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二度目のプロポーズ~呂彪弥欷助さんへの『クリプロ2016』参加特典ギフト小説~

作者: 日下部良介

呂彪 弥欷助さんへの『クリプロ2016』参加特典のギフト小説です。

「結婚しよう!」

 妻にプロポーズした時、プロポーズなんて、したりされたりするのは人生に一度だけだと思っていた。


 僕には妻が居る。もちろん愛しているし、それはこれからも変わらない。そして、その妻との間に授かった一人娘が居る。かけがえのない僕の家族だ。僕はその家族のために一生懸命働いている。その甲斐あって、順調に昇進もしてきた。その分、仕事も忙しくなったけれど、愛する家族のためならどんな苦労だって苦にはならない。


 日曜日の朝、ゴルフバッグを車に積み込んでから食卓に着いた。

「簡単なものでごめんなさいね」

 せっかくの休日だというのに接待ゴルフに出かける僕のために早起きをしてくれた妻が言う。

「何を言うんだ。いつも感謝しているよ」

「ねえ、来週は大丈夫よね…」

「ああ。ちゃんとあけてある」

 そう、来週の日曜日は娘を連れて遊園地へ行く約束をしている。これまで何度も急な仕事が入って約束を反故にしてきた。そう言えば、このところ、娘が起きているところを見たことがない。

「行ってらっしゃい。運転気を付けてね」

 いつも変わらない笑顔で見送ってくれる妻は僕の天使だ。


 接待は上手くいった。取引相手は今までより10%分多くの発注をすると約束してくれた。これで今期も何とかノルマを達成できるだろう。その安心感と疲れで一瞬、気を抜いてしまったのかもしれない。いきなり割り込んできたトラックに反応するのが遅れた…。


 朦朧とした意識の中に娘の声が飛び込んできた。

「パパ、死んじゃうの?」

 その声に僕は我に返った。真っ白な天井が見える。その視界の端に妻と娘が居た。意識が戻るのと同時に事故の記憶がよみがえる。

 僕は割り込んできたトラックに反応しきれず急ブレーキを踏んだ。途端に後ろを走っていた車に追突された。その反動でトラックの荷台の下へ突っ込んだ。へこんだ車体に下半身が挟まれ身動きが取れなかった。その後のことはもう覚えていない。

「あなた!」

 目を覚ました僕に気が付くと妻が叫んだ。その声には喜びと不安が入り混じっていた。

「君にあれだけ注意されていたのに事故っちゃったよ」

「でも、ちゃんと帰って来てくれたんだからいいのよ。しばらくは入院することになるけれど、毎日お見舞いに来るから」

「余計な世話を掛けるな。すまん」

「何を言っているのよ。家族のために働いてくれているんだもの。こんな時くらい…」

 妻はそれ以上の言葉を発することが出来なかった。その瞳からは幾粒もの涙が溢れだしていた。


 妻と娘は毎日見舞いに来てくれた。事故を起こしたのが自宅からそう遠くはない場所であったため、病院まではさほど時間がかからなかった。

「無理しなくてもいいんだぞ。君にもしものことがあったらこの子が可哀そうだからな」

 近いとは言え、高速道路のインターチェンジのそばにある救急指定病院は徒歩や自転車で通える距離ではない。妻は実家に置いてあった軽自動車で毎日通っているのだ。僕はそんな妻を心配して無理をしないで欲しいと告げた。

「あなたに言われたくないわよ。それに、私よりもこの子が楽しみにしているのよ。あなたに会えるのを」

 何とか上半身を起こしていられるようになった僕に娘はいつも病室に入ってくると飛びついてくる。

「私がパパの面倒をちゃんと見てあげるから心配しないで」

 僕は娘の頭をなでながら必死で涙をこらえる。

「ごめんな。また遊園地に行けなくなった」

「いいの!毎日パパと会える方がうれしいから」

 娘のその言葉に僕はハッとした。

 娘が起きる前には会社へ向かい、帰って来た時には娘は寝ている。たまの休日は休日出勤や接待ゴルフ。僕は娘の寝顔を眺めながら元気をもらっていた。けれど、娘が起きている時間に僕は家に居ないんだ。


 娘は毎日僕の世話をしてくれた。朝、妻と一緒に病院へやってくると、妻はパートのために一旦病院を離れる。娘はその間もずっと僕のそばにいる。「そうすることが今のこの子にとって一番いいことなのだと思うから」妻はそう言って僕が入院している間は保育園を休ませることにしたと言う。妻がパートを終えて迎えに来た時には「今日はね…」と、自慢げに妻に話をするのが微笑ましい。

「ママ、お金ちょうだい。パパにジュースを買ってきてあげるから」

「あら、ジュースならあるじゃない」

「ううん、特別なジュースがあるの。だって今日はクリスマスイヴだから」

 そう言って娘は妻にお金をもらうと病室を出て行った。

「特別なジュースって何?」

「いや、ぼくにもわからないよ。それにしても、あの子は君に似てきっといいお嫁さんになるな」

「そりゃそうですよ。私とあなたの子なんですもの」

 病室に戻ってきた娘が手にしていたのはなんと缶ビールだった。仕事から帰ってきた僕が毎日飲んでいるのを知っていたのに違いない。それを紙コップに注いで手渡してくれた。

「わたし、パパのお嫁さんになれる?」


 二度目のプロポーズの言葉は可愛い天使が届けてくれた。


呂彪 弥欷助さん、メリークリスマス!

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― 新着の感想 ―
[一言] かわいい! 娘がかわいすぎる! とっても幸せになるお話でした。 今日もこれから仕事を頑張ってきます! すてきなお話をありがとうございました。
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