それから
殺戮衝動を抑える薬が出来上がると国中の薬屋に置かれ始めた。
クリヴが言っていたように軍部が衰退していった。
薬は睡眠薬ではなく安定薬の方だった。
なので、国中の皆は普通に日常生活が送れることを喜んだ。
発作がでそうなときにすぐ飲むと効果がより強く出た。
もともと何十年も薬の開発は行われてきたがほとんどが失敗作だった。
この薬には実は兎の国の聖地にしか生息しない木の葉とライラの血から作られていた。
月に一度採血をして聖地の葉を煎じたものと混ぜ合わせて作っていた。
このことは薬師とライラ、エイルしか知らないことだった。
そしてなぜかエイルにはこの薬が効かなかった。
それほど強い衝動を持っているからなのか、最初に直にライラの血を飲んでしまったせいなのかは分からなかった。
そういうわけでエイルは発作の度にライラから血を提供してもらっていた。
「悪い、ライラ」
「いいえ、役に立てて嬉しいわ」
噛まれるときは少し痛いけど慣れてくるとそうでもなくなる。
「そういえばクリヴは?」
「・・・たまに薬を取りに来る程度でまたどこかへ行ってしまう」
クリヴは軍部のリーダーを降りて城を出て本当に旅に出てしまった。
まるで自分の役目を終えたかのように。
本来ならエイルの補佐をするべき立場なのにー・・・。
「まぁ、あいつのことだから心配する必要はないだろう」
「・・・そうね」
きっとその内ふらっと帰ってきて私たちにちょっかいをかけてくるに違いない。
「もうすぐ結婚式なのにあいつにそれを伝えたくてもどこにいるかわからない」
「・・・」
そう、もうすぐ結婚式なのだ。
心の整理がついて自分の役割も理解した。
それで、約束通り正妃になることになった。
「クリヴは、ライラのこと好きだったんだと思う」
「え!?」
どうしてそんなことを言うのだろう。
「そう、その通りなんだ」
聞きなれた声がして後ろを振り返ると旅から戻ってきたクリヴが立っていた。
そう言いながらライラに近づいていき頬にキスをした。
「!?」
「俺のライラに何をする!!」
「まだお前のもんじゃないだろう」
「殺す」
エイルは剣を抜いた
「上等だ、こいよ兄貴」
クリヴもだ。
剣と剣がぶつかる音が室内に響き渡る。
これが狼族の兄弟げんかなのだろうか
もう、またこの兄弟はー・・・
本当はお互いが大好きなはずなのに何でこう喧嘩ばかり・・・!!
呆れながらも生ぬるい目で二人を見つめるライラだった。