*** 163 強制移住終了! ***
それからしばらく経って、移住を断って大平原の周囲に孤立している種族もだいぶ減って来た。
どうしようもなく頑迷な族長一族に率いられ、未だに移住を拒んでいるのは、6種族、20の村の総計1万人ほどだそうだ。
それで俺は或る日、移住最終作戦を開始したんだよ。
希望者は見学してくれって言ったら、22の種族の大族長が全員ついて来たわ。
俺たちは深夜0時ごろに、最初の村の近く転移した。
その村の周囲、半径2キロほどの境界線上は、数日前から夜中にこっそり精霊たちが木を転移させてくれている。
そうして俺は、その村を周りの森ごと直径5キロ、深さ50メートルの範囲で大地から切り取って、その場にゆっくりと浮かべていったんだ。
大族長たちもみんな大口開けて茫然としてたよ。
そうして、切り取った森と村は、直径7キロ、周囲の壁の高さ100メートルの巨大プランターを作ってその中に収めた。
森の周囲1キロほどの環状の部分には、肥料たっぷりの土を入れて畑も作ってやっている。
また、綺麗な家や水場や水浴び場もたくさん作ってやったんだ。
もちろん十分な食料の入った倉庫もだ。
そうして、その『村ごとプランター』は3時街の東50キロほどの地点に転移させた。
まあ、魔法マクロも使った単純作業だからな。
東西20の村を移動させるのに2時間もかからんかったよ。
翌朝から、また族長たちの立ち合いのもと、村人たちの『仕分け』をした。
罪業ポイントのうち、殺人や殺人教唆のあるものは、当然『重罪犯用1人収容所』送りだ。
それ以外にも、幸福ポイントがマイナス30以下の者も、『軽犯罪者用4人収容所』送致になる。
そしたら、20の村のうち、19の村では族長一族が全員いなくなっちゃったんだよ。
村民たちもびっくりしてたぞ。
まあその後で、広大な畑と立派な家と十分な食料を見つけて大喜びしてたけどな。
すぐに、族長の遠い親戚みたいなやつが徒党を組んで、暴力をチラつかせながら『これからは俺様が村長だ!』とか言い出したんだけどさ。
そういう暴力的強制で支配者になろうとしたやつも、アダムが次々と収容所に転移させていったんで、人口が半分になっちゃった村まであったぞ。
それにしてもさ。
なんでみんなそんなに村長やら族長やらになりたがるんかね?
みんなに命令して、何もしないで喰っていくことって、そんなに魅力的なんか?
一応俺もみんなにメシ作って貰ってそれ喰ってるし、命令じゃあ無くって指示やお願いをすると、みんな飛び回って仕事してくれてるけどさ。
でも、たぶんだけど、俺は最も働いている者の1人だって自信あるぞ。
あ! 俺神になったんで睡眠の必要無くなったんか!
い、嫌だ! 24時間戦えますけど、ほんとにそうなるの嫌だぁっ!
村長一族が全員タイホされて残された村人たちは、豪勢な食料を夢中で食べてたけど、そのうちに、壁沿いの広場に置いた『スクリーンの魔道具』で、ガイアTVを喰い入るように見始めたんだ。
それで、街の暮らしを見てため息ついてたわ。
まあ、そのうち学校やら風呂やらプールやらも作ってやるか……
そうそう、そのうちのひとつの村は、兎人族の村だったんだけどさ。
村長の罪業ポイントも無いし、幸福ポイントも一応プラスだったんだ。
でも、なんとその村長、『システィフィーナさまの使徒』だって自称してたんだわ。
なんか村人全員が日に3回も広場に集まって、族長一族に五体倒地して祈りを捧げてたし。
おかげで喰い物が足りないせいで、みんな痩せ細ってるんだけど……
でもみんな嬉々として『自称使徒さま』をお祈りしとるんだわ。
あー、みんな目つきがヘンだわ。
やっぱカルト教団に属してる奴ってキモいわぁ……
でも、全員が全く罪業ポイント持って無かったんだ。
なんだか幸福ポイントもみょーに多かったし。
「なあみんな。こいつらどうしたらいいと思う?」
「ふむ、システィフィーナさまの使徒を騙るとは許せんな。
こ奴ら一族は全員終身刑でよかろう」
「や、やっぱフェンリーは強硬意見だなぁ」
「ですがサトル神さま。
このような狂信的な集団では、教祖を取り除いてもすぐに後継者が現れて、また同じことを始めますぞ」
「うむ。同感じゃ。教祖を排除してもこ奴らは変わらんじゃろう」
「いっそのこと全員収容所に隔離してみるのは如何でしょうか?」
そのとき、兎人族の大族長が、涙をぽろぽろ零しながら俺の前に平伏したんだよ。
「お、畏れながらサトル神さま……
何を信じようが、それでどう行動しようがこの者たちの自由かもしれません。
ですが…… ですが親たちに洗脳されて同様に行動する子供たちが、あまりにも不憫でございます……
どうか……
どうか子供たちだけでもお救いくださいませんでしょうか……」
「よくぞ言ってくれた! さすがは大族長だ!
よし! この村には特別な配慮をすることとしよう」
俺は『自称使徒さま』の一族を前に、五体投地を繰り返す村人たちの前に浮かんだ。
あー、使徒さまの家族の前にだけ、こんなに喰い物が置いてあるじゃないか……
村人たちはやせ細っているっていうのに……
でもって使徒さま一家はデカい台の上で分厚い敷物の上に座ってるのか。
村人たちは全員地面に座ってるっていうのに……
あ、よく見ればこの『使徒さま』、ぶくぶくに肥ってら。
ったくさ、地球のあの自称民主主義人民共和国の絶対王制国家でも、君主だけぶくぶく太ってて、国民はやせ細ってるよな。
みんな身長もみょーに低いし。
あれみんな疑問に思わないのかね?
「おい、ニセモノ使徒。
お前は、こともあろうにシスティフィーナさまの偽の言葉を用いて、同族を騙した。
その罪は重い」
「だ、誰だお前は!
し、システィフィーナさまに使徒に任ぜられたこのわしを侮辱するとは!」
「ほほう、俺が誰だと問うのか……」
「お、お前には、間違いなくシスティフィーナさまが神罰を下されようぞ!」
「あのな。俺はそのシスティの本物の『使徒』なんだがな……」
「な、ななな、なんだと!
そ、そのような騙りで、わしから食物を奪おうというのか!」
「あー、やっぱダメダメだわお前……」
俺は魔力でそいつを宙に浮かべた。
「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~」
ああ、なんか手の込んだ服着とるわこいつ。
なんでこういうやつらって、権威を表すために高い台やらデカい敷物に座ってエラそーな服着たがるんかね?
ん? 文明度が低いから?
違うよ。
キミたち、現代日本のカイシャって見たこと無いのかい?
ヒラ社員の椅子より課長の椅子の方が大きいんだよ。
部長の椅子や机はもっと大きいし、役員になると卓球台並みの机に、アホみたいにデカいハイバックチェアに座ってるんだ。
そもそも類人猿は原始時代から体のデカいやつがエラかったんだけど、昇進しても体が大きくなるわけじゃないだろ。
だから会社員は、そうやってデカい椅子や机に座って自分を少しでも大きく見せようとするワケだ。
それから、若い社員が自分より高そうなスーツ着てると、本気で怒り出すしな。
つまりさ、威厳や実力の無い奴って、大昔も今も物に頼って自分の威厳を演出するんだ。
日本のおじさんたちに『あなたのステータスとは?』って聞いてごらん。
ほぼ全員が、住んでる場所と乗ってる高級車の名前を言うんだよ。
あとは子供を通わせている名門私立の名前か。
つまりまあ、全部カネで買えるもんなんだ。
でも俺たちにとっての『ステータス』って、例えば俺だったら、『加護のネックレスや勲章の無い素の状態で、総合Lv130です。スキルの数は158で、スキルレベルは平均で92です』っていうことになるわけだ。
つまり、俺たちにとっての『ステータス』って、カネで買えるもんじゃあなくって、自分で勝ち取った実力なんだ。
おなじ『ステータス』っていう言葉でも、ジジイどもが使ってる言葉とは全然意味が違うから気をつけろな。
それにしてもこのぶくぶく兎、ムカつくわー。
(なあアダム、こいつの『毛』だけ転移させることって出来るかな?)
(はい、可能です)
(じゃあ、俺が合図したらやっちゃってくれ)
(畏まりました)
俺は魔力で浮かべたそいつの服を剥ぎ取り、指差した上で「システィフィーナ神の名のもとに、詐欺師に罰を与える!」って宣言したんだ。
途端に『自称使徒サマ』は、全ての毛が無くなってつんつるてんになったんだよ。
あー、まるでローストされる前の兎の肉が、ジタバタ動いてるようでキモいわぁ。
それで、「使徒さまになんという狼藉をするのだ―っ!」とか叫びながら俺に飛びかかって来た連中も、全員毛ぇ転移させて丸裸の刑だ。
ついでに宙に浮かせて晒し者にもしたけど……
兎人族って、それほど毛並みを気にする種族じゃないんだけど、それでも村の掟を破ったりすると、頭やしっぽの毛を毟られる刑罰を受けるそうだ。
まあ、全身毟られるやつは滅多にいないそうだけどな……
周りに浮かべてやって、この様子を見物させてやっていた大族長たちも大爆笑だったわ。
「使徒殿のお振舞いは、相変わらず我らの意表を突いてくださいますのう」
「さすがは使徒殿です。お見事な罰の与え方でございますな」
「それにしても、な、なんという恐ろしい『罰』だろうか……」
(あ、やっぱ狐人族には最低最悪の刑罰だったか……)
突然現れた各種族の面々に、広場の村人たちは声も無かったわ……
「村人たちに、システィフィーナ神の真の使徒として告げる。
今後一切この僭称者に拝礼することを禁ずる。
お前たちが祈っていいのは、唯一システィフィーナ神さまだけだ。
また、こ奴の親族に食物を供えることも禁ずる。
食物はすべて自分たちで用意させろ。
これを破った者も、全員丸刈りの刑だ。
さらに繰り返し破った者は、1人用の収容所に転移させる。
また、虚言を弄したり暴力をもって次期村長になろうとした者も、同じ刑罰に処す。
村長は俺が派遣するので、皆従うように。
この新しい村長の言葉は、システィフィーナ神の使徒たる俺の言葉だ。
この者の指示に従わない者も、やはり重罪犯として処罰する。
今後は村人たちで協力して食料を確保し、まずはみんなそのガリガリに痩せ細った体をなんとかしろ。
それから、この村の周囲には、充分な畑と清潔な家を用意してやった。
これらは自由に使って良いこととする。
さらに、12歳未満の子供たちは、新たに壁際に作る『学校』に週6日通わせろ。
子供たちを学校に行かせるのを妨害した者も重罪犯として処罰する。
乳幼児も保育園に連れて行くこと。
以上、一刻も早く、諸君が栄養失調状態から回復することを願っている」
それで俺たちは、アダムのアバターのひとりに村を任せて中央街に帰って行ったんだ。
「うーむ。お見事な処断でございました……」
「うむ、さすがはサトル神さまだ」
「あれならば村人たちもすぐに正気に返るでありましょうなあ」
はは、大族長たちにも褒めて貰えたぜ。
これなら大丈夫かな……
それにしても、これでようやく大平原の全ての種族を城壁の内側に保護することが出来たか……
あと少し準備を進めてから、いよいよ対ヒト族戦争の開始だな……




