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爆弾魔球

作者: がちょん次郎

「やめろー、爆弾魔球だけは投げるんじゃねー!」

セカンドの尼類田ルイが ピッチャー、投山投男に向かって叫ぶ。

駄目だ。

爆弾魔球だけは、投げてはいけない。

尼類田は心の底から思った。

なぜなら、爆弾魔球を投げると、必ず人が死ぬからだ。


ここで爆弾魔球がいかなる魔球か説明しておかねばなるまい。

消える魔球という魔球をご存知だろうか。

そう、文字通り、ピッチャーが投げたボールが、見えなくなるという魔球だ。

消える魔球はピッチャーの投げたボールが消える。

そして、爆弾魔球はピッチャーが爆弾をほうり投げるという魔球である。

投げるのはボールではなく爆弾なので、当然、バッターが打つと爆発する。

これはただでは済まない。

バッターが死ぬのだ。

自分の命と引き換えにヒットを打とうとするバッターは、いない。

誰も打てない。

つまり、見逃しで三振に討ち取られることになる。

しかし、この魔球には欠点があった。

爆弾をキャッチしたキャッチャーも死ぬという点だ。

それだけが、爆弾魔球の弱点であった。


「やめろ、もうよせ、爆弾魔球は投げるんじゃない!」

ピッチャー投山は、尼類田のアドバイスを鼻で笑った。

爆弾魔球を投げるなだと。

冗談じゃない。

他に相手チームの強力打線を抑えられる球があるというのか。

ないだろ。

俺の爆弾魔球だけが、こいつらから三振を奪うことができるのだ。

お前にはわかるまい。

だが、尼類田には投山の気持ちが痛いほどわかっていた。

尼類田も肩を壊すまでは投手だったからだ。

しかし、それとこれとは別だ。

投山はもう爆弾魔球を5球投げていた。

つまり、キャッチャーが5人死んでいるのだ。

あと一人、キャッチャーが死んだら、警察の手入れが入る。

そうなったら試合どころではなくなる。

尼類田の叫びは、爆弾魔球により死んでいった仲間、

アイパッチ、モヒカン、カイゼル髭、盗撮魔、露出狂。

彼らの死を無駄にしない為の言葉だったのだ。


だが、そんな尼類田をあざ笑うように投山が投球モーションに入る。

その場の誰もが、キャッチャー取山鳥男の死を予感した。

後に取山はこう語る。

「ええ、死んだと思いましたよ。だって、爆弾を投げるんですよ、ありえねえっすよ。いくらキャッチャーミットが厚くたって、爆弾ですよ。わかります、バ・ク・ダ・ン。捕ったらドカーンです、ドカーン、ボーン、ボカーン、ボボボーン。ばーくだーんいやー、しんじゃうよー」

取山は発狂し、尿を撒き散らして、その後は取材にならなかった。


そして場面は試合にさかのぼる。

投山が爆弾魔球を投げた。

終わった。

皆が覚悟した。

しかし取山は死ななかった。

なぜか。

投山が投げたのは、爆弾ではなく、青龍刀だったのだ。

「受けてみろ、これぞ第二の魔球、青龍刀魔球」

次の瞬間、青龍刀は取山の太ももに深々と突き刺さった。

「ストライク・バッターアウト」

審判が三振を宣言した。


考えたな、投山。

爆弾は一球でキャッチャーが死ぬが、青龍刀なら、少なくとも3本までは耐えられる。

上手くいけば、5本までは元気でいられる。

尼類田は、投山の機転に驚きつつ、かつてない頼もしさを感じた。

これなら相手チーム、小学生女児だけで構成された、わんぱくラビッツに勝てるかもしれない。

俺たち700連敗中のチーム、ハイパースーパーすげーズに、初勝利がもたらされるかもしれない。

尼類田はそんな希望を感じないわけにはいかなかった。

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