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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
168/325

*** 168 公爵閣下との会談 ***

 


 案内係のアダムブラザーが、少し驚いたような声を出した。


「これはこれはサトル神さま。それにアダムさままでも……」


 まったく、俺がここに来ていることはアダムを通じて分かってるくせに芸が細かいわ。


「はは、ヒト族の支配階級と初めて話が出来そうなんで出向いたまでだ。

 そんなことよりも、ようこそ我が国の出城へ。

 俺がこのガイア国の代表代行であるサトル神だ。

 まあ立ち話もなんだから座ってくれや」



 公爵閣下がソファに収まると、傍らの文官らしき男に何事か囁いた。

 もちろんどれほどの小声であってもサトルやアダムには筒抜けである。


(こちらも名乗れ。それからサトル神の『神』とはどういうことか聞け)


 文官が緊張した声を張り上げた。


「こちらにおわすはサンダス王国国王陛下の弟君であらせられる、ギルフォード・フォンナ・サンダス公爵閣下である! 

 頭が高い! 速やかに跪け!」


「なあ、お前たちに礼儀作法を期待はしないが、それにしても酷いな。

 俺はこのガイア国の代表代行だぞ。

 もっとも代表のシスティフィーナ神は人前には出ないので、俺が外交も内政も軍事も全て任されているんだ。

 その実質的な代表者が、なぜ一介の公爵ごときに跪かねばならんのだ?」


「ぶ、無礼者っ!」


 激昂する文官を無視して俺は公爵閣下を見つめた。


 閣下は思わず逃げ出したくなる自分を叱咤し、必死の思いで目の前の男の目を見つめ返している。


(この目…… なんという威に満ちた目であろうか……

 これは宗主国イザリア王国の国王陛下も遠く及ばんな……

 しかも、これほどまでの城の単なる管理者ではなく、実質的な所有者ということか……)



 文官は尚も喚いた。


「し、しかもだ!

 なぜ家名も持たぬ下郎が自らの名に『神』などとつけるのだ!

 僭称にも程があるぞ!」


「はは、ほんの3カ月前までは俺も一介のヒト族だったんだが、最近神界から初級神に昇格してもらえたんだ。

 だからまあ、公式の場では名前に『神』をつけるべきなんだとさ。

 俺としては単なる『サトル』で充分なんだが。


 ところでさ。

 なんでさっきから公爵閣下はひとことも口を利かずに、単なる文官のお前が喚き散らしてるんだ?」


「ぶ、ぶぶぶ、無礼者っ!

 公爵閣下ほどの高貴なお方様が、お前ごときと直に話すことなどあるわけが無かろうがっ!」


「うん、ギルくん。苦しゅうない。直答を許す」


「こっ、ここここここここここ、ここな慮外者めがっ!」


「なんだ、鶏のモノマネでも始めたかと思ったぜ。

 ところでギルくん。今日はどんな用事でこんなところまで来たんだい?」


 尚も激昂しようとする文官を公爵閣下が手で制した。



「本日は我がサンダス12世国王陛下からの要求を預かって来た」


 公爵閣下は自らの声が震えていないことにほっとしながらも続ける。


「そも、我らがサンダス王国の始祖サンダス1世陛下は、300年前の隣国イザリア王国の東征の折、先鋒軍を任された一将軍であったが、軍功めざましく、現在のサンダス王国一帯の蛮族を打ち破ってその地を平らげたのである。

 その平定戦争では1世陛下は先鋒軍のさらに先陣を務め、ギヌロン族、サスルガ族などの多くの蛮族の軍勢を蹴散らし、時にはその首領と一騎打ちをも行い、この地の全ての部族を平定するに至ったのだ。

 その功を寿いだ時のイザリオ8世陛下によって、戦後はイザリオ王国東方辺境伯に任ぜられ、その後も至高の忠誠心をもって王国に仕えたために、ついにはサンダス王国として所領を与えられたものである!」


 公爵閣下は少しノって来た。

 いつ論じても祖先の活躍ぶりは素晴らしい。



(なあアダム、こいついつまでお国自慢をするつもりかな?)


(だいぶ興奮して鼻の穴も開いて来ておりますので、あと1時間は覚悟されるべきかと……)


(まあ途中で遮ってもいいんだが、初めてのヒト族支配者との会談だしなぁ。

 こいつらの精神構造を知るためにも、特別に最後まで喋らせてやるかぁ。

 あ、俺は転移して別室でおやつでも食べてるから、代わりに俺のダミー人形をここに転移させといてくれや。

 こいつの演説は後で200字ぐらいに要約して教えてくれ。

 それからこのサンダス王国とやらの情報もまとめておいてくれ)


(はい……)


 目の前の男の姿が一瞬ブレたように見えたものの、公爵閣下は気にせず熱弁を続けた。





(サトルさま……)


「んあ? ああ、アダムか…… 寝ちまってたか」


(どうやら公爵の熱弁がそろそろ終わりそうです。

 あまりにも気合いを入れて喋っていたために、血糖値がかなり低下して来ておるようですので)


「それじゃあメシでも喰わせてやるとするか」



 俺は謁見室に戻ってダミー人形と入れ代わった。

 その場で休息を宣言してアダムブラザーに軽食の用意をさせる。

 最初は恐る恐るハンバーガーを指でつついていた公爵一行も、毒見を終えると夢中で齧りついてたよ。

 ジュースを入れたグラスや紅茶を淹れた茶器には、随分驚いていたようだったけど。



 俺は念話でアダムに聞いてみた。


(それでアダム。

 結局のところ奴らは何が言いたいんだ?)


(そうですね。話の97%は祖先自慢でした。

 残りの3%の主張をまとめると、『ここは我々の領土なので、城を明け渡せ。さもなくば軍勢を差し向けて占領させる』ということでございますね)


(それだけの用件を伝えるのに2時間近くかけたんか……

 やっぱ300年も続いた王朝の子孫は無能だなあ。

 まるで末期の徳川幕府だな)


(無意識に自分たちの無能さを承知しているからこそ、祖先の偉大さを強調して正当化しようとしたのでしょうな)


(徳川幕府や明治政府が、莫大なカネをかけて創始者やトップを神格化したようなもんか)


(ヒト族の発想はどこもおなじであるようですな……

 一神教のヨーロッパでは『王権神授説』、多神教の日本では『王国創設者の神格化』なのですねえ)


(それじゃあサンダス王国の概要を教えてくれ。

 それが終わったら、また会談に戻るか)


(畏まりました)




 ようやく公爵一行の食事が終わったようだ。


「さて、我が国の料理はお口に合ったかな?」


 まあテーブルの上の散らかり具合を見れば、王族でも目を回すほど旨かったのは明らかだよな。


「う、うむ。

 我が国の宮廷料理と比べてもさほどの違いは無かったと認めよう。

 こ、これは最大級の賛辞であるのだぞ」


「それはよかった。それではいくつか質問がある」


「く、苦しゅうない」


「まずは貴国の主張としては、この地はサンダス王国の領土なのでこの城を明け渡せということで間違いないのだな?」


「う、うむ。

 なんといっても我が王族の偉大なる始祖であるサンダス一世陛下の宣言されたことである。

 そもそも一世陛下に於かれては……」


「ああいや、祖先自慢はもういいから」


「なっ……」


「ところでその、『この地はサンダス王国の領地である』という主張はどこに書いてあるんだ?」


「そ、それはもちろんサンダス王国の建国宣言にはっきりと書いてある!」


「それはどこに行けば読めるんだ?」


「建国宣言は始祖陛下の御自筆であり、我が国の至宝である! 

 王族以外の誰の目にも触れさせん!」


「それはまた異なことを言う。

 それじゃあどこまでがサンダス王国の領土なのか、部外者にはまるでわからないじゃないか。

 領土の規定が対外的に明らかにされていない国は国家ではないぞ?」


「わ、わわわ、我が始祖一世陛下の言は絶対である!」


「だからそう思ってるのお前たちだけだろうに。

 俺はその紫蘇だか始祖だかいうやつのことを知らないんだぞ?」


「我が栄光ある始祖陛下を侮辱するなっ!

 王族侮辱罪で処刑するぞ!」


「あのさ、その国賊侮辱罪で処刑するにしても、誰が俺を捕えるんだ?

 お前がやるんか?」


「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐ……」



「ふう、もうひとつ聞いてみたいんだがな。

 なんでお前の兄貴は王を名乗っているんだ?」


「な、なんだと?」


「だから今の国王が国王を名乗っている根拠だよ」


「それはもちろん、現王が偉大なる始祖一世陛下の直系の子孫であるからに決まっておるだろう!」


「なあ、なんで王の子孫が王になれるんだ?」


「なっ……

 そ、それは当たり前だろう!

 偉大なる王の直系の子孫が、王の地位を引き継ぐのは当然である!」


「なんで当然なんだ?」


「な、なんでだと?

 そ、それは我ら王族が始祖陛下の血を引いているからに決まっておるだろうに……」


「なあ、その始祖陛下とやらは喧嘩が強かったっていうことなんだろ?」


「け、喧嘩ではない! 

 知力武力に長け、この地の蛮族を平定したと言う実績もある!」


「まあその始祖陛下とやらが強かったのはいいとしよう。

 それじゃあその血を引いているとかいう今の王族も強いんか?」


「当然である! 我が国は精兵で知られておる!」


「その精兵が300人も揃ってウチの案内係1人にヤラレちゃったんだけど……」


「ぐっ!」


「それからさ。王ってなんなんだ?」


「な、なんだと……」


「だから王ってなんなのかを聞いてるんだよ。

 なんせウチの国には王がいないからな」


「お、お前はあの忌まわしき共和主義者か!」


「お前たちが共和主義者を忌まわしき存在だと思うのは、この大陸西部でクーデターで王権が打倒されて共和制に移行した国がいくつかあるからだろ?

 でもさ、よーく考えてみろよ。

 お前は始祖が蛮族を殺して作った国の王族だから、今の国の王族でもある言ってるんだからさ。

 王族を殺して支配権を奪った共和主義者たちとどこが違うんだ?」


「お、王のいない国なぞ国ではない!」


「それじゃあ王の役割ってなんなんだ?

 創始者の直系子孫であることを別にして」


「や、役割だと?」


「そうだ。何のために王がいるのかという質問だ」


「そ、それは……

 く、国には当然王がいるべきだから……」


「だから、その当然いるべき王の役割はなんなんだって聞いてるんだよ。

 お前理解力無いんか?」


「そ、それは…… 税を徴収したり……」


「税を差し出した側の領民には、税を差し出すことによるメリットがあるんか?」


「もちろんある!

 その税によって軍備を養い、他の蛮族に支配されぬよう守られているのだからな!

 万が一この地が蛮族共の手に落ちようものなら、領民は全て蛮族共の奴隷にされてしまうのだぞ!」


「なあ、お前の国って、人口の7割が奴隷だよな。

 そいつらにとって、お前たちに支配されて奴隷にされるのと、蛮族の奴隷にされるのとでは何が違うんだ?」


「な、ななな、なんだと!

 そ、それはもちろん、偉大なる始祖陛下の血を引く我ら高貴なる王族に支配される方が、領民も光栄に思うのであるっ!」


「ふーん、それで領民はその始祖陛下とやらの名前は知ってるんか?」


「あうっ…………」


「名前も知らない奴の子孫の奴隷にされて、どうやって光栄に思えるんだ?」


「文字もろくに読めない奴らには始祖陛下の偉大さは理解出来ん!」


「お前の精神構造も理解出来んけどなあ。

 ところでさ、王であることと税を徴収することと軍を維持すること以外に、王の役割ってなにがあるんだ?

 それ以外に王権を正当化するモノってなんかあるんか?」


「な、なんだと……」


「はぁ。

 お前は自分が言っていることの意味がわかってるんかね?

 お前が言っていることはだな。

 昔ケンカが強かった先祖が、この地域を統一して国を作ったんで、その子孫である自分たちが王族になって民を支配するのは当然だ、って言ってるんだぞ」


「そ、それのどこがおかしいのだ!」


「ということはさ。

 今のお前たちよりケンカが強い奴が来てお前たちを皆殺しにしたら、そいつが王になるのは当然だって言ってるんだぜ」


「なっ…… (そ、そうなのか?)」


「それにさ。

 お前ら軍備で領民を脅して税を取り立ててるんだろ?

 それって、村を襲って『カネと喰い物を差し出さなければ殺す!』って脅す盗賊団となんか違いがあるんか?

 俺にはどうしてもお前たちと盗賊の違いがわからんのだよ」


「こっ、こここここ、これ以上の侮辱は許さんぞっ!」


「どう許さんのだ? 俺と決闘でもするんか?

 まあいい。

 これで大分このガイアのヒト族の支配階級の精神構造は理解出来たと思う。

 お前らみんな要らんわ」


「い、要らんだと……」


「ところでお前、あんだけ演説しといてだな。

 結論は、『この地は300年前に始祖が定めたサンダス王国の領地なので、勝手に作ったこの城を明け渡せ』っていうことで本当にいいんだな?」


「そ、その通りだ!」


「ふう、それじゃあ仕方が無いか……」




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