*** 14 『なろう』に夢中になった精霊たちと悪魔…… ***
翌日俺はシスティに聞いてみた。
「なあ、あのレベルアップのときなんかに、チャイムで知らせてくれてるやつなんだけど…… あれも管理システムの『アダム』なのか?」
「ええ、アダムさんのサブシステムだけど…… それがどうかしたの?」
「この世界の管理システムって、アダムだけなのかな?」
「イブっていうバックアップシステムがあるけど、今は休眠停止中ね」
「な、なあ。そのイブも起こしてやって、アダムと一緒に働いてもらったらどうかな?」
「別にいいけどどうして?」
「い、いや、アダムがひとりっきりだと可哀想だって思って……」
「うふふ、サトルって本当に優しいのね♡
じゃあ、イブさんも起こしておくわ……」
数時間後。
(サトルさま……)
「おお、アダムか。どうした?」
(イブと共にサトルさまに御礼を申し上げたいと思いまして……)
「はは。別にいいのに。どうだ、2人で仲良くやってるか?」
((おかげさまで、きゃっきゃうふふでございます……) )
「…………」
((わたくしたちの忠誠心の半分はサトルさまのものでございます。
どうかこれからも、なんなりとご用命下さいませ……) )
(こ、こいつらが夫婦喧嘩とかしたら、この世界が崩壊したりしないよな……)
今日は半数の精霊たちを招いての『ケーキ会』の日だ。
50人ずつの、水、火、土、植物、風、そして光の精霊たちが集まっている。
みんなの目はテーブルの上のケーキの山にクギ付けだ。
「精霊のみなさん。
日ごろはわたくしの為、この世界のために働いてくださって、本当にありがとうございます。
今日はささやかなお礼として、『ケーキ会』を開催させていただきますね。
このケーキはわたくしの『使徒』であるサトルが稼いだおカネで買ったものです。
これからは、わたくし同様、サトルのこともよろしくお願いいたします。
それではみなさん、どうぞ召し上がれ」
「「「「「「「「「「「「「「 わぁ~い♪ 」」」」」」」」」」」」」」
システィの挨拶が終わると、25センチほどの精霊たち300人がケーキに飛びついていった。
ときおり、「これおいしいね~♪」とか、「食べ物ってすごいね~♪」とか声が聞こえるが、大半ははぐはぐ夢中で食べている。
「み、みんな! これは私が使徒を特訓してあげた報酬でもあるんだからねっ!
だからわたしに感謝しながら食べるのよっ!」
うん。約1名喚いている声が聞こえるが……
誰も聞いていないようなので、無かったことにしよう……
あはは、精霊たちがみんなお腹ぽんぽこりんになって来てるよ。
あ、やっぱり水精霊は全体に膨らんでデブ水精霊になってる!
なんだかみんな『水球(中)』みたいだぞ……
ああ…… 健康で、仲間たちがいて、みんなに感謝して感謝されて。
しかも隣にはシスティまでいるんだものな……
生きているって素晴らしいよ……
俺のトレーニングはますます過激になった。
もう1日に何回気絶していることだろうか。
5回や10回じゃあきかないよ。
ベギラルムには『身体強化(小)』の魔法も教わった。
やつに拳を打ち込んだりキックを入れたりした時の音も、けっこう大きくなって来ている。
それでもまだ、ヤツは微動だにしないけどな。
それから……
就寝前のシスティとの語らいの時間も少し長くなって来た。
あんまり早く魔法ぶっ放して気絶すると、システィが寂しがるからだ。
それに……
システィが俺にもたれて来て、俺を見上げて目を瞑ってくれたりするんだよ。
その後のキスの時間もどんどん長くなって来ているように思う。
このあいだなんか、俺の膝の上に乗って抱きついて来たりしてくれたもんなあ。
ああ…… こんなに幸せでいいんだろうか……
こんな幸せな時間を長く続けられるように、俺は次のステップに進もうと思う。
俺はPCを6台用意して、大精霊たちとベギラルムを呼んだ。
「このPC、お前たちにあげるから、是非『○説家になろう』というサイトでラノベを読んでもらいたいんだ。
特に魔法の話をいくつかブクマしておいたから、それを中心にな。
このうちのいくつかは、地球のエルダリーナさまの使徒が書いたものだそうだし。
それで、これらの話の中には魔法がたくさん出てくるからさ。
その中でお前たちが出来そうなのがあったら、魔法式にして俺に教えて欲しいんだ。
『なろう』以外にも興味があったら、エルダリーナさまの世界のことをいろいろ勉強しても面白いかもしれんぞ」
精霊たちと悪魔はすぐに『なろう』に夢中になった。
「水魔法でモノが切断出来るなんて……
そうか、水に細かい砂を混ぜれば威力が上がるのね……」
「ふおおおお! こ、この火魔法しゅごい!
大地が溶岩になるなんて!」
「こっ、この風魔法と火魔法の合体ワザ、『火災旋風』って言うんか……
これ、アタシとサラマンダーが協力すれば出来るな……」
「土魔法を使って大きな落とし穴も作れるんだすか……
これなら1,000人の軍勢でも一撃で撃破出来るだすなあ」
「ふっふっふっふ…… やっぱり光魔法は最強ね……
レーザーで街ごと焼き払って更地に出来るなんて」
「ほお! この重力魔法は興味深い……
敵をまとめて押しつぶせるのか。
それに反重力魔法にして風魔法と併用すれば空も自由自在に飛べるのか……
今までの風による浮遊魔法よりは機動力が上がりそうだわい。
これは突撃が楽になるのう」
あの……
なんかみなさん…… 攻撃系の魔法にばっかり興味が行ってませんか?
ベギラルムさん以外は、可愛らしい見た目とのギャップが激しいんですけど……
なんかみんな黒くなって来てるし……
水の大精霊の水が青から黒っぽくなってるし……
光の大精霊なんか、黒い光放っちゃってるし……
その後はみんな、ちょくちょく下界に行って、配下の精霊たちとかと新しい魔法を試し始めたみたいだ。
俺もそのうちのいくつかは教えてもらったんだけどさ。
でも、あんまり自然破壊とかしないようにね……
ただ、ありがたいことに、そのうちに土の大精霊くんが、土木工事や建築なんかに興味を持ち始めてくれたんだ。
ネットでヨーロッパとか日本の城の写真なんかもよく見てるし。
だから俺はみんなに言ったんだ。
「参考書が欲しくなったらネットで好きなだけ買ってもいいぞ。
それで自分たちが出来そうなことをどんどん広げて行ってくれ」って……
水の大精霊は、水に薬草や効能のある果実の汁なんかを溶け込ませた薬に興味を持ったようだ。
どうやら最終的にはポーションを作りたいらしい。
ラノベ世界ではありふれていても、この世界には無いものだからな。
特に水にマナを溶け込ませて濃縮させた、『マナ・ポーション』の作成を目指してるようだ。
そうすれば、実戦で俺のマナが枯渇しそうになってもすぐに補給出来るからだそうだ。
ウンディーネは優しいなあ。
俺は彼女に言って、酒の醸造の研究にも手を広げてもらった。
酒は最高の娯楽のひとつだろうし、他にもいろんな使い道があるしな。
火の大精霊は、金属の精錬や磁器の作陶に興味を持ったようだ。
あの製鉄所の溶けた鉄の写真や、高温の窯の中の写真は強烈なインパクトがあるからなあ。
「そうか、炉さえしっかり作って空気をたくさん入れれば高温になりゅんだ……」とか言ってたよ。
また、高温で焼く磁器もこの世界には無いものだからな。
あってもせいぜい粘土を焼いた土器みたいな陶器だし。
土の大精霊は、いつもヨーロッパの古城や日本の城郭建築の写真を見て、目をキラキラさせてた。
「土魔法で石を変形させられたら、たくさんのものが出来そう」って嬉しそうだったよ。
ロダン作品集とか、石の彫刻の美術書も買い込んでたな。
どうやら芸術にも目覚め始めたみたいだ。
ノームくん配下の植物の精霊のリーダーは、地球の農業と肥料に興味を持った。
マナを使えない者でも、高収穫率の農産物が作れるっていう点が面白いらしい。
「この世界の物資で肥料を作るには」って頑張ってたよ。
まあ、リン鉱石はあるみたいだし、窒素は空気中にあるし、木灰からアルカリ性物質だって作れるからな。
どうしても足りない微量元素とかあったら俺が買ってやろう。
風の大精霊は、電化製品や風力発電が気に入ったみたいだ。
カミナリは上昇気流が作り出すものだから、電気は彼女の領分だし。
その電力を、風を使った別の方法で作ったり、使ったり出来ることに感動したらしい。
風力発電の模型を買ってやったら大喜びしてたよ。
風が吹いて豆電球が光るともう大騒ぎだったわ。
「アタシにも光魔法が使えた!」とか言って……
風が吹いてなくても自分で風を起こせるから便利だよなあ。
風起こし過ぎてスカートが盛大にめくれてたけど。
やっぱりキミもかぼちゃパンツだったんだね。
意外なことに、光の大精霊は医学にハマった。
光の治癒魔法で体は治せても、どういうふうに治るのかは知らなかったようだ。
たくさんの医学書を買い込んでいたよ。
「『怪我治癒魔法』に『内臓疾患治療魔法』に『消毒魔法』か……」とか呟いてたし。
どうやら治癒魔法では治せない疾患もあったようで、それが口惜しかったようだ。
ついでに再生医療にも興味を持ったようで、「これさえ理解できれば失った手足も再生できるかも」って張り切ってたぞ。
生化学反応とかは理解できなくても、どういう現象が起きるのか、って言うことを理解するだけで充分再現できるらしい。
まあこいつも、日ごろの言動はともかく根は優しいいいヤツなんだな。
ベギラルムは…… 軍事技術を含む各種工業技術にハマった。
だから俺は、ヤツに移動手段と非致死性制圧兵器の研究開発をお願いしたんだ。
「自動車は、ガソリンの代わりにマナを燃焼させて走らせられんものかな……」っていうアイデアには感心したわ。
気体にも液体にも出来て、爆発させることも出来るマナなら本当に出来るかもしれん。完全無公害だし。
もしエンジンを改造出来るようだったら、指揮車として前世から軍用車両でも買うか、
それともバスでも買って、俺たちの国の中でバス路線とか作るか……
それから、非致死性制圧兵器については、「このスタングレネードという兵器は、風魔法と光魔法の併用で作れるのではないか?」とか、「この『放水銃』は興味深いな。戦車に水の精霊たちを乗せたら対人制圧戦無敵かもしらん」とか言ってたわ。
みんな熱心に勉強してくれて嬉しいよ。
俺は追加で各種の『モノ作り辞典』も100冊ほど大量買いした。
「酒の作り方辞典」とか「農機具の作り方辞典」とか「自転車の作り方辞典」とかだ。
今は興味が無くても、手にとって読んでるうちに興味が湧くかもしれないしな。
ん? ネットでの書籍の購入費は総額500万円を超えたけどさ。
そんなもん、5,000万円でも惜しくないぞ。
なんせ、イメージさえ出来ればいくらでも魔法を作れる大精霊たちと悪魔だからなあ。
それが俺たちの国造りに役に立つなら最高だろ?