変化する関係
「着替え終え終わりました」
ライラは声をかけ戸を開けた。
そこには顔色の悪いエイルがいた。
「エイル?どうしたの?具合が悪いの?」
「そうか?体調は悪くないが」
「?」
(聞かれたくないのかな?)
「あの、どうでしょうかおかしくないですか?」
「ドレス、よく似合っている」
(かわいい・・・)
エイルは今度は顔を赤らめながら言った。
「あの・・・本当にどうしたんですか?」
「大丈夫だ、気にしなくていい」
「では食事にいたしましょう。せっかくの食事が冷めてしまいます。エイル、ライラ様」
助け舟を出したのはネイだった。
ネイはエイルの様子を見ただけで分かった。あの衝動を抑えていることを。
そして、エイルがかわいいもの好きでライラを好きになっていることも。
兎は狼に狩られるもの・・・。
(お兄様はこれからどうする気なのかしら)
食事がすんでしばらくしてエイルがライラに声をかけた。
「少し外を歩こうか」
「えっ、大丈夫でしょうか?クリヴに見つかったりしないでしょうか?」
エイルはライラを抱き寄せた。
「大丈夫だ。人払いはしているし、クリヴは今、狼国にいない」
ライラはエイルの腕の中が居心地よく感じた。
だからおとなしく抱かれたままになった。
「あいつが戻ってくるとなかなか外へは出られない。だから今のうちに外の空気を吸って気分転換をするのもいいだろう」
ライラは不安げにエイルを見つめた。
「エイル」
それに気づいたエイルは抱きしめた腕に力を込めて言った。
「俺が守るから大丈夫だ、何も心配しなくていい」
そう言いライラに微笑んで見せた。
「はい」
ライラは安心してエイルの言葉に答えた。
(クリヴ・・・あいつは早いうちに何とかしないとな。ライラの為に)
目を伏せエイルはクリヴについて考えた。
本当はクリヴが何故、軍を率いて殺戮を繰り返しているのか知っていた。
だが、まだ今は打つ手がない。クリヴは国民を守るために動いている。
国民の為に殺戮を繰り返している・・・。
「エイル」
「ん?」
外に出て意を決したようにライラが話し出した。
「クリヴ皇子のこともそうだけど全部自分のことだし自分でどうにかしないといけないと思います」
「これ以上エイルに迷惑かけられないわ」
エイルはライラの突然の告白に驚いた。
「え?」
「一応護身術も剣の使い方も習っていて使えるし、何とかなるかもしれません」
「-・・・クリヴは俺より強いぞ。あいつは本能を抑えていないから闘争本能むき出しで危険だぞ」
ライラは一瞬ビックっとした。思い出してしまった。殺されかけた時のことを・・・。
「それでも、王であるエイルが私に付きっきりは良くないと思うの」
「・・・」
「それに、自分でどうにかしないといけないと思います。私のせいで兄弟が殺しあうなんてとんでもありません」
「そうか・・・」
ガっとエイルはライラの両手首を自らの手で拘束した。
「きゃぁ!!」
そのままライラは背を木に押し付けられた。
「エイル!?いきなり何をするんですか!?」
「軽く片手で君の手を拘束してみただけだ・・・」
エイルの瞳が鋭くなっている。まるで狼の時のように。
「この状態から剣を取り出したり、護身術とやらで逃げることができるのか?」
「~っ・・・」
「一体どうやって逃げる?」
エイルは意地の悪い表情をしていた。
その顔は少しクリヴと似ていた。
「気の強いところも好きだが、こんなに弱かったら心配するだろう?頼むから大人しく守られていてくれ」
ライラはいきなり豹変したエイルが怖かった。体が急に震えだした。
「ほら、やっぱり怖いんじゃないか」
「!」
(怖いわ、でもこのまま弱いままじゃいけない。強くなりたい)
「エイル、手を放して。私は、貴方にこれ以上迷惑をかけたくないの。私の甘さで人が死ぬのをみたくないのよ。国が滅んだ時もそう。私がもっと強ければ国は滅ばなかったかもしれない。もうそんなことが起きないように」
ふっと両手の拘束が緩んだ。
(分かってくれたのかしら?)
「-・・・」
エイルはやはり鋭い瞳でライラを捕らえたままだった。
ガリっとエイルがライラの首筋に嚙みついた。
「いたっ」
つぅっと血がライラの首筋を伝い落ちていく。服の襟に赤いしみができた。
「エイル・・・?」
「・・・」
エイルは伝い落ちていく血を舐めとっている。
「エイル!やめて・・・」
そんなエイルが怖くなってエイルを突き飛ばした。
そこで我に返ったエイルはライラに謝った。
「すまない!噛んでしまった。大丈夫か!?」
さっきの鋭い瞳からいつもの優しい瞳に戻っていた。
「えっと、はい。一応大丈夫です」
「早く部屋に戻って治療しよう」
エイルは慌てていた。自分のしたことに動揺していた。
「エイル、その前にどうしてこうなったのか説明してくれない?」
(一瞬食べられるかと思った・・・)
ライラの心音はドキドキと高鳴っている。
口元についた血を舌で舐めとりながらエイルは言った。
「狼の血が濃いから欲望に駆られて暴走しやすいんだ。衝動が強いときは眠り薬を飲んで眠っているが、今それをするわけにはいかない。ライラを一人にしたままだとクリヴに狙われたとき助けられないからな。それでいつもより、感情のコントロールがうまくできなかった。本当に申し訳ない。」
スッとライラから距離を取り、エイルはライラに頭を下げた。
「もう何もしないと誓うから・・・許してくれないだろうか。怖がらせたかったわけじゃないんだ。泣かせたりして悪かった」
(これじゃあ、クリヴと変わらないな・・・)
「一度衝動を落ち着けることができればまた暫く発作は出にくくなる。今は薬を飲んだので何もなければ一週間は何とか発作を抑えることができると思う」
ライラは考えた。そうして答えを出した。
「それって定期的に衝動を出せば薬を飲んで眠らなくても良くなるってことですよね。それなら、今みたいなこと私にして良いです。それで少しでも衝動が収まるなら・・・」
「え?」
「私は大丈夫ですから!それとも・・・私じゃ役不足ですか?」
「ライラは怖くなかったのか?」
エイルは不思議そうに尋ねた。
「だいぶ怖かったけど頑張ります!!」
ライラは慌てて言った。
そんなライラを見てエイルは目を細めた。
(ライラは十分強いよ。俺なんかよりー・・・)
「本当にいいのか?途中で止めてやれないぞ?」
「・・・はい」
クスリと笑いエイルはライラにキスをした。
「じゃぁ、お言葉に甘えて」
「!」
「ライラ少しじっとしていて、逃げると追って狩ってしまいそうになるから」
そう言うと再びライラの唇に唇を重ねて舌を入れ執拗にキスをした。
身じろぎしていたライラも最後の方には大人しくされるがままになった。
(まだ足りない・・・もう少し)
「エイル、ちょっと待ってください!苦しいっ」
唇が離れた隙をついて抗議してみたが駄目だった。
「ごめん、待てない。ライラ君のことが好きだ」
とても切ない声で囁くのが聞こえた。