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魔法少女殺人事件  作者: 宮元戦車
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風呂入ってない

「ワトソン。状況は説明したのだが、やはり、魔法という存在を信じてくれていない。ちょっと来て説明してくれないか?」


 伊丹がやってきて、俺を抱き上げる。


「こら! ワトソン言うなポニ! あと年上を無闇に扱うなポニ!」


「細かいな。いいから、来てくれ。彼女がお待ちかねだ」


「……ところで、そのメイドさんは美人さんポニ?」


「ああ、もちろん。とっても綺麗な人だよ。確か、今年で十七だ」


「おおお! 人間界のメイドって生で初めて見るポニ! 魔法少女もそれはそれでいいが、やはり、メイドも良いポニ。魔法少女とは違い、年齢はピンからキリまであるところが世代の差を――」


「そんなことはどうでもいいだろ」


 冷めた目で伊丹が俺を見ていた。


「……わかったポニ」


 廊下の奥には畳が敷かれた応接間があった。


 部屋は広く、およそ二十畳はあるだろう。壁には流麗な線で描かれた水墨画。中央に置かれた足の

低いテーブルはどこか気品が漂っている。


 そして、何よりも目立つのが、テーブルの前で座っているゴリラ。なんでこんな場所にゴリラの着

ぐるみが置かれているのだろうか。


「それで、どこポニ? そのメイドさんはポニ?」


 俺の言葉に伊丹が訝しげな目を向ける。


「すぐそこにいるじゃないか」


 すぐそこ?


 辺りを見回すが――。


「……ウホ」


 ゴリラしかいない。


「って、今、そこのゴリラの置物、喋んなかったポニ!?」


「何を言っているんだい?」


「だ、だよなポニ。気のせいポニか」


 それにしてもすごい出来のゴリラの着ぐるみだ。毛はゴワゴワしてて筋肉もボリュームがあり、な

おかつ、弾力もある。まるで、本物の――。


「本物かポニ!」


「我が家のメイド。ゴリ子さんだ。彼女はこう見えてもかなり優秀だ。ボクも彼女がいるから安心し

て家を任せられる。ゴリ子さん。彼は渡瀬翼。ボクの相棒のワトソンさ。マスコット界という魔法が使える世界の出身らしい」


「こいつゴリラポニ! メイドじゃないポニ! あとワトソンじゃなくて、せめてマスコット名のぽ

にたんって呼んでくれポニ!」


「いいじゃないか。ワトソンで。あと失礼だよ。立派なメイドじゃないか」


「ウホウホウッホ!(きゃー! 可愛い!)」


 ゴリラが胸を叩いて、ドラミングする。


「おい! 威嚇してるポニ!」


「ああ、それはお気に入りの人間にしかしない行動だ。どうやら、見た目はぬいぐるみの君を見て、大変気に入ったようだ」


「うれしくないポニ!」


「ウホウホウッホ!(お嬢様。すみません。私……お嬢様の言葉を疑っていました)」


「気にすることは無い。最初、ボクもどこかで遠隔操作でもしているんじゃないかと疑ったくらい

だ。しかし、どう見ても遠隔操作だけでは納得できない部分が多すぎる。まだ多少は幻覚ではないかと疑っているが、ここは魔法という言葉で一応の納得はしておこう」


「なんで普通に会話できるんだポニ?」


「何を言っているんだ? 当然だろう」


「当然!? そうなのかポニ!?」


 人間界は複雑だ。


「ウホウホウホ(あれ、この子……)」


 突然、ゴリラが俺の頭を無造作に掴む。


「いだだだだ!」


 物凄い握力に頭が潰されそうだ。


「おい、このゴリラは俺を圧殺しようとしてるポニ!」


「ゴリ子さん。あんまりやると中身が出てしまうぞ。……やはり、中身は内臓なのか?」


「ちゃんと内臓が入ってるポニ!」


「ウホウホウッホ!(すっごく臭いですわ! お嬢様! これはすぐに滅菌処理しないと!)」


「……ああ、確かに」


 ゴリラの言葉に伊丹が顎に手を当てて、納得する。


「何勝手に納得してるんだポニ!」


「いや、どうやら、君がやたらと臭うのが嫌らしい。ボクは耳さえ触れれば、あまり気にしていな

かったが」


「そういえば、風呂なんて一週間入ってないポニ」


「ウホウホ!(きゃー! 許せませんわ!)」


「ぐえええええ」


 ゴリラが俺の体を雑巾のように引き絞る。


 このゴリラ! 俺を殺そうとしていないか!?


「とりあえず、洗濯機に入れるか」


 伊丹が雑巾のように捻られている俺を奪うように掴む。


 死ぬかと思ったポニ!


「ドラム式の洗濯機で大丈夫かい?」


 伊丹が俺を掴んで屋敷の奥に向かう。やがて、洗面所らしき場所にたどり着くと洗濯機の蓋を開け

て中に俺を突っ込む。


「嫌ポニ! 普通に溺死ポニ!」


 慌てて俺は洗濯機から這い出る。


「ぬいぐるみ扱いするなポニ! 風呂が良いポニ!」


「それなら、丁度いい。ボクが君を風呂に入れるとしよう」


 伊丹は服を脱いでTシャツ一枚になる。


「い、いやだポニー! 入るなら一人で入るポニ!」


「ふぅ、わかったよ。いいから、とっとと入ってしまおう。今度の方針について、話したいことは山

ほどある」


 俺は必死に抗うが伊丹に軽々と持ち上げられて風呂場へと連れて行かれる。


「ぎゃあああああ!」


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