*** 148 鶏人族(ワーチキン)少女の初卵 ***
或る日街の中を歩いて見物してたら、鶏人族の2人連れに呼びとめられたんだ。
これ、とさかが小さいから女性だな。
大きくて太った方がお母さんで、小さい方がその娘さんだろうか。
あー、嘴が短くって横に広がってて、笑ってるみたいで可愛いわ。
「あらあらまあまあ、使徒さまじゃあありませんか!
ちょうどよかったわ!
これもシスティフィーナさまのお導きかしら!」
「やあ、俺になにか用でもあったのかい?」
「それがですね使徒さま。
ウチの娘が今朝、『初卵』を生んだんですよ!
それで使徒さまかシスティフィーナさまに捧げさせて頂こうと思って、中央棟の悪魔族の子たちに渡そうと持って来たんです」
娘さんが大事そうに抱えていた藁籠の覆いの布を外した。
その中にはやはり藁の上に小さな卵が置いてある。
娘さんはちょっと恥ずかしそうだったが、それでも誇らしげに卵を見せてくれたよ。
「そんな大事なものを俺たちにくれるのかい?」
「いえね、私たちは娘が初めて卵を生むと、それをこうして籠に入れて地面に埋めて、それでシスティフィーナさまに捧げていたんですよ。
『これからの一生、たくさん卵が生めますように』ってお祈りしながら。
でもこうして『街』に移住させて頂いたんで、是非直接受け取って頂けないものかって、こうして出かけて来たんです。
さあ、使徒さま。
こんな小さな卵ですが、どうかお召し上がりくださいな♪」
「た、食べてもいいのかい?」
「ええええ、どうか食べてやってくださいな。
間違いなく無精卵ですから。
無精卵だよね?」
「おかあさん! なに言ってるの!
無精卵に決まってるでしょ!」
「な、なあ。
キミタチは、生んだ卵が有精卵か無精卵かわかるのかい?」
「そりゃあ父ちゃんがアタシの上に乗ったら、翌朝かその翌朝に生んだ卵は有精卵になりますからね」
「おかあさん! 使徒さまになにを言ってるのよ!」
母親は娘をやさしく振り返った。
「お前もいつか、上に乗ってくれる優しい男の子が見つかるといいねえ」
「もーっ!」
「でもいいかい。
まだお前の卵は小さいからね。
もっとお母さんみたいに大きな卵を生めるようになってから、素敵な男の子に上に乗ってもらうんだよ。
そうしないと、生まれて来た子が小さくって可哀想だからね」
「う、うん……」
あー、娘さん、真っ赤になっちゃった……
「それにしても使徒さま。
この街に住まわせて頂けるようになって、いつでも好きなだけ食べ物を食べさせて頂けるようになって……
それで、わたしらも、毎日卵を生めるようになったんですよ。
前みたいに森の奥で暮らしていたときには、せいぜい10日に1個ぐらいだったのに」
「そうか…… それは良かったなあ……」
「それで、このままいったら、あたしらすっごく数が増えちまうんだけど……
かまいませんかね?」
「ぜひどんどん増えてくれ。
鶏人族は、まだ5000人ぐらいしかいないんだから、せめてそれが20万人ぐらいになって欲しいんだ。
最終的には出来れば200万人ぐらいになって欲しいと思っているぐらいだよ」
「そんなに……
それじゃあ娘に頑張ってもらおうかねぇ。
あたしゃ10人以上の孫に囲まれて寝るのが夢だったんだ」
「ぜひその夢を叶えてくれ。
そうそう、たくさん卵を生むためにも、カルシウムはいっぱい摂ってくれな」
「かるしうむ?」
「牛乳や小魚にいっぱい含まれている栄養なんだ」
「そんな…… 牛乳だの魚だのって、そんな貴重なもの……」
「いや、遠慮しないでどんどん食べて欲しいんだ。
その代わりと言ってはなんなんだけど、街のみんなにも、もっと卵を食べさせてやりたいんだ。
だから無精卵をもらうことって出来るかな」
「もちろんですよ。
父ちゃんだってそうそう毎晩あたしの上に乗るわけじゃあないからねえ。
それじゃあみんなにも言っておきますよ。
たくさん食べてたくさん卵を生んでくれって使徒さまが仰ってた、って」
こうして鶏人族から、毎日けっこうな数の卵がもたらされるようになったんだ。
まあ彼らは『献上』とか『お供え』って言ってたけど……
あの初卵については、中身を『転移』で取り出して、玉子スープにしてみんなで頂いたよ。
離乳食としてベルシュラちゃんにも食べさせたんだけど、美味しそうに食べてたぞ。
それから俺は、卵の中を『クリーン』で綺麗にして、中に少しマナ建材を転移させて内側に塗りつけて補強したんだ。
「なあ土の大精霊、『棟梁』の中で誰か細かい細工ものに興味を持ってるやつっているかな?」
「地球に連れてって頂いた土の精霊のうち、美術館巡りをして工芸品に目覚めた者がいますだ。
趣味で宝石箱とか作るようになってるだ」
俺はその『棟梁』を呼び出してもらっていろいろと相談をしたんだ。
それから、工房やら道具やら材料も準備してやったんだよ。
どうやら地球旅行のときに、美術館のショップでたくさん資料も買ってもらってたみたいだけど、もう一度地球に行かせてさらにたくさんの資料やら材料も買わせたんだ。
マナ建材でいくつか卵の形を作って練習もしてもらった。
それで、出来上がった品が、或る日ガイアTVで紹介されたんだ。
そう……
それは、あのロマノフ家のイースターエッグそっくりの素晴らしい品だったんだ。
「みなさん、今日は土の精霊さんが造った宝飾品をご紹介させて頂きますね♪
先日、鶏人族の少女が初めて生んだ『初卵』をサトルさまに食べて頂けるよう献上したんです。
サトルさまやシスティフィーナさまも、それを美味しく頂いたそうなんですけど……
その卵の殻に、土の精霊さんが色を塗って、金や銀や宝石で飾り付けをしてくれたんです。
それがこちらです。
サトルさまの前世の世界では、『イースターエッグ』って言って、有名な宝飾品なんだそうです」
画面にその作品が大写しにされた。
その小さな卵は綺麗に薄くピンク色に塗られ、金のエッグスタンドの上に乗せられている。
そうしてその周囲は、とんでもなく精緻なモールディングが施された金の網で覆われていたんだ。
もちろんエッグスタンドも、銀やら宝石やらで飾られている。
そうして、その卵の上には、小さなダイヤモンドが嵌った金の王冠が乗っていたんだ。
うん、あのファベルジェの作品と見紛うばかりの素晴らしい作品だよ。
そのイースターエッグはこれも美しいガラスのケースに入れられて、翌日から『9時街』の中央棟2階で一般公開されたんだ。
もちろん見学者が押し寄せてきたよ。
あの鶏人族の女の子も、涙ぽろぽろ零しながら見てたし。
それでまあ当然のことながら、卵で子を生む種族、蛇人族やらリザードマンたちからも、少女たちの初卵が続々と献上されて来るようになったんだ。
それで中央棟2階には、『初卵献上受付窓口』を作ったんだよ。
そこにはマナ建材製の卵がたくさん置いてあって、土の精霊が用意した色見本と宝飾見本とエッグスタンドの見本も置いてあるんだ。
それを少女とその両親が楽しそうに選んでるんだわ。
そこで住所と名前を書いてもらって卵を預かり、一旦はシスティの『時間停止倉庫』の中に入れたあと、アダムが中身を抜き取って内部をマナ建材で補強する。
装飾自体は見本をコピペして卵に張り付けるだけだから簡単だ。
そうして注文通りに装飾した卵は、毎週日曜日の中央神殿でのシスティ降臨の後、別室で少女たちにシスティが手渡してあげるんだよ。
「これからもたくさん卵を生んで、たくさん子供たちを孵してあげてくださいね♪」とか言いながら……
それで女の子たちは、ほとんど全員感激して泣いちゃってるんだけどな。