*** 151 高原の豪華ホテルと結婚式場 ***
氷のショーを堪能した後は、みんなで建築中の豪華ホテルに移動した。
建築中と言っても、もう外壁装飾の仕上げと客室の内装の一部を残すのみなんだけどな。
門前には広大な車寄せがあって、門は細かい透かし彫刻が施された錬鉄製の豪華なものだ。
なんだか迎賓館の門みたいだな。
そこからホテルの入り口までは、50メートルほどの石畳の道が続くんだけど、両側は見事な芝生と花壇になっていたんだ。
あー、小さいけど噴水までたくさんあるわ。
あ、俺たちが歩くにつれて、近くの噴水が大きくなってる……
入り口の上には大きなシスティの像が飾られていた。
こちらのホテルの外装は、やはり土の精霊たちの趣味で、全てが壮麗な彫刻で覆われている。
はは、外周に建てられたギリシャ風の柱の上にはガーゴイルの彫刻まであるわ。
入り口には2人のドアマンがいた。
どちらも巨体のオーガ族で、ハデなドアマン服が似会っている。
その2人がにこやかに微笑みながらドアを開けてくれて、俺たちは礼を言いながらホテルの中に入ったんだ。
このホテルのロビーは、3階まで高さ20メートルの吹き抜けになっている。
その天井からは巨大な強化ガラス製シャンデリアが下がっていて、キラキラと実に綺麗だ。
おお、天井や壁の壁画も実に見事だなあ。
あ、あれ鏝絵だ!
漆喰で造形した風景画に彩色もしとる!
土の精霊たちの腕も美意識もどんどんと成長して来とるようだなぁ……
正面つき当たりには、扇形の広い階段があった。
いわゆる『シンデレラ階段』っていうやつだな。
手摺のカーブもモールディングも見事なもんだ。
支配人が近寄って来た。
俺たちに挨拶をした後は、先導してホテル内を案内してくれる。
ロビーの右手は一般のダイニングルームが続いていた。
50名ほど収容可能なダイニングが10室ほどある。
やはりどの部屋も天井が高くて装飾がたっぷり施されていて豪華だ。
うんうん、このホテルに新婚旅行に来たら一生の想い出になるだろうなあ……
地球人でも大感激するレベルだわ。
ロビー左手にはチェックインカウンターがあった。
その後ろには、目立たない入り口を通ってVIPルームがある。
まあ当面使う予定は無いが、今晩の俺たちの夕食の場になるのと、いつかヒト族の大使でももてなす場にするかな。
上階の客室はすべてスイートルームだ。
もちろん2人部屋だが、広さはそれぞれ150平米もあって、ベランダには風呂まである。
ここで夕日とダムを眺めながら風呂に入ったら素晴らしいだろう。
俺たちはエレベーターに乗って屋上に向かった。
ここにはビアガーデンと大浴場があるんだ。
やっぱりダム湖を眺めながらの入浴とビールは最高だろうな。
俺たちは全員で風呂に入った。
俺たちはみんな大浴場だが、ベギラルム一家は家族風呂だ。
まあ、ベルシュラちゃんはまだおむつをしているからな。
ベルシュラちゃんの口がへの字になって涙目になったんで、アワンちゃんも一緒に行ってあげることにしたようだわ。
あーみんな気持ちよさそうに風呂に入ってるよ。
でもね…… フェミーナさん……
いくら解放感があって気持ちがいいからって、お年頃の女の子が大の字になってまっぱでお風呂に浮かんでるって……
ボクの眼球が不審な動きを始めちゃってるから、少しは慎みを持ってくれないかなー……
あ、エルダさまもローゼさまも、同じ格好で浮かび始めた!
システィも!
うーん……
このひとたち、絶対地球の18歳男子の性欲をナメてるよな……
「サトルよ。お前も浮かんでみたらどうかの。
実に気持ちいいぞ」
あの…… エルダさま……
そんなことしたら、ボクのオオカミさんが臨戦態勢になってるのが……
夕食は素晴らしかったよ。
VIPルームの大テーブルの周りには、ウエイターやウエイトレスが8人もついてくれてたし。
最初はみんな緊張してたけど、ベルミア総料理長がにっこり微笑むとみんな安堵してたわ。
メインディッシュは例の氷龍のしっぽの輪切りステーキだ。
直径1メートルを超える巨大皿で供されて、それを料理長が切り分けてサーブしてくれる。
もう焼き方も味も最高だったよ。
これ、貴重品だよなあ……
あいつらまた大喧嘩とかしてくれないかな……
俺はまだヒト族だったころの習慣が抜けてなかったんで、その晩はぐっすり寝かせてもらったんだけどさ。
傍らではフェミーナも丸くなって寝てたけど。
ローゼさまとエルダさまとシスティは、別室でずっと女子会やってたみたいだ。
翌朝ワインの瓶が5本も転がってて全員蒼い顔してたけど、まあみんな自分で治癒かけられるから大丈夫だろう。
そうして朝食後は、みんなでバスに乗って平原まで降りたんだ。
「のうサトルや。
行きはともかく、帰りは転移でもよいのではないか?
族長殿にあまり運転させてもだな……」
「エルダさま、たぶん我々は大丈夫なんでしょうけど、ベルミアやベルシュラちゃんやフェミーナが辛いはずなんですよ。
ここは標高が2000メートルほどあるんで、気圧が0.8気圧弱ほどしか無いんです。
ですから平原までは30分ほどかけてゆっくり下りないと、鼓膜に負担がかかっちゃうかもしれないんです」
「なるほどのう……
だからこんな乗物まで開発したのか……
ほんにお前はよく考えておるのう……
それにしても、この『旅行』は素晴らしかったぞ。
心より礼を言う」
みんなも口々にお礼を言ってくれたよ。
へへ、喜んでもらえてなによりだわ。
それからしばらくして、湖畔の豪華ホテルも完成し、中央街に新たに建設していた施設も完成したんで、ガイアテレビでご案内を始めたんだ。
「ガイア国民のみなさん。
全ての施設が完成いたしましたので、ご案内いたします。
『結婚式』をしてみませんか?
最近一緒に暮らし始めたカップルの方、または番になる約束をされた方、是非中央街の『結婚式場』で結婚式をされてみられたらいかがでしょうか……」
画面では、悪魔っ子たちが新郎新婦に扮した模擬結婚式の様子が紹介され始めた。
神父服を纏ったアダムの弟アバターの前に、タキシードを来た新郎とウエディングドレスを着た新婦が進み出る。
そうしてシスティフィーナ神の名の下に、結婚の誓いの言葉を述べているんだ。
周囲の親族席には、大勢の親戚たちや長老や族長に扮したエキストラたちもいた。
それから記念写真の撮影会だ。
新郎新婦だけの写真と親族一同に囲まれての写真が撮影される。
もちろん後で壮麗な額に入った写真も貰えるぞ。
そうして式が終わると、隣接した宴会場でパーティーが始まる。
ここにはさまざまな衣装を着て、以前の村の仲間たちに扮した客が大勢つめかけていた。
そうして族長の挨拶と乾杯の後は、ご馳走が運ばれて宴会になる。
彼らの結婚式のご馳走は伝統的に果物だったそうだから、ここでは直径2メートルもの大きさの皿に山盛りの果物も置いてある。
もちろん大きなウエディングケーキもあった。
「こうした結婚式場と宴会場が、中央街に100施設ほど完成しました。
午前中にひと組、午後にひと組、合わせて一日に200組の結婚式が行えます。
結婚衣装の準備のために、予約から式の日までは3カ月ほどの間を置かれることをお勧めさせていただきますね♪」
画面が切り替わった。
「さらに!
中央街で結婚式をされたカップルの方は、もれなくサトルさまより『新婚旅行』がプレゼントされます。
結婚式の後の最初の夜は、高原の豪華ホテルで2人っきりで過ごしましょう♪」
画面では、エアカ―に乗り込む2人、大氷河、巨大なダム湖、豪華なホテルの外観とさらにその美しい内装が紹介されて行く。
極めつけは見たことも無いような豪華料理の数々だ。
しかもウエイターやウエイトレスが料理を上げ下げしてくれるのである。
まるで話に聞くヒト族の王さまの食事のようだった。
「さらにさらに!
結婚式を挙げられた皆さまには、週に一度、中央神殿にてシスティフィーナさまより直接『祝福』が与えられます!」
今度は中央神殿の祭壇上に、1000組ほどのカップルが登場した。
各種族から成るエキストラたちが、全員ドレスとタキシード姿で跪いている。
そこにシスティフィーナ神が現れて、みんなの頭上に祝福の光を振りまいてくれたんだ。
エキストラたちですら、感激のあまり皆泣いてたぞ……
このCMは全種族を魅了した。
翌日から、結婚式場や宴会場の見学会は大盛況だったよ。
それにさ。
俺知らなかったんだけど、この大平原の種族たちって、『美醜』の認識をほとんど持っていなかったんだわ。
つまり、カッコいいとか悪いとか、キモいとか美人だとかの認識が無いんだ。
結婚相手とか番の相手に求める要素は、男の子の場合は働き者だとか優しいとかだとモテて、女の子の場合も働き者とか料理が上手とかだけでモテたんだよ。
誰も見た目はほとんど気にしなかったんだ。
まあ、男の子の場合は体が大きかったりすると、よりモテるみたいだったけどな。