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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
115/325

*** 115 エルフの地 ***

 


 また或る日のこと。


(サトルさま、大陸東部、南北山脈南部に接したノーブ王国が、山脈内に街道を作り始めました。

 多数の兵や人夫を投入して、まずは人の歩ける道を整備しています。

 また、8時間ほどの行程ごとに広場も作って倉庫を建て、合わせて水場の確保も行っております。

 広い土地が確保可能な場所では広い野営地を、確保出来ない場所では小さくとも多数の野営地を作る工事も始めているようです)


「その道の先には何がある?」


(山脈の稜線上を北上すると、旧ドワーフの村と塩鉱山がいくつかございます。

 稜線を越えて高原に降りたところには世界樹がございますね)


「世界樹?」


(はい、エルフ族がそう呼んでいる巨大な樹木です。

 その葉は万病に効く薬とされ、その樹液も小瓶1本大金貨5枚で取引されると言われておりまして、また10年に1度つけるその実は寿命さえも伸ばすとも言われる伝説の大樹でございます。

 エルフ族はこの世界樹の周囲に住み、そうしてそれを守ることこそが自分たちが創造天使システィフィーナさまより与えられた使命だと思っているようでございます)


「なんかまた伝言ゲーム間違えたのか、エルフ族の支配層が自分たちに都合のいい嘘をついてるのかなあ……」


(どうやら『世界樹さまの声』を聞ける一族が、代々巫女として一族の中心にいるようでございますね)


「そいつらが怪しいのか?

 それにしてもまず道から作り始めるとはかなり周到な侵攻計画だな。

 そのノーブ王国の最大動員兵力はわかるか?」


(はい、最大で25万程ですが、他国との国境沿いに多数配置してあるため、今回の侵攻の規模は最大8万人ほどになるかと推察されます)


「8万か…… それで街道工事のドワーフ領への到達予想日は?」


(このままのペースで行けばあと3カ月ほどでしょうか)


「そのドワーフ領のドワーフ達の移住の進捗具合はどうだ」


(現在80%ほどでございますが、あと3週間で全員の移住が完了する見込みでございます。

 どうやらドワスタードワーフの全員移住を聞いて、そのドワーフ達も移住を決意したようですが)


「そのノーブ王国の狙いは、ドワーフ領の岩塩鉱山と、エルフ領の世界樹の両方かもしれんな。

 ドワーフの塩鉱山は俺が厳重に封印するとして、問題は世界樹とエルフ族か」


(はい。ですがこの場合……)


「そうだ、『ヒト○イホイ』に頼るのは危険だろう。

 実際の侵攻時に引っかからなければ、すぐにエルフ領に到達してしまうだろうからな。

 だが、工事を妨害するだけで果たして侵攻を諦めるだろうか……」


(あの辺りの南北山脈はかなり標高が低くなっておりまして、南に行けば行くほどさらに低くなります。

 ですからノーブ王国がエルフ領のみを侵攻対象とした場合、山脈を大きく南側に迂回して攻め込まれた際には、それを防ぐ手立てが限られてしまいます。

 現に200人ほどの偵察隊がその南部迂回ルートも調査中です)


「お前の言う通りだ。

 数万の大軍を片っ端から転移させようとしても、警戒されて小隊規模に分散されて行軍されれば、いかに俺たちの能力といえども全員捕獲は無理だろう。

 いっそ、世界樹を中心にしたエルフ領を、俺が城壁を作って囲むか?」


(あのエルフの地は、大城壁建設予定地の遥かに外になります。

『悪しき前例』にならなければいいのですが……)


「そうだよなあ。

 エルフの地だけ城壁で囲ってやったとすれば、みんな移住なんかするより自分たちの居住地を囲えって言ってくるよなあ」


(はい、そうなれば食料も足りずに人口も増えず、幸福ハピネスポイントの増加も小さくなるでしょう)


「よし! 

 まずはドワーフ領までの街道工事を徹底的に妨害しよう。

 稜線を崩して崖にし、谷筋も全て城壁で埋める。

 そういう妨害工事を10ヶ所ぐらいやっておけば、連中もドワーフ領侵攻を諦めるだろう。

 奴らがドワーフ領を諦めて、南側に迂回街道を作ってエルフ領のみを侵攻対象とした場合、街道工事にどれぐらいの時間がかかりそうだ?」


(約6カ月ほどかと思われます。

 距離は長いですが、山地の傾斜が緩やかなため、工事そのものは容易でしょう)


「それじゃあ妨害工作が終わったら、まずはエルフ族を説得してみるか。

 どうしてもダメだったらなにか別の方法で保護しよう。

 ヒト族に殺されて罪業カルマポイントを増やすよりはいいだろ」



 それから数日間かけて、俺は南北山脈内ドワーフ領までの山地に徹底的な妨害工事を施した。

 稜線には切り立った切れ目を入れ、狭い谷筋も高さ100メートルの城壁で埋める。

 ついでに山肌を変形させて垂直の絶壁に変えた。

 これでもう、ノーブ王国もドワーフ領侵攻は諦めるだろう。

 残るはエルフ族の説得と世界樹の保護だな。




 俺はエルフたちの村付近に転移した。

 おお! あれが世界樹か…… でけえな。

 まだ3キロ近く離れているのにこんなに大きく見えるとは。



 そのとき俺の頭の中に微かに声が聞こえて来たんだ。

 その声は……

 悲しみと苦しみと、そして慟哭に満ちたうめき声だったんだよ。

 まるでこの世の全てに恨みを持つかのような……


 それは世界樹から聞えて来る声だった。

 いや世界樹だけじゃない。森中が悲しそうに泣いていたんだ。



 思わず俺は駆け出していた。

 巨大な樹から2キロほどのところまで来ると、石垣の上に木で作られた柵がある。

 どうやらここから内側にはエルフたちの村落があるようだ。



「きさま何者だ!」

「怪しいやつ! そこで止まれ!」


 俺は誰何の声を無視して門を飛び越えた。

 大樹からの慟哭の声は一層大きく聞えて来る。

 俺は門を飛び越えたまま宙を飛んで森を超えた。

 その間にも森からは嘆きの感情が伝わって来ていたが、その感情は視野の先の大樹に向けられているような気がしたんだ。



 それにしてもこの森…… どうしてこんなに枯木が多いんだ?

 なんだか森に斑点が出来たようにところどころに立ち枯れた木が固まってるけど……

 あ、枯れた木の近くには住居らしきものが固まってる……

 まさかこれって……



 俺は森が途切れたところに着地した。

 そこは100メートルほどの緩衝地が続いた後、大樹の周囲半径500メートルほどがまた柵に囲まれていて、そうしてその内側は、草も木も無い一面の玉砂利に覆われた広場になっている。

 そうして唯一、まるで神殿のような大きな木造の建物が建っていたんだ。


(あの神殿っぽい建物…… 

 屋根が緑色の金属っぽいもので葺かれてる……

 ということはやはり……)



「だ、誰だキサマはっ!」

「これ以上世界樹さまに近づいてはならん!」


 そのころになると、知らせを聞いたエルフの男たちが大挙して押し寄せて来ていた。


 俺は魔力で柵を無造作に取り払うと、改めて世界樹を見た。

 うん、これ高さは100メートル近くあるだろう。

 枝の端から端までは200メートル近くあるだろうな。

 なんというデカい木だろうか。

 だけど、なんで葉が1枚も無いんだ? 

 よく見れば枝も幹も枯れかかってるように見えるし……



 俺は、さらに大きく聞えるようになった嘆きの声に引かれて大樹に近づいて行った。

 その俺を遮るように弓や剣で武装した300人ほどの男たちが取り囲む。


「あ! こ、こいつ丸耳だ!」

「ひ、ヒト族だ」

「門番は何をしていたんだ!」


「おいヒト族、速やかにここを立ち去れ!

 さもなくば世界樹さまに害意ある者と看做して殺す!」


「あの樹が嘆いている……」


「な、なんだと!」


「そうか…… 

 世界樹を囲んで暮らすお前たちにも、あの嘆きの声は聞こえないのか……」


(俺だけに聞えるのは、『ゼウサーナさまの加護のネックレス』についている『ソロモンの指環』スキルのおかげなのか……)



「邪魔だ。どけ……」


「ええい! こやつをこれ以上世界樹さまに近寄らせるな! 

 精鋭防衛隊、全員こやつに矢を射掛けろ!」


 途端に300本ほどの矢が俺目がけて飛んで来た。

 あー、なんだこのヘロヘロ矢は……

 絶対アブソリュートフィールドどころか、身体強化すら要らないわ。

 身に纏った魔力だけで充分だぞ……


「矢、矢が刺さらない……」

「どうして当たった矢がみんな地面に落ちてるんだ……」


「ええい! もっと矢を射掛けろっ! 近距離から頭を狙えっ!」


 隊長らしき男が喚き散らすが、俺には何の効果も無い。

 歩き続ける俺の周囲には、さらにたくさんの矢が落ちて行った。


「な、なんで矢が刺さらないんだ……」

「ま、まさかこいつ…… 祝福を受けた身なのか……」


「お前たち少し五月蠅いぞ。俺はあの樹と話をしに来たんだ。

 少し静かにしていろ」


「こ、この狼藉者を黙らせよ! 全員抜刀して斬り掛れいっ!」


 途端に300人が一斉に剣を抜いて襲いかかって来た。

 あ、これ銅剣じゃないか。

 そうかこいつらも青銅器時代に入っていたのか……



 周囲には俺の魔力障壁に刃が当たる音が響いているが、もちろん俺に触れることは無い。


(腰が入っとらんぞ腰が……)


 俺はたかる蝿を振り払うかのように腕を振った。

 その場の全員が20メートル程弾き飛ばされて山を作る。

 ウザいからそのまま魔力で拘束して固めてやった。


「な、なんというザマだ…… 精鋭防衛隊ともあろう者どもが!」


「なあ、なんでお前は命令ばっかりしていて、俺に攻撃して来ないんだ?」


「な、ななな、なんだと!」


「この程度の戦力しか無いんだったら、普通は現場の指揮官が率先して戦うのが当たり前だぞ」


「ぐぎぎぎぎぎぎ……」





「何事ですか!」


 その場に少女の凛とした声が響き渡った……



 お、なんだなんだ?

 なんか神殿の方からお神輿みたいなもんが近づいて来るぞ。

 あー、12人もの巫女装束を着た女たちが担いだ輿の上に、一際ケバい衣装を着た女がふんぞり返ってるわ。


 そいつらは俺から20メートルほど離れた場所で止まると、後ろについて来ていた女たちがたくさんの台座を輿の下に置いた。

 そうしてその上に輿を降ろすと、巫女装束たちがその周囲を取り囲んだんだ。

 その上に座る女が辺りを睥睨する。



「これは何の騒ぎですか。

 世界樹さまの神域で騒ぎを起こすとは……

 世界樹さまがお怒りになりますよ」


「き、『木守の巫女様』……

 も、申しわけもございませぬ。

 ヒト族の狼藉者にこのような神聖なる場所まで侵入を許してしまいました……」


 隊長らしき男が膝をついて頭を下げた。


「『木守の巫女』か……

 お前にはあの大樹の嘆きの声が聞こえないのか?」


「ば、莫迦者っ! こちらにおわすは『木守の巫女』さまぞ!

 頭が高い!」


「なあ、自分たちで勝手に作った身分制を、部外者に押しつけて敬えっていうのって、傍から見たら莫迦っぽくて滑稽だぞ」


「なっ、なんだとっ!」



「そこな狼藉者…… ここは世界樹さまの神域である。

 すぐに去りなさい。さもなくば世界樹さまが神罰を下されようぞ」


「ふーん、どんな神罰なのか興味あるから、くれるなら早くくれや」


「なっ! こ、ここな神を畏れぬ不埒者めが!」


「あいにくと神さまや天使さまはしょっちゅう見てるもんでな……」



 お、なんかまたエラソーなババアが出て来たぞ。

 俺の目の前まで来て喚き始めたわ。

 それにしてもケバい巫女装束だわ。


「こちらの『木守の巫女』さまは、世界樹さまの御声を聞き、それを我らに教えて下さる神力を持ったお方様じゃ!

 本来で有ればお前のごとき下賤の者が口をきくことすら許されぬのじゃぞ!

 控えよ!」


「おいババア。俺はその世界樹さまの声とやらを聞きに来たんだよ。

 あと、お前口が臭いぞ。歯ぁぐらい磨けや」


「なっ!」


「それか俺に話しかけるときは口閉じて喋れや。

 ああ、でも俺はこれからこの樹がなんでこんなに嘆いているのか聞いてみるから、しばらく黙ってろ」


「ぎ、ぎぎぎぎぎぎぎぎ……」





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