ネイ
ネイには好きな人がいた。
子どものころからずっと一緒だった幼馴染。
ただ身分が違いすぎた。
ネイは活発な子供でよく城から抜け出し、色々なものを見て回った。
その時は一般市民に紛れるように変装していた。
だから周りの人々はネイが王女だと思いもしなかった。
ネイの周りには普通に友達もいたし、幼馴染の彼もいた。
幼馴染の彼は町はずれにあるパン屋の一人息子だった。
大人になり今は一人でパン屋をきり盛りしている。
ネイはそんな彼が大好きだった。
初め気の強いネイはなかなか周りに溶け込めなかった。
そんな時助けてくれたのが彼だった。彼の名前はアシス。
アシスはネイが王女であると知った時驚きのあまり気絶した。アシスは少し気が弱い所があった。
「ネイ・カターム。この名前知ってるわよね?」
「王女の名前だろう?もちろん知っているよ」
「それ、私の名前なの」
「・・・えっ?ははははは。またまた、そんな嘘ついて。一体どうしたんだ?」
「じゃぁ、証拠を見せれば信じてくれる?」
「ああ、証拠があればな」
アシスは信じていなかった。ネイが王女であることを。
「明日、町はずれの泉に来て。そしたら証明してあげる」
「わかった。わかった。今からパンを焼かないといけないからそろそろ帰ってくれ」
「それじゃあ、明日ね」
「ああ」
翌日、ネイはきれいなドレスに身を包み、化粧をし、王家の紋章の入った馬車で泉に行った。
そこには先に来ていたアシスが立っていた。
「これで信じてくれる?」
「・・・嘘だろ。じゃぁ、今まで俺たちが一緒にいたのはー・・・」
アシスは足をふらつかせ地面に腰を落とした。
どうやら腰が抜けてしまったようだ。
それはそうだろう。今まで、ただの町娘だと思われていたのだから。
ネイはアシスの元へ近づき手を差し伸べた。
「何やってるのよ、立ちなさい」
朝露で地面は濡れている。放っておいたら服にシミができてしまう。
「いけません。ネイ様。軽々しく俺のような者と口をきいては」
いきなりの拒絶だった。
「どうして?そんなの今更じゃない十何年一緒にいたと思っているのよ」
「だけど・・・」
「私、アシスのことが好きなの」
「えっ!?」
「結構アプローチしてきたんだけど全然気づいてくれなかったから直接伝えようと思ったの」
アシスはパン作りのことで夢中でネイの気持ちに気づかずにいた。
「・・・でも、俺はしがないパン屋の息子でネイ様はこの国の王女様です。身分が違いすぎます」
「身分?それじゃぁ、私が一般国民になればいい。そうしたら結婚してくれる?」
「・・・俺・・・が、王女様と結婚・・・?」
さーっと顔から血の気が引いてアシスは倒れてしまった。
「・・・相変わらず気が小さいわね」
ネイはアシスを自宅まで送り届けると城へ帰った。
「また出直そう」
幸い早朝だったので町の人たちに会うことなく城まで帰ってこれた。
「お父様!お話があります!!」
そういい勢いよく父の自室のドアを開けた。
「おお、ネイか。おはよう。どうしたこんなに朝早くから訪ねてくるなんて珍しい」
王はネイを溺愛していた。王女はネイだけであとは皇子だけだったからだ。
父親は娘に弱い。
「お父様!!私、王女の地位を捨てます。好きな人が一般国民なので私の求婚を受け入れられないようなので」
王は唖然とした。
「いや、そんなことはさせられない・・・それにお前には他国に婚約者がいるじゃないか」
「それは、お父様が勝手に決めた婚約者です。好きな人位自分で見つけられます」
「そうは言っても、お前自分が言っていることがわかっているのか?王女として育ったお前が自活できるのか?」
ネイは町に行った時からみんなの手伝いをしてきた。家事、子守。薪割りだってお手の物だ。
王はそんなことを全く知らない。ネイのことを箱入り娘だと思い込んでいた。
「自活できます。それを証明するために、今日から私は侍女としてこの城で働いていきます」
そう言うとネイは王の部屋から飛び出していった。
「ネイ!」
後ろから王の声が聞こえたが気づかないふりをした。
そうして何年も侍女として過ごしている。
初めの方は、王に呼び出され、怒られたり、小言を言われたり色々したがその内何も言わなくなった。
ネイは自力で王に一般国民になるということを証明して見せたのだった。
アシスとはあの泉以来会っていなかった。
王に認めてもらうまで自粛していたからだ。
認めてもらった今、二人の間の身分さという障害がなくなったはずだ。
会いに行こう。
アシスにー・・・。
「アシス元気かな」
ネイはアシスのいるパン屋へ向かった。
戸を開けアシスと目が合う。
「アシス、久しぶり」
アシスは口元を抑えている。
「ネイ様」
「様はつけなくていいし、敬語も無しね。もう王女の身分は捨ててきたの。ただのネイよ。あの時の返事を聞かせてくれない?」
「・・・本当に身分を捨てたのか?ネイ」
ネイは微笑んで見せた。
「今は城で侍女として働いているの。お父様に認めてもらうまでだいぶかかってしまったけれど」
「そうか・・・」
アシスは複雑な表情を浮かべていた。
「俺も・・・あれからずっとネイのことを考えていたんだ。俺もネイが好きだと気がついたんだ」
「仕切り直ししてもいいか?」
「?」
「ネイ、俺と結婚を前提に付き合ってください」
ネイの顔は真っ赤に染まっていた。
アシスは緊張のあまり震えている。
「・・・返事は・・・?」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
ネイは丁寧に返事をかえした。
そうして二人は無事恋人同士になることができた。