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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
109/325

*** 109 同じドワーフ族でもこうも違うものか…… ***

 


 或る日、ドワタルニクス大族長は、ひとりの少年を伴って子供用収容所を訪れた。



 収容者:12歳男児。E階梯0.6。


「だ、誰だお前は!」


「わしはドワタルニクスという者だ。こちらはわしの孫のドルミシアスだ」


「初めまして。ドルミシアスと申します」


「そ、そうか、俺の従者を連れて来たのだな!」


「あの、『従者』ってなんですか?」


「ば、ばかもの! そんなことも知らないのか」


「はい、まだお会いしたことが無いので存じませんが」


「じ、従者と言う者はだな! 

 主人の身の回りの世話をしたり命令を聞く者のことだ!」


「うわー、その遊びつまらなそうですね。それになんだかヒト族みたいで嫌です。

 そんなことよりもっと楽しい遊びをしましょうよ。

 これ、リバーシっていうゲームでしてね。今街で大流行りなんです。

 大人も子供もハマってて、今度大会も開かれるんですよ」


「う、うむ、たまには下々の遊びに付き合うのもよいか……

 だが覚悟しろ、俺はこの手の遊びで負けたことは一度も無いのだ!」


「ふふ、それは楽しみです。ルールは簡単で……」



 10分後。


「はあ、どうやらわたしの勝ちのようですね」


「うぐぐぐぐぐ、こ、これはなにかの間違いだ!」


「そうかもしれません。あなたは初めてだったのですから。

 だからもういちどやってみませんか?」


「よ、よし!」



 10分後。


 ばしゃん!


「あー、だめですよ盤をひっくり返しちゃ」


「なぜキサマは俺を勝たせないのだ!」


「えー、だってそんなことをしたらゲームにならないじゃないですかぁ」


「な、なんだと!」


「あ、だから負けたことが無いって言ったんですね。

 そっかー、従者ってそんなことまでするのかー。

 だから従者さんもみんないなくなっちゃったんじゃないですか?」


「こ、この無礼者めが!」


「ねえおじいさま。洞窟ドワーフのひとたちって、みんなこういうひとたちじゃないですよね。

 ボクのクラスの洞窟ドワーフの子は普通でしたけど」


「そうだの、この子は今ちょっと病気にかかっているようなんだ」


「そうですか。それじゃあ仕方ないかもしれませんね」


「なっ! キサマらドワスター・ドワーフか! お前たちの族長を呼んで来い! 

 洞窟ドワーフ族長一族として正式に抗議してやる!」


「あのー」


「なにをぐずぐずしておる! 早く呼べ!」


「あの、ここにいるボクのおじいさまは、元族長で今は大族長なんですけどー」


「!!!」


「そうでしたか、ご存じ無かったんですね……」


「き、キサマ、族長一族のくせに従者もいないのか!」


「はいいません。そんなひと、ドワスターにはひとりもいませんよ?」


「な、なんという野蛮な連中だ!」


「ねえおじいさま、そろそろ帰りませんか。ボクなんだか疲れました。

 こんなに話の通じない子と話したのは初めてです……」



 帰り途。


「いやご苦労じゃったの」


「いえ、おじいさま。お役に立てなかったみたいですみません。

 世の中にはあんな子もいるんですねえ」


「はは、役に立ったか立たなかったかどうかはまだわからんぞ。

 今日はあの子も、『世の中にはあんな子もいるんだ』と思っただろうからな。

 それに今日のことはお前にもいい経験になったと思うのだ。

 世の中にはああして話がまったく通じない相手もいるということがわかっただけでも充分じゃ」


「ええ、疲れましたけど、きっといい経験だったのでしょうね……」




 1カ月後。


「のう使徒殿」


「ああ大族長、慰問おつかれさま」


「あの子たちのことなんじゃが…… 10歳以上はもう手遅れかもしらんの」


「そうか、やっぱり大族長もそう思うか……」


「まあ後3カ月ほど続けてみるとするか。なにがきっかけで変わるかわからぬからのう」


「すまんがよろしく頼むよ」




 ということでだ。

 今回いくつかわかったことは、

「支配階級意識は10歳前後で固まってしまうのではないかということ」

「原因は不明ながら、一度支配階級意識を持ってしまうと、矯正は非常に困難であること」

「特に10歳時点でE階梯0.8未満の子は、ほぼ矯正は無理らしいこと」

 それから、

「E階梯という尺度は実に的確であったこと」

 ぐらいかな。


 やれやれ、ということは膨大な数のヒト族が働かずにタダメシを喰うっていうことになるんだろうな。

 食料供給計画を少し見直す必要がありそうだわ……





 6時街南方の『塩工場』では、大勢のドワーフたちによる塩の『抽出』が始まった。

 最初は土魔法の素養のあるドワーフ1000名ほどに『塩壺作成1』の魔法マクロを伝授して始めたが、各人とも1回行使するだけでもうふらふらになっているようだ。


「なあドワーフ達よ。

 あの悪魔の子たちってかなりたくさんの塩壺を作れるだろ」


「ええ、日に1人で2000個の塩壺を作るとか、もう信じられんですわ」


「ところがさ、あの子たちって9カ月前に初めてこの仕事を始めたときには、日に10個作るだけでふらふらになってたんだよ……」


「えっ……」


「この魔法の力って、使えば使うほど強くなって行くんだ。

 まあ使い過ぎて気絶すると、さらに力が上がるんだが……

 あの子たちもそうして気絶しながら魔法の力を育てて今の能力を手に入れたんだ。

 特にこの塩の『抽出』って、『魔力』はもちろん『マナ操作力』っていう力を上げるには最適の訓練になるんだよ。

 塩の粒って小さくてたくさんあるからな」


「あ、あの子たちは何回ぐらい気絶されたのですかの……」


「そうだな、各自500回ぐらいは気絶してるんじゃないか?

 でも、気絶から覚めてこの『マナ・ポーション』を飲むと、すぐに魔力は復活するんだ。

 でも『マナ操作力』はポーションでは復活しないから、気絶は1日2回までにしろとは言ってあるが。

 日に3回以上も気絶すると、その後も体がダルくってたいへんだからな」


「そうか…… だから作業場の床にマットレスが敷いてあるのか……」

「それに休息所にあんなにたくさんのベッドも置いてあったし……」


「それだけじゃないぞ。

 みんな作業のときにはヘルメットや防具なんかも装備してたんだ」


「あ、あの…… 

 サトルさまもそうして魔力を鍛えられたのでございますかな……」


「そうだ」


「それで、サトルさまは何回ぐらい気絶されてあのような素晴らしいお力を手に入れられたので……」


「そうだな、2万回ぐらいかな」


「にま……」


「まあ俺の場合はちょっと特殊だよ。

 早くみんなを守れるようになりたかったから、1日に50回気絶とか無茶もやったし」


「なあおい、俺たちも早く役に立てるようになりたいよな……」

「そうだよ、女房子供があれだけ毎日美味いもの喰って幸せそうにしてるんだもの。俺たちも少しは働かないと」

「それにもう水汲みも薪拾いもやらなくていいし」

「それじゃあさ。元戦士はみんな1日2回気絶するまでがんばるか」

「そうだな、そうしよう」

「それでサトルさま、おれたちにもその『マナ・ポーション』を分けて頂けないものでしょうか」


「『マナ・ポーション』だったら、そこの休息所の中に大量にあるから勝手に飲んでくれ」


「それじゃあ皆の衆、頑張るべ」

「「「「「 おお! 」」」」」


「みんな大したもんだな。

 それで魔力が上がったら、もっと魔力の要る仕事もあるんだ。

 今は精霊たちにしてもらってる資源抽出っていう仕事だけど。

 お前たちが1人で日に3000個の塩壺が作れるようになったら、そっちで仕事をしてもらおうか」


「精霊さまたちと同じ仕事場での仕事ですか…… それは楽しみですなあ……」




「なあアダム、種族も増えて数も増えたらいろんな仕事が回り始めたな」


(はい、それではもう1000人ほどのドワーフ族に来てもらって、塩壺作成の工場を10カ所ほど増築されることを推奨させて頂きますです)


「おおいいなそれ! それじゃあ休息所も拡充するか。

 それにしても、おなじドワーフでもずいぶん違うよなあ。

 アダムはなんでだと思う?」


(そうですね、『他人が命令通り動く』とか『他人を支配して自分の序列が上であることを確認する』というのは、類人猿特有のヒエラルキー構成本能だと思うのです。

 地球のヒト族にも非常に多く見られる行動でございますよね)


「そうだな。すべての『組織』には『階級』があるからな」


(その『階級』が、組織というものの目的を達成するための便宜的なものなのか、それとも生まれによるものなのかという認識の違いだと思われるのです)


「なにがその認識の違いを生み出しているんだと思う?」


(まずはその『階級』が硬直的なものか否かですね。

 自らの努力や全体への貢献に応じて階級が上がるか、それとも生まれた時点で階級が固定されるのかの違いは大きいのではないでしょうか。

 それに加えて、3歳から10歳にかけて社会性を学ぶ過程での周囲の環境と、本人の認識力や判断力などの知力の差も大きいと思われます)


「やっぱりそうか。

 世襲制は諸悪の根源であり、さらに知力の低い者ほど12歳以上では矯正不能っていうことかもしらんな……

 洞窟ドワーフの支配層は、揃いも揃って知力低そうだし、上位者に言われたことを自分でも考えてみるって出来ないようだからな。

 そういう連中は可哀想だが一生一人で生きて行ってもらうことになるんか……」


(ですがサトルさま。

 サトルさまが仰っていましたように、サトルさまがいなければ今頃あの子たちは奴隷として売られていたはずです。

 それに比べれば今のように安全も食料も確保できている状態は、格段に幸せなのではないでしょうか)


「それもそうか。

 周囲に支配する対象がいないことを不幸と感じるようなやつは、そのまま不幸でいてもらうしかないか……

 それにしても彼らを矯正するいい方法は無いもんかね?」


(これからいろいろと研究して参りましょう)


「そうだな。一緒に考えてみてくれるか」


(はい……)




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