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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
113/325

*** 113 ビクトワール王国第8王子軍 ***

 


 ビクトワール大王国第8王子が率いる軍が捜索活動を開始した。


 或る日の夕方、8台ほどの大型馬車から成る隊商が、街道沿いの広場に到着したようだ。

 その広場の隅には目立たぬように茶色の布が結びつけられている。


 まもなく農民風の男がひとり広場に現れた。

「隊長、お疲れ様です。それではどうぞこちらへ」



 広場に馬車1台と数名の男たちを残して、他の男たちが移動を始める。

 男が示した草叢の先には、草木が切り払われた粗末な道が出来ていた。

 その道を進むこと10分少々、森の中に小さな広場が現れた。

 周囲には30カ所ほど緑と茶色の天幕が張ってある。

 すぐに馬車の中から50人ほどの男たちが出て来て体をほぐしている。

 何人かはその場にあった食料などを持って、街道沿いの広場に戻って行った。


 ほどなくして、暖かいスープの入った鍋を持った男たちが帰って来た。

 その場の男たちの顔がやや綻ぶと、皆が小声で話しながらの夕食が始まった。


(うん、旨い。ヤッシュたち料理番の作るスープはいつも旨いな)


(王子の命令で王都の有名な料理屋で何年も修行しましたからねえ。

 それに食材も一級品ですから)


(さすがはイシスさまだよな。

 行軍に最も必要とされるのは旨い食事だっていうのは本当だぜ)


(しかも喰い放題だし)


(いやそれだけじゃあないな。

 天幕の中を見たか? 

 分厚い藁のマットの上にこれも厚い毛布が2枚もあるぜ)


(これもさすがはイシスさまだ。

 2番目に必要なのはマットと毛布だって言うんだからな)


(天幕も蝋が引いてあって、雨が降っても濡れない高級品だしな)


(しかも周辺監視も2時間交代で、最低でも7時間は寝ろって言うし)


(移動もほとんど馬車だし、これじゃあ兵舎で暮らしているのと変わらんなぁ)


(そうじゃあなけりゃあ1年もの捜索は出来ないっていうことだ)


(はは、これなら2年でも3年でも続けられそうだ)


(さて、それじゃあ喰い終わったらゆっくりと寝かせてもらうとするか)


(それにしても、この軍は隊長も兵と同じメシを喰うし、天幕も同じなんだな)


(イシスさまですら同じメシでおなじ天幕だからなあ。

 例え敵に奇襲されても誰が指揮官か分からないようにするため、って仰っていたけど)


(ウチの大将は大したもんだよ)


(まったくだ)


(それじゃあみんな、そろそろ休もうぜ)


((((( へい、隊長 )))))





 第8王子イシス率いるビクトワール王国調査隊は、ギャランザ王国との国境線にある砦前の平原に集結していた。


 王子殿下イシスが砦の司令官に王家の紋章と王命の証書を見せたとき、司令官は驚愕して砦の貴賓室を勧めたが、殿下は一切砦の設備を使わずに、外の平原を選んだ。

 しかも、全ての天幕は同一仕様であり、一見して指揮官のものとわかる装飾などもまったく存在していない。

 さらに司令官以下将軍も一兵卒も皆同じ軍装である。

 仮に暗殺者が紛れ込んでも、指揮官がどこにいるかわからないようにするための配慮であった。


 その場で焚かれている焚き火も20カ所ほどあり、それらの周りは兵士たちが取り囲み、思い思いに食事を摂っている。

 一見質素に見える食事だが、味は最高だった。

 細かくした肉や野菜がたっぷり入ったスープに、今日焼いたパン。


 特に目立つものがあるとすれば、ひとりにひとつ果物がついていることだろうか。

『長期遠征を続けると手足がむくんで来て、最終的には歩くことすら出来なくなる』という事実は軍隊では有名だったが、この部隊は実験を繰り返し、野菜と果物の摂取でこれを防ぐことが出来るということを発見していた。



 外周ではないものの、中央からはかなり外れた焚き火の周囲には、王子、将軍、大隊長、中隊長らが集まっていた。

 そのうちの1人がスプーンを置いて話し始める。

 この部隊では司令官である王子の前で食事をすることすら許されていた。


「それでは皆の者、まずはここまでの道中の報告を……

 どうやら全員無事ここまで来られたようだが」


「はっ、ここまで20日間の道のりで、都合8回盗賊より襲撃を受けましたが、そのすべてを殲滅しております」


「まあ傍から見れば完全に行商の隊列だろうからな。

 美味しそうなカモに見えたか……」


「はは、盗賊たちも、商品が詰まっていると思った馬車から武装兵が続々現れたときには随分と驚いておりましたな」


「取り逃がした盗賊はいるのか?」


「いえ、もちろん全員殲滅して土に埋めました。武器防具の類もです」


「よくやった。さすがは俺の精鋭軍だ。誇りに思う」


 男たちの顔が綻んだ。



「それで連合軍の足取りについての調査結果はどうか?」


「はっ、ここまでの街道沿いのすべての村々での聞き込みの結果、連合軍18個師団、18万人は間違いなくここまでの街道を通って国境を越えております。

 ですが、ギャランダ王国王都の我が国の大使館からの、連合軍到着の連絡はこの砦には入っておりませぬ」


「ふむ。ここよりギャランダ王都までの間に何かあったのか、それとも連絡の使者が戻る途中で失われたのか……

 それでここまでの連合軍の様子は?」


「連合軍は途中の村で略奪に近い食料調達をしておりましたが、その成果は芳しくなかった模様であります」


「何故か?」


「平民たちも莫迦ではありません。

 街道沿いに簡素な見張り小屋を設け、軍の移動を監視しております。

 そうして軍勢の移動を見つけると、間道を通って行く先々の村々に連絡をしておるようでございます。

 そのため、軍が近づくと女子供は森の奥に避難し、同時に森の中に巧妙に隠蔽された多数の食料集積所は厳重に隠されるのです」


「ふむ。村人たちの自衛手段か……

 彼らにとっては軍も盗賊団も変わりが無いということなのだな」


「いえ、村人は皆、盗賊団の方が軍よりも遥かにましだと言っておりました。

 盗賊団であれば逆襲して追い払うことも出来るのに、相手が軍だとそれも出来ないからだそうでございます。

 まあ、実質的に街道沿いの村と市場は村人たちの隠れ蓑ですな。

 村民の家も物資も、多くは森の奥の隠れ村にあるようでございます」


「軍が盗賊団以下になり下がっているのか……

 この国もそう長くはないだろうなぁ……」


「この場以外では滅多なことは仰られませんように……」


「わかっておる。

 それで我が軍の物資調達はどうなっているか」


「はい。万事順調です。

 いつものように平民の服を来て買い物に行きましたところ、これだけの食料がどこにあったのかと驚くほどに売り物の物資が出て参りました」


「よもや値切り過ぎて争いごとになったりはしなかっただろうな」


「まさか。物資買い付け係は殿下とご一緒に何度も食料の調達をして、そのご薫陶を頂戴しております。

 値切りも全くしなければ逆に怪しまれますので多少はしておりますが、それでも相当に甘い商人として少々舐められたかもしれません。

 おかげで周辺の商店の連中も我先に商品を持ち寄りまして、すぐに馬車もいっぱいになりました」


「よし、それでいい。

 軍の調達は甘い客として舐められるぐらいが丁度いいのだ。

 カネが惜しいのならそもそも遠征などしなければいい」


「「「「「 ははっ! 」」」」」



「それでは先遣隊、この地より先になにか異常はあったか?」


「はっ、ここ国境砦より5日ほどの行程の街道沿いとその周辺を調査いたしましたが、戦闘の形跡などは発見出来ませんでした。

 申し訳ございませぬ」


「よい。今の報告でよろしい。

 いつも言っている通り、こやつは『戦闘の形跡は無かった』とは言わなかった。

 ただ、『戦闘の形跡は発見出来なかった』と言ったのだ。

 これこそが偵察報告に最も必要な態度である」


 数人の上級指揮官が頷いている。

 報告者の上官は、部下に微笑みかけていた。



「ただ…… 異常と申し上げていいかはわかりませんが……

 街道の途中に何カ所か変わったものがございました」


「詳しく申せ」


「はっ。ここより2日間ほどの行程の街道の先が、突然まっ白で平らな石で覆われており、馬車の通行にも支障が無いようになっておりました。

 さらにその先には、街道から50メートルほど離れる道があり、その先には城壁に囲まれたこれもまっ白な砦が建っていたのであります。

 そこから先の街道沿いにも、1日行程につきひとつずつ、計3カ所の砦を発見致しました」


「どのような城壁と砦か」


「はい、城壁の高さは10メートル、直径1キロほどの範囲を円形に囲っており、出入りの門は1カ所だけでした。

 その門は開放されており、門の脇には『歓迎、ビクトワール大王国軍ご一行さま専用宿泊所』との表示がございます」


 焚き火の周囲がざわついた。



「砦を守る将兵は何名ほどか?」


「それが不思議なことに誰もおりませんでした。門番すらおりませぬ」


「砦の様子は?」


「城壁内部には入らず、門の外からしか観察致しませんでしたが……

 離宮と見紛うばかりの純白の壮麗な砦の建物の他に、水場、兵舎など2万程の軍が宿泊するには十分な設備がございました」


「城門の中には入らなかったのだな」


「はっ! も、申しわけございませぬ」


「それでよい。

 偵察部隊にとって最も必要なことは、必要以上に詳細な偵察の内容ではないのだ。

 無事に戻って偵察内容を報告することである。

 将軍、この者に報奨を」


「ははっ」



「それでお前はどう見た?

 砦内部には1万の軍勢を相手取ることの出来る伏兵を潜ませる場所はあるか?」


「兵2万を泊める宿舎はございますが、なんといいますかこの……

 ひとの気配のまったく感じられない場所でございます。

 また、その周囲10キロほども捜索致しましたが、隠蔽された宿舎も宿泊跡もまったくございませんでした。

 付近の村々の酒場で情報収集も致しましたが、3カ月前ほどに忽然と出現した砦だそうでございます」


「大々的な工事の形跡は無かったというのだな」


「はい。本当に或る日突然出現したものだということでした。

 尚、近隣住民たちは門の表示を恐れて、砦には一切近づかないようにしておるそうでございます」


「ふむ…… まさかとは思うが……

 それでは第1偵察隊50名と第2偵察隊50名は、明日朝より国境砦の先の街道沿いの偵察を始めよ。

 2隊が交代で街道脇の森の中も含めて幅50メートルの範囲で索敵すること。

 横一列の密集隊形で進み、味方敵問わず警戒せよ。

 残りの隊は明日1日の休息の後、明後日早朝に出発する。

 集合地点は最初の砦手前500メートル地点だ」


「「「「「 御意! 」」」」」




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