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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
175/325

*** 175 第8王子イシスと接触 ***

 


 ノーブ王国軍の姦計が瓦解し、国全体が実質的に戦闘力を失って衰退が始まった、その少々前のギャランダ王国王都。


 ビクトワール大王国大使館の一室では、第8王子イシスが険しい顔で部下の報告を受けていた。



「ということで、ドワーフ領に至る5番目の稜線ルートも、途中で深いキレットが刻まれており、通行不能になっておりました……」


「それはどのようなキレットだったのだ?」


 深くため息をついた後、イシス王子は部下に問うた。

 この王子麾下の兵たちは、どれほど指揮官の意にそまない報告をすることになろうとも、まるで動じない。

 報告によって譴責されるのは、唯一、指揮官におもねって主の気に入らない内容を省いた時のみであることをよく知っていた。



「はっ。まるで刃物で断ち切られたかのような垂直の切れ目が、100メートルほど刻まれておりました」


「自然のものか?」


「いえ…… おそらくは人の手で為された工事かと……

 岩の切り口があまりにも平らでございました故……」


 同じく眉間に皺を寄せた将軍が口を開く。


「周囲には谷に降りる道は無かったか?」


「はっ、周囲の崖も見事に垂直に削られており、谷に降りることは不可能かと……

 また、ようやく降りたにしても、その先3キロ地点の谷は巨大な壁で塞がっております」


「ふう、相変わらず凄まじいまでに周到な侵攻妨害工作よの」


「さらに晴天時に遠距離観察致しましたところによれば、反対側の谷筋の第6ルートの途上にも高さ80メートル近い大城壁が建造されておりました。

 第6ルート調査隊の報告によれば、その城壁の周囲も見事に岩壁が均されており、また城壁を乗り越えるための斜面工事に使える岩石も、ほとんど取り除かれておりましたそうであります。

 あれでは例え1000人を投入したにしても、城壁を乗り越えるための工事には数年の年月が必要になるかと思われます」


「相変わらず敵の土木工事能力は想像を絶するものだということか……」



 王命により、捕虜になった自国兵士13万と連合軍兵士14万の消息を探る第8王子はまたため息をついた。

 これでは捕虜の消息どころか、敵との接触すら出来ないではないか。



 沈黙する男たちに対し、部屋の外の歩哨より声がかかった。


「申し上げます!

 大使閣下が至急殿下に御面談賜りたいとのことでございます!」


「ふむ…… 何事であろうかの……」


「報告御苦労であった。

 そちたちルート探索隊は、この王都でゆるりと休め」


 王子と将軍は、テーブルに銀貨の詰まった大きな袋を置き、恐縮する隊長を後に残して部屋を出た。




 大使館の応接室に出向いた王子と将軍の前に、大使が大きな紙を置く。

 その紙には見事な金銀の箔押しまであった。


「先ほどこのような書状が突如わたくしの執務机の上に出現致しました。

 また、どうやら王都各地にも掲示板付きで同様な書状が出現し、大変な騒ぎになっている模様でございます」


 微かに震える大使の手から書状を受け取った殿下は、一瞥して目を見開いた。

 読み進むにつれて次第に口角が上がって来る。


 訝しげな顔のまま王子の手から書状を受け取った将軍も、それをひと目見て驚愕し、すぐに全文に目を通した後、上を向いて嘆息した。


「大使殿……」


「はっ、第8王子殿下!」


「ギャランダ王城に使いをやって、同様な書状がギャランダ王にも届けられているか確認して頂きたい」


「ははっ!」



 王子イシスは微笑みながら傍らの将軍を振り返った。

 この将軍こそは、王子の祖父が経営する大陸最大の商会、サロモン商会の『武の大番頭』であり、王子が生まれたときより護衛と教育係を務める忠義の男であった。

 もはや片腕とも思える王子の側近中の側近である。



「嬉しそうですな殿下……」


「ようやく突破口が見えたからな」


「やはり、この『南東の出城』とやらに出向かれるおつもりですか」


「もはや捕虜たちの消息を知るにはそれしか手があるまい」


「言うまでも無いことですが…… 危険ではございますぞ」


「なに、最悪の場合でも俺が死ぬか捕虜になるだけだろう」



 将軍はまた大きくため息をついた。


「もちろんお供させていただきます……」


「いつもすまんな……」




 2週間後、またもや大量の物資を調達した第8王子率いる捜索軍500名は、大商隊に偽装した上でギャランダの王都を後にした。

 最短距離で行けば南東の出城まで2000キロほどの途であったが、途中のノーブ王国領を大きく迂回するために2800キロほどを踏破する予定である。


 先行した偵察隊は途中数カ所に隠された物資集積所を作ると、またギャランダ王都に戻って物資調達を続けた。


 捜索軍の本軍は50名の精鋭部隊から成る。

 その他の兵450は、常に兵糧などの調達に携わっていた。

 周囲に疎らに点在する村々では、金持ちのくせにやけに甘い行商人の大量買い付けにほくほく顔であったそうである。


 そうして、田舎の細道を苦労して踏破すること1カ月。

 王子たち一行は、遂にノーブ王国最西端の地、すなわち大陸東部のヒト族居住地の最西端に至った。



「こっ…… これは……」


 50名の捜索本軍の目の前に現れたのは、見事に平らに整えられたまっ白な石の道である。

 以前王子が最大限の警戒を払った、ギャランダ王国内の道と同じものだった。



「如何いたしましょうか。

 この道を通らずに別の道なき道を切り開きましょうか」


 王子はしばらくの間天を見上げていた。


「いや。どうやらこの道は大丈夫そうだ。このまま進行する」


「はっ」




(おいおいアダム。こいつやっぱりすげぇな。

 俺がこいつと会見してみたくって、警戒させないためにも転移はさせないつもりだって見抜いてるみたいだぞ)


(凄まじいまでの第6感でございますね……)


(うーん。ますます会ってみたくなったわ……)



 その後の王子一行の行程は捗った。

 なにしろ現代の地球人でも驚くであろう完全に平らな道である。

 しかも途中には、物資食料水場のみならず、豪華な寝具や風呂まで揃った建物まで構築されていたのである。


 さらに……


「なんだこの看板は……

『歓迎 第8王子軍ご一行様』だと……」


 王子はまたしばらく天を見上げた後微笑んだ。


「皆の者、この宿営地は安全だ。

 今夜はゆっくりと英気を養うがいい……」


「しっ、しかし……」


「このようなことまで出来る存在が相手なのだぞ。

 もし奴らがその気になれば、我らなどとっくに捕獲されるか全滅させられておるわ」





 そして翌日……

 野営地の建物の入り口付近には、昨夜は見当たらなかった看板が立っていたのである。

 その看板にはこう書かれていた。


「イシス王子殿下。

 我がガイア国にようこそおいで下さいました。

 この後のガイア国出城までの行程を短縮するために、お迎えを差し向かわせて頂きたく思いますが、ご了解頂けますでしょうか。

 ご了頂ける場合には『イエス』の部分を、ご了解頂けない場合には『ノー』の部分に触れてくださいませ」



 王子が微笑みながら『イエス』の部分に触れると、突然その場に大きな馬車のような物体が現れた。

 その物体は覆いの無いオープン馬車のような姿をしている。

 ただし、どうやら車体は金属製らしく、その黒い車体は顔が映るほど磨き上げられていた。

 表面には金銀を使用したと思われる精緻な装飾まで施されている。


 だが…… その馬車には馬がいなかった。

 白いトーガを纏った少年が微笑みながら座っているのみである。


「ガイア国ハイヤーのご利用、誠にありがとうございます」


「はいやー?」


「すみません。ガイア国ではこのような送迎サービスをハイヤーサービスと呼んでおります。

 それでは御準備がよろしければ、王子殿下、護衛の方も4名様までお乗りくださいませ」


「ほ、他の護衛は馬で後をついてゆくぞ!」


「申し訳ございません。

 このハイヤーは速過ぎて、多分馬で追いかけてもすぐに馬が潰れてしまうでしょう。

 その代わりにと申してはなんですが、こちらのスクリーンと、室内に設置させて頂きましたスクリーンにて、逐一王子殿下の動向をお見せさせて頂きますのでご容赦くださいませ……」


「ふむ、そうか……

 それではお前たち、ここでゆっくり休んでいろ。

 将軍、お前とあと3名の護衛を選んでくれ。

 あまり頭に血を昇らせない冷静なやつがいいな」


 そう言うと王子は楽しそうにハイヤーに乗り込んだ。

 座席のクッションも装飾も見た目通りに実に素晴らしい。


 護衛たちが恐る恐るハイヤーに乗ると、御者らしき少年も馬車に乗り込んで来た。


「それでは出発させて頂きます」


 御者の少年がそう言うと、馬なし馬車が30センチほど浮いた。

 音も振動も風も全く発生していない。

 そうしてハイヤーは、そのまま静々と発進して行ったのである。


 その様子は野営地のスクリーンにはっきりと映し出されていた。

 それも王子の表情。ハイヤー前方の景色、またハイヤー上空からの景色など、4画面分割の高精細度画像である。


 野営地を抜けて道に出たハイヤーは速度を上げた。

 最高時速は時速500キロを超えるが、今は乗客に配慮して120キロほどしか出していない。



「少々尋ねたいことがあるのだが……」


「どうぞ、なんでもお答えさせて頂きます」


「なぜ、このはいやーとやらは浮いているのだ?

 それに大層な速度が出ているようだが、どのようにして進んでいるのか」


「これらはすべて我らガイア国のサトル代表代行が開発致しました『技術』であります。

 詳細は代表代行にお尋ねくださいませ」


「ふむ。

 それに何故発進時の感触が無かったのだ?

 馬でも高速走行に移行する際には後方に体が引かれる感触があるが……」


「それも代表代行が開発致しました『技術』であります。

 そのようなことは絶対に起きませんが、もしもこのハイヤーが岩に激突したり横転した場合でも、同じ技術によって皆さまの安全は保障されております」


 護衛の将軍が蒼い顔で呟いた。


「は、速過ぎる…… いくらなんでも速過ぎる……

 こ、これはいったいどれほどの速度が出ているというのか」


「はい、おおよそ日に2800キロほど進める速さでございます」


「な、なんと…… ここよりビクトワールの王都まで1日半で行けると言うのか……」


 また別の護衛が口を挟む。


「そ、それは道がこのように整備されているからではないのか?

 荒れた道でこのような速度が出せるはずはあるまい……」


「いいえ、このハイヤーは道の状態に左右されません。

 それではご覧に入れましょう」


 途端にハイヤーがゆっくりと高度を上げ始め、すぐに地表から50メートルほどの上空に達する。


「ご覧のように、道の状態は走行速度に全く影響がありません。

 また、たとえ前方に城壁や多数の兵士たちがいても、このように高空であれば直線で最短距離を移動出来ますです……」




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