*** 127 『魔法マクロ、【都市建設34】実行!』 ***
俺は周囲の皆を見渡して微笑みかけた。
「それではみんな。俺はこれからニューウールに行って来る。
留守を頼んだぞ」
「あ、ちょっとだけ待ってサトル」
へへ、システィが熱烈なるちゅーをしてくれたぜ。
ようし! これで俺のモチベーションも最高だ。
いっちょやったるか!
神界転移部門の手により、俺はすぐに惑星ニューウールの都市建設予定地に転移した。
おお、もう6個ほどの都市が出来ているのか。
さすがはアダムだ。
それに既に住民の入居も始まってるわ……
避難民の第一陣だな。大勢の天使達が住民を誘導してる。
あー、なんかすごい数のテレビカメラもあるぞ。
神界報道部の総力報道体制だろこれ。
「さ、サトルよ……」
「ヴラビエールさま、ここから先はお任せくださいませ」
「あ、ありがとう…… ほ、ほんとうにありがとう……」
「サトルさま」
「おお、アダム。もう6個も都市を造ったのか」
「いえ……
わたくしの力が及ばず、ご出座させてしまい申し訳もございません」
「そんなことは無いぞ。
それにお前のサポートがあれば、俺の負担も相当に軽くなるからな。
それじゃあ早速建設を始めようか。
そうだな、まずは第1列の残り34個の都市を造るか。
マルチタスク方式で同時に34個の都市を造るマクロを作ってくれるか?」
「で、ですが、サトルさま…… 一度に34カ所は……」
「そのぐらいなら多分大丈夫だ。
今はすべての魔力がフルチャージ状態だからな」
はは、俺の斜め前にあるTVカメラのランプが点ったわ。
これきっと、今の俺の顔を映しているんだろうな。
あ、俺に見えるようにモニター画面も設置してくれたのか。
それじゃあ胸を張って、にこやかに……
「サトルさま。【都市建設34】の魔法マクロをお作り致しました……」
「よし! それじゃあ早速行くか!
『魔法マクロ、【都市建設34】実行!』」
途端に、都市建設予定現場から直径約10キロ、厚さ50メートルの岩盤が34個も切り取られて宙に浮いた。
あらゆるカメラが、500キロに渡って連なり宙に浮く巨大円盤という非現実的な光景を映し出している。
はは、先の方は地平線の下に隠れて見えなくなってるわ。
俺、このときは知らなかったんだけどさ。
今回の報道って、配信対象は神界だけじゃあなかったんだよ。
この神界が管理している銀河系8800万の世界に、同時中継してたらしいんだ。
既に最終試練に合格して神界認定世界にもなって、高度に文明の進んでいる全ての世界に。
それも、建設内容から今までの経緯や解説も含めてすべて。
それで、それらの世界では、悪魔界みたいにローゼさまの『ガイア観察日記』が大評判になってたそうなんだ。
だからこの特別報道番組も、俺が登場した途端にみるみる視聴率が上がって、この時点ですでに80%近くになってたんだと。
中には真夜中の地域もあるだろうにな。
元々銀河の同胞の大危機だということで、視聴率も高かったそうだけど。
つまり、このとき俺は銀河の住民約21京1200兆人に見られていたんだよ。
俺の耳には聞こえていなかったんだけど、実況アナウンサーも、「さ、サトルですっ! つ、ついに爆撒英雄サトルが来てくれましたっ! 銀河の同胞10億人を救うために来てくれたのですっ!」とか絶叫してたそうだわ。
まったく大げさだよなあ、たかが都市を造るだけなのに。
でも、避難中でニューウールやウールの神域にいた住民たちも、みんなこの映像を見てたそうなんだ。
そうして全員が彼らの祈りのポーズを取り、涙を流しながら俺を見つめてたんだと。
建設現場の上空に浮かんだ34枚の巨大岩石円盤が粉砕されて消え、代わってマナ建材が飛び始めると、周囲は大歓声に包まれた。
現場にいた神々や、既に完成した都市に入居中しつつあるウールの住民たちからも耳を圧する大歓声が発せられている。
もちろん俺には聞えて無かったんだが、神域にいたウールの住民たちや、銀河のすべての文明世界でも、超絶大歓声が沸き起こっていたそうだ。
そうして今度は直径10キロから数100メートルまでのマナ建材の円盤が空を覆って飛び始めると、大歓声はさらに大きくなって行った。
さらに都市の土台になる低い円錐台の上に、合計90万個ものユニット住宅の土台が飛ぶと、もう耳が痛くなるほどの騒ぎだったよ。
次に道路が形成され、石と土が飛び交い、長さ5キロもの通路が3400本も空に浮かんで都市に収まり始めると、大観衆の興奮は頂点に達した。
それからとうとう住宅ユニットが作られ始めたんだ。
アダムのマルチタスクの力を借りて、都市ひとつ当たり一度に50軒ものユニット住宅が造られて行く。
そこに同時に造られた、上下水道の配管や各種魔道具や家具などが次々と飛び込んで行き、最後にドアとアルミサッシが嵌めこまれて完成したユニット住宅は、完成するごとに宙を飛んで土台に収まって行く。
その間にも、幅100メートル、長さ800メートル、深さ10メートルの超巨大プランターが計8800個も作られて、各都市の周囲に円を描いて綺麗に並べられて行った。
同時に各種の大きさの石や肥料入りの土も空を飛んで、プランターに収まって行く。
これで都市ごとの農場も出来上がったか。
ん? なんで単に土を置いただけの農場にしなかったのかって?
畑にとって大事なのは土もさることながら、水はけだからな。
雨期に都市の周りに畑が流出しても困るだろうし。
お、大観衆の絶叫もようやく少し落ち着いたか。
マクロも順調に動いているようだから、住宅が完成するまで俺は少し休ませてもらうとしよう……
そのとき、俺を向いていたカメラの表示灯が赤く点灯したんだ。
はは、また俺を映してるんだな。
そしたらさ。
大群衆の大歓声が、潮が引くように静まっちゃったんだ。
なんでだ?
俺は傍らのモニター画面を見てすぐに理由に気がついた。
そのモニターに映っていたのは……
顔は蒼ざめ、目は落ち窪み、唇を紫色にして震わせている俺の顔だったんだ。
もはやさっきまでとは別人の顔と言っていいだろう。
でもまだ俺気絶はしてないんだぜ。
へへ、俺も進化したもんだわ。
「ヴラビエールさま……」
「サトルよ…… そ、その顔…… だ、だいじょうぶか……」
「次のマクロを唱えるまで、30分ほどお時間を頂戴してガイアに帰還してきてもよろしいでしょうか……
少々疲れましたので回復して来たいと思いまして……」
「あ、ああ、もちろんだとも……」
(神界土木部の神々が100人がかりでも作れなかった100万都市を、たったひとりで一気に34個も造るとは……
だが、それだけにここまでの負担が生じるものなのか……)
俺はよろけながらも天界転移部門にガイアに転移させてもらった。
ふらふらとシスティの天使域に到着して、ソファに横になる。
すかさずシスティが俺を抱きしめて、キスをしながら『エンゼルキュア』をかけてくれた。
ああ、癒されるなあこれ……
周囲を見渡すと、心配そうな顔が並んでいる。
はは、ローゼさま涙ぼろぼろだよ。まだ始まったばかりですよ。
そうして30分経つと、俺はまたニューウールに戻って行ったんだ。
かなり回復した俺の顔を見て、ヴラビエールさまもほっとしているな。
だが実は、体内マナはマナ・ポーションで補ったけど、マナ操作力なんかは50%ぐらいまでしか回復してなかったんだよ。
「さあ、アダム、次は【都市建設40】のマクロを頼む」
「………… はい …………」
「それから多分、途中で俺は力尽きて気絶するだろうから、残った部分はお前が続けて作ってくれるか」
「………… はい ………… 畏まりました …………」
「それじゃあ行くか、魔法マクロ【都市建設40】実行!」
俺は気がつくとシスティに抱かれてキスされていた。
「なあ、システィ、俺どれぐらい気絶してたのかな」
「………… 20分位よ …………」
「そうか、さすがはシスティの『エンゼルキュア』だな。
たったそれだけの時間でもう気絶から覚めたのか。
でも…… 悪いけどもう少し頼めるか……」
「もちろんよ……」
ああ、システィも泣いてるよ。心配掛けてごめんな。
でもさ、俺を待ってる10億のひとがいるんだ。
だからそろそろまた行かなきゃ……
ん?
なんでそんなにキツイのかって?
住宅の土台を90万個作ったり、巨大プランターを8800個作ったりするぐらいならどうってことはないさ。
その10倍だって簡単に作れるぞ。
これらは確かに嵩は大きいけど、魔法マクロの行数は大したこと無いからな。
必要なのはほとんどパワーだけであって、それなら『マナ・ポーション』でいくらでも補給出来るし。
シンドイのは『魔道具』と『家具』なんだ。
なんせ、18軒の家が集まった住宅ユニットひとつだけで、魔道具が368個も必要なんだもの。
『照明の魔道具』だけで142個も要るからな。
それに、照明の魔道具を作るための魔法マクロの行数は、プランターの20倍もあるんだぜ。
その魔道具を都市ひとつにつき970万個も作らなきゃなんないんだ。
それに家具920万個が加わるから、都市40個で合計8億個近い魔道具と家具を作らなきゃなんないんだわ。
チェスト作成の魔法マクロの行数なんか、プランターの40倍はあるしな。
つまり魔道具や家具って、ひとつひとつは小さいからエネルギーであるマナはそんなに必要としないんだけど、マナを使う力であるマナ操作力はとんでもない量が必要になるんだわ。
だからシンドイんだ。
もちろん魔道具や家具は作らないでおいて、後で作って搬入することも検討したよ。
でも、考えてもみてくれよ。
240億個の魔道具と家具を、約2億5000万軒の家に運んで設置するって……
いったい何人で何年かかると思う?
しかも全ての住居に既に人が住んでるんだぜ。
それにさ。
命からがら逃げて来たウールのひとたちが、ようやく安住の地に着いたと思ったら、明りも空調も無い部屋だったなんて可哀想じゃないか。
だからやっぱり最初に設置しておく方がいいと判断したんだ。
ん?
それで都市が全部造れなかったら意味無いじゃないかって?
そんなもん、神界にはあれだけの『転移の力』があるんだからさ。
後はカネさえあれば、悪魔界だろうが他の星だろうが、どこにでも一時避難させられるだろうに。
文明世界にはホテルだってあるんだろうし。
どうやらそういう大々的な救済行動は前例が無いそうなんだが、もうすでに充分過剰関与しちゃってるんだからさ。
だから今回を『前例』にすればいいだけの話だよな。
なんだったら、俺がガイア中の岩から金抽出してホテル代ぐらい寄付してやってもいいぞ。
そんなことより、せっかくニューウールに避難した住民が、まだ他の世界にいるやつに、「サトルが造った住宅ってガッカリなんだぜ」とか言ったら悲しいだろ?
だから俺が途中で潰れてもほとんど問題は無いんだよ。
所詮カネで済む話なんだから。
そんなことより、数は足りなくてもいいものを用意してやりたかったんだ。
だからぶっ倒れるまで全力で行くぜ!