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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
122/325

*** 122 惑星ウールの危機 ***

 


 翌週の神界。

 最高神政務庁の奥まった一室には、多くの中級神や上級神までもが真剣な表情で集結していた。



 その場のトップである上級神ヴラビエールが口を開く。


「それではこれより、神界最高神政務庁内、惑星ウール緊急事態対策部会の会議を開催する。

 この場にはウールの名を初めて聞く者も多い。

 まずは惑星ウールの担当上級天使から、現地の概略と状況の説明をしてもらおう」


 蒼白な顔をした上級天使が起立した。


「はい…… それではご報告させて頂きます。

 惑星ウールの知的生命体は、1種類、約10億人でございます。

 5万年ほど前に最初の試練を乗り越え、3万年前には最終試練にも優秀な成績で合格してこの銀河系内の神界認定世界となりました。

 その後も順調に進化して参りまして、お手元の資料にございます通り、現在の住民の平均E階梯は7.2と、全ての世界の中でも上位5%に入るトップクラスのスコアを持っております。


 当然ながら住民の性質も極めて温厚であり、家族愛、種族愛に溢れた生活を営み、その幸福ハピネスポイントも罪業カルマポイントの1000万倍を超えております。

 また、産業につきましては、大規模な工業化も可能な知識、資源を有しながらも、自然との共存を望み、手工業以外は敢えて第1次産業と第3次産業主体に抑制しております。

 このまま行けば、あと数千年で神界より『理想世界』認定を受けることも確実視されておりました。


 しかし…… 先日、他世界でも類を見ない、超絶規模の海底火山噴火が発生してしまったのであります。

 その溶岩は、深さ5000メートルもの海底をみるみる埋め、とうとう火口が海水面上に姿を現しました。

 どうやら数千万年に渡って沈静化していた火山活動が、却ってスーパープリュームの発生を誘発してしまった模様でございます。

 噴火は衰えるどころかさらにその勢いを増して、本日ついにその火山灰が惑星上を一周するに至りました」



「今後の惑星住民の被害予想はいかなるものか」


 報告者の声が震え始めた。


「はい、神界地学部の緊急調査によりますと、そのスーパープリュームの規模と地圧からして、噴火の鎮静には少なくとも5年、長ければ20年の年月がかかるとのことでございます」


 その場の神々から低いどよめきの声が上がった。



「その間に予想される事態としては、惑星表面気温の8度から最大15度の上昇、それに伴う北極大陸上の氷冠の溶融により、海水面の最大120メートル及ぶ上昇が予想されております。

 さらに加えて、惑星表面を厚さ50メートルから100メートルに渡って火山灰が覆うことが確実とのことでございます。


 このために、1カ月以内に惑星住民に健康被害が発生し始め、6カ月後には死者が出るとの見通しが出されました。

 そうして1年後には住民死亡率が10%に達し、2年後には30%、5年後には100%、つまり住民絶滅の可能性がございます……


 この世界の担当天使のわたくしといたしましては、是非とも神界のお慈悲を賜り、惑星生命を御救いくださいますよう、心よりお願い申し上げる次第でございます」


 担当上級天使は涙を零しながら深く一礼した。



 上級神ヴラビエールが神々を見渡した。


「この件に関しては、先ほど最高神さまより決定が下された。

『神界のすべての能力を結集し、いかなることをしてでもこの惑星の生命を救え』との仰せである。

 これより我々は、そのための方策の検討に入る」


 担当天使が大泣きしながら着席した。

 周囲にはほっとした神々のため息が聞こえている。



「まずは神界土木部に伺いたい。

 この大火山噴火を止める手立てはあるだろうか」


 険しい表情の『神界土木部』トップの中級神が口を開いた。


「ああ、『この・・火山噴火を止める方法』ならば2つある。

 ひとつ目は、強引にこの火山の噴火口にフタをしちまうことだ。

 だがこの地圧からして、その場合には火山本体や地殻の弱い部分を突き破って、新たな噴火口が複数出来上がるのは間違いないだろう。


 最悪の場合、大陸上の人工密集地に突如として大噴火口が出来ちまうかもしれねえ。

 俺っちの工事のせいで大量殺戮なんぞ御免だからな。

 この手段は採りたくねえ」


「うむ。当然の判断だな」


「もうひとつの方法は、湧き出て来る溶岩と火山灰を生命のいない異世界に転移させちまうことだ。

 スーパープリューム自体をすべて吸い出すぐれぇの勢いで。

 そうすりゃあ今後数万年は大規模噴火は起きねぇだろう。


 だが、この工事によって別の問題も起きちまうんだ。

 この超大火山の溶岩量は優に数千万立方キロはあるだろう。

 場合によっては億のケタになる。

 その半分程度を異世界に転移させたとして、今度は地殻とマントル層の間に空白が出来上がるんだ。

 そのためにこの星は今後数万年に渡って巨大地震の巣になっちまうんだよ。

 せっかく火山噴火から生き延びた住民も、頻発する巨大地震で大勢死んじまったらワヤだわな。

 だからこの方法も勧められねえんだ」


「火山噴火は、小規模なものが数多くある世界の方が、結果として全く無い世界よりも遥かに安全だということなのだな」


「そういうこった」


「だが、マントル対流の無いような寒冷な星では知的生命体は育たないだろうからな。

 生命とは、それほどまでに危ういバランスの上に生存しているということか……」


「そういうことでもあるな。まあ、だから我々神々がいるんだろうが」


「うむ。よって、惑星ウールの生命の救済は、我々神々の存在意義を問われる戦いでもあるということだ。

 その事実と、最高神さまの御指示をもって、我々は出来うる限りの最善を尽くす。

 そこで、新たに自然環境の類似した惑星世界を用意して、惑星ウールの生命をすべてその世界に転移させることにしたい。

 他に方法は無いだろう。

 世界創造部門、大規模転移担当部門の見解はいかがか」



「世界創造部門と致しましては、現在未使用の初級天使試練用世界を再調整して使用する方法を採りたいと考えます。

 その場合には、なるべく自然環境が穏やかで、惑星ウールの生命と共存可能な生命の多い星が選ばれることになるでしょうが、幸いにも候補星はございます。

 そうですね…… 3日ほど頂ければ再調整は可能でございましょう」


「大規模転移担当部門と致しましては、海の生命の転移に3日、空の生命の転移に2日、そして陸の生命の転移に10日、予備として3日、計18日頂ければ転移は可能と考えております。

 転移直後は生態系の混乱、特に食物連鎖上の混乱が見られるでしょうが、これも壊滅的なものでは無く、2年ほどで混乱は終息するものと予想致します。

 ですが問題は……」


「そう、問題は知的生命体の『衣食住』か……

『衣』については特に問題は無かろう。

 転移の際にある程度の物資も同時に転移可能であろうし、場合によっては複数回の転移で衣料を運んでもいいだろう。

 それに惑星ウールの住民の主要産業からしても、彼ら自身で『衣』をまかなうことは出来るだろうしな。


 また、『食』についても、神界が管理する8800万の世界の一部から供出させることも可能である。

 特に同じ必須アミノ酸生態系を持つ住民のいる世界からの供出であれば、問題はより小さくなるだろう。

 また、この救済事業にかかる資金については心配は無用とのことだ。

 最高神さまの決定により、事実上予算はすべて最高神さまが考えてくださる。

 中には余剰食糧を買い上げてやることで喜ぶ世界もあることだろう。


 ということで、問題は『住』か…… 『土木部』の見解は如何かな」


「結論から言わせてもらうと無理だ。

 俺っちは土木工事の専門家だ。

 マナ循環用の巨大トンネルを掘ることは出来る。水資源用の巨大ダムを作ることだって簡単だ。さらには大陸の形でさえ半日で変えてみせる。

 だが、家屋の建設は繊細過ぎて無理だ。

 俺っちに家屋を作らせるのは、建設用の大型重機に茹で卵のカラを剥けというようなもんだ。

 それも何億個もな。


 10億人収容可能な箱モノだってすぐに作れるが、それだって、窓も無ければドアも無ぇ、ベッドも無ければ空調もトイレも水道すら無ぇただの箱でしかねぇんだ。

 そんな箱に知的生命体を住まわせたくは無ぇな」


「うむ、もっともな意見だ。

 それに加えて当初は周囲に肉食獣も数多くいるために、住民の防衛の必要までもあるだろうの。

 さて、『住』の問題を如何したものか……

 皆、なにか意見は無いかの……」



 多くの神々が考え込んでいる。

 皆知恵を絞って『住』の問題について考えているが、如何に神々の能力があるとはいえ、10億もの知的生命体の住居を、それも今後長きに渡って居住することが可能な住居を、僅か数カ月で用意するなど誰にも経験の無いことであった。

 もし新たに神界に『住宅建設部』を作ったとしても、10億人の住居を作るには、どんなに急いでも5年、いや10年近くかかるだろう。

 その間の住民の生活はどうすればいいというのであろうか……



 そんな重苦しい空気の中、ひとりの若い上級天使がおずおずと手を上げた。


 ほっとした上級神ヴラビエールがその上級天使に発言を促す。


「あ、あのお…… お、畏れながら、ヴラビエールさまは、今週号の『ローゼマリーナのガイア観察日記』をご覧になっていらっしゃいますでしょうか」



 途端に年配の神々からの非難の視線が殺到した。

 この、最高神さまさえご注目為されている真剣な知的生命救済会議の場に於いて、この若造はなんという場違いな発言をしているのだろうか。


「いや、たまに見てはいるが、今週号についてはまだ見ていないな。

 いろいろと忙しかったものでな」


 皮肉の込められたヴラビエールの返答に、若い天使は身を縮めながらも答えた。


「お、お許しください。で、ですが、是非ご覧いただきたいのです。

 何卒、何卒、10億の知的生命体の命と幸福のために、今この場でご覧いただけませんでしょうか……

 あ、あの。映像部分だけでかまいませんので……」


 若い天使は脂汗を流しながらも必死で喰い下がった。



「よかろう。事態は一刻を争うが、『住』についての良い案が浮かばない以上、そなたの言う映像とやらを見てみるか。

 皆の者はその間も『住』問題の解決策を検討するように。

 それではこの場でその映像を流しなさい」


「は、はい。ありがとうございます……」




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