エイル
しばらくしてエイルはライラのことが気になって戻ってきた。
部屋のドアをノックするが返事はない。
ふぅっとため息をつき扉を開けた。
「伝え忘れたことがあるんだが、今いいか?」
静まり返った部屋にライラの寝息だけが聞こえる。
(何だ眠っているのか・・・)
そっとライラの寝顔を覗き込んだ。するとライラは泣きながら眠っていった。
(かわいそうに、心が疲れたんだろうな)
ライラの頬を伝う涙を指先で拭った。
「俺がもう少し強ければ・・・こんな事にはならなかった」
囁くようにぽつりとエイルから言葉がこぼれた。
(あんな発作さえなければー・・・)
狼族は強い殺戮衝動をもっている。王族は特にその傾向が強かった。弟のクリヴはその衝動をコントロールできたが、兄であるエイルは弟より強い衝動を持っているためコントロールすることができなかった。今までに何人の人を殺めてきたか自分でもぞっとするほどのものだった。
そんな自分が嫌で衝動が起こりそうなときは眠り薬を使い両手を拘束して眠りについていた。
その隙にクリヴが兎狩りを始めてしまった。
ライラにはまだそのことを伝えていなかった。
エイルはライラのことを昔から知っていた。
エイルは怪我をして動けないところをライラに助けてもらったことがあったからだ。
狼族は王族だけ狼の姿になることができる。
他の部族に矢で射られた時たまたま居合わせた少女がライラだった。
綺麗なドレスを破き矢じりを取り除き傷口に巻いてくれたのだ。
その行動に驚きもしたが危機感のなさに危うさを感じた。
そんな彼女に心を奪われてどのくらいの月日が過ぎただろう。
今その彼女は自分の手の中にある。そう思うと嬉しさで心が満たされる。
しかし、それまでにかかった犠牲はあまりにも多いすぎた。
それを思うと心が今度は冷えていく。
泣きながら眠っている彼女を見ていると胸が苦しくなった。
(今だけこの姿で傍にいることを許してほしい。この姿を見たら彼女は思い出してくれるだろうか)
そう思い狼の姿になり眠っているライラのベッドにもぐりこんだ。