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【爆撒英雄サトルのガイア建国記】  作者: 池上雅
第1章 ガイア建国篇
104/325

*** 104 逃げ出したビクトワール大王国第3王子の末路 ***

 


 さらに1週間後。

 ギャランザ王宮ではビクトワール大王国第3王子が蒼白な顔で震えていた。


「よ、よもや我が軍の精鋭3000からまでも連絡無しとは……

 まっ、まさか洞窟ドワーフ軍は、報告にあった3000ではなく、30万の大群なのでは……」


「いくらなんでもそれほどまでには……」


「ええい! キサマに何がわかる!

 もとはと言えばドワーフ軍の規模もギャランザ王国からの報告ではないか!」


「はい……」


「よし! 俺は帰る!」


「は?」


「このままでは俺様まで行方不明になってしまうではないか! だから帰る!」


「で、殿下、そ、そのようなことを為されては陛下からどのようなお咎めが……

 な、なにしろ原因も分からずに、兵2万3000が行方不明なのですから……」


「ええい、やかましいわ!

 父上には『ギャランザ王国の謀反により』と報告すればよかろう!」


「そ、そんな……」


「すぐに帰るぞ! 支度せい!」


「は、ははっ!」




 お、あのデブ王子が帰り始めたか。

 はは、相当に恐くなったんだろうなあ。

 よし、2日ほど様子を見て、ちょうど2日目の行程の終わりぐらいにある『ヒト○イホイ』に引っかかるかどうか見てみよう。

 帰路とはいえ、戦争行為中だから『誘拐』には当たらんだろ。

 もし引っかからなかったら、国境付近で王子だけ転移させるとするか……





 2日後の夕刻。


「おい近衛兵」


「ははっ! ドラグント殿下!」


「急に馬車が揺れなくなった。なにかあったのか?」


「はっ! 道が白い石材で見事に整備されております!」


「そうか、宰相め、俺の言いつけを守って、少しは道を平らにしておったか。

 だが範囲がまったく足りん。もう体中が痛いぞ。

 お、なんだあの城壁は?」


「ははっ! それでは調べて参ります!」



「殿下。あの城壁には、『歓迎、ビクトワール大王国御一行様専用野営所』と書かれた看板がついておりました。

 また、内部には離宮と見まごうばかりの美しい砦がございます」


「うむ、引き返せ。

 今宵の俺様の宿泊はこの離宮とする」


「は、ははっ!」


「2日ぶりにゆっくりと寝られそうだわ。

 おい、離宮内の警護は兵1万だ。

 残りの1万7000は、周囲の偵察と警戒に当たれ。

 眠ることは許さん。全員徹夜で警戒するように」


「は、ははっ……」




「おいおいアダム、とうとうあの莫迦デブ王子まで『ヒト○イホイ』にかかったぞ!」


(はは、やはりでございますか)


「うーん、面白くなって来たな。

 そうだ、うちに最新型のPC連動大型プリンターってあったっけか?」


(先月コントロールーム隣の事務室に納入されておりましたが。

 A1版まで印刷可能でございます)


「そしたらさ、A1版の高級紙と、カラーインクを大量に輸入しておいてくれるかな」


(畏まりました)





「あー、徹夜明けがキツイぜ……」


「しっ、声が大きいぞ。あの王子サマに聞かれでもしたら、処刑されちまうぞ!」


「おっとヤバいヤバい。

 それにしても城壁の中が静かだな。おエラいさんたちまだ寝てるのか?」


「うーん、確かに静かすぎるな。隊長に聞いてみるか……」



「俺も変だとは思うんだが……

 だが誰からもなんの命令も無いんだ。

 命令も無いのに城壁の内部に入るわけにもいかないし」


「これからどうしましょうかね?」


「我々が受けていた命令は『徹夜で周辺を警戒せよ』だったからなあ。

 夜が明けたんだから飯でも食って休んでるか」


「ちょっと寝てもいいスかね?」


「見つからないように森の奥でならな」


「へへっ。ありがとうございます……」




「おいおい、王子と兵1万が行方不明になってるのに、誰もなんにもしないのかよ」


(きっと命令に従う以外の行動はしたことがないのでしょうね……)





 2日後、俺は終身刑者用収容所の王子サマの許を訪れた。


「お、おい! き、キサマ!

 は、腹が減った! しょ、食事を出せ!」


「人聞きの悪いこと言うなよ、飯はちゃんと1日2食出してるだろうに」


「お、俺様の食事は1日5食だ!」


「なあ、いいこと教えてやろうか……」


「な、なんだ? カネか? よ、よし、メシ一食につき金貨1枚を遣わす!

 あ、ありがたく思え!」


「いや違うんだ。

 あのな、一人称に『様』をつけるヤツぁ、昔っから莫迦って相場が決まってるんだぞ」


「な、なんだと! き、キサマ、王族侮辱罪で縛り首にするぞ!」


「ここにはお前しかいないぞ。出来るもんならやってみろよ」


「す、すぐに父上が討伐隊を出そうぞ!

 そ、そうだ! 身代金を払ってやろうではないか!

 き、金貨100枚を遣わすから俺様を解放しろ!

 平民が家族4人で50年は暮らせるカネだぞ!

 だ、だがその前にメシだ、メシをくれ!」


「いや、今から紙を渡すから、その紙に書かれている内容を一字一句違えずに別の白紙に書き写せ。

 最後にサインを忘れずにな。

 そうすればメシを喰わせてやる」


「ふ、ふざけるな! キサマ俺様を誰だと思ってるんだ!」


「ただのデブだと思っているけど?

 まあいいや、それなら懲罰としてこれから2日間メシ抜きな……」


「な、ななな、なんだと!

 か、書く! い、いや書きます、書かせてくださいっ!」


「そうか、それならこれを書き写せ」


「な、ななな、なんだこれは! こ、こんな手紙が書けるか!」


「ああそう、それじゃあサヨナラ……」


「ま、待てっ! いや、待ってください! 書く、書きますから……」


「そうか。それじゃあ書き終わったらメシを喰わせてやるとしようか……」





 翌日の早朝、ビクトワール大王国王宮の国王の寝室。


 いつものように早めに目覚めた王は、寝台横のテーブルの冷たい水を飲もうとして手が止まった。


「な、なんだこれは…… 手紙?

 宛先は『ビクトワール大王国国王、セグワイル・ビクトワール・サイ13世陛下』……

 わし宛てか……

 差出人は、『使徒サトル』としか書いてないの……


 その手紙の封を開けて中身を読んだ国王陛下の顔色が変わった。


「誰かある! 至急宰相を呼べ! あと、王宮警護隊長もだ!」



 大慌てで飛んできた2人が陛下の御前に跪いた。


「警護隊長! 今朝わしの枕元にこのような不審な手紙が置かれておった!

 宰相! 警備不行き届きだ! こ奴を逮捕せよ!

 明日正午より王宮前広場で家族ともども処刑せよ!」


「へ、陛下! お、お慈悲を! 何卒お慈悲を!」


「ならん! 良いか宰相、処刑は確実に実行せよ!」


「ははっ! 御意のままに!」


 宰相が近衛兵を呼び、泣き叫ぶ王宮警護隊長は引きずられて連れて行かれた。


「それではお前もこの手紙を読んでみよ」


「はっ」


(なになに、そうか、第3王子は捕獲されてしまったのか……

 それにしても身代金に金貨100万枚とは、また莫迦げた金額を言うものだ。

 国王の身代金でもせいぜい金貨10万枚だろうに。

 お、これは第3王子からの手紙だな……


 こ、これは……

 手紙の字もサインもまさしく第3王子のもの……

 洞窟ドワーフ討伐軍が行方不明になっているという噂は本当だったのか……)


 手紙を読み終わって顔を上げた宰相の顔を、国王陛下が見た。


「あの莫迦息子は廃嫡とする。国内外にそう布告する準備をせよ」


「はっ、御意のままに……」

(まあ、あの愚物に間違って国王になられずに済んで、却って幸いだったかの……)





「さてとアダム、あの警護隊長と家族が処刑されちゃったらさすがに目覚めが悪いからさ。

 今晩ドワーフ旧支配層のいる収容所の空きスペースに転移させておいてくれないか?」


(そう仰ると思いまして、既に隊長と家族の留置場所を特定しております)


「はは、さすがはアダムだな。

 そうそう、収容所にはベッドもマットレスも魔道具も入れてやっておいてくれ。

 食料も『9時街』と同様のものな」


(かしこまりました)


「それじゃあ俺は『新聞』を作り始めるか。

 実はもうほとんど出来ているんだが……

 警備隊長を助け終わったら、明日1000枚ほどカラープリントしようぜ」


(はは、ガイア初の新聞でございますな)


「そういやあそうか、初の新聞にあんな写真を使うのか……

 まあいいや、新聞名は『ビクトワール大王国新聞』にしよう。

 記念すべき『ガイア国新聞第1号』はもっと美しいものにしたいから……」




 翌日俺は、ベギラルムや悪魔っ子たちにも手伝ってもらって、『ビクトワール大王国新聞』1000部を印刷し終わった。

 そうして鞄に強力接着剤を入れ、アダムにナビゲートしてもらいながら、夜中にビクトワール王国の王都や主要都市、それから周辺の属国群の王都の目立つ場所に新聞を張りまくって行ったんだ。

 もちろん『隠蔽(神級)』をかけてたから誰にも見られなかったぞ。

 もし見ていた奴がいたとしても、王城の壁や中心街の告知板に突如として大きな紙が現れたとしか見えなかったろう。

 へへ、この世界には無いカラー写真付きだからさぞかし目立つだろうな。




 翌日は朝からもう大騒ぎみたいだった。


「おい、なんだこの告知板に張ってある大きな紙は!」


「な、なんか綺麗な絵までついてるぞ。絵に描いてある人物は醜いけど」


「誰か字を読めるやついないか?」


「おう、それじゃあ俺が読んでやるよ」


「ありがと」


「なになに、『ビクトワール大王国新聞』って書いてあるぞ……」


「『新聞』ってなんだ?」


「さあ、告知みたいなもんじゃないか?」


「早く次を読んでくれよう」


「分かった。

『先日西方へ派遣されたビクトワール大王国ドワーフ族討伐軍は、兵3万3000を失い、総大将の第3王子ドラグント・ビクトワール殿下も捕獲されるという大敗北を喫した」


「な、なんだっておい!」


「噂は本当だったんだな……」


「つ、続きは?」


「お、おう、

『尚、ドラグント殿下は、自由の身になるために父上である国王陛下に対し、以下のような手紙を送っている。


 親愛なる父上様。

 あなた様の息子であるわたくしドラグント・ビクトワールはドワーフ軍に捕まってしまいました。

 ここの牢では1日に2回しか食事が出ないので、230キロあった体重がたった3日で10キロも減ってしまっています。

 どうか金貨100万枚の身代金をお支払い下さって、私を取り戻してくださいませ。

 あなた様の忠実なる息子、ドラグント・ビクトワールより』


 あ、この写真の下に、『捕えられたドラグント・ビクトワール』って書いてある……」


「しっかしデブだなこいつ。しかも下着1枚の裸だし」


「王子も捕虜になると惨めだねぇ……」


「それじゃあ続きを読むぞ。

『これに対し、セグワイル・ビクトワール・サイ13世陛下は、国庫金の不足を理由に、第3王子の廃嫡を決定された。近く公式に発表される見込みである。

 国内岩塩鉱山の枯渇間近な状況下、多大な戦費を投じてのドワーフ領侵略も大失敗に終わり、王国はますます困窮の度合いを深めていくことが予想される』

 だとさ……」


「岩塩鉱山枯渇の噂も本当だったんだ……」


「それにしても3万3000人も兵を失ったのかよ……

 これ、今の陛下になってから最大の大敗北だろうに……」


「大丈夫かなこの国……」


「ま、まあしばらくは大丈夫だろ」





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