ライラとエイル
・・・どうしよう。敵国でこんなことになるなんて。
まるで客人のような扱いを受けるだなんて。
目の前にはテーブルいっぱいのお菓子と暖かい紅茶。ふかふかのソファ。
ライラは迷っていた。
(やっぱり保護の話断ったほうがいいんじゃないかな?)
まさかこんな待遇を受けるなんて思わなかった。
尋問されたり色々あると思っていた。
それなのにー・・・。
最初に口を開いたのはエイルだった。
「・・・弟のせいでこんなことになってしまって本当にすまない。あいつには厳しい罰をお与えておく。今はそれで許してくれないだろうか」
クリヴの話より先に聞きたいことがライラにはあった。
「あの・・・王は何故、私を助けてくれたんですか?王にとって何の得にもならないのに」
(むしろ兄弟仲が悪くなるだけなのでは)
「エイル」
「え?」
「エイルと呼んでくれないか?まだ王になって日が浅いから王と呼ばれることに慣れていないんだ」
「・・・はぁ」
「さっきの答えだけど、人を助けるのに理由が必要なのか?ライラは確かに特別な存在だ。だが、助けたのはそれが理由じゃない。他に理由はちゃんとあるよ。今はまだ知られたくないな」
「?」
やっぱりよくわからない。はぐらかされているのだろうか?
「兎の国を滅ぼした我が国を許してほしい。兎の国のことが落ち着いたら必ず君を自由にすることを誓うからしばらくの間俺の離宮で暮らしてほしい」
そう言いながらエイルはそっとライラに手を差し伸べた。
「だれにも危害を加えさせないし一目見も晒さないから安全は保障できる」
「・・・」
(信用してもいいのかな。他に行くところも頼るところもないし・・・)
「それじゃあ、しばらくここにおいて下さい。宜しくお願いします」
(これでよかったのかな・・・)
ライラは迷いながらエイルの手を取った。
連れてこられた場所は離宮とはいえ立派な建物だった。レンガ造りで頑丈そうで、高さもかなり高い。
「宮殿と比べると小さいが俺個人の離宮だ。好きに使てくれ」
「小さいだなんてとんでもないです。本当に私が使っていいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
そう素直に言うとエイルは優しく微笑んでライラの頭をなでた。
なでられた場所に手を置いたライラは少し心が軽くなったのを感じた。
「ここが君の部屋だ」
「えっ!?」
まるで姫君にでも与えられるような部屋だった。
もう自分は王女でも何でもない。ただの兎族の生き残りだ。
「私、こんなに立派な部屋じゃなくていいです!!」
「不満か?」
「いえ・・・」
不満じゃなくその逆だ。
「あのクローゼットに入っている服は全てライラの為に用意したものだ。自由にきてくれ。食事は侍女が時間になったら持ってくるよう手配してある。他に不便があったら何でも言ってくれ」
「何から何までありがとうございます」
「それじゃ、俺は今から公務があるから行かなくてはいけないんだが、くれぐれも離宮から出ないようにしておいてくれ。クリヴはまだ君を狙っているからな」
クリヴ・・・その名を聞くだけでも身震いしそうになる。
「・・・はい」
パタンと扉が閉まると今までの緊張が一気に出た。
足がふらつき、立っていられなくなった。
何とかベッドまで行き横たわった。
(クリヴは本当に私のことを殺そうとしていた。)
その理由はきっとこの体に流れる血を狙ってのものだろう。
兎族の王族には不老長寿の血が流れている。
(その血を飲んだものには不老長寿が与えられるという伝説があるもの)
(私も・・・父の血でこの姿を保っていくのだろうか・・・?)
もともと小さかった私は父に心配ばかりかけていた。父の本当の最後は敵に殺されたんじゃない。
(あんなに綺麗で優しい人・・・エイルには、あの人には知られたくない)
(どうしてそんなことを思ってしまったのかしら)
父の最後の頼み・・・自分を殺して血を飲んでくれというものだった。
父は無理やり私に短剣を握らせ首に突き刺した。
私は泣きながらその血を飲んだ。
そんな私はきっと穢れている。
兎族はもともと短命。
兎の国は国王が交代するとき前王の血を奪う習わしがある。
国が長く続く反映できるように王を不老長寿にする。
私は父を犠牲にして生きている。私を逃がしてくれた父。息絶えるまで心配をかけてしまった。
私はー・・・もう、無邪気なあのころには戻れない。
そこで私の意識は途切れた。