺たちは全員戦死していたことにして頂けませんでしょうか……」


「それは、万が一にも国には帰りたくないということか……」


「は、はい。ここは天国です。

 いまさらいつ死ぬかわからん地獄には帰りたくないです……」


「私にそのような権限は無いが、奴隷から解放されて村に帰れるとしてもか……」


「お、俺は両親が死ぬと同時に村長に奴隷として売られました。

 今さら村に帰りたいとは思いません」


「お、俺もそうです。

 作物が不作で、税が払えないからと親に奴隷として売られました。

 そのときに一緒に売られた妹には会いたいと思いますが、いまさら国に帰っても会えるはずはありません。

 でもアダムブラザーさんによれば、そのうちにビクトワール大王国もこのガイア国に吸収されるっていうんです。

 で、ですからここで幸せに暮らして待っていた方が、妹に会える可能性が高いって……」


「そうか、わかった……

 王にはお前たちの返還交渉は不可能だと報告しよう」


 男たちの顔が綻んだ。

 後方に並ぶ大勢の男たちの顔にも喜色が広がっている。



「さきほどサトル殿にも伺ったが、お前たちは最高の模範収容者だそうだ。

 それゆえ、そのうちに同様な模範収容者である女性移民者たちに会える機会も作って下さるということだ」


 男たちから歓声が上がる。


「どうかそれまで、そうしてそれからも幸せに暮らしていってくれ。

 サトル殿、このような話し合いの場を設けて頂いて感謝する」




 俺たちは出城に戻った。

 なんだか王子は感慨深げな顔をしていたよ。



 夕食にはやはり収容者と同じ、ハンバーグとスパゲティを食べた。

 もちろんデザートのプリンもつけたし、ついでに地球産のビールも振舞った。


「サトル殿は既に莫大なる資産をお持ちだとは思いますが……

 この料理とビールを王都で売りに出されたら、王都の富の半分を手に入れることも不可能ではないでしょうな。

 いやそれにしても、料理や酒がこれほどまでに旨いものだったとは……

 これは我が祖父にも是非食べさせてやりたいものです」


「そのことなんだけど、祖父さんは俺に会ってくれそうかい?」


「もちろんですよ。彼はこのような珍しい体験が出来るのなら、大陸の端にまで出向くでしょう。

 たとえそれに何年かかろうとも」


「いや、そんなに時間はかからないぞ。

 もし良ければ明日俺が殿下たちを王都に連れて行く。

 それで祖父さんさえ良ければそのままこの城まで戻って来ないか?」


「そ、それはまたあの『転移』のすきるを使うと言うことなのですか?」


「そうだ。そうすればすぐに王都まで往復出来る。

 でも殿下と祖父さんには俺たちの国をじっくり見て貰いたいから、出来れば3日ほど日程を取ってくれないかって頼んでみて欲しいんだ」


「それはそれは…… わたしたちも見学させて頂けるのでしょうか」


「もちろんだ。

 それでは明朝出発と言うことでよろしいか?」





 こうして俺たちは翌朝ビクトワール大王国の王都に向けて転移したんだ。

 アダムのアバターも連れてったけど。


「さ、サトル殿。

 こ、この転移というワザは、一度に何人ぐらいまで使えるのでございましょうか……」


「ビスト将軍、条件さえ整えば最大50万人ぐらいかな」


「ご、50万人ですか……

 もはや戦で貴国に敵う気がしませんな……」


「はは、死傷者ゼロで戦に勝つには便利な能力だよなぁ」




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