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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
117/325

*** 117 エルフの嘘と残虐行為 ***

 


 俺は世界樹との会話を続けた。

 もちろんその内容は全てのエルフたちに念話で届けている。


「それでエルフたちはお前たち樹にどんな酷いことをしたんだ?」


(まずはわたしの周囲で育っていたわたしの子供たちを、すべて切り倒してしまいました。

 嗚呼、なんという惨いことをするのでしょうか……

 今でもあの悪夢の光景が蘇って来ます……

 しかも私の子たちを私の目の前で焼いたのですぞ!

 なんという…… なんという残虐な行為でありましょうか……)



「おい『嘘つき巫女』、何故そんな酷いことをしたんだ。

 返答を許す。申し開きをせよ」


(そ、それは……

 世界樹さまを唯一絶対のご存在と讃えるために……)


「お前は母を讃えるためにその子を母の目の前で殺して焼いたというのか?

 お前ぇ、アタマ湧いてるんじゃねぇか?」


(あう……)


(ひ、酷ぇ……)

(俺たちそんな酷いことをしてたのか……)

(だ、だって、『世界樹さまがお喜びになるから』って木守の巫女さまが仰ったっていうから……)

(でっ、でも言われて見ればその通りだよ……)

(俺たちなんでそれに気付けなかったんだろ……)

(で、でも、もし気づいてそんなこと言ったら、この森から追放されてたぞ。

『木守の巫女』さまに対する不敬罪だって言って……)



「世界樹よ。エルフたちの断罪を続けてくれ」


(は、はい。

 そして或る日、わたしが落した葉を使って長年に渡って溜めて来た腐葉土を全て剥がし、地面をこのような石で覆ってしまいました。

 おかげでわたしは地から栄養を得ることが出来ずにやせ細っていったのです)


(そ、そんな……

 世界樹さまの神域をより美しくして讃えさせて頂くつもりで……)


「お前らやっぱ莫迦だよな。

 腐葉土を剥がしたら、どんだけ木の養分を奪ってるのかわからんかったのか?」


(ううううううううっ……)



(それでわたしは10年ほど前に、最後の力を振り絞って大量の実をつけたのです。

 わたしは間もなくエルフに殺されるでしょうが、せめて子樹の一本でも残したいと思いまして。

 ですが…… 

 その実もひとつ残らずこ奴らに食べられてしまったのですよ……)


「果肉は食べられてしまっても、種さえ残ればなんとか子孫を残せるんじゃないか?」


(それがこの残虐エルフどもは、実の中の種まで割ってその胚すら食べてしまうのですぞ! 

『世界樹さまのお恵みを余さず頂戴する』とか言って……

 それにどうやらこやつらは、種の胚を食すると酩酊して踊り出したり笑い出したりするのです。

 中には禁断症状を示す者までおりました)


「そうか…… 胚にはアルカロイドでも含まれているのか。

 一種の麻薬だったんだな……」



(このような『神域』と詐称する広場を作ったのも、わたしの実を余さずに拾うためでありました。

 そのため、まだ実をつけられぬ若い子供たちを切り倒したのでございます……)


「聞けば聞くほど、このエルフどもは酷ぇ奴らだな。

 おい、『木守の巫女』。言い訳出来るものならしてみろや」


(そ、それは……

 世界樹さまの種の中の粒を頂戴すると、気分が良くなると同時に頭の中に世界樹さまの御声が響いて来るのです……

 そ、それ故、この種こそが世界樹さまが我らに下さった交信手段なのではないかと……)


「違うな。それは種に含まれるアルカロイドでお前らが酩酊して幻覚を見ていただけで、実際に世界樹と話が出来ていたわけではない。

 つまり麻薬に酔ったお前たちが勝手に作り出した幻影を見ていただけだ」


(そ、そんな……

 一族の言い伝えが全て間違っていたなんて……)


「その考えも間違っている。

 お前たち一族は言い伝えという嘘を吐き続けて来ただけだ。

 すべては自分たちに都合の良くなる嘘をだ。

 まあ控えめに言って最低の一族だな」


(うっ、うううううううううう……)



(だ、だからあの種は『世界樹さまの秘宝』と称して巫女たちが独占してたのか……)

(種を拾って森の中に植えていた一家が追放刑になってたぞ……)

(そこまでして巫女たちは種を独占したかったんだ……)



(それから、この広場が出来てからというもの、年に2回はここで盛大な焚き火をしながら、種で酩酊した巫女たちが踊るのです。

『世界樹さまへの奉納の舞』と称して。

 それこそ交代で3日3晩踊り狂うのですよ。

 おかげでわたくしの根が焼かれてしまうのです)


(((((((( !!!!!! ))))))))



「地下深いところにある根は助からなかったのか?」


(この台地の地面は、20メートルも掘れば固い岩盤に突き当たります。

 幹の下の岩はなんとか砕いて地下深く根を張りましたが、この巨体を支えるために、周囲にもかなりの広範囲に渡って根を張っております。

 通常の樹であれば、その根の範囲は上空の枝の範囲に一致するのでしょうが、私の場合は、枝の範囲から100メートルほど離れたところにまで新しい根を伸ばしておりました。

 その新根のうち、地表から10メートルほどまでもが焼かれたり乾燥させられたりして駄目になってしまうのです)


「そんなに深いところまで影響を受けるのか……」


(それが、どうやらこ奴らは、この山を500メートルほど登ったところに、『燃える石』の鉱脈を見つけたようなのでございます)


「石炭鉱か……」


(その石が燃えると非常に強い火力を出すようでございます。

 しかも竈の上にもうひとつ石の竈を置いてその中でも料理をするために、通常の焚き火よりも遥かに地中に熱が籠るのです。

 おかげで私の新根の半分近くが使い物にならなくなってしまいました……)


「それは随分と酷い目にあったなあ。

 だがそれだけでは森の木々全体が被害を受けたわけではないだろう」


(はい。それだけならば、まだしも辛い思いをするのはわたしだけだったのですが……

 こやつらは家での通常の煮焚きにもその燃える石を使うようになったのです。

 そうして奴らの家から立ち昇る黒い煙は、我ら樹の葉に付着し、太陽の光で栄養を作る我らの能力が著しく損なわれてしまいました)


「煤煙公害による樹木の光合成機能低下だな……」



(それだけではございません。

 こ奴らはまた別の場所にあかがねの鉱脈も見つけたようでございまして、その場で燃える石を使って銅を作り始めたのでございます。

 これも『世界樹さまの恵み』と称して)


「やはり銅の精錬もしていたのか……」


(このとき非常に臭いガスが出ます。

 また、この銅作りを始めて以降、恵みの雨が非常に酸っぱいものになって来ました。

 もうこの辺りの森の土は、酸っぱくて酸っぱくて養分を吸い上げる気にもなりませぬ。

 おかげで森の中でも体力の無い若い木がどんどん枯れ始めてしまっているのですよ)


「それは亜硫酸ガスと酸性雨と言ってな。

 化学の知識も無い阿呆が銅の精錬をすると、周辺の植物に大きな被害を与える元となるものなんだ」



(なんだよなんだよ。

 燃える石と銅鉱石の発見は世界樹さまのお恵みとか言ってたけど、世界樹さまや森の木を害してるだけだったのかよ!)


(そのせっかく作った銅だって、神殿の屋根になったり巫女たちの鏡になったり防衛隊の剣になったりしてただけだもんな……)


(あいつら自分たちのために世界樹さまたちを害していたんか……)



「話はわかった。

 ところで世界樹よ。ここには植物の精霊は来なかったのか?

 あいつらならお前と会話出来るし、このエルフたちとも喋れるから、お前の苦しみをエルフに伝えることも出来ただろうに」


(おお、あの我々植物と仲良く接してくれる愛しき者たちのことですな。

 ですが…… 

 彼女たちがわたくしと話をしたり、エルフたちと話をしようとすると、この残虐エルフどもが矢を射掛けて追い払ってしまうのです。

 きっと、この巫女たちがわたしと話せないことが露見するのを恐れたのでしょう。

 自分たちの欲望の為に、なんと身勝手な者共であることでしょうか……)


「そうか……

 だから土の精霊たちもこの地に来なかったんだな。

 奴らさえいれば、そこまで酷い酸性土壌にはならなかったものを……」


(うううううっ……)



「おい、残虐&身勝手エルフども。

 よくも植物の精霊に矢を向けてくれたな。

 俺の身内を攻撃したその行為は許せん」


 俺はエルフたちをめ付け、その場で『隠蔽』を半分だけ解除した。

 全てのエルフがその場に崩れ落ちる。

 ああ、2割ほどが気絶したか……



(な、なんという凄まじいお力だ…… やはりあなた様は……)


「俺は創造天使システィフィーナさまの『使徒』なんだ。

 この力も天使さまに賜わったものだ」


(((((((( !!!!! ))))))))



「おい木守の巫女!」


 あー、気絶しちゃってるか……

 俺は巫女に水をぶっかけて覚醒させた。


「おい木守の巫女、植物に最も害になるものを言ってみろ」


(そ、それは……)


「そんなことも知らずによくも『木守』を名乗れたな。

 それは酸性土壌だ。

 特に石炭の燃焼や銅の精錬で発生する亜硫酸ガスがもたらす酸性化は深刻だ。

 場合によっては数年で森一つが全滅する程だ。

 よくも石炭や銅鉱石を『世界樹の恵み』とか言えたもんだ」


(ううううううっ……)



「それじゃあ植物の5大栄養素を言ってみろ。

 それから酸性土壌を中和する方法も」


(わ、わかりません……)


「お前ら嘘つきである上に莫迦でもあったんだな。

 窒素、リン酸、カリに、マグネシウムとカルシウムだろうに。

 それから土壌をアルカリ性に戻すには、枯れた木を燃やした灰が効果的なんだよ。

 本当によくそんなことも知らんで『木守』を名乗れたもんだわ」



(そ、それからこれはエルフたちのせいではないのかもしれませんが、この地のマナが急速に薄れて来ておりまして、我らの成長に必要な成分が空気中からも失われてしまっておるのです。

 もう我々は、地中からも空気中からも養分を得ることが出来ないのですよ」


「す、すまん。それちょっと俺のせいかもしらん……」


(は?)



「そ、それで世界樹よ。

 お前は何が望みだ? 本当に死してもいいのか?」


(は、はい。わたくしめは死してもかまいませぬ。

 ですが…… ですがどうか使徒さま。

 我が仲間たちの森を御救いくださいませ……

 これ以上エルフ共の暴虐に晒されぬよう、お守りくださいませ……)


「お前の仲間たちの木々の森は、どれぐらいの広さがあるんだ?」


(は、はい。私を中心にして半径20キロほどの範囲でございます)


(それぐらいならなんとかなりそうだな……)



「よし! お前たち樹を全員俺が作る国に避難させる。

 むろんエルフ共はこの地に置いて行こう」


(な、なんだって……)

(そ、そんなことが出来るのかよ……)

(ほ、本物のシスティフィーナさまの使徒さまだったら出来るのかも……)

(俺たちは世界樹さまに見放されるっていうことなんだな……)

(あんな酷いことをしてたんだからそれも当然か……)




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