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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
107/325

*** 107 やっぱE階梯の低い連中の言動は理解出来んわ…… ***

 


 洞窟ドワーフ族旧支配層全員を各収容所に転移させてすぐ、俺たちは警戒態勢に入った。

 具体的には100人体制で、乳幼児を連れた50組の家族の常時監視だ。


「2番収容房の生後6カ月の乳児が泣き続けています。

 血糖値の観測から空腹によるものと思われますが、母親を含めて誰も何もしていません!」


「5番収容房の2歳の幼児も同様です。

 他の肉親は全員寝ていて食事を与えていません!」


「9番収容房、3歳の幼児が食料を食べようとしたところ、父親に取り上げられて食べられてしまいました! 

 父親は既に自分の分を食べ終わっているにも関わらずです!」


 同様な報告があるたび、俺はその乳幼児たちを『特別保育所』に転移させた。

 そこには街へ移住した洞窟ドワーフやドワスター・ドワーフのうち、授乳中の母親や育児に慣れた母親たちが控えている。

 彼女たちに任せておけば大丈夫だろう。


 そうして俺は、育児放棄していた親たちの収容所に転移したんだ。


「お前たちはなぜ育児放棄したんだ?」


「なぜって…… だってここには乳母がいないんですもの」


「なぜ自分でやらない?」


「そんなことしたことありません……」



 また別の房では母親が言っていた。


「だって、アイツの子を生んだら上流階級にしてやるって言われたから生んだのに……

 アイツは終身刑用の房に入れられちゃったもの。

 だからもう子供は要らないの。育てるなんてしたこと無いし」


「そうか、それじゃあお前も育児放棄で乳児殺害未遂犯として終身刑者用の房に移す」


「ねえ教えて。なんで子供を死なせてはいけないの?

 だって子育てなんて面倒なだけじゃない。

 ここには乳母も使用人もいないんだから」



 結局その日は50の家族房のうち、30の房の子供を保護し、親たちを終身刑にすることになった。

 もう俺の精神はぼろぼろだよ。

 なんという酷い連中だろうか。


 でも…… ちょっと驚いたんだけどさ。

 その終身刑になった30の房の親たちって、見事にE階梯の低い方から30件だったんだ。

 それも全員が1未満でな。

 1.0以上のE階梯を持つ親たちは、かろうじて子を死なさないように育てていたよ。

 2.0以上のE階梯の親はそれこそ一生懸命育てていたし。

 E階梯って恐ろしい程に正確な尺度だったんだな。



 そういえば以前エルダさまが言ってたよ。

 地球でも100年ほど前まではE階梯の平均は1より少し上ぐらいだったそうだ。

 そうして特に各国の指導者たちほどE階梯は低かったらしい。

 E階梯の低い者の特徴として、『より残虐で好戦的である』っていうのがあるだろ。

 つまり殺される相手側の痛みが理解出来ないから、ためらいなく戦争や略奪が出来るんだ。

 そのせいで地位が上がって指導者になるケースが多かったようだ。

 まさに『1人殺せば殺人犯だが、10万人殺せば英雄』だったらしい。


 それに、現代でもアフリカや中南米や一部中東の指導者連中はまったく変わってないそうだ。

 よく他部族を攻撃するときに、「我が部族を殺した報いである」とか言うけど、それは「よくも俺の所有物を殺してくれたじゃないか、だからお前もお前の所有物も皆殺しだ」っていう意味なんだそうだ。

 別に同族の死を悼んでいるのではないんだよ。

 奴らには『他人の死を悼む』という感覚機能が無いからな。



 ん? 

 その点日本は平和だったよな、だって?


 いや違うよ。

 過去の日本、特に江戸時代から昭和初期にかけての日本は、ガイア並みの酷い世界だったんだ。


 どういうことかと言うと、それは『間引き』、つまりは『嬰児殺し』の横行だ。

 特に農村部では、二男とか三男とかがほとんどいなかったんだ。

 そんなやつがいても分けてやる田畑が無いから、生まれると同時に殺してたんだよ。



 明治時代のある民俗学者の研究が残ってるんだけどさ。

 某地方の農村では、100世帯すべての家の子供構成が一男一女だったんだ。

 これがどれほど恐ろしいことかわかるかい?

 つまりそれ以外の生まれた子を、全て殺していたからなんだよ。

 そういう家族構成にするために、いったい毎年何人の嬰児を殺していたことだろうな。


 つまり、そのころの日本人は、『殺人』というものに対してまったく忌避感が無かったんだ。

 だからあんなに戦争ばっかりしてたんだな。

 もちろんE階梯も1あるかないかぐらいだったんだろう……


 もう、E階梯5以上のやつから見たら異次元の発想だよ。

 言葉は通じても思考内容がまったく理解出来ないんだ。

 ここ50年の日本人の進化がよくわかるだろ。

 つまり日本が平和だったのは、ここ50年だけのことだったんだ。

 それ以外の時期は、幇助と教唆を含めれば、日本人の9割方は『殺人経験者』だったんだよ。


 地球ですらそうだったし、ここガイアもそんなやつばっかりなんだろう。

 それにしてもE階梯1未満のやつらと喋ってると心が荒むよ……



 帰って来た俺の顔を見たシスティは、すぐに俺の心の痛みに気づいたらしい。

 その夜はたっぷりと甘えさせてくれたぜ、へへ……




 数日経って、ようやく乳幼児たちの安全を確認すると、俺は他の収容所の視察に回った。


 それにしてもなあ……

 洞窟ドワーフの族長一族とか、1人用収容所に入れられている重罪犯ほど畑仕事やらないんだよ。

 貴重な種まで喰っちゃってるし。


 だから農作業マニュアル作って配ったんだ。

 ついでに『これは農業用の種であり、そのまま食料にした者は罰として食事の供給量を減らす』っていう警告文も添付して。

 スクリーンで農業指導の講義もしてやったし。


 それでも種を喰っちゃった連中には、食料供給を生きて行くのに最低限ぎりぎりまで減らしたんだ。

 それでも働かないやつもいたけどさ。

 きっと、そんな農業奴隷のするような仕事はしたことが無いし、したくもなかったんだろう。



 でも、しばらくして始めたTV放送は多少効果があったんだ。

 全員の房に、模範囚達の様子を記録した番組を流したんだよ。

 畑には青々とした作物が実っていて、毎日みんな畑で働いていて、そしてみんなが腹いっぱい食べている実際の映像だ。

 これでようやく半分ぐらいのやつが、見よう見まねで農作業始めてたよ。

 やっぱり旧特権階級なんかの重罪犯たちは、『他人の作ったものを奪って食べる』っていうことしかしたこと無かったんだろうな。

 まあ仕方ない。

 そいつらには、一生餓死一歩手前で生きながらえて反省してもらうとするか……




 ギャランザ王国やビクトワール大王国の兵士たちの仕分けは順調に進んだ。

 まあ女も子供もいないから、戦場以外の殺人数に応じて収容房に入れて行くだけだからな。

 やつらに供給する食事はけっこうな量になっていったが、基本的には食材を配るだけだから業務量的には大したことはない。


 それにしてもさ、この世界の貴族たちとかって、マジで料理とかしたことないのな。

 小麦粉を水で練ったものを食べて、野菜もそのまま塩をつけて喰ってたし。

 竈に火を入れることすら出来んやつもいたぐらいだわ。

 なんか地位の高いヤツほどそうだったよ。



 収容所への『仕分け』が終わると、俺は悪魔っ子たちとドワーフ族の有志を300人ほど集めて仕事の依頼をしたんだ。

 もちろんドワーフ達はE階梯の高い者を選んでいる。



「これから君たちには、収容所に入れてある洞窟ドワーフ族旧支配層のカウンセリングをしてもらいたい。

 具体的には、悪魔族とドワーフ族2人ひと組になって、毎日50組で6時間ほど収容者たちと個別に会話をして欲しいんだ。

 2日会話したら次の50組と交代してもらう。

 事前にアダムがその収容者の生活態度の評価レポートを見せてくれるから、それを参考にして欲しい。

 具体的な会話内容は、まず苦情や希望の受け付けになる。

 それからその収容者の生活態度の改善の勧告だ。


 注意事項として、君たちのようなE階梯が高い者がE階梯の低い収容者と話をすると、相当に心が荒んで来る。

 だから自分の心とよく相談して、もし辛く感じるようだったら早めに申し出て欲しい。

 なにしろ俺ですらかなり辛いからな。

 最終的に全員リタイアしても仕方が無いと思っているぐらいだ。

 それではよろしく頼んだぞ」




 その日からスクリーン越しのカウンセリングが始まった。

 だけど最初はやっぱり相当に話が噛み合わなかったみたいだよ。



 1人用特別収容所にて。収容者E階梯0.2。


「ドワルギニーさん、今少々よろしいでしょうか」


「誰だキサマは! わしのことは族長さまと呼べ!」


「い、いえ、あなたはもう族長ではないのですけど……」


「なんだと!」


「あの、なにか苦情や要望はございますか?」


「ふざけるな! 苦情しか無いわ! 早く使用人をよこせ! 

 この尊い血筋のわしに自分で下賤な仕事をせよと言うのか!」


「あの、1人用収容房にお入りの方は、すべて1人で生きて頂くことになっておりますので…… 

 もしよろしければ料理の仕方などお知らせいたしますが……」


「やかましい! おい! そこのドワーフ! 

 お前を使用人にしてやる! 族長直属の名誉な使用人だぞ、早くここへ来い!」


「お断りします。

 わたくしは洞窟ドワーフ族ではなく、ドワスター・ドワーフです。

 あなたの命令は受けられません。

 それにドワスター・ドワーフの族長さんは、身の回りのことはすべてご自分でされていますよ。

 料理されるのもお好きですし」


「な、なんだと! ええいこの下賤者め! 消えろ! 

 2度とわしの前に顔を出すな!」




 1人用収容所にて。収容者E階梯0.5。


「ドワスさんこんにちは。カウンセリングのお時間です。

 なにかご要望はございますか?」


「あ゛? いいから早く俺の従者と料理人を呼べ!」


「すみませんがそれは出来ません」


「なぜだ!」


「1人用収容所にいらっしゃる方は皆お1人で生きて行かれるようにと、使徒さまが仰っておられます」


「あのような下賤の者を言う事なぞ聞くな! 

 ドワーリンの性を持つわしが命じておるのだぞ!」


「残念ながらそれは出来ません。代わりにお料理の方法をお教えしましょうか?」


「うるさい! 失せろ!」




 1人用収容所にて。収容者E階梯1.0。


「こんにちはドナルさん。カウンセリングのお時間です。

 なにかご要望はございますか?」


「そろそろ子供の離乳食の時期みたいなんだけど、次からは離乳食の配給もお願いね」


「あの、小屋の中にすり鉢がございますのでご自分でお作りになっていただけますか?」


「嫌よそんな面倒なこと。子供用の食事をくれるか私の使用人をよこしてちょうだい」


「すみませんがそれは出来ません」


「あんた生意気ね。だったらもう子どもなんか要らないわ。そっちで引き取って」


「あの、そうすると『育児放棄』の罪で1人用収容所に入ることになってしまうんです」


「そっちの方がまだマシね。早く引き取って」


「はい…… それでは使徒さまに連絡を取りますので少々お待ち下さい」





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