クリヴとライラ
ここは狼族の国。
そして私は兎族最後の生き残りとして狼国の王エイルに保護され、静かに生活を送っていた。
「せっかく暫く静かだったのにあいつが戻ってきた」
「あいつって・・・まさか・・・」
(クリヴ・・・)
「使いで隣国へやっていたがもう帰ってきてしまった」
「そうですか・・・」
俯き落ち込む私にエイルが言う。
「心配するな、前にも言ったがお前を殺させはしない。しかし、あいつに見つかると厄介だから外へは出るな。窓も開けずなるべく静かにしていてくれ」
眉間にしわを寄せながらエイルは言葉を続ける。
「すべてが終わるまでの辛抱だ」
「はい」
素直に返事をしたのは良いがすべてが終わった時どうなるんだろうか。
「俺は、クリヴと話してくる」
「殺しあうんですか?」
「いや、国民全員を救う方法が見つかったから報告に行くだけだ」
ライラはほっとした。兄弟で殺しあわなくていい方法があったんだ。でも、何のことだろう。よくわからない。
ぼんやり考えているとエイルが声をかけてきた。
「時間だから行くよ」
「あ、はい。いってらっしゃい」
(エイルがいるととても心強い。一緒にいるといつもドキドキするし私、エイルのこと好きになってしまったみたい)
ふと窓を見てみると窓の外にぬいぐるみが見えた。
可愛い小さいもふもふしてそうなぬいぐるみ。
(どうしてあんなところに・・・)
カチャっとうっかり窓を開けてしまったことにライラは気づかなかった。
そっと手に兎のぬいぐるみをとっていた。
「みーつけた」
その時目の前にクリヴが現れた。
急いで窓を閉めようとしたが間に合わなかった。部屋ににクリヴが入ってきた。
「そんな兎のぬいぐるみ一つでライラが姿を現すなんて思わなかった。やっぱり仲間が恋しいのか?
ライラ・ラビィーク様」
クリヴはライラを小馬鹿にするように笑いながらライラに近づいてくる。
ライラは後ずさりながら踵をかえすと走り出した。
(逃げなきゃ)
走っているとすぐに追いつかれ壁際に追いやられてしまった。
ダンっと壁に短剣を突き付けられて逃げ場を封じられた。
「逃げるな、うっかり殺してしまいそうになるだろうが、俺は今日お前に会いに来ただけだ」
「話?」
「今のところ俺も殺戮衝動を抑えている。でも抵抗されると何をするかわからない。だから抵抗しないでくれないか?」
(この人こんなに殺気立ってるのに衝動を抑えているの?)
エイルとクリヴ。腹違いの兄弟だと聞かされたけれど全然違う・・・。
「お前、兄貴と結婚するって本気なのか?敵国で正妃になるってことだろう?」
(クリヴ?なんか様子がおかしい気がするわ)
「敵国で正妃になるということよりも、私がエイルと結婚すること自体嫌そうね・・・やっぱりほかの種族の血を王室に入れたくないの?」
「そんなことはどうでもいい。質問に答えろ」
剣呑な雰囲気の中会話が進められる。
「まだ婚約や結婚の話を受けるかどうか決めていません」
「それなのに兄貴に守ってもらっているのか?」
「・・・!」
一番言われたくない言葉だった。ライラはエイルに負担がかかっていることを気にしていた。
そこをつかれると辛い。
「なぁ、何故同盟国だった兎の国を滅ぼしたと思う?」
「それどういうことですか?」
にやりと笑うクリヴ。その笑いはぞっとするものだった。
「こんな話は知ってるか?兎人、100人の血を飲むと不老長寿が手に入るってやつ」
「確かにそういう話は聞いたことありますがそれは噂話にしかすぎないわ」
ライラは慌てて否定した。
「確かな話じゃないことはみんな分かっていたことだ」
「それならどうして・・・」
「病を抱えてる者。永らえて何かを成し遂げたい者。不老の力が欲しい者。世の中そんな奴らはたくさんいるぜ。ライラは不老長寿になったんだろう?今回は狼国の宰相もその血を狙って兎族の国を亡ぼすことに協力してくれたんだが・・・宰相は兄貴によって殺された」
ライラは不思議だったどうして教えてくれるのか。何故クリヴは自分を殺さないのか。
「・・・不老長寿ってそんなに皆が羨むものかしら・・・」
クリヴはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「さあな・・・俺は殺戮本能に忠実なだけで別にそうなりたいとは思わないけどな。つい追って殺めてしまう。食えそうなものなら喰らうけど大体は殺して満足できる」
「・・・」
「まぁ、狼国民がみんなそうだとは限らないけどな」
「そう・・・ですか」
皆がみんなそうならこの国にはいられなかっただろう。ネイ以外の侍女達にもあったが穏やかな人たちが多かった。
「最近兄貴が眠り薬を使わず何故自我を保っていられるか聞きに来たんだ」
「!」
「そしてどうしてお前が正妃に選ばれたのかもな」
そう言うとクリヴはライラの服を引き裂いた。
「嫌、見ないで」
ライラは両手で隠そうとしたがあっけなく壁に押さえつけられてしまった。
ライラの首筋にはたくさんの噛み傷があった。
「やっぱりな、そういうことか」
「え?」
「ライラの体に流れる血のおかげか。正妃にというより生贄に選ばれたようなものだな」
「どういうことなの?説明してくれない?」
「ライラの血は俺たちを満足させる効能を持っていて殺戮衝動等が抑えられるようなものなんだろう。そして、発作がでた時直にそれを飲めば発作も治まる。例え一時しのぎでもな」
「そうなの?」
「たぶんな。正妃にっということは兄貴が王を継ぐときの条件として父に交渉したことだった。どうしても好きな女とじゃないと結婚しないと言い張ってな」
「父?前王のことですよね?」
ああ、だからー・・・あんなにもエイルは私のことを。
「そういうことなら俺はお前を殺せない。ライラ、このままここにいて兄貴の生贄の花嫁となるか俺と一緒に自由に旅にでも出ないか?」
そう言うとクリヴはライラに手を差し伸べた。
「は?」
(どういうこと?殺そうとしたり、一緒に連れて行こうとしたり。クリヴの考えていることがわからない)
「ここに居ても利用されるだけだぞ。それより自由に生きないか?」
「・・・」
利用されてもいい。私は・・・もう決めていた。
「私はどこにもいかないわ。もう決めたの。エイルの助けになりたいの。あの人の役に立ちたい!」
「そっかー・・・残念だ」
頭をがりがりかきながらクリヴは言った。
「まだ細かい話は聞いていないが兄貴がさ、国民全員の衝動を抑える薬の開発に成功したらしい。そうなるともう俺も軍部も必要なくなる」
クリヴは嬉しそうだけどどこか寂しそうな表情をしていた。