2人の出会い
兎の国があった場所はもう今はない。
火の手が上がりかつての繁栄は失われた。
兎人最後の生き残りは王女だけとなっていた。
自室から外へとつながる道に父が逃がしてくれたのだ。
王女の名前はライラ・ラビィーク。
かつて国があった場所にライラは戻ってきた。
国の皆を弔うために。
皆の亡骸は燃やさられていた。そこに残ていたのは骨の残骸。
ライラはそれを手に取り森の土に埋めていった。
「みんな・・・ごめんね」
そう何度もつぶやきながら頬を伝う涙を拭っていた。
ライラの心に色々な感情が渦巻く憎しみ、悲しみ、無力感。
最後の骨を拾い終え再び土に埋めようとしたとき、背後に人の気配を感じた。
「見つけたぜ、王女様。こんなガキが生き残っているとはな。さすがの俺も驚いたぜ」
「!」
振り返ると剣の切っ先を突き付けられた。
「貴方はー・・・!!」
男は目を細め笑った。
「覚えてくれてるの?そっ、俺はクリヴ・カターム狼国の第二皇子だよ」
カリヴとは一度だけ合ったことがあった。
正式に王女として公の場に出たときすれ違う程度の接触だったけど覚えている。
誰よりも危険な雰囲気をまとっていた彼は一度見るだけでも記憶に残るほどの者だったから。
「お前以外は全員殺したよ」
「どうして・・・そんなことを!!」
「そういう衝動があるんだよ、今まで邪魔するやつがいたからできなかっただけでな」
「?」
彼の言っていることがわからない。でも、この男が兎の国を滅ぼした原因の一つなのは分かった。
キッとクリヴを睨むと彼は愉快そうに笑った。
「まぁ、こうなってしまったんだ。お前も諦めて死ねよ、王女様」
そういうとクリヴは地を蹴り、剣を振り下ろしてきた。
(もうだめだ私、ここで死ぬんだ)
そう諦め、硬く目を閉じた時だった。
キィンっと剣と剣のぶつかる音が聞こえた。
恐る恐る目を開けてみるとライラは自分が無傷であることに気がついた。
そしてライラに背を向けクリヴから守るかのようにして立ちはだかる人物を見た。
「やめろ、むやみに人を殺めるんじゃない!」
「また俺の邪魔をするのかー・・・兄貴!」
(兄貴・・・ということは第一皇子のエイル・カターム!!)
「まだほんの子供じゃないか」
その言葉を聞きクリヴは笑い始めた。
「ははははは、そんななりをしているが確かもう成人しているはずだぜ」
「え?」
ライラは口ごもった。
兎の国の人々は皆小さい。成人していても小さいままだ。18歳になったライラも例外ではなくやはり小さいままだった。
それに比べて狼族の人々は皆体が大きい。
「どけよ兄貴、そいつを殺してしまえば兎族は滅びるんだから」
「滅ぼす必要はない」
「王の言うことが聞けないのか?こいつは俺が保護する」
暫く二人の間に沈黙が走った。
先に剣をおさめたのはクリヴだった。
「俺が発作の薬で眠っている間に毎回殺戮を繰り返す・・・、俺は他国への干渉及び他国の民の殺害は禁止しているはずだが?」
「・・・ちっ」
クリヴは舌打ちした。
どうやら狼の国の王は兄の方が継いだようだった。
「興ざめだ・・・今日は見逃してやるよ。だが、次に会ったときは必ず殺す」
「クリヴ!!」
「俺は兄貴の考え方についていけない。なぜ殺戮衝動を押さえこむ必要があるんだ?」
「俺はこいつを絶対に殺させないからな!!」
クリヴは王に背を向け歩き出した。
王もそれを見送っているだけで特に何かしようとする気配はなかった。
それを見た私は全身の力が抜けて腰を抜かしてしまった。
「大丈夫か?」
腰が抜けたことに気がついた王がライラの元へやってきた。
「あいつのせいで怖い思いをさせてしまってすまない」
「大丈夫です・・・腰が抜けてしまっただけです」
(情けない)
そういうと王はライラを担ぎ上げた。
「何を・・・!!」
「さっき言っただろう、この辺りはまだ危ない、兎の国は滅んでしまってライラ・・・君にはいく場所はないだろう。人狼国で保護させてくれ」
「保護・・・?」
「ああ」
捕虜でなく?奴隷としてでもない?保護?
ライラには分らなかった。
この王の考えがー・・・。
でも危険な人でないことはなんとなく理解できた。