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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
118/325

*** 118 世界樹の森の移住準備 ***

 


 俺は『マナ・ポーション(上級)』を取り出して飲み干すと、森の上空にマナ建材で直径50キロ、縁の高さ50メートルの円盤を作った。

 天を覆う巨大な円盤は陽光を遮り、辺りは突然夜になったかのような帳に覆われている。

 すべてのエルフが頭上を見上げておののいていた。


 それからアダムに指示し、世界樹を中心にした半径25キロの境界上にある樹木に全て印をつけさせた後、100人の植物の精霊と100人の土の精霊を呼び出して、境界線上の木々を全て避難させた。


 そうして……

 俺は世界樹を中心とする半径25キロの範囲の大地を切り取って宙に浮かべたんだ。

 すぐに大地の下に円盤を移動させてその中に大地を収める。

 ふう、さすがに結構体内マナを使ったか。

 俺は再び『マナ・ポーション(上級)』を口にすると、次の作業に取り掛かった。


「この円盤上にある、亜硫酸、硫酸、2酸化硫黄、3酸化硫黄を全て抽出し、下の大地に落とせ。

 また、樹木に付着した煤煙もすべて抽出して下の大地に落とすこと」



(お、おおおおおお…… 土が酸っぱくなくなった……

 な、なんという偉大なお力……

 そ、それに我らは今宙に浮いているのですな……)


「ああそうだ、これで取りあえず応急処置はしたんだが。

 そうだな、少し栄養分も補給しておくか。

 植物の精霊たちよ、例のシスティの水を世界樹の周囲に撒いてやってくれるか。

 ついでにマナ・ポーション(初級)も。

 余ったら周囲の森にも少し播いてやってくれ」


「「「「「 はい、使徒さま 」」」」」



(お、おおおおおお、こ、この水は…… ま、まさしく命の水……)


「どうだ世界樹、これで少しは元気になれたか」


(は、はい…… 

 それにしても本当になんという偉大なお力でしょうか……)


「それじゃあさ、俺の街に移住してくれたら、肥料とかこの命の水とかたくさんかけてもっと元気になるようにしてやるぞ。

 もちろんお前の子孫もどんどん増やせるようにしてやる。

 それでもし移住に同意してくれるなら、枝の一部に葉をつけて見せてくれるか。

 お前ならそれぐらいすぐ出来るだろ」


(は、はいっ!)



 俺の方を向いていた枝が伸びて来た。

 そうしてその枝が俺の目の前で止まると、みるみるうちにそこに葉が茂り始めたんだよ。

 はは、こいつ、花まで咲かせてるわ。


(((((( おおおおおおおおおおお…… ))))))


 うん。森の木々からも歓喜の感情が流れ込んで来ているか。

 エルフたちがびっくりして周囲を見渡しているな。



 俺は100個ほどの大型『浮遊の魔道具』を倉庫から転移させ、円盤の底に張り付けた。

 同時に20本ほどのマナ建材の柱を作って円筒と大地を繋ぎ、風で円盤が流されないようにもした。

 ふう、これでしばらくは膨大な魔力を使わずに済むな。



「なあ世界樹よ。

 俺はこれからこのエルフどもとその住居を下の大地に転移させようと思う。

 少し時間はかかるが待っていてくれるか」


(はは、500年も待ちましたからの。

 いくらでもお待ち申し上げますわい)


「それではエルフ共。全員こっちへ来い。

 まだ気絶してるやつは起こしてそいつらも連れて来い」


 2万人ほどもいるエルフたちがおずおずと近づいて来た。


「よし、そこに座って俺の話を聞け」



 あー、巫女服のババァと隊長がまた喚き散らし始めたわ。

 俺は倉庫からロープと布を取り出して2人の口を塞いで縛り上げ、そのまま世界樹の枝から吊るしてやった。



「皆よく聞け、お前たちの世界樹や森への暴虐もここまでだ。

 こいつらはすべて俺の街に連れて行く。

 お前たちは残された不毛の大地に残って反省しろ」


 ん? なんかジジィがよろよろと出て来て地面に這いつくばったぞ。


「し、使徒さま。

 お、お願いでございます……

 わ、我らも…… 我らも連れて行ってくださいませ……」


「世界樹よ。こいつ、こんなこと言ってるけどどうする?」


(わたしも森の木々も、もうこ奴らの顔も見たくありません)


「はは、嫌われたもんだなおい」


「し、しかしそれは、われらがこの巫女一族に騙されていたからであって……」


「莫迦だろお前」


「は?」


「騙されていようがいまいが、お前たちがこの世界樹を害し、子孫まですべて殺した事実に変わりはないだろうに。

 お前は誰かが騙されてお前の子孫を皆殺しにしたら、騙されていたせいだといってそいつを許すのか?」


「そ、それは……」


「だいたい世界樹に詫びる前に自分たちも連れて行けと願うなど、反省心のカケラもあるとは思えんな。

 やっぱお前らクズだわ」


「ううううう……」



「それからひとつだけ教えてやる。

 今、この山脈を東に越えた先にあるノーブ王国という国が、このエルフの地に向けて侵攻を始めようとしているところだ。

 途中、道や補給地を作りながらなので時間はかかろうが、あと半年もすればこの地に到達するだろう」


「「「「「「「「 !!!!!!! 」」」」」」」」


(ひ、ヒト族の侵攻だと!)

(そ、そんな……)

(で、でも世界樹さまの加護を受けた守備隊は無敵だって隊長が……)

(バカヤロ! 

 その世界樹さまが俺たちを見限って行ってしまわれるんだよ!)

(それにその無敵の隊長サマは、ああやって木に吊るされてるだろうが!)

(な、なんとかもう一度石垣や柵を作って防備を固めて……)



「因みにノーブ王国軍は全部で8万だ。

 あの程度の石垣や柵では10分ももたないだろうなあ……」


「「「「「「「「 !!!!!!! 」」」」」」」」


(は、はちまん……)

(そ、そんな……)



「どうやらお前たちにも『報いのとき』が来たようだな。

 ヒト族軍がここに到達すれば、たぶん半日もしないうちに全員ヒト族に捕えられて奴隷として売られるだろう。

 だがヒト族の奴隷への扱いは過酷だから、3年もしたら全員が死んでるだろうな。

 ということで、もうエルフ族の滅亡は確定的だ。

 さよなら」



 女たちが泣き始めた。

 男たちは、呆然としたままでいる。


「はは、俺から見れば、お前たちが世界樹の子や森の木々を殺したのと、ヒト族がお前たちを殺すのとに何の違いも見当たらんわ。

 森を滅ぼそうとしたエルフが滅びるのは当然の報いだろうに」



 俺は森の中のエルフたちの住居を下の岩稜地に転移させ始めた。

 そのままだと森がくり抜かれた境界から上に上がれないだろうから、フチの部分は崩してなだらかにしてやったけどな。

 それが終わると、全てのエルフも転移させる。

 そうして直径50キロもの範囲の森を乗せた円盤を30キロほど移動させて、またマナ円柱を使って宙に固定させたんだ。

 うん。これならエルフたちからも宙に浮いた森がよく見えることだろう。


 ついでに俺は世界樹の前と、下のエルフたちの前に巨大な『スクリーンの魔道具』を設置した。

 そうして、いまだ呆然として泣き崩れるエルフたちの上に浮かび、エルフたちに話しかけたんだ。


「それではエルフ諸君。今晩は世界樹の森との別れを惜しむがいい。

 明日の朝にはあの森はこの地からいなくなるだろう。

 そうだ、サービスとしてこのスクリーンでヒト族の戦いぶりを見せてやるから研究してみたらどうだ?

 まあ、この貧弱な守備隊じゃあいくら研究しても勝つのは無理だろうが……」



(アダム、スクリーンにヒト族の戦争の様子を映して見せてやってくれ。

 大軍が街に攻め込んで略奪するシーンを中心に、お前が多少脚色してかまわんからなるべく残虐なやつをな。

 それから、女子供が捕えられて奴隷として売られたり酷使されたりするシーンもだ)


(畏まりました……)


(あ、それからさ。

 巫女一族や守備隊員たちがみんなにリンチされそうになったら、そいつら全員収容所に転移させといてくれ。

 面倒だろうが頼むわ)


(はは、お任せくださいませ……)


(なにが可笑しいんだ?)


(いやすみません。

 相変わらずサトルさまはお優しいと思いまして……)


(どこがだ。

 俺はエルフたちを見捨てようとしてるように見えないのか?)


(はは、それでしたらサトルさまは世界樹の前には『スクリーンの魔道具』を設置されますまい。

 それに森の移動は今すぐに始められていたはずでございます)


(わはは、流石はアダムだな。バレバレだったか……)


(それではとびきり残虐な映像に脚色させて頂くことに致しましょう)


(ふふ、わかってるじゃねぇか)



「それじゃあ世界樹よ。

 明日の朝また来るから、明日には俺の街の近くに移動することにしよう」


(は、はい。お待ちしております……)





 翌朝、俺はまたエルフたちの前に浮かんでいた。

 あー、みんな目の周り真黒だよ。

 アダムのヤツ、相当に衝撃的な映像を見せたんだろうな。


「やあ残虐エルフ諸君。

 ヒト族に勝てる方法は見つかったかな?

 まあその残虐さに於いてはエルフもヒト族もいい勝負だから、頑張れば勝てるかもしれないぞ」


 目を真っ赤に泣き腫らした『木守の巫女』が進み出て来た。

 その後ろには巫女装束の女が50名ほど続き、全員が座り込むと頭を地に着くほど下げた。


「し、使徒さまにお願い申し上げます。

 我らを、我ら巫女衆を奴隷として差し出しますので、どうか、どうかエルフ族を御救いくださいませ……」


「要らん。俺の国には奴隷は必要無い」


「そ、それでは端女はしためでも側女そばめでもかまいませぬ。

 で、ですからどうか我がエルフ族を……」


「お前たちは嘘をついて同族を騙し続けて来た。

 そんな連中の言うことは信用出来ん」


「お、畏れながら使徒さまに申し上げます!

 我らエルフ族男衆も下男としてお使いくださいませ!

 ですからどうか、どうかせめて女子供たちだけでもお救いくださいませっ!」


 俺の前にエルフたち全員が平伏していた。




「なあ世界樹よ。

 こいつらこんな調子のいいこと言ってるがどう思う?」


(あ、あの……

 ヒト族とは本当にあれほどまでに悪逆非道な者たちなのでございましょうか……)


「そうだ、他人の命や苦しみなど、なんとも思わない外道たちばかりだな。

 そんな連中が全部で2000万人もいるぞ」


(はあ…… そ、それでは使徒さま……

 助けて頂く身としては、誠に申し上げにくいことなのですが、この者たちもヒト族の魔の手から救ってやっては頂けませんでしょうか……)


「ほう、このままエルフたちを放置すれば、半年後に半数が死に、3年後には過酷な奴隷労働で残りの半数も死ぬぞ。

 そうなればお前の子孫たちが殺された復讐になるんじゃないのか?」


(はい。それも考えました。

 正直申しまして、このエルフ共が昨夜の絵のように殺戮されてしまえば、どんなにか気持ちが晴れたことでしょうか。

 無慈悲に殺された全ての我が子孫たちの供養にもなったことでしょう)


 エルフたちが泣き始めた。

 自分たちが信仰していると思っていた世界樹に、そこまで憎まれていたのがショックだったのだろう。



(ですが使徒さま。ふと気付いたのでございます。

 それではわたくしがこのエルフ共と同じになってしまうだろうと……

 そんなことになってしまえば、亡くなった我が子たちにも顔向けが出来ませぬ。

 むろんこ奴らの顔はもう2度と見たくはございませんが、それでもどうか命だけは助けてやって頂けませんでしょうか……)


 エルフたちの泣き声が大きくなった……




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