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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
132/325

*** 132 私どもはこれほど神に相応しい人物はいないと考えております…… ***

 


 神界報道部が作ったドキュメンタリー映画、『爆撒英雄サトルの軌跡。1人のヒト族が神になるまで』の冒頭は、病院で若い夫婦が赤ん坊を抱いて微笑んでいるシーンだった。


 あ、これ、父さんと母さんの若い頃だ…… 

 そうか、エルダさまからの資料提供だな。

 それにしてもこの俳優さん、『変化』を使ったんだろうか。

 本当に父さん母さんにそっくりだよ……


 それからしばらくは親子3人の幸せな生活が紹介されていったんだ。

 ときおりナレーションが入って、地球のヒト族の生活なんかが解説されてるわ。

 パーティー会場では、「可愛い~♪」とか「サトルさまの面影が~♪」とかの声も聞こえていた。



 だが、小学校に入学してすぐの発病。

 入退院を繰り返す生活。

 そういえば母さんが小学校に行って授業風景を見学させてもらって、家や病院で俺に授業をしてくれてたわ。

 俺も必死で勉強してたなぁ……


 でも幸いなことに、この頃俺みたいな『就学困難児童』のために、Web上に『ネット小学校』や『ネット中学校』が出来たんだ。

 体調がいいときにはいつもこれ見てたよ。他にやることも無かったしな。

 ついでに漢字に興味を持って、漢字検定の教本まで買ってもらったんだ。

 おかげで俺、9歳のときに『漢字検定2級』の過去問で満点取ったんだぜ。

 10歳のときには小学校卒業検定でも満点取って、12歳のときには中学校卒業検定でも悠々合格点だったんだ。


 それからは高校生用の教科書や参考書を買ってもらって、高校の勉強もしてたんだよ。

 特に理科系が好きだったなあ。物理とか地学とか化学とか。

 ああそうか、あの砂漠の砂を処分してもらわずに資源を抽出しようとしたのは、この頃の知識のおかげだな。

 地殻を形成する岩石の中にも岩石1トン当たり0.003グラムの割合で金が含まれているって、この頃得た情報だったか。

 はは、あんなところでの勉強が役に立っていたんだ。



 それから俺の病状はどんどん悪化して行き、とうとう俺の臨終場面になった。

 そうして俺がアップで写り、微かに微笑みながら最後の言葉を言ったんだ。

『お父さん、お母さん、僕を生んでくれてありがとう…… 僕、お父さんとお母さんの子でよかったよ……』って……


 はは、パーティー会場のほとんど全員が大泣きしてるじゃないか。

 一際大きな声で号泣してるのは…… ああそうか、ベギラルムか。



 それから画面ではガイアの惨状についての解説ナレーションが入る。

 続いてエルダさまがシスティに俺を召喚するのを勧めるシーンになった。

「このサトルと言う男は、健康にさえしてやれば実に優秀な使徒になるだろう」と言われ、システィがなけなしの管理用ポイントをはたいて俺の召喚を決意した場面だ。


 はは、それなのに俺、システィのヘンな演出を見て最初は使徒になるのを断っちゃったんだもんなあ。システィが泣き出すのも無理無いよ。



 それから俺が、システィの涙を見、本音を聞いてシスティの使徒として努力すると言うまでの心理描写は、けっこう見事だったかな。

 それから地球のヒト族の少年が持つ性欲リビドーの解説が入って、最終的に俺が努力を決意したのはシスティが一緒にお風呂に入ってくれたからって言われたのは余計だったけど。

 あれ? 実際はそうだったのかな?



 それから画面の映像がフェードアウトして、ガイアに転生したばかりの頃の俺の姿になった。

 黒いバックに光を浴びて浮かび上がる、俺の上半身裸の映像だ。

 でもまあ病死の直後だからなあ。

 アバラは浮き出てて、背も低くって、見るからに貧弱な体だわ。



 それから大精霊たちと出会って、彼らに魔法を教わるシーンになった。

 最初、俺が水球(小)を2発出しただけで気絶した場面では、みんなから驚きの声が上がってたよ。


 最初の頃のトレーニング風景も紹介されたけど、走るのも遅ければベンチプレスも30キロ上げるのが精一杯だったもんなあ。

 ただ、魔力の使い過ぎで毎日20回ぐらい気絶して、服がボロボロになるまで攻撃を受ける訓練をして、拳から血を流しながら微動だにしないベギラルムの腹を殴り続けて……

 そうして徐々にレベルを上げて行く様子が克明に描かれていたんだ。



 そうして遂にあの『システム・バグ』が発見された。

 そう、遥かに格上の相手から一撃で死ぬほどの攻撃を受けると、死んだ瞬間にHPと総合Lvが格段に上昇するというあのバグだ。



 それからの俺の訓練は相当に凄惨なものになって行った。

 日に20回爆撒死してマナ枯渇で50回近く気絶するっていう、いつもの壮絶な訓練風景が詳細に紹介されていたよ。


 はは、フェンリーが微かに唸り声を出してるわ。しっぽ膨らんでるし。

 ゴブリン・キングとオーク・キングは顔面蒼白になってるぞ。

 あ、オーガ・キングが拳を握りしめて号泣しとる……


 そうか、みんな俺の訓練シーンを見るのは初めてだったか。

 ん? なんかカチカチ音がする……


 あー、ベヒーモスの族長が震えてるわ。

 それで歯の根が合わなくなってカチカチいってるんか。

 あ、ミノタウロスとトロールたちが全員跪いて泣いとる……



 うーん……

 いつも思うんだけど、みんな『死ぬ』とか『気絶する』ことを大げさに考え過ぎなんだよ。

 実際に死んだり気絶してみればわかるけど、あれってそんなに苦しくも辛くもないんだぜ。

 でもまあ、実際にしたこと無いならわからんか……




 画面はその当時の俺の姿になった。

 みるみる背が伸びて、体にも筋肉がついてきたのがよくわかる。

 あ、顔つきもけっこう変わって来てたんだな。

 少年の顔が青年の顔に変わりつつあるわ。



 そうした努力を続けて1年と3カ月。

 とうとう俺の総合Lvが100に到達した。

 これはヒト族の今までの記録を遥かに上回る新記録だというナレーションも入る。


 それから俺が初めてガイアの地表に降り、ひと目でこの世界の事故に気づいて確認調査も始めたこととかが、けっこう誇張されて解説されていた。

 うーん、これって誰でも気づけることだと思うんだけどなあ。

 まあ、総括担当の初級神の隠蔽工作にまで気づいたのは、我ながらあっぱれだとは思うけど。



 それから、それをエルダさまが神界最高監査部に上申してくれたこと。

 さらにローゼさまが調査に来て、その結果がゼウサーナさまの前で報告されたことも紹介されていた。

 おいおい、あんな会議の様子を公開しちゃっていいのかよ。

 まあ神界が不祥事に対する陳謝の意を込めて公開したのかな。



 こうして俺が事故とその隠蔽という不祥事を発見し、エルダさまの力を借りて神界に知らしめるところとなった功績で、『神界銀聖勲章』を授与されたことが紹介されたんだ。

 同時に俺があそこまで凄惨な訓練でレベル上げをしていたのは、誰も殺さずにガイアのヒト族を制圧して平和な国を作るためだということも明らかになった。

 ついでに初級天使への2階級昇進を仲間のために断ったことも。

 はは、昇格推薦を断ったときに、俺が大泣きしている精霊たちに抱きつかれて『精霊団子』になってるシーンまであるじゃないか。


 それでどうやらみんな、なんで俺があれほどまでに精霊たちと仲がいいのか理解したみたいだわ。

 みんなうんうん頷いてたし。



 それから悪魔族の子たちとの出会い。

 大城壁の建設開始。フェンリル族との出会いなどが紹介されていった。

 はは、フェンリル達が自分たちが登場したのを見て歓声を上げてるわ。


 さらには、大平原の種族を全て守るための『街』の建設魔法マクロの開発。

 ベヒーモスやミノタウロスやトロールたちやドラゴンたちとの出会い。

 あはは、巨獣や巨人たちの大歓声がすげぇわ。

 そして岩山のゴブリン・キングとの出会いとゴブリン族の移住開始。

 今度はゴブリン族が歓声を上げてるよ。

 他の種族たちの移住も始まって、徐々に『9時街』が賑やかになっていく様子も克明に描かれている。

 うん、まさにドキュメンタリー映画だよな。



 それから洞窟ドワーフたちや東の各種族たちとの出会いも紹介された。

 はは、みんな自分たちの姿が映る度に大歓声だよ。


 そうして洞窟ドワーフの支配層の解体、ドワスター・ドワーフとの出会いの後は、いよいよ対ヒト族戦争の開始だ。

 このシーンはまだ大幹部たちしか見たこと無いからな。

 なんかみんな、すっげぇ興奮して手に汗して大声上げながら見てたぞ。


 そうして、先鋒軍の男爵や直営隊が侯爵邸庭園に強制転移させられたシーンでは、超絶大爆笑が湧き起こった。

 もう3人のキングたちからばんばん背中叩かれて痛かったぜ。

 フェンリーに叩かれたときには危うく壁まで飛んでくところだったけど……

 でもウケたんで嬉しかったけどな。



 それから、ギャランダ軍3万8000とビクトワール軍5万の捕獲。

 続けて『ビクトワール大王国新聞』の紹介と、この挑発による大連合軍18万の捕獲成功も紹介されていた。


 ナレーションは、「こうしてサトルは総計27万近い敵軍を、敵味方ともに死傷者ゼロで捕虜にすることに成功したのです。

『不殺の誓い』を守ったこの大戦果は、おそらく銀河の紛争の歴史の中でも空前にして絶後のものでありましょう」とか言ってたわ。

 ちょっと褒めすぎじゃないのか?



 画面はまた俺の姿に変わった。

 ああ、これ今とあんまり変わらない姿だわ。

 身長185センチ、体重95キロ。

 おお、こうして見ると均整の取れたいいカラダしとるわ俺。

 筋肉量もかなりのもんだし。

 顔もまたけっこう変わったかな。もうすっかり青年の顔か……



 そうしていよいよニューウールでの『10億人都市群建設』のシーンが始まった。

 これもここにいる連中はほとんど中身を知らないからな。

 俺の見た目が変化していくごとに、みんな大泣きして絶叫してたよ。

 はは、泣いたり笑ったり忙しいこった。



 映画の最後はナレーションだった。

 バックには『9時街』の屋台街の賑わう様子が流れている。


「こうしてサトルは、10億の避難民を救い、銀河25京人の心を一つにしました。

 神界の調査によれば、サトルのこの偉業によって、銀河の知的生命体の平均E階梯が一気に0.55ポイントも上昇したほどであります。

 また、サトルが得た18ケタもの幸福ハピネスポイントは前人未到の大記録であり、2位を6ケタも引き離しているのです。

 この数字は、幸福ハピネスポイント保有者上位1000名の合計をも遥かに上回ります。

 この記録を破れる者がいるとしたら、それはサトル本人以外には有り得ないかもしれません。


 この大偉業を讃えられ、サトルは初級神に昇格することが内定しました。

 でもみなさん、これは確かに『5階級特進』に見えますが、実際にはサトルは『神界銀聖勲章』を授与された際に、2階級特進を辞退していたのです。

 ですから実質的には3階級の特進だったことになるのですね。



 こうしてサトルは、わずか1年と9カ月で一介のヒト族から神までの道を駈け上りました。

 人はよく彼のことを『大天才』とか『超怪物』と言います。

 ですが彼のことをよく知れば知るほど、それは違うのではないかと思われるのです。


 確かに彼はその『知力』に於いては天才級かもしれません。

 ですが、それ以外は『努力することに関しての超怪物』のように思えてならないのです。

 しかもそれは『不殺の誓い』から見てとれるように、『生命に対する深い愛情』のためではないかとも感じられるのです。


 あの大城壁の建設シーンでお気づきになられましたでしょうか。

 サトルは城壁建設予定地の植物を全て別の場所に転移させていたのです。

 草原の草すら害さなかったのです。


 これに気づいたとき、我々神界報道部でも深い深いため息が漏れました。

 あれほどまでに自己に厳しかったおとこが、他者に対してはなんと優しい人物だったことでしょうか。



 僭越ではありますが、私どもはこれほど神に相応しい人物はいないと考えております。

 そうして、その人物に『神界金聖勲章』を授与し、併せて神への昇格を決定した神界の判断を誇りを持って支持するものでもあります……」




 パーティールームの大画面上では『9時街』の様子がフェードアウトして、また俺の姿が現れた。

 そうして黒いバックに腕を組んで微笑む俺の背に、巨大な銀色の翼が現れたんだよ。

 で、デカいわこの翼…… 差し渡し3メートルはあんぞ……

 ああそうか、普段は消しておけるんだろう。

 そうしないともうドアとかくぐれないからな。

 神さまがドア通る度に横歩きしてたらカッコ悪いもんなぁ、はは。



 その翼からはやはり銀色の粒子みたいな光が溢れ始めた。

 ほほー、これが『神威』ってぇやつか。けっこう神々しいじゃないか。



 ナレーションが締めに入った。


「こうして銀河系にまたひとり、神が誕生することになりました。

 それも幸福ハピネスポイントを、実に18ケタも保有する究極の神であります。

 このサトルがいる限り、間違いなくガイアは試練に合格することでしょう。

 また機会があれば、今後のサトルの活躍をご紹介させていただくことを楽しみにしております。

 それではみなさん、その時までさようなら」





 パーティー会場は静寂に包まれていた。

 中にはひれ伏して俺を拝んでるやつもいる。

 そうした中で、フェンリーが近づいて来て、俺のすぐ前に立ったんだ。


「おい今は一介のヒト族さんよ、これからはお前さんに祈りを捧げにゃあならんのか?」


「うるせえこの狼野郎。

 そんなことしてみろ、中央棟の『上級者用階段』に叩き込んで、またお前のしっぽを人前に出られないようにしてやるぞ!」


 そうして俺は高笑いするフェンリーと笑顔で固い握手を交わしたんだ。

 今度の大拍手と大歓声はしばらく止まなかったよ……




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