*** 150 高原リゾート ***
或る日、俺は北部山岳地帯に作った水資源用のダムに転移した。
そうしていくつかの作業を始めたんだ。
まずはダムの脇にあるギャラリースタンドの大幅な拡充だ。
一度に2000人ぐらいが座れるように。
それから今ある氷用のトンネルを塞いで、新たなトンネルを掘った。
ダムには水が深さ100メートルほど溜まってたんだけど、このままだと水を増やしたらすぐ出口が水没しちゃうからな。
新しい氷用トンネルの出口はダムの内側の上縁ぎりぎりに作ってある。
そうして俺は氷河の末端に転移して、そこら中にある氷を片っ端からトンネルに放り込んで行ったんだ。
もう街もけっこう人が増えてたし、水不足になるのも困るからさ。
アダムと一緒に、丸1日かけてダムの水深が1000メートルほどになるまで氷をトンネルに放り込んで行ったよ。
まあ、この氷河は幅3キロもあって氷の厚さも500メートルはあるから、氷はいくらでもあったんだ。
それから、「絶対フィールド」の魔法式を組みこんだ、『絶対フィールドの魔道具』を作ってみたんだ。
これを3つ程、氷河の表面から上に500メートルほどに展開出来るように調整した。
実は氷河の末端ってけっこう危険なんだよ。
上流で割れた氷が氷河の上を滑って落ちて来たりするから。
だから観光客に危険が及ばないように、フィールドで安全措置を講じたわけだ。
それから俺は土の精霊を2人呼び出した。
どちらも地球の見学で宮殿や城の室内装飾に興味を持った『棟梁』だったんだけど、彼らの設計に基づいて、ダム湖の東側に大きなホテルを2つ造ることにしたんだよ。
ひとつは豪華絢爛なホテルで、もうひとつは普通のホテルだ。
まだ彼らには大型の建物はちょっと負担が大きいから俺が造ることにして、まずは彼らが書いた設計図通りの建物を造っていったんだ。
細かい外壁の彫刻や内装は全部彼らに任せるんだけどな。
2人とも大喜びで、部下たちに指示しながら一生懸命作ってたよ。
翌日はダム湖の北西側に、そこにあった小高い丘を利用して、大きな斜面を2つ作った。
ひとつは斜度20度ほどで、幅1キロ、長さ500メートルほどの斜面だ。
もうひとつは斜度10度ほどで、幅も300メートル、長さも200メートルほどと小さい。
どちらもマナ建材で覆って、表面には階段状の刻みも入れてある。
丘の上と下にはいくつか小屋も作って、中には『転移の魔法陣』も設置しておいたよ。
それから俺は、『9時街』の研究所に行って、ベギラルムや大族長と一緒に、『エアカ―』を作ったんだ。
4人乗りの小型のものと、40人乗りの大型のものだ。
どちらも形は普通の乗用車とバスみたいな形をしてるんだけど、底面には『浮遊の魔道具』がたくさん張り付けてあって、宙に浮けるんだ。
それから移動の魔道具もついていて、運転席のハンドルやアクセルやブレーキに繋がっている。
それにあの浮遊式カートにつけた『障害物自動回避の魔道具』に加えて『慣性吸収の魔道具』も設置して、さらには新開発の『スタビライザーの魔道具』もつけたんだ。
これはどんなに急に曲がってもエアカ―が横転しないようにするものだ。
そうしてエアカ―の上面とボディの外側を、『絶対フィールドの魔道具』で覆うようにしてエアカ―の完成だな。
これで岩にぶつかろうが地面に落ちようが、乗っているひとが完全に保護される超安全エアカ―の完成だわ。
安全試験と量産は、ベギラルムと大族長にお願いしておいた。
あとはドワーフ族中心に運転手100人の育成もだ。
ダム湖畔に作らせていたホテルのうち、普通のホテルの方が完成したんで、俺は地球に研修旅行に行かせていた悪魔族の子の中から支配人を募集した。
そうして各種族から合計300名ほどのホテルスタッフも募集して、現地での研修も始めさせた。
みんな綺麗な湖畔と新築のホテルで働けるんで、嬉しそうにしてたよ。
それから俺は、ダム湖の上の氷河が川になって大平原に降りて来た辺りに、大きな建物を建てたんだ。
ここにはやはり大きめの転移の魔道具を置いて、完成したエアカ―の車庫になる。
湖畔のホテルの裏手にも目立たないように車庫は作っておいた。
こうして全ての準備が整うと、俺は夕食後にみんなを『旅行』に誘ったんだ。
「旅行、とな?」
「ええ、エルダさま。
ガイア国のみんなを旅行に連れて行ってやりたかったんですけど、ようやく準備が整って来たんで、視察も兼ねてみなさんを旅行に御招待させて頂きたいと思いまして……」
「ふふ、それは面白そうだの」
「是非連れて行ってください!」
旅行のメンバーは、俺、システィ、ローゼさまとエルダさまとフェミーナ。
それからベギラルムとベルミアとベルシュラちゃん。
もちろんアダムとイブとアワンちゃんのアバターもだ。
翌朝俺たちは、東河のほとりの駐車場に転移した。
そこでバスに乗り換えるんだ。
バスの運転手はなんとドワスターの大族長だったよ。
バスが浮いて動き始めると、みんな大騒ぎだったわ。
アワンちゃんに抱っこされたベルシュラちゃんも、「うきゃー♪」とか言って喜んでたし。
どうやら『慣性吸収の魔道具』の効力を80%ぐらいに抑えてあるようだな。
その方が浮遊感も楽しめるからいいな。
あ、フェミーナのしっぽがびーんって立って膨らんどる……
そうか、こいつ空飛ぶの初めてだったか……
東河が平原に降りて来た辺りには、落差100メートルほどの大きな滝があった。
バスはその滝壺周辺をゆっくりと周回した後、高度を上げて河沿いに上流に昇って行く。
人の手の全く入っていない大自然の中、蒼い水が滔々と流れていた。
もうみんな片側に寄っちゃってずっと下を眺めてるわ。
フェミーナのしっぽはますます膨らんでたけど。
そうして河沿いに昇って行くこと30分ほど、氷河の末端が見えて来た。
ここはいつ見てもすごい景色だよなぁ。
幅3キロ、高さ500メートルの氷の壁なんて。
ときおり氷河の端が崩れて凄まじい音をたててるし……
そうしてしばらくの間氷河の壁の前にいたバスは、高度を上げて氷河の上に出た。
そこからはさらに高度を上げて、氷河の姿の見物だ。
現在の標高は約4000メートル。
そこから8000メートル級の山々が連なる場所にかけて、氷河が続いているのがよく見える。
あー、なんかみんな黙っちゃってるわ。
ベルシュラちゃんもアワンお姉ちゃまにひしってしがみついてるし。
30分ほどの氷河見物を堪能した後は、2000メートルほど高度を下げてダム湖に降りる。
ここはフェミーナとベルミアとベルシュラちゃんとアワンちゃんは初めてだったな。
山の中に突然現れた直径20キロもあるダム湖の眺めはいつ見ても素晴らしい。
水は深いアクアマリン色だし、湖の縁はまっ白なマナ建材だし。
バスがホテル前広場に到着した。
その場では悪魔っ子の支配人が出迎えてくれている。
おお、けっこうカッコいいスーツ着てるじゃないか……
「ようこそ湖畔ホテルへいらっしゃいませ」
「出迎えありがとう。準備は順調かい?」
「はい、今日は初めてのお客様をお迎えするのに皆少し緊張してますけど、準備自体は順調です」
「それはよかった。
多少失敗した位じゃ誰も怒ったりしないから大丈夫だよ」
「はい、ありがとうございます……」
ロビーの喫茶コーナーでウエルカムドリンクを飲んだ後、俺たちはまず一般ホテルの中を視察した。
ここは主に修学旅行客を泊める予定なので、ほとんどが4人部屋と8人部屋だ。
食堂も大食堂がひとつだけになっている。
今日の宿泊はこのホテルなので、取りあえず各自が部屋に落ち着いた。
そうして30分後、俺たちはまたロビーに集合すると、湖の畔にあるギャラリースタンドに移動したんだ。
「それじゃあアダム、頼んだぞ」
「はい」
もうアダムも最上級世界管理システムだからな。
生産も建築も、あらゆる行動が許されている。
まあ氷の彫刻なんかも好き勝手に出来るわけだ。
また氷トンネルの中から「しゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー」っという音が聞こえて来た。
あ、ベルシュラちゃんがママにしがみついてる……
そうして直径80メートル程の巨大な弾丸型の氷が穴から飛び出して来たんだ。
その氷はやはり見事な放物線を描いて飛んで行き、約1000メートル下の水面に着水した。
びっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーん!
しゅーーーーーっ。
あ、ベルシュラちゃん泣きそう……
口がへの字になって、下唇の下にシワが出来てる……
でもアワンお姉ちゃまが嬉しそうにキャーキャー叫んでるのを見て不思議そうな顔した。
あ、なんか納得したような顔してる……
次の氷が音をたてて落ちて来て、アワンちゃんが一層大きく笑うとベルシュラちゃんも笑い出した。
そうか……
お姉ちゃまが笑ってるのを見て、どうやらこれは怖いことじゃあなくって楽しいことだって認識したんだな……
しばらくはそのままみんなで氷のショーを楽しんでたんだけどさ。
そのうちエルダさまがうずうずし始めたんだわ。
「の、のうサトルよ…… また滑って来てもいいかの……」
「自己責任でお願いします!」
そしたらエルダさまとローゼさまが嬉しそうな顔をして消えたんだわ。
そうして5分後……
トンネルから「しゅおおおおおお~ん」という音と共に、「うほおぉぉぉぉぉぉ~♪」っていう叫び声も聞こえて来たんだ。
あれ? 声はともかくなんで氷の滑る音も聞こえてるんだ?
するとトンネルの出口から、氷のソリに乗ったエルダさまが飛び出して来たんだよ。
ソリはそのまま水面に落ちて行ったんだけど、エルダさまはまた空中で見事に半回転して、巨大な翼を広げたまま滑空し始めた。
もうアワンちゃんとベルシュラちゃんは大喜びだよ。
2人してキャーキャーいいながらぺちぺち拍手しとるわ。
フェミーナの口は大きく開いてるし……
その次はローゼさまもソリに乗って飛び出して来たんだけどさ……
半回転する途中で翼広げちゃったもんだから、きりもみ状態になっちゃって、そのままきゃーとか言いながら水面に落ちてったわ。
そうしてしばらくすると、うつ伏せのままぷかーって水面に浮いてきたんだよ。
あー、あれ気を失っとるわ……
俺はすぐにローゼさまのところに転移して、グランドキュアをかけてやったんだ。
そうしてぐったりしたローゼさまを抱いてスタンドに戻ったんだけどさ。
「うふふ…… 大失敗だったけど大成功……
うふふふふ…… お姫様だっこ…… うふふふふふふ……」
とか声が聞こえるんだわ。
ったくあなたもう中級神さまなんだからね!