出会い
マッド・ハンターを倒したことで萌子のアパートにかけられていた結界は消えたが、それにより、近所の住人が騒ぎに気づいて次々と出てくる。
俺と伊丹は逃げるように萌子のアパート近くの公園にあるコンクリートで出来た穴の開いたドーム状の遊具に隠れる。
そこで俺はマスコット界や萌子のパートナー、魔法のことなど、俺が知っていることを全て話す。しかし、話し終えても伊丹の表情は変わらなかった。
「……魔法か」
疑っているのか信じているのか。伊丹の表情からは読み取れなかった。
「確かにさっきの出来事は正直、真実としか思えないな」
「真実ポニ」
「……だが、ボクは探偵を目指している」
伊丹は俺を見つめる。その瞳はどこまでもまっすぐに真実を追究する瞳だ。
「探偵というのは真実を暴く職業だ。その真実にはどんな不可解で魔法とも思えることも現実のトリックとして見ていかねばならない」
「魔法は……確かに存在するポニ。今回、この世界で魔法が悪用されたのだって初めてポニ。だか
ら、この世界の人間が懐疑的に思っても仕方ないポニ」
「なるほど。今回が初めてなのか。確かにこんな出来事があまりに多く続くと、事件はほぼ迷宮入り
だな」
「……伊丹! 魔法少女にしてしまってからこんなことを言うのもなんだけど。頼むポニ! 手伝っ
てほしいポニ!」
俺は伊丹に向かって頭を下げる。
「もしも、犯人を見つけたとしても逮捕権限はないから捕まえられないんじゃないかい?」
「大丈夫ポニ。一応、俺達は特殊刑事課に所属していることになっているポニ。これは証拠等があれ
ば、裁判所に逮捕礼状を取らなくても必要に応じて強制的に取り調べができる仕組みとなっているポニ」
「なるほどね。そういう権限もつくのか。……それなら、魔法を使える探偵というのはなかなか面白
そうだ」
伊丹に笑みが浮かぶ。
「……それはつまり」
「よろしく。ぬいぐるみ君。魔法少女として、探偵としてボクは全力を尽くすことを確約するよ」
伊丹が俺の耳を触る。
「いや、普通は握手だろポニ!」
「……ああ、つい。昔の癖でね」
伊丹は珍しく年相応に照れた表情を見せる。
「改めて、よろしく頼むよ」
伊丹が手を差し伸べる。
「俺はぬいぐるみじゃなくて、渡瀬翼って名前があるポニ」
俺は伊丹の手を握る。
少女の手は小さくて、とても優しい匂いがした。
これが新しい魔法少女――。
俺のパートナーとの出会いだった。