*** 166 貨幣鋳造完了、ヒト族国家の反応 ***
倉庫の砂埃もだいぶ収まって来たんで、俺は『金抽出』を始めることにした。
だけどまだそれなりに埃が飛んでるからな。
俺は体の周囲に、『絶対フィールド』と、換気の魔道具と転移の魔道具を張り付けたんだ。
こうすれば新鮮な空気を吸いながら作業が出来るぞ。
別室には精霊たち100人を待機させていて、俺が魔力枯渇で気絶したらアダムがその救護室に転移させてくれる手筈になっている。
また、その部屋には、『神界土木部』の若い衆100人、『神界防衛軍特殊工兵部隊』100人と医療部隊100人も配置してあった。
それ以外に、今までに抽出していた銀や銅やニッケルのインゴット、大量の『マナ・ポーション』と休息用のベッドもだ。
俺は魔法マクロ【金抽出1000】を唱えた。
すぐに周囲の1000個の砂の山からキラキラとした金の粒子が集まって来て、見る間にインゴットになっていく。
おお、まだこれぐらいだったらぜんぜん平気だわ。
俺はそのまま転移で場所を移動して、また【金抽出1000】を唱える。
出来上がった金のインゴットは、アダムが別室に転移させてくれていた。
そこではまた、大勢の天使たちが気合いの声も充分に、【大金貨製造1000】だの【大銀貨製造1000】だのの魔法マクロを唱えては、整然と気絶して行っている。
俺も【金抽出1000】を50回ほど唱えたところで気絶して、別室で精霊たちにたかられて『治癒』をかけてもらったんだ。
なんか土木部の連中や防衛軍の連中も楽しそうだったぞ。
『金貨』みたいな価値のあるものを、自分が大量に作れるのが嬉しいらしいな。
こうして俺は、15万立方キロの砂から135万トンの金を抽出したんだ。
そのうち50万トンは、地球の資材・食料購入費用としてエルダさまに渡し、35万トンは予備として残し、残りの50万トンを大金貨の製造に回した。
こうしてほぼ丸3日の突貫作業で、膨大な量の貨幣が出来上がったんだ。
大金貨は約200億枚、重量にして約65万トン。
この世界での通貨価値を日本円に換算すると、約2京円。
日本の国家予算の2世紀分だ。
ガイア最大の大国、ビクトワール大王国の年間予算は、大金貨16万枚だそうだから、あの国の年間予算の130000年分と同じになる。
それにしても驚いたよ。
人口80万人のこの世界最大の大国の年間予算が、たったの大金貨16万枚だなんて。
日本円にして1600億円しか無いんだぜ。
国民1人当たり20万円かよ。
まあ、あの国の国民って、80%が奴隷らしいからなあ……
それにしても奴隷兵を喰わせていくのだって、カネかかるだろうに。
ああ、だから他国からの略奪に頼ってるのか……
しかもだ。
ビクトワール大王国の国庫には大金貨5万枚しか無かったんだ。
通貨の代わりになる岩塩もあったけど、これも10万トンほどしか無かったから、大金貨10万枚分に過ぎないんだよ。
つまり、国家財産が年間予算の1年分以下だったんだわ。
なるほどこの惨状なら、ドワーフ領に侵攻したくもなるんだろうなあ。
大陸最大の国家ですらこれだから、あとの弱小国家は推して知るべしだろう。
俺たちは、『ガイア国建国宣言』を、128ある国の国王の執務室と宰相の執務室に転移させた。
もちろん金銀の箔押しのある豪華版の方だ。
それから掲示板に張り付けた普通の紙製の方は、大陸中の王都や街、そして村や貴族の邸にも転移させたんだ。
合計10万カ所近い場所に送りつけたんだけど、予めマクロを組んでおいたから、ほとんど時間はかからなかったぞ。
なんだかガイア大陸全土に衝撃が走ってたみたいだな。
みんなが驚いた点はいくつかあったんだが、最も驚いたのは国の代表者がシスティだったことだろう。
それから東の大国ビクトワール王国中心に、既に多くの国が大敗北を喫して34万人もの捕虜を取られていたことだろうか。
ついでに字の読めない村人も、村長なんかに読んでもらって、『税の無い国』が出来たことに衝撃を受けたようだ。
その様子は、掲示板に付けたカメラの魔道具の映像を見ても明らかだったよ。
主要国の王宮にはもう相当数のカメラやマイクの魔道具が配置してあるから、各国首脳の様子も丸わかりなんだ。
そうそう、ビクトワール大王国の国王、怒ってたぜぇ。
まず執務室の机の上に見たことも無い豪華な印刷物が置いてあったのに驚き、それから自分が驚かされたことに怒ってたよ。
さらに内容を読んでもう激オコよ。
もうコイツ、今にも脳卒中で倒れるんじゃないかってぐらい、青筋立てまくってたし。
特に怒らせたポイントは、今まで自分の国が大陸最大だと思ってたのに、人口で5倍、国土面積で100倍近い大国が出来ちゃったことだ。
それから既に自国軍が大敗北を喫していて、王子まで捕虜にされたことを大陸全土に公開されちゃったことみたいだった。
まあ事実だから仕方ないよな。
それで怒り狂った王は、近衛軍に命じて王都中の掲示板を壊し始めたんだけどさ。
もともと掲示板や建国宣言はマナ建材製だし、地面の石と融合させてあるから壊すのも大変なんだわ。
兵士が10人がかりで剣で切り付けても、青銅の剣が曲がるだけでほとんど傷もつかないし。
それでも貴重な紙やら布やらを使って掲示板を隠して回ってたみたいなんだけど……
でも掲示板がひとつ隠されるたびに、隣に掲示板が生えてくるし、王の執務室や寝室にももうひとつ掲示板が生えていくんだわ。
寝室に10本の掲示板が生えてたのに気付いたビクトワール王は、怒りのあまりに眩暈起こして寝込んじゃってたわ。
はは、余分に掲示板作っといてよかったぜ。
ほとんどの国は静観を決め込んだんだけどさ。
いくつかの国や人は早速出城を目指して移動を始めたようだ。
まあ、東の出城はヒト族居住地域から1000キロも離れてるからまだ誰も来てなかったけど、西の出城は100キロしか離れてないもんで、すぐに何件かの反応があったんだ。
最も早く動いたのは、やっぱり西の街道に接するサンダス王国だった。
すぐに王都から武装した一団が100人ほど派遣されて、街道入り口を封鎖してたな。
だけどその日の夜に俺が柵を取り払い、また10本ほど道を作ってやったもんで、随分と驚いてたよ。
だから途中の道に関所みたいなもんも作ってたんだけど、作る端から関所が消えて行くんでさらに驚いてたぞ。
そうしてとうとう、大きな馬車を中心にした武装兵300人ほどが、西の出城への道を移動し始めた。
アダムの報告を受けた俺は、ヒト族の行動に興味もあったんで、コントロールルームにちょくちょく行って、その様子を見てたんだ。
連中は街道のあまりの広さと平らな様子にさらに驚いてたわ。
全員がしゃがんで道を撫でてたし。
さらに、途中には野営用広場はあるし、水場も整備されてるし、中には壁で囲まれた小さな砦まであったもんだから、さらに驚いてたわ。
もっとも、実際には『ヒト○イホイ』だけどな……
でもやつらはヒト○イホイには引っかからなかったよ。
警戒したからっていうよりは、あまりの豪華さにびびったらしい。
はは、さすがはド田舎の弱小国だぜ。
道がいいせいか、奴らは3日ほどで西の出城に到着した。
でもさ、いくら城が豪勢だからって、なにもそこまで大口開けて立ち尽くさなくてもいいのにな。
まあこの世界の奴らが高さ150メートルの城見たらびっくりするのは当然か。
ガイア大陸でもっとも高い建物は大聖国の中央神殿だけど、それでも高さ50メートル程でしかないからなあ。
出城の城門前には大きな建物がいくつかあって、それぞれ『国用窓口』、『商人用窓口』、『移民窓口』と書いてある。
だけどまあもう夕方だったんで、全ての窓口には『本日の受付業務は終了いたしました。また明日お越しくださいませ』って看板が置いてあったんだわ。
それでやつら諦めて城門前広場で野営の準備を始めたんだけど、広場は直径1キロほどの範囲を全てマナ建材で覆ってるから、テントの杭が地面に刺さらなくて困ってたよ。
だから仕方なく、広場の周りに300個ほど作ってあった小屋に分散して寝ることにしたようだ。
小屋って言っても1つで100人は泊まれる豪華版だったけど。
で、日が落ちる30分ほど前から、城のライトアップが始まったわけよ。
あーあー、みんなまた大口開けて驚いとるわ。
まあ、蝋燭とランプしか無い世界で、地球最新鋭のライトアップ技術を目にしたら驚くわなあ。
夜の帳が下りて、辺りが漆黒の闇に閉ざされると、ライトアップの演出はますますハデになって行った。
はは、精霊たちスモークまで焚いてるわ。
その中を縦横無尽にレーザー光が飛び交って、なにやら絵まで描いてるぞ。
ああ、あれシスティの姿だな。俺の姿もあるか……
たっぷり1時間ほど続いた光のショーの最後には、花火まで打ち上げられとったわ。
まあ最初のお客さんだっていうことで、精霊たちも張り切ってたのか……
翌朝、窓口が開くと、さっそく兵士たちの頭らしき大男が国用窓口にやって来た。
もちろん窓口にいるのはアダムブラザーズのうちの一人だ。
「我らはサンダス王国公爵軍だ!
大至急この国の王を名乗る犯罪者を引き渡せ!」
「ガイア王国に王はいませんが?」
「誰でもよい! 責任者を出せと命じておる!」
「あなたは、神さまをここに呼び出せと仰っているのですか?」
「な、なんだとっ!」
「この国の代表はシスティフィーナ神さまですからねえ。
神さまにここへ来いなんて言ったら、途端に神罰が降って来ますよ?」
「だっ、誰でもいい! 責任者を出せっ!」
「はぁ、代表代行も神さまなんですけどねえ。
それじゃあ今ちょっとお伺いしてみますね」
「はっ、早くしろっ!
公爵閣下をお待たせするなっ!」
「お待たせしました。
この城の城代がお会いさせて頂きます。
謁見室でお待ちしておりますので、案内の者の後に続いてください」
途端に門が開き始める。
高さ10メートル、幅も10メートルある巨大な金属製の門だ。
彼らにとっては、これだけで王国予算に匹敵するたいへんな財産だろう。
馬車の周囲を囲んだ兵士たち300人が、門をくぐろうとした。
「あ、この敷地内は馬や馬車の乗り入れは禁止されています。
徒歩でおいでください」
「無礼者! 公爵閣下に歩けと申すか!」
「あの……
神域に下馬せず乗り込む方がよっぽど無礼だと思いますが……」
男たちは無理やり馬車で押し通ろうとした。
だが、城門をくぐった途端に馬車が馬ごと消失する。
もちろん公爵閣下は馬車内に座った姿勢のまま、路上に放り出されてしたたかに尻を打ち付けて呻いている。
「なっ、何がどうしたというのだ! 馬車はどこに行った!」
「あーはい。馬車のまま神域に侵入したので神罰が下されたんだと思いますよ」
「え、ええい! 閣下に無礼を働いた罪で、お前を処罰する!
者ども、こやつをひったてい!」
30人ほどの兵たちが案内所の建物の周囲を探し始めた。
だがもちろんこの建物に出入り口は無い。
頭に来た兵士たちが、窓口にある不思議な透明な板を叩き壊そうとして剣を振った。
でも…… 厚さ5センチもの超強化ガラスは銅剣ごときでどうなるものでもないからなあ。
すぐに兵士たちの剣は折れ曲がっていったよ。
「あーあ、意に沿わぬことがあるとすぐに暴力で解決しようとする……
やっぱりあなた方は野蛮人ですねえ……」
「な、なんだとぉぉっ!」
「仕方ありませんね。器物損壊未遂容疑で逮捕します」
窓口の男が手を振ると、30人の兵士たちが消えた。
「な、なんだこれは! へ、兵をどこへやった!」
「ですから今、逮捕するって言ったでしょ?
野蛮人は言葉の意味もわからないんですか?」
「ぐぎぎぎぎぎぎ……
お、俺様を誰だと心得る!
サンダス王国近衛兵団長、ギルマーク伯爵に向かってなんという暴言だ!」
「えっと……
暴言を吐いているのは自分だけだって、まだわかりませんか?」
「も、者ども! こ、こ奴を処刑しろっ!」
あー、100人近い兵士たちがみんな剣で窓口を叩き始めたわ。
でも叩いた瞬間にそいつが消えて行くんで、そのうちみんな剣を構えてぷるぷるしてるだけになっとるわ。
「ところで伯爵さん。
どうしてあなたはわたしに切り掛って来ないんでしょうか?
部下に犯罪を犯させても、自分では何も出来ないんですか?
根性無しですねえ……」
「い、言わせておけばぁっ!」
あー、アダムブラザーのやつ、剣を叩きつけて来た伯爵を、装備全部剥ぎ取ってその場に逆さに宙吊りにしとるわ……
「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~っ!」
「あなたは重罪犯収容所送りですね。
他に収容所送りになりたい方はいらっしゃいますか?」
「な、なんだとぉっ!」
「やめい副団長」
「し、しかし公爵閣下……」
「半数近い兵を失い、また目的も果たさずに帰って陛下になんと報告する気じゃ。
仕方あるまい。歩くとしよう」
「は、はっ……」
すみません。
書き溜めが減って来て少々苦しくなって来たんで、土日は頑張りますが、平日は火、木の投稿にさせて頂きたいと思いますです……
いつもお読み下さって本当に感謝しております……