*** 146 『えへ♡ ついて来ちゃった……』 ***
俺たちはソファに落ち着いた。
なんだかとんでもなく香り高いお茶が出て来たようだったが、俺と最高神さまだけは地球産のコーヒーだったよ。
ゼウサーナさまが俺たちに微笑みかけた。
「ところでサトルよ。
残念ながら『銀聖勲章』もほとんど重複受賞の例が無いのだ。
よって勲章に付随する加護もスキルも同一のものしか用意出来んのだが、まあこれも了承してくれ」
「は、はい。もちろんです」
「もちろん装着者のあらゆるレベルを100倍にする効果は有効だぞ。
はは、これでそなたのレベルも1億超えになるの」
「えっ!」
(ま、マジかよ……)
「そうそう、それから『金聖勲章』の副賞についても問題があっての。
この勲章はそもそも100万年以上に渡って銀河宇宙に貢献した上級神が、引退するときに授かるものなのだ。
故に年金や神殿や邸などが副賞となっていたのだが……
そなたには今さらそんなものは必要あるまい。
そこでそなたの希望を聞いてみることにしたのだ。
神界が叶えられる望みならばなんでもよい。
なんなりと言ってみるがいい」
「そ、それでは畏れながら……」
「うむ、そなたがどのような望みを言うか、わたしも最高神さまも楽しみにしておるのだ」
「そ、それではわたくしに『創造用神力』と創造用ポイントを授けて頂けませんでしょうか……」
あ、マズかったかな?
なんか沈黙が広がってるぞ……
「そなたはあれだけの種類の知的生命体がいる世界で、さらに知的生命種族を増やそうというのか?」
「い、いえ、実は最近、システィが大いに功績のあったフェンリル族の娘を、残っていた創造用ポイント使ってヒト型の『ワ―フェンリル』になれるようにしてあげたんです。
それでその娘は大泣きしながら喜んでたものですから……
ご存じのようにガイアの知的生命体の中にはドラゴン族やベヒーモス族がいます。
彼らは体が大きすぎて他の種族とはなかなか一緒に暮らせません。
万が一転びでもして小さい種族を傷つけたりしたらたいへんですから。
それで、もしわたしが『創造用ポイント』を使って、彼らをヒト族並みの大きさのドラゴニュートやベヒモニュートに変身できるようにしてやれたら……
彼らもとっても喜んでくれるんじゃないかと思ったものですから……」
ゼウサーナさまが微笑みながら最高神さまを振り返った。
最高神さまも実に嬉しそうに頷いている。
「サトルくん。
ボクね、ローゼマリーナさんの『ガイア観察日記』に出て来るあの街の幼稚園や小学校の映像が大好きなんだよ。
あの20もの種族の子供たちが入り乱れて仲良く遊んでいる姿が。
あそこにドラゴン族やベヒーモス族の子たちも加われるんだね……
それは実に素晴らしいことだ」
「あ、ありがとうございます……」
「そうそう、ローゼマリーナさんに、あの幼稚園の映像をもっと添付してくれないかって頼んでおいてくれないかな……」
「か、畏まりました……」
俺たちはガイアに帰って来た。
ふう、さすがにちょっと疲れたかな。
もう一杯コーヒーでも飲んで、それからひとっ風呂浴びるか……
それで俺は風呂に入る前に、いつもの通りみんなを誘ったんだけどさ。
なんかシスティもローゼさまもエルダさまも風呂の前で固まってるんだよ。
どうしたんだ?
「あ、あの…… サトル……
今日はサトルだけでお風呂に入って行ってくれない?」
「ん? まあいいけど……」
それで俺、1人で風呂に入って行ったんだけどさ。
なんか浴槽の中に1人座っているんだよ。
短めの髪の毛の子の華奢な子が……
その子はゆっくりと俺を振り返って、浴槽の中で膝立ちになった。
「えへ♡ ついて来ちゃった……」
誰だこの子……
あ、胸が膨らんでる……
地球で言えば中学生から高校生ぐらいにかけての女の子だな……
「あ、ひどいひどい! ボクが誰だかわかんないの!」
げえぇぇぇっ! そ、そそそ、その声はっ!
「ま、ままま、まさか最高神さまぁっ!」
「ぷー、なんですぐに気づいてくれないかなあ」
「そ、そそそ、それは、よ、よよよ、よもや……」
「あーっ! サトルくん、ボクのこと男の子だと思ってたでしょ!」
「げげげげげげげげげげ……」
「うふっ♡ でも半分は正解かな。ほら……」
う、うおおおおおおおおおおっ!
た、立ち上がった最高神さまの股間に、見慣れない、い、いや見慣れたモノが……
「ボクは最高神だから、もともと両性体なんだ。
でも今はサトルくんのために女の子になるね♡」
そう言った最高神さまの股間の物体は、みるみる消えて行った。
誘われるままに湯船に入った俺に、最高神さま(♀バージョン)が抱きついて来た。
「さ、さささ、最高神さま……
こ、このような地に来られてよろしいのですか?」
「ふふ、今頃ゼウサーナくんが、また額に青筋立ててボクを探し回っているんだろうけど……
でもボクの中の女の子の気持ちが、どうしてもサトルくんと一緒にお風呂に入りたいって言ったんだよ。
だ か ら ね ♡
今はボクをひとりの女の子として見てくれないかな」
「は、はい……」
「そうだ! おっぱいはもっと大きい方がいい?」
「い、いえ、そのままで十分です……」
そしたらさ、最高神さまが俺の背中に手を回して俺に胸を押しつけて来たんだよ。
それでちょっと顔を赤くしながら俺の耳元で言ったんだ。
「そ、それでね……
こ、今度、ボ、ボクにも『初めての子作りの練習』をしてくれないかな……」って……
俺もう体中あちこち硬直してタイヘンだったわ……
そのとき地の底から湧き出るような「最 高 神 さ ま ぁ」っていう低い声が聞こえて来たんだ。
「あっ! ゼウサーナくんだ!
もう見つかっちゃったのかあ……
それじゃあサトルくん、またね♡
今度はお風呂じゃなくってベッドの上で会ってね♡」
最高神さまはそう言うと、その場から消え失せたよ……
その1秒後には、扉の外で様子を伺っていたらしい女性陣が、まっぱのままなだれ込んで来た。
「ほんにもう……
ますますライバルが増えてしもうたわ……」
「それも超絶最強のライバルですわねえ……」
エルダさまとローザさまは、そう言いながら俺に抱きついて来た……
システィは微笑みながら、フェミーナはちょっとぷんすかしながら俺の体を洗ってくれたよ……
『8時街』の学校の開校まであと3週間になった。
文具やノート、それをしまうカバンなどは学校で配布する予定になっていたために、生徒の側で準備することは無かったが、受け入れる側では大急ぎでの準備が続いていた。
まずはガイアテレビでの学校の紹介番組だ。
保育園、幼稚園、小学校は既に授業を開始していたため、中学生と大人用の学校の紹介が主になっている。
小学校高学年の授業風景を紹介したり、低学年の体育の様子を紹介したりの番組が続いていた。
だが…… そのうちに『クラブ活動』の様子が紹介され始めると、ガイアテレビを放送するスクリーンの魔道具の前の聴衆の姿が激増し始めたんだよ。
まずは『手芸部』の紹介だった。
画面には、各25センチから10センチほどのぬいぐるみが22種類ほど並んでいる。
それはあのフェンリルたちのぬいぐるみを作った地球のぬいぐるみ作家の作品だった。
作家に各種族の写真を大量に渡して作らせた各種族の家族のものだ。
それらは可愛らしくデフォルメされ、各種族の男女と子供2人が並んで微笑んでいた。
画面では悪魔族の女の子が笑顔で説明している。
「わたしたち手芸部では、半年ほどかけてこれらのぬいぐるみをひとりひとつずつ作るのが活動の目的です。
慣れてくれば1カ月ほどで作れるようになるでしょう」
翌日、それらのぬいぐるみはショーケースに入れられて、各街の中央棟の外周廊下に飾られた。
そうしてそこにはもう、かぶりつきで喰い入るようにぬいぐるみを眺める子供たちの姿が見られるようになったんだ。
それは子供たちだけでなく、各種族のご婦人方をも魅了した。
「孫に作ってやりたい」
「子供に頼まれた」
「わたしもあんな可愛いお人形が欲しい」
そうした理由から、『手芸部』は開校初日からたいへんな賑わいを見せることになるんだ。
また、『洋裁部』の活動も紹介された。
その番組では、各種族男女計44人の子供たちが、色とりどりの可愛らしい服を着てポーズを取っていたんだよ。
また悪魔っ子が部活の紹介をしていた。
「わたしたち『洋裁部』では、こうした子供服を自分たちで作ることを目標にしています」
その洋服も翌日からショーケースに入れられて飾られた。
特にしっぽのある種族のしっぽに飾られたリボンと、しっぽの無い種族の頭に飾られたリボンは、これも多くのご婦人方を魅了した。
もちろんそれらのリボンは服の色やデザインに合わせたものだ。
次の紹介は『合唱部』だった。
悪魔界の学校で合唱部に属していた子たちが、見事な歌声を披露する。
そうそう、この大平原の種族たちって、歌を歌うことがほとんど無かったんだ。
たまに種族や部族の祭りのときに、詠唱みたいなことしてるだけで。
それが、こんなふうに楽しみのために歌を歌うっていう行為は、相当に新鮮に感じられたらしいな。
歌詞の内容も楽しそうなものが多かったし。
はは、そのうちみんな地球のアニソンとか歌うようになるのかな……
それに街にカラオケルームとか出来たりして……
それから楽器を演奏する『ブラスバンド部』の紹介もあった。
これはみんな初めて見るんで、驚きのあまり目がまん丸だったよ。
まああんなふうに演奏するには相当に練習が必要だろうけどさ。
それでもいつか、『ガイア管弦楽団』とか出来るといいね。
運動部の紹介は、まずは『卓球部』だった。
最初は悪魔っ子たちがゆっくりとプレーして見せたんだけど……
画面を見ていた猫人族や犬人族の子供たちがたいへんだったんだよ。
画面で白いボールが動く度に、スクリーンに飛びかかって行くんだわ。
すっごい跳躍力でぴょーんぴょーんって……
な、なんか違うスポーツになっちゃうかも……
それから『サッカー部』の紹介もあった。
まずは簡単なルールの説明の後、地球の少年サッカー大会の試合の録画を見せたんだ。
これもみんな目を丸くして見ていたわ。
ボールがころころ転がると、狼人族や犬人族の子たちがはぁはぁ言ってたけど……
あ、サッカーボール口に咥えて走るのって、ルール違反じゃないのかな?
な、なんかこれも違うスポーツが出来ちゃいそうだよなあ……
ということでさ。
要はみんな、今まで『娯楽』や『楽しみ』のために何かする、っていう経験が無かったんだよ。
生きて行くのに精いっぱいだったから。
それでもあんなに高いE階梯を持っているんだから大したもんだわ。
これからみんなが『楽しみ』を覚えて、さらにどこまでE階梯を駈け上がって行ってくれるか大いに期待しよう……




