*** 101 ギャランザ王国ボルグ男爵軍との戦闘(?) ***
「男爵閣下! 工兵隊の準備完了致しました!」
「よし! 工兵隊、前面の塀に梯子をかけよ!」
「工兵隊出動!」
「「「「「 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ! 」」」」」
「第1第2隊出撃!」
「「「「「 おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ! 」」」」」
10か所ほどにかけられた梯子を兵士たちが昇って行く。
「塀の内部にドワーフ兵の姿は有りませぇーん!」
「よし! 第3から第8隊! 塀を超えて内部に布陣せよ!
工兵隊は塀の撤去作業を急げ!」
(あーあ、最初の塀をあんなに簡単に乗り越えられちゃってまあ。
この映像、後で旧ドワーフ支配層たちにも見せてやるか……)
「第1隊から第8隊、塀内部に布陣完了いたしましたーっ!」
「よし! 直衛隊、俺に付いてこい!
工兵隊は塀内部に全ての梯子を持ち込め!」
「「「「「 ははっ! 」」」」」
「軍監殿はいかがなされますか」
「うむ。わしも行こうか」
「のうボルグ男爵よ。
なぜあの城門はあのように城壁の端の方についているのだろうの。
普通なら城壁の中央にあると思うのだが……」
「一度だけあのような城門を見たことがあります。
その城壁は城壁内が回廊になっていて、中庭側の回廊の扉は反対側の端にありました。
一度に大勢の兵を城門裏に近寄せないための工夫でしょう。
おそらくは砦内部に入る入口は、あの城門の先にしか無いと思われます」
「なるほどな、ドワーフ共もなかなかやるではないか」
「ですがそれはせいぜい攻め手が守り手の3倍ほどの場合の策でございます。
ですからこのように敵に10倍する戦力を持って当たれば、開門も時間の問題でございましょう」
「それにしてもなぜ城壁の上に弓兵や投石兵を置いていないのであろうの……」
「はは、それらの下級兵は先ほど逃げ出してしまったのでしょう」
「なるほど……」
「全ての梯子の準備が完了いたしましたあっ!」
「それでは突撃準備だ!
第1隊から第4隊はそれぞれ20本の梯子をもって、一気に城壁を乗り越えよ!
城壁内部のドワーフ兵を蹴散らして、速やかに城門を開くのだ!
城門を開いた兵には報償として金貨3枚を与えるぞ!
それでは突撃っ!」
「「「「「 うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ! 」」」」」
(すげえな、こんなに梯子持って来てたのか。
こいつら戦い慣れてるわ。
だが……
残念ながらこの世界の兵としか戦ったこと無いんだよなあ…… ははは)
「隊長殿! 城壁内部の中庭にドワーフ兵がおりません!
また、城門の扉も見当たりません!」
「よく見てみろ!
この城壁は厚さが8メートル近くあるだろう。内部が回廊になっておるのだ。
ということは…… あった! あそこだ! あの反対側の端の扉を破壊して城壁内の回廊内部に突入するのだ!
おい! 戦斧を持ってこい! あの扉を破壊しろ!
内部には間違いなくドワーフ兵がいるだろうから警戒せよ!」
「ははっ!」
その声は当然周囲にも城壁の外にいる男爵や軍監にもよく聞こえていた。
「ドワーフ共め、無駄な小細工をしおって」
「確かに狭い廊下では、多勢の利は生かしにくいが……
それでもこの圧倒的な兵力差だ。城門が開くのも時間の問題だろうのう」
「ようし! 扉を破壊したぞ! 第1隊、3名ずつ突入っ!」
「うおおおおおおおおおおおおおーっ!」
しばらくは兵たちの走る音が聞こえていたが、そのうちに雄たけびや剣戟の音が混じり始めた。
すぐに絶叫も聞こえ始める。
それらの音は次第に激しさを増していったのである……
だが……
「ほい、まずは約50名様捕虜収容所にご案内だ。
アダム、こうやって5秒に1回ほどの割合で回廊の床に設置してある『転移の魔道具』を起動してくれ。
ヒトは明るいところから暗い所に入ると、瞳孔が開いて暗さに順応するまで5秒ほどかかるからな。
ほい、次の50名様もご案内だ!
後は任せたぞ」
(畏まりました)
その間も、スピーカーの魔道具から流れて来る戦闘音はいっそう激しさを増している。
「ええい! 第1隊、何をしておるかっ! 早く内部のドワーフ共を一掃せよっ!」
「隊長殿! もう第1隊は我々を除いて全員突入しております!」
「なにっ!」
「ふはははは、第1隊よ、露払いご苦労。後は第2隊に任せておけ。
金貨3枚は俺様のものよ!」
「くっ! 俺たちも突入するぞっ!」
「わはははは、せいぜい敵を減らしておいてくれよ。
よし! 続けて第2隊突入せよ!」
「第2隊、早くしろよ! 次は俺たち第3隊だからな!」
はは、また約50名様ご案内か。
それじゃあそろそろ次に行くか。
「ドワールス部隊。ドワーフ兵役の200名は行動を開始せよ」
「おお! ボルグ男爵よ!
砦後方の山道を見よ!
ドワーフ兵たちが逃走を始めたぞ!
これはまさしく開門間近と見て逃げ出したのであろう!」
しばらくすると、城壁中庭の『スピーカーの魔道具』から大きな声が聞こえて来た。
「だ、男爵閣下!
回廊内のドワーフ兵の抵抗が思いの外激しく、兵が損耗しております!
で、ですが、城門裏まであとわずか100メートルほどですっ!
どうかご加勢を! ご加勢さえあればすぐにでも開門出来ますっ!」
「ええい! 第5隊、第6隊! 城壁を超えて城壁回廊内部の戦いに加勢せよ!
第7隊、第8隊は逃走したドワーフ兵の追撃にかかれっ!」
「ほほー、追撃部隊を投入したか。
それじゃあそろそろ砦の屋上の戦いも始めるか……
ヒト族人形を階段から上げてドワーフ人形との戦闘開始だ!」
「おお! あれを見よ! 砦の屋上に兵が到達したぞ!
わはは、ドワーフの指揮官どもと戦っておる!
おお! ドワーフを屋上から叩き落としたぞ!
うーむ、こちらも一兵失ったか。
1対1では互角のようだのう……」
「おいアダム、回廊に侵入したヒト族軍はどうなった?」
「あと10分ほどで全員転移終了の見込みです」
「そうか、順調だな」
さてさて、砦後方の城門に向かったヒト族兵はどうなったかな。
後方城壁前の建物の内部からは盛んに破壊音と命令が聞こえている。
もちろんこれも『スピーカーの魔道具』からの録音だけどな。
「ドワーフ追撃隊の兵士は速やかに裏側城壁前の建物内に入って集結せよ!
裏口城門の破壊が終了次第、一斉に追撃に移るのだ!」
はは、城門に取り付けた建物に駆け込み次第、こっちも順調に転移させられてるな。
こちらは『転移の魔道具』による自動転移だからちょっと心配だったんだけど、うん、大丈夫そうだ……
それじゃあ次の段階に行くか。
「ドワールス隊、ドワーフ装備の200名は疑似逃走停止。
転移の魔道具に触れて『9時街』に帰還せよ。
ヒト族装備の200名は疑似追撃を開始せよ」
「おおー、第7隊第8隊も追撃戦を開始したようだな。
実にけっこう。順調ではないか」
「ははっ! 有難いお言葉感謝いたしまする、軍監閣下!」
「おおっ! 城門が軋み始めたではないか!
まもなく城門も開きそうだ!」
「直衛隊出撃用意!
城門が開き次第、俺も含む全員で突入する!
良いか! 突入の際は勢いが最も大事なのだ!
よって全員雄叫びを上げながら全力で走れっ!
そうして速やかに砦内部のドワーフの残党を殲滅するのだっ!」
「「「「「 ははぁっ! 」」」」」」
俺は魔力で城門をがたがた揺らしていたのを止め、ヒト族人形に城門を開けさせた。
その人形は門を開けるとすぐにばったりと倒れさせる。
背中には何本もの槍が刺さっているんだぜ。はは。
「直衛隊突撃せよーっ!」
「「「「「「「「 うおおおおおおおおおおおおーっ! 」」」」」」」」
(ふふ、元気のいい男だ。
これは先鋒として使えるかもしれん。
わしの下で騎士爵にでもしてやっても面白いかもしれんな……)
(はは、こうして俺の雄姿を見せつければ、この子爵も俺を配下に欲しがるだろう。
そうなれば俺にもビクトワール大王国貴族への道が開けるというものだ。
そのためにも至急ドワーフ共を殲滅せねばならん!)
城壁や砦の内部からはまたしても激しい戦闘音が聞こえて来ている。
だがそれも次第に収まってくると……
「おお! 砦の屋上にギャランザ王国旗とビクトワール大王国旗が上がり始めたではないか!
ふはははは、これでドワーフ第3砦は陥落か!
終わってみればあっけなかったのう。
これならば予定通り、あと7日ほどの進撃でドワーフ領はすべて我がビクトワール王国のものとなりそうだ。
岩塩と奴隷の確保も急がねばな。
それではわしは少々砦で休むとしようか。
護衛のお前たちも一緒に来い」
「ドワールス隊ヒト族装備の部隊は演技停止。
『9時街』に帰還して休んでいてくれ。
さて、アダム。
後は工兵隊と輸送隊だけだな。
最初の塀を超えて集まったところで別の収容所に全員転移させておいてくれるか」
(馬はいかがいたしましょうか?)
「それも後で別の収容所に転移だな。
ゴブリン達が農耕馬にでもするだろう。
悪魔っ子たちに言って、馬に水と飼料を与えて休ませてやっておいてくれ」
(お疲れ様でございました。
これでヒト族先鋒軍5000人全員消失でございますな)
「はは、後は後続軍も引っかかってくれるといいんだが……」
俺たちはそれから砦内の後始末をして回った。
『スピーカーの魔道具』や人形兵を片づけて、砦の内外にはさらに多数の転移の魔道具を、スイッチをOFFにした状態で設置していったんだ。