*** 174 大聖国からの強請り ***
そうこうしているうちにやっぱり来たよ。
西の大国、大聖国からの使者サマが。
使者サマはイザリア王国の『システィフィーナ神殿』を管理していた初級司教だったんだけどさ。
金ぴかの馬車に乗り、お供の武装兵を1000人も連れてやって来たんだ。
この大聖国って、そもそもはシスティが地球から召喚した地球人が始祖なんだ。
使徒としてこの世界に平和をもたらすために、システィが呼んだやつだったんだけどな。
そのためにどんな能力を授けて欲しいかって聞かれて、そいつは『システィフィーナさまの愛と正義を説く教団を作りたいので、カリスマ性を授けて下さい』って言ったそうなんだ。
さすがはシスティの能力で、強力なカリスマ性を持ったそいつは、立ち上げた宗教団体をみるみる巨大にして行けたんだ。
そうして遂に『システィフィーナ教』に帰依したある王国の国王の姫様と結婚して、その国の後継者に収まったんだよ。
それからもそいつは強力な信者を次々に増やして、とうとうその国を大陸西部有数の王国にまで拡大したんだ。
その国は相当に良く出来ていたらしい。
その使徒自身はかなりマトモで温厚な性格だったもんだから、驕ることなく真面目に国政にも取り組んで、この世界では稀にみる『武力を行使せずに拡大した大国』を造り上げることが出来たんだ。
でも……
そいつが寿命で死んだ後のそいつの息子は無能だったんだ。
やっぱり顔つきなんかは遺伝しても、有能さは遺伝出来ないんだろう。
それでもそいつは無能なだけで、誠実さは持ち合わせていたらしいんだ。
たださ。
3代目以降は相当に酷かったらしい。
それで数百年を経るうちに、その国は最悪の宗教国家になっちまったんだ。
今では周辺の国々に無理やりシスティの神殿を作らせているそうだ。
そうして、神殿を作らせてやったんだから『お布施』を寄こせ、神殿を管理する聖職者を派遣してやったんだから『お布施』を寄こせ、さらにはお前たちはシスティフィーナさまに守られているんだから『お布施』を寄こせって、単なるカネ集め団体に成り下がってるんだ。
なんと、街やら村やらの平民や奴隷にまで人頭税みたいにして『お布施』を強要してるんだぜ。
で、『お布施』を断ったり払えなかったりすると、『神聖騎士団』とか言うコワイお兄さん達が大勢やってきて、『天罰!』とか叫びながら破壊しまくりの殺しまくりの、大暴れをするそうなんだわ。
それで滅ぼされちゃった国も両手の指の数では収まらないそうだし。
そうして集めたカネでさらに『神聖騎士団』を拡大して、今では公称80万人の軍勢を抱えているんだとさ。
な、サイアクの宗教国家だろ。
まあ、実情は単なる軍事国家だけどな。
ついでにこの大聖国の教団は、亜人獣人排斥を教義に持ってるんだ。
どうやら3代目だか4代目だかの国王兼教皇が、獣人奴隷を暴力で手籠めにしようとしたときに、返り打ちにされて瀕死の重傷を負ったらしい。
まあ、当時は大森林から拉致された獣人や亜人の子孫も、大勢大陸西部には住んでいたらしいんだ。
その教皇サマは、獣人にフラれて半殺しにされたのが余程にアタマに来たようだ。
それでそれ以降、この教団は強硬な亜人獣人排斥集団になっちまったっていうことなんだわ。
このことだけを見ても、システィの教えから完全に逸脱して来てるのが明らかだよ。
さて、西南の出城を訪れた初級司教サマ御一行は、やっぱり馬車のまま城の敷地内に入ろうとして暴れたもんで、護衛を30人まで減らして城内に入って来たんだけどさ。
司教サマは、城内の財宝、特に巨大な鏡やクリスタルガラスのシャンデリアを見て舌舐めずりしてたぜ。
これを手に入れるだけで、中級司教か上級司教に昇格出来るかもしれないってワクワクしてたようだな。
「そなたがこの国の代表か……」
「いや、代表はシスティフィーナ神だ。
俺は代表代行のサトルという者だ」
(なんだよこのぶくぶく野郎。これが聖職者の体かよ……)
「おお!
やはりこの国でもシスティフィーナ様を信仰しておられたか!
ということは、当然システィフィーナさまを祀る神殿もあるのだろうの」
「そうだ、けっこう立派なのがあるぞ」
「それはそれは。
それではシスティフィーナさま信仰の総本山のある我が国とも、大いなる友好関係を結べそうじゃの」
「…………」
「そういうことになれば、当然のことながら我が大聖国からの庇護も与えられようの。
それで、その神殿に司祭長はおるのかの?」
「いや、特にいないが……」
「それはいかんのう。
システィフィーナさまの神殿ともなれば、我が国の大神殿で教育を受けて認められた聖職者が司祭長になるのが当然であろう。
すぐに司祭長を派遣してやろう。
場合によってはこのわし自ら赴いてやっても良いぞ」
「…………」
「それから聞くところによると、この国には多くの亜人獣人が暮らしておるとか……
それはいかんの。大いにいかん。
それはシスティフィーナ様の教えに大きく反するものである」
(こいつ…… システィが聞いたら怒るぞぉ……)
「すぐさま亜人獣人は国外に追い出すか抹殺するがよかろう。
そのために力が必要であれば、我が精鋭たる神聖騎士団を派遣してもよい。
そうさの、3万人もいれば充分であろう。
ということでだ。
まあ概算だが、同じシスティフィーナさまを信仰する者として、総本山に対する礼儀と友好の証として、大聖国大金貨1万枚。
それから神殿の司祭長の派遣費用として当初大金貨1000枚、その後は年間100枚。
もし当初の費用を大金貨2000枚にすれば、このわし自らが司祭長になってやってもよいぞ。
それから神聖騎士団の派遣に大金貨3000枚、年間費用の負担としては大金貨1000枚でよかろう。
もちろん本山への運動費用を負担すれば、それぞれもう少しは減額が可能かもしれんのう……」
(つまりはこいつにワイロを渡せば少しはマケてやるって言いたいのか……)
「もちろんすぐに金貨は用意出来ずとも、分割でもよいぞ」
「なぁおっさん。手前ぇの鼻の穴、大儲けの期待に開きまくってんぞ」
「なっ……」
「そんな端金でも、お前ごときに払うつもりは無ぇな。
手前ぇのションベンでツラでも洗って目ぇ覚せや」
「こっ、ここここここ、ここな無礼者めがっ!
き、キサマには必ずやシスティフィーナさまの天罰が下されようぞ!」
「システィの天罰かぁ……
以前、後ろからそーっと近づいてっておしり触ったら、『ぷひぃっ!』とかヘンな声出して驚いてたんだけどさ。
それでシスティ怒っちゃって、『天罰!』とか言って俺だけ晩メシの後のデザート取り上げられちゃったわ」
「な、なんだと……」
「でもお前の言う天罰ってあれだろ。
神聖騎士団とかいうならず者をけしかけて殺すぞって言いたいんだろ。
全員まとめて俺がモノホンの天罰与えてやるから早く連れて来いやぁ」
「キ、キサマっ! こ、後悔するなよぉっ!」
「それじゃあお前はもう要らんから帰れ。
特別に俺が城の庭園まで送ってやるよ。ほれ」
それでこの司教サマ、城の庭園の噴水の池に転移させてやったんだけどさ。
いきなり深い池に放り込まれてびっくりしてたぜえ。
それから1カ月ほど経って、神聖騎士団とか言う連中が5000人ほど旧サンダス王国領に侵入してきたんだ。
もちろんすぐに転移させて収容所送りだけどな。
それでどうやら司教サマは、5000人行方不明の責任取らされて更迭させられちゃったみたいなんだけど、その後も西の方から大軍が押し寄せて来たんだ。
よっぽど出城の財貨に目が眩んだのか、最初は1万人ぐらいもいたらしいな。
でもそいつらが侵攻の途中で略奪もどきの糧食調達をしようとする度に、神界防衛軍が嬉々として登場するんだわ。
「はいアウトぉ~♪」とか言いながら……
それで毎日毎日どんどん神聖騎士団の連中をとっ捕まえて行ったんで、ウチの出城に到着する頃には1000人ほどにまで減っちゃってたわ。
もちろんそいつらもアダムブラザーが全員タイホしてたけど。
うん、これでならず者たちも大分減らせたよ。
やっぱりヒト族は挑発して侵略させておいて捕まえるのが効率いいわぁ。
最終的にはこの大聖国の支配層もタイホして解体するつもりだけど、それはまだちょっと先かな。
まだまだ用意することがたくさんあるし。
あんまり急いで軍を強制転移させても、大陸西部の治安が悪化して却って住民たちが困るだろうからさ。
何事も準備が肝心なんだわ……