*** 162 種族たちの役割分担 ***
このころになると、種族会議に出ているような有力族長たちが、種族の族長を後進に譲って大族長に就任するようになったんだ。
種族会議やそこで決まったことに専念するために。
テレビへの出演や、種族の集いなんかの行事は全部新族長に任せて、自分たちは国の仕事に専念出来るようにするらしい。
それで種族ごとに代表を決めてもらって、全部で22人の『国政担当』が決まったんだよ。
ゴブリン族の代表は『岩山のゴブリンキング』だった。
まあ最初に移住して、他のゴブリン族を誘致した功績は大きかったからな。
『岩山のゴブリンキング』の担当は、大森林地域の諸部族の移住勧誘と、中央街の温泉入浴施設の管理だ。
移住が終わったら、中央街の拡充も任せる予定になっている。
オーガ・キングの担当は、砂漠の砂の撤去とそこに出来た新たな『栗の木公園』の整備拡充と管理になる。
どれも重労働だけど、まあ体の大きな種族を統率して頑張ってくれるだろう。
オーク・キングの担当は、各街の『民生』だ。
奴は優しいし、細かいところにもよく気がつくからな。
新たに移住してきた連中が、安心して街に馴染んでいけるように努力してくれるはずだ。
ドワスター・ドワーフ族の大族長の担当は、研究開発と工業製品の製作になる。
あのエアカーは、びっくりするほど人気が出たんだ。
それで今度、東河に沿った遊覧バスツアーも始めることになったんで、その組織作りと運転手の育成もしてもらおう。
正式に族長の座を後進に譲ったドワールスにも参加してもらった。
仕事内容は、収容所に入れられている旧洞窟ドワーフ族の管理と再教育だ。
E階梯を上げて行く環境を整えることはもちろん、数年後にはE階梯が上がった連中を街に住まわせてやることを目標に頑張ってもらおう。
ドラゴン族の代表は、族長を引退して大族長になった氷竜になった。
もちろん彼には、ダム湖畔のウインターリゾートの管理をしてもらう。
あいつらの力だったら、夏の間でもそり滑りコースぐらいは作れるだろうだろうな。
そのうちエアカーを改造したゴンドラでも作って、『ドラゴン遊覧飛行』でも始めるか。
へへ、子供たちが喜ぶだろうなぁ。
ベヒーモス族の族長ベヒランも、族長の座を部下に譲って内政専従になってくれたよ。
彼には、『中央神殿』の礼拝行事の管理を頼んだ。
いつも泣きながら実に熱心にシスティを拝んでたんで、本人は大喜びだったわ。
あの礼拝会も、毎回毎回20万人ぐらい参加者が集まるから、参列者の誘導とかも大変なんだよ。
もう『転移の魔道具』の設置数だけでも1万超えてるし。
そろそろまた中央神殿のキャパを広げておくか……
そうそう、神殿のライトアップ始めたらこれも大人気よ。
日没から夜9時ぐらいまでで、ライトアップと言うかもう光のショーになってるけどな。
なにしろレーザー光線まで使ってるんだから。
調子に乗って自分でもレーザーぶっ放して、神殿の外壁をコゲさせた光の大精霊には、罰として1週間のケーキ禁止を言い渡した。
なんかへろへろ地面に落ちて、両手をついて茫然としてたわ……
それから野菜作りが得意な兎人族の大族長には、『農政』をお願いした。
各街の畑で作る作物の選定や、種まき、収穫時期なんかの判断もだ。
驚いたことに、こいつら『三圃式農業』の概念まで持ってたんだわ。
どの作物の収穫の後にはどの作物を植えるといいとか。
すげえよな。
こいつら一見文明は進んでいないように見えて、知能はかなりのもんだぞ。
トロール族と馬人族の大族長は、農業の人手の手配や管理担当だ。
種蒔きや雑草取りなんかの作業は、体が小さくて器用なゴブリン族や兎人族がやってくれるけど、畑を耕したり収穫したりするのは重労働だからな。
やっぱり体が大きくて力のある種族にやってもらいたかったんで、その統括をお願いしたんだよ。
熊人族の大族長には、保育園と幼稚園の運営の統括を頼んだ。
あの熊のお母さんたちの大きな体ともこもこの毛は、乳幼児たちに大人気だからだ。
犬人族の大族長には小学校の運営を、狼人族の大族長には中学校の運営統括を頼んだ。
あいつら種族がらみょーに統率が取れてるから、組織運営には最適だろう。
この仕事には、遠足や修学旅行の引率に加えて、文化祭や運動会の運営も含まれているからけっこうたいへんだろうけど、まあ頑張ってもらおうか。
ただまあ、教員は全員アダムとイブのアバターだからな。
あいつら教育方針とか、リアルタイムで職員会議しながら授業しとるし。
まあ大したもんだわ。
鶏人族の大族長にはもちろん卵の生産体制充実をお願いした。
ミノタウロス族と牛人族の大族長にはミルクの生産ラインの確立だ。
どっちもシスティの倉庫に入れるまでは生鮮食品だから、衛生状態に気をつけて集めるのはたいへんなんだよ。
洗熊人族の大族長には、自主的にみんなが喜ぶサービス業を始めたことを大いに褒めちぎったあと、『ボディケアショップ』を含む商店街の管理をお願いした。
実際に働くのは各種族の連中になるだろうけど、どんな店を出したらみんなが喜ぶだろうとか、その店の品の調達とかの企画や管理をお願いしたんだよ。
他の大族長たちも、あの『ボディケアショップ』に大いに感謝してたんで、洗熊人族の大族長もすっげぇ嬉しそうだったわ。
猫人族の大族長には、各家庭で使うような民生品の充実をお願いしておいた。
すぐにこたつの生産依頼が1万台来てたけど、大丈夫かこいつら?
冬の間、猫人族は誰も外に出ていないとかないだろうな……
ん? なんだこれ?
この木枠に布を張った釣鐘みたいなもんの設計図は?
なに! 移動可能なコート型こたつの設計図だと!
そんなもん着て思考停止状態で歩いてたら、どこ行くかわかったもんじゃなかろうに!
狐人族の担当は、衣類の充実だ。
出来れば各種族用の防寒着や下着も開発してやりたいし。
いつもおしゃれな狐人族には最適な仕事だろう。
でも…… どの服も全部フリフリのキンキラになったりしないよね?
猿人族と蛇人族には果樹園を任せた。
猿人族はもともと木登りが上手だから適任なんだけど、蛇人族も相当に木登りが得意だったんだ。
枝にしっぽ絡ませて、逆さになって果樹取ってたりしたし。
でも、休息時間に木の上でとぐろ巻いて休んでたりするとちょっと怖いんだけど……。
それって、地球では蛇が通りがかりの小動物を捕食する目的で隠れるための行動だぞ、って教えてやったらびっくりしてたけど。
兎人族の子が本能的に恐怖感感じちゃって泣き出したからヤメなさいね……
彼らには慣れてきたらジュース工場なんかも任せるつもりでいる。
そうそう、そのジュースを使って酒を作らせてもいいかもしらん。
猿人族も少量ながら『猿酒』を作ってたみたいだし。
リザードマンには東河の流域に大きな溜池をたくさん作って、そこで川魚の養殖を始めさせたんだ。
やつら泳ぐのも上手だし、河で獲った魚が大好物だったんで、獲るばっかりじゃあなくって養殖のやり方も教えてやったんだ。
そういえば、この世界にもうなぎそっくりの魚がいたんだよ。
それも長さ2メートル以上あるデカいのが。
まあ、この魚もうなぎとおんなじで血液に毒素が含まれているから、リザードマンたちは食べてなかったんだけどさ。
エルダさまの料理長に頼んで日本風の『かば焼き』にしてもらったら最高に旨かったんだ。
試食したリザードマンの大族長も驚いてたよ。
いつか街の商店街に『うなぎ屋』が出来るといいなあ……
今度リザードマンに『変身』の魔法かけて、日本の老舗うなぎ屋で修行させるか……
ベギラルムはガイアTVの責任者兼大族長たちの取りまとめ役だ。
中央街の政務街の一角の建物を与えて『内政府』も作らせた。
大族長たちの部屋もあって、いつもみんなで集まって、なにかしら相談やら会議やらをしているようだ。
「なにか問題があったら言ってこいよ」って言っておいたんだが、何も言って来ないところをみると、どうやら『内政』は上手く回っているようだ。
まあ、さすがは皆数千から数万の種族を率いて来た大族長たちだよ。
企画力も実行力も素晴らしかったんだ。