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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
114/325

*** 114 ビクトワール王国第8王子軍の捜索活動 ***

 

 第8王子軍500が国境を超えて2日目。

 イシス王子は白亜の城壁の門前に立っていた。


「これは…… やはり砦と言うよりは離宮だな……」


「本陣の豪華さ、周囲の兵舎の規模、また水場や厩舎などの設備も一級品どころか最高級品でございますな」



 王子は傍らの将軍を振り返った。


「お前はどう見る」


「はっ、貴族が率いる軍であれば、このような地に泊地を求めるのは当然かと」


「これほどまでに怪しい地にか?」


「指揮官の貴族にはこの異様さはわかりますまい。

 それに伏兵さえいなければ、いかに怪しい設備であろうとも1万もの軍をどうこう出来るものでもあるまいと言われれば、部下の兵士も反論出来ないでしょうな」


「そしてこのような砦が複数存在するのか……」


「最低でも3か所。その間隔からしてギャランザ王国王都までの間に10か所近くはあってもおかしくありません」


「将軍。すまぬが決死隊を2名用意してくれ。

 1時間ほどかけて内部を精査の上、水場の水を持ち帰らせることとする」


「御意……」



 王子は兵たちを見やった後、ふと上空を見上げた。


「またなにか『目に見えぬモノ』が現れましたか?


 将軍の言葉は、その内容に比べ相当に緊張感を孕んだものだった。


「ああ、なにかすべてを見られているような気がしてな……

 まあさほどに危険では無かろうが、それでもこれほどまでに全てを見透かされているような感覚は初めてだ」


「それでは本日の野営地は……」


「もちろんこの場から30分は離れた場所とする。

 出来ればあの白い道からも離れた場所にしたい」


「御意……」




(おいアダム、なんかお前の監視網がバレてるみたいだぞ……)


(上空1万メートルにいる直径20センチのカメラの魔道具と、森の中に配置した3センチほどの10個の指向性マイクの魔道具なのですが……)


(そうか…… 

 ということは、この王子と呼ばれた奴、恐ろしく勘が鋭いのかな)


(勘だけではございませんようです。

 この地に至るまでの行軍も実に隠密性に富んで見事でございました。

 特に途中の村々では、兵たちがわざわざ平民の着るような服を着たまま商人を装って物資を買い付けておりました)


(略奪まがいの行動はしなかったのか……)


(はい)


(それにしてもだ。

 この王子の目の色が気になるんだよ。

 こんな黒い瞳や髪を持つ奴は他にどこにもいないぞ。

 まさか、俺より前の使徒たちの子孫とか……)


(それについては少々お時間を頂戴して調べさせて頂きます)


(頼んだぞ)


(ところで如何いたしましょうか。

 たかだか500人程度の部隊ですので、全員の収容所への転移も容易でございますが)


(いや、このまま泳がせて監視を続けてくれ。

 この指揮官には興味がある。

 特にギャランザ王都を超えて旧洞窟ドワーフ領に近づいた辺りからは入念に観察しよう)


(畏まりました、サトルさま)




 ギャランザ王国王都に到着した第8王子軍は、全員が商人姿のまま宿に宿泊し、2日間の休暇を賜った。もちろん支給金付である。


 王子は将軍のみを伴って、ビクトワール大王国大使館に出向いて行った。

 王城の目の前に聳える壮麗な建物の門前には、完全武装の兵士が5名ほど立っている。


「そこの者止まれっ! ここはビクトワール大王国大使館である!

 何用か!」


「我が身を証明するものがこちらに……」


 イシス王子が隊長らしき男に王家の紋章入りの短剣を見せると、門番の男達が硬直した。

 将軍が隊長に近寄って小さな声で告げる。


「こちらは第8王子イシスさまだ。

 王命により極秘任務で行動中である。

 この場は他人の目があるので、一般の商人に接する態度で行動せよ」


 さらに近寄って王の玉璽のある命令書を見せると隊長は震え出したが、それでも必死になって平静なそぶりを見せ、かろうじて「それではこちらへ」とだけ言う。


 建物の中に入り扉が閉まると、隊長はその場に這いつくばって声を振り絞った。

「ご、ご無礼誠に申し訳なく…… ど、どうか、どうかお許しを……」


「このような風体をした者に対し、当然の反応である。苦しゅうない。

 また、門外での咄嗟の反応、見事であった」


「は、うはははぁぁぁぁぁーっ!」



 呆然とする隊長の前に銀貨の詰まった袋を置き、王子と将軍は着替えの間を借りるとそれぞれの正装に着替えた。

 そうして震える大使の前に座ったのである。



「こ、これはこれは第8王子イシス・ビクトワール殿下……

 王都門までのお出迎えもせず、誠に申し訳なく……」


「よい、任務につき極秘行動中である。

 出迎えなぞに来られたら、この将軍が叱責されていたところだ」


 将軍がにやりと笑う。


「王都門に出迎えが無かったのを見て心より安堵致しました。

 それで大使閣下、本日は少々教えて頂きたいことがあって参ったのですが……」


 そうしてそれから延々3時間、大使閣下に質問の雨を降らせた王子と将軍は、夕闇の迫る中平民服に着替えて街へと引き返したのである。



「さて、それでは久しぶりにお前と2人でメシでも喰うか」


「そういたしましょうか坊ちゃん」


「お前…… その呼び方……」


「はは、今は商会の若旦那とそのお目付け役の番頭ですからの。

 まあ、酒場でボロを出さないための練習であります」


「まあ…… 仕方なかろう……」



 その日の王都の商人街の酒場は、妙に気前のいい大商会の若旦那風の若者と、これも妙にガタイのいい番頭さんの奢りで大いに盛り上がったそうである。



 まもなく日付も変わろうかという頃、王子と将軍は店を出て宿に向かった。


「やはり酒場は最高の情報収集場所だな」


「はは、部下たちも大いに情報を集めていることでしょう。

 ところで殿下……」


「うむ、次の路地に入るぞ」


「はっ」



 路地に入ってしばらくすると、8名ほどの男たちが走って後を追ってきた。


「へへへ、若旦那さんよ、こんな遅い時間にこんな路地に入ると危ないぜ……」

「そうだな、まあ有り金置いて行けば命までは無くさないかもしれないがな……」


 にやつく男たちの前に出ようとする将軍を王子が制した。


「今日は俺がやる。久々の実戦訓練だ」


「わしも少々訓練不足だったので、うってつけの機会だと思ったのですが……」


「ふふ、悪いな……」



 イシス王子は軽く脚を開いて男たちに対峙した。


「そうだそうだ、カネさえ置いて行けば命だけは助かるかも知らんぜ」

「げへへへへへへ」


 男たちの下卑た笑い声が路地に響く。


「そうか、そちたちはカネさえ置いて行けば命は取らぬと申すか。

 それでは俺は、命さえ置いて行けばカネは取らぬとでも言おうか……」


「な、なに?」



 その場に剣が風を切る音が僅かに響く。

 或る程度の技量を持つ武人が大剣を振れば当然風切り音も出る。

 だが、エストックの突きのみで音を出すとは……

 その音を聞いた将軍の顔に笑みが広がっている。


 数秒後には首を刺された8人の男たちがその場に転がっていた。

 辺りには膨大な量の血が広がっていたが、むろん王子の体には返り血の一滴もついてはいない。



「ふむ…… また腕を上げられたようでございますが……

 このままでは少々問題ですな。暫時お待ちくださいませ」


 将軍はそう言うと、転がる男たちの体を大剣で切りつけ始めた。

 1分ほどで作業を終えると、王子と2人でまた表通りに戻る。


「いくらなんでもあれでは切り口が鮮やか過ぎますの。

 衛兵たちの要らぬ仕事を増やさぬためにも、ゴロツキ同士の喧嘩に見せる必要がありました」


「後始末を押しつけて済まぬな」


「まあ、昔からのことでございますれば……」


 微笑んだ男たちは、何事も無かったかのようにそのまま宿に帰って行った……





 第8王子率いる500の軍は、旧ボルグ男爵領を通過して1日後、草原の野営地に集結していた。


「ご報告申し上げます。

 ここより先、ギャランザ王国最西端の村までの間にも、同様に白い城壁を持つ野営地が2か所ほどございました」


「そうか…… 

 方法は皆目わからぬが、どうもその野営地が怪しいの……」


「また殿下の『第6感』でございますか……」


「そうだ」



 軽いやり取りとは裏腹に、周囲の男達の顔に緊張が走る。

 この第8王子軍は、武功を争う他の継承権持ち王子たちの妨害によって、華々しい戦場に出ることは少なかった。

 だが、それでも幾多の戦場での驚異的な武功と、これも信じられないほど低い兵の損耗率は、すべてこの王子の『第6感』とも言うべき能力のおかげであることは、将兵の全員が熟知していた。



「これより先、ドワーフ第3砦までの道のりは最高警戒態勢を取る。

 全軍を10の中隊に分け、馬を5頭ずつ配布せよ。

 全ての中隊は、2時間おきに後方の隊へ状況報告を行うこと。

 3時間経っても先行の中隊から連絡無き場合には、その場に留まるか後退せよ。

 また、第9中隊と第10中隊は、可能な限り尾根筋の道を辿って伏兵、隠し兵器などの警戒もせよ。

 明日はこの村で1日休息とし、明後日早朝に出発する。

 集合地点はドワーフ第3砦手前2キロ地点だ」


「「「「「 御意! 」」」」」





「これは……」


 先遣隊からの報告にあった地点に到着したイシス王子一行は、その場に立ち尽くした。


「この岩肌は実に巧妙に削られておる……

 明らかに大軍の野営地として整備されたもの……

 場所から言ってドワーフの準備したものではなかろうし、時間から言ってギャランザ王国軍の準備したものでもなかろう……

 つまりは何者かがこの地で最後の野営をさせるために整えた場所ということか……

 ここよりドワーフ第3砦までの道のりは?」


「はっ、通常軍であれば6時間ほどの行程であります!」


「なるほど。

 多少行軍に疲れた兵たちを、正午ごろに迎え撃つには格好の野営地と言うことだな……」



 さらに谷道を進んで集合地点に進むと、王子は少数の護衛を連れて探索に出向いた。


(この平らな地面と両脇の谷……

 まるで少し前までは城壁が有ったかのような滑らかさだ……)


 さらに少し道を進んだ王子の目に飛び込んで来たものは……


(石を積んだ粗末な壁の向こうに高さ10メートルの城壁……

 その向こうに砦……

 だが何故城壁が白い石で作られているのに、砦はこの辺りの普通の岩石で作られているのか?)



 その場で天を見上げた王子の全身に震えが走った。


「全隊退却開始っ! すぐに麓の村まで帰還する!

 中隊ごとに最高警戒態勢のまま突っ走れ!

 夜間行軍も厭わず、速やかに帰還せよ!」




(おいおいアダム、逃げ出したぞこいつら……)


(凄まじいまでの『第6感』の持ち主のようでございますな)


(うーん、ますます興味が湧いて来たわ。

 これからもこいつらの行動は観察することにしよう)


(畏まりましたサトルさま)


(それにしても、なんでこいつらこうまで文句も言わずに王子に従うんだ?

 せっかくここまで来たのに……)


(それではさらに少々時間はかかるかもしれませんが、この第8王子の周辺調査もさせていただきます)


(ああ、頼んだぞ……)




 ギャランザ王国王都まで帰還した第8王子軍は、周辺地域の地形調査を開始した。


「よいか、あの第3砦の地を通らずに、洞窟ドワーフの本拠地に辿りつく道を探り出せ。

 王都ばかりでは無く、山沿いの村々にも足を運んで情報を掴むのだ」


「「「「「 ははっ! 」」」」」




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