クリヴ
クリヴは狼の国を出て旅に出ることにした。
理由は自分はもう狼国にとって必要のない存在になりつつあることと、軍部自体の衰退だった。
そのほかにも理由があった。
狼国には兄が王となっている。
そしてその婚約者もいた。
クリヴは初めはライラ・・・兄の婚約者の命を狙っていたが次第に気持ちが変化して手に入れたいと思うようになっていった。
彼女のどこに惹かれたのかはわからないがライラを心の底から欲しいと願ってしまった。
ライラは兄の婚約者、そして兄を唯一正常に保てる存在で連れ去るわけにはいかなかった。
町の薬屋に並んでる発作止めの薬はライラ無しでは製造することも出来ないとわかっていた。
彼女の血が狼族の発作を止める鍵となることを知っていた。
それでもあきらめきれずあの時ライラを誘いに行った。
「一緒に狼の国を出て旅をしないか」
彼女の答えは一番聞きたくないようなものだった。
「エイルの役に立ちたい」
彼女はクリヴの気持ちに気づかないでそう答えた。
その一言で吹っ切れたわけではなかったが今まで自分が守ってきた狼族国民の軍部のやつらが助けられているので無理強いをすることはできなかった。
自分の気持ちを伝えることはこの先ないだろう。
伝えたところで不毛だ。
ライラはエイルの事しか見ていない。
今思えば俺は・・・ライラの悲しむことしかしてきていない。
そんな男から告白されても彼女は困るだけだろう。
彼女は強い。
自分の国を滅ぼした国の民の為に血を提供し続けている。
もっと憎むべきなのに、俺への態度もそんなに悪いものじゃない。
出会いからやり直せたらどんなにいいだろうか。
あの時ライラを助けたのが俺だったら彼女は俺を見てくれただろうか・・・兄貴ではなく。
「はははは、今更か」
一人で虚しく笑い、呟いた。
狼族は番を見つけると死に別れても番を変えることはない。
王族は特にその傾向が強い。
このまま狼国にいればライラに何をするか自分でもわからなかった。
だから国を出た。
時折薬がなくなり取りに狼国に寄る程度にしているのはライラのためだった。
旅から戻ってきて、ライラに必ず会いに行った。
そのくらいしてもいいだろう。
だが感の良い兄はすぐに駆け付ける。
なかなかライラと二人きりで話すことはできないがクリヴは満足していた。
今の関係が最良なことを知っているからだ。
国に留まったとしても良いことなど何もないだろう。
ライラへの思いがこれ以上募る前にクリヴはまた旅路へと向かった。