*** 149 卵と牛乳の自給開始(プリン大評判) ***
おかげで普通の卵の献上品も、たいへんな量が集まり始めたんだ。
それを見ていた牛人族とミノタウロス族の族長たちが俺を訪ねて来た。
「サトル神さま、本日はお忙しい中お時間を割いて頂いて申し訳もございませぬ」
「はは、気にするなよそんなこと。
それでどうしたんだい?」
「実はわれわれ種族の女性達が、毎日毎日ご馳走を食べさせて頂いているおかげで、たいへんな量の乳を出すようになっておるのです。
なんでも、日に5回は出さねば乳房が張って痛むそうでございまして。
もちろん子供たちには飲ませているのですが、それでも大量に余ってしまうのです。
それで、もしよろしければ、この乳も献上させて頂けないものかと……」
「うーん、素晴らしい……
それでは至急『搾乳所』を用意するとしようか。
女性達にはそこに来て貰えるように言っておいてくれるかな」
「あの…… それでは他の仕事に差し障りが……」
「このガイア国に乳をもたらしてくれるのは、最高の『仕事』だぞ。
地球から乳を輸入することも出来るが、最終的にはガイアで自給できるようにしたいからな」
「かしこまりました……」
「なあアダム、これでいよいよアレを見つけなくっちゃだな」
(それがどうやら南海の無人島に自生しているようでございます)
「そうか、この大陸には見つからなかったけど、そんなところにあったか。
それじゃあサンプルを転移させてくれるか。
アレを抽出できるか試してみよう」
(はい)
しばらくすると、俺の目の前に長さ3メートル程の大きなススキのような植物が現れた。
まずはその葉を取り、茎だけにする。
その茎の皮を剥いて、中身を魔力で砕いた。
「抽出:しょ糖(C12H22O11)」
お、なんか白い結晶がいっぱい出て来たわ。
それじゃあちょっと味見して……
うはは! 甘い甘い!
ちょっと独特の香りがするけど、そんなには気にならないわ。
俺はそのけっこう大きな島に転移した。
おー、見渡す限りサトウキビっぽいのが生えてるわ。
それじゃあ空き地に建て物でも作るか。
転移の魔道具も設置してと……
しょ糖を抽出する工場も作るか……
それから俺は植物の精霊を呼び出して聞いてみたんだ。
「なあ、この植物から甘い砂糖が取れるんだけどさ。
俺たちがこの植物を刈り取ってその汁を貰ったら、この植物は悲しむかな?」
植物の精霊たちはサトウキビの間を飛び回り、しばらくすると俺のところに戻って来た。
「あの。この子たちも、他の植物とおなじです」
「植物にはあまり個体維持本能と言うものが無いんです」
「あるのは種族保存本能がほとんどなんです」
「だから根絶やしにされそうになるとすごく悲しみますが、個々の株が刈り取られても構わないそうです」
「それにこの子たちは地下茎で増えるので、地上部分の茎を刈り取っても死ぬわけではありませんし」
「でももうこの島いっぱいに増えてしまったんで、これ以上増えられないのが少し悲しいそうです」
「それに土の栄養分もかなり少なくなっているようですし」
「それじゃあさ、この子たちの一部を別の地に連れて行くから、そこで増えるように言ってくれるかな。
それから肥料も播いてあげるから、そのかわり茎を切り取らせてくれって」
しばらくすると、サトウキビの大群生地から喜びの感情が伝わって来た。
こうして俺たちは広大なサトウキビ畑を手に入れたんだよ。
俺はその場の空中に深さ10メートル、縦横100メートルのプランターを準備した。
底には石を詰め、深さ5メートル程を腐葉土で埋める。
そうしてサトウキビ群生地の一画を、土ごと20メートル四方ほど切り取って、プランターに移植したんだ。
すぐに植物の精霊たちがシスティの水を播いていたよ。
「なあ、移植されたサトウキビたちはなんて言ってる?」
「あの。素晴らしい水をありがとうって言ってます」
「それから、これでたくさん増えられるから嬉しいって……」
「そうか、それはよかった……」
俺はそれからも同じようなプランターを100個ほど作って、それを大平原の赤道直下辺りに転移させたんだ。
ついでにいくつか巨大な水槽も用意して、水の精霊たちが水を播きやすいようにもしてやった。
彼らは空気中の水分からも水を作れるけど、近くに水場が有った方が水撒きは楽だそうだからな。
しばらくは、植物の精霊たちと水の精霊たちでチームを組んでもらって、サトウキビ畑のお世話をしてもらおうか……
こうして俺たちは、卵と乳と砂糖を手に入れたんだ。
もちろん最初に作ったのは『プリン』だ。
ベルミナ総料理長が悪魔っ子たちを指揮して、最高のプリンを作ってくれたよ。
へへ、純ガイア産プリンの誕生だぜ!
もちろんこのプリンは街の住民たちに大人気になった。
『学校』の食堂でも出したからな。
特に卵や乳を提供した種族たちは喜んでたぞ。
「わたしたちの卵や乳が、こんなに美味しいものになるなんて」って言って……
俺は地球から機械を輸入して、アイスクリームも作れるようにした。
それからかき氷もだ。
折りから果物の収穫も始まってたんで、それを絞ってシロップも作ったし。
それで街の屋台街には、『プリン屋さん』と『アイスクリーム屋さん』と『かき氷屋さん』が出現したんだよ。
もう常に長蛇の列だったけど、お店の数はどんどん増やしたから、すぐにみんながたくさん食べられるようになっていったんだ。
でもみんな、あんまり食べ過ぎてお腹壊さないようにね……
アダムとイブが子供を作った。
あの神界で『マザーさま』から授かったシステム複製能力を使って、子供のAIを作ったんだ。
もちろんメモリーだのCPUだののパーツは、銀河宇宙最高最新鋭のものを揃えてやっている。
アワンちゃんと名付けられたその女の子には、すぐにこれも銀河最高のアバターを買ってあげた。
どうやらアダムとイブの方針で、アワンちゃんの内部には広大な空き領域が確保してあるそうで、そうしてお父さんやお母さんの姿や働きぶりを見ながら成長して行かせるそうなんだ。
もちろん最初は、アダムやイブの能力や経験を分け与えてあるんだけど、あんまり与え過ぎると単なる親のコピーになっちゃうからさ。
それで個性を持たせるためにも、敢えて時間をかけて成長させる方針にしたんだそうだ。
3歳児ぐらいに見えるアワンちゃんのアバターは、いつもシスティの天使領域にいて、お母さんのアバターの後ろをついて歩いていたり、ベルシュラちゃんのお世話をしていた。
ベルシュラちゃんが泣き出すと、すぐに飛んで行ってなにやらベルシュラちゃんの声を聞いている。
そうして、それがおむつの交換だったりすると、「よしよし♡ いまキレイキレイしてあげましゅからねー♪」とか言ってるんだわ。
それからお腹が空いたって泣いてると、「お母さーん! ベルシュラちゃん、お腹すいたってー」とか言ってるんだよ。
眠くてぐずってると、そっとベッドを揺らしたり子守唄歌って寝かしつけてるし。
ベルシュラちゃんの機嫌のいいときは、飽きずに一緒に遊んであげてるしな。
なんかもう、最強のベビーシッターになっとるわ。
ってゆーか、完全に姉妹にしか見えんけど。
でもたまにお父さんやお母さんのアバターと一緒にお風呂に入ってると、実に嬉しそうなアワンちゃんの笑い声が聞こえて来るんだ。
うーん、いい娘に育ってるわぁ……
まあこの娘は、数年後に『システィ神域子供軍団』の最強リーダーとして君臨することになるんだけど……
どんなヤンチャな男の子でも、おむつを換えてもらったアワンお姉ちゃまには逆らえないようだ。
『神界土木部』の若い衆に続いて『神界防衛軍特殊工兵部隊』の兵士たちの魔力も上がって来た。
まあ、毎日毎日あんだけ気絶してりゃあ上がりもするけどな。
それで塩工場での仕事から、1段階進んで次の訓練をさせてみることにしたんだよ。
「諸君、諸君の目の前にあるのは『スクリーンの魔道具』だ。
大型は80インチ、中型は45インチ、小型は25インチである。
見た目の大きさはさほどではないが、実はこれは数ある魔道具の中でも、作成に最も『マナ操作力』を必要とする複雑な魔道具なんだ。
そうだな、だいたいこれひとつ作るのに、塩コンテナ1つと同じぐらい『マナ操作力』を必要とするな。
もちろんコピー&ペーストでも同じだけの力が必要になる。
諸君にはこれからこの魔道具を大量に作る訓練をして欲しい。
目標は、1人で1日100台、全員で100万台の魔道具を作ることだ。
それを達成したら、城壁造り演習、それが終わったらいよいよ資源抽出だ。
若い兵士たちの顔が綻んだ。
まあこの訓練ほど努力が成果に直結する訓練も少ないからなあ。
日に3回も気絶すると、明らかに自分の魔力が上がるのを実感出来るし。
しかもどの訓練も、目の前に完成した実物が出来るんで、達成感も充分なんだよ。
「最高顧問閣下!
この『スクリーンの魔道具』は、完成後どのように利用されるのでありましょうか!」
「あ、ああ。街のみんなに配ろうと思ってるんだ。
最低でも一家に一台行き渡るように」
あー、なんかみんな嬉しそうだわ。
誰かに実際に使ってもらえるのが嬉しいのかな……
「アンタは、自分の仕事をさせるために、俺たちに訓練と称してタダ働きさせるんか!」とか言われなくてヨカッタぜ……
こうして100天使の防衛軍兵士による『スクリーンの魔道具』作りが始まったんだ。
最初は日産300台、翌日は600台、その翌日は900台と、生産台数も順調に増えて行った。
そうして1万台の在庫が溜まったころ、各街の中央棟で、『各家庭に一台のスクリーンの魔道具配布』が始まったんだよ。
俺は『壁掛け用の金具』と、『スクリーン台』も作ってやった。
そうして防衛軍兵士たちにも住民の笑顔を見せてやるために、交代で配布係をやってもらったんだ。
「ほ、本当にこんな立派なスクリーンを頂いてもいいんですかい?」
「ああ、是非使ってくれ。
これでみんな家でもガイアTVを見られるようになるだろう。
そんなに小さいスクリーンではなく、大家族だったらこちらの大型スクリーンの方がいいのではないか?」
「で、でも……」
「遠慮する必要は無いぞ。
どれもわたしたちが作ったものだ」
「て、天使さまが作られたものを頂戴出来るんですか……」
各種族のお父さんたちが『スクリーンの魔道具』を抱えると、その後ろには嬉しそうに子供たちがまとわりついている。
スクリーン台を選んだ場合には係員が持って行ってやって、壁掛け金具を選んだ場合は、土の精霊がひとりついて行って金具を壁に埋め込んでやってるんだ。
なんか『スクリーン』を受け取った家族も、渡した兵士たちも、どちらも実に嬉しそうだったわ……
こうしてガイアTVの視聴者はどんどん増えて行ったんだ。
それで番組の拡充も図ったんだけどさ。
まず最初に出来た番組は、『小学校高学年の生徒たちによる歌とダンス』の番組だったんだよ。
一生懸命練習した各種族の子たちが、ふりふりの衣装を来て歌いながら踊るんだ。
さすがに獣人族の子たちなんか運動神経がいいからさ、飛んだり跳ねたりアクロバティックな動きも取り入れてもうすごいんだ。
視聴者の大人連中も、みんな歌なんか聞くの初めてだし、ダンスなんか見たこと無いし……
それで、あっというまに大人気番組になったんだ。
おかげで、『学校』の『合唱部』も『ダンス部』も大盛況だ。
しかもそのうち上達して来た子たちなんかが、グループのまま頻繁に出演するようにもなっていったしな。
これ…… 『アイドル文化』の萌芽かもしれないよなあ……
そのうちガイアでも『総選挙』とかやるようになるんかね?
それに、なんか自分の子がTVに映るとみんな大喜びするらしいんだ。
だから全ての小学生の歌とダンスを延々と流し続けるチャンネルまで出来ちゃったんだけどな……
テレビに出たがるのは地球人もガイア人も一緒だったんだなあ……