新しい魔法少女 その2
「なんだかわからんが、とにかく、これでなんとかなったのか?」
「なんとかなるかポニ! 全裸になって解決するなら世界は全て裸族でフィーバーだポニ!」
「しかし、強い自分をイメージした結果だぞ。イメージはネアンデルタール人だ」
「せめて、服着てる文明人を選ぶポニ!」
「しかし、彼らは狩猟生活が長く、肉体的な面では現代人を大きく上回っている。彼らは自分達が忘れた何かを持っている」
「服は忘れるなポニ!」
魔法少女マジカル全裸! なんて絶対、嫌だ! 間違いなく深夜枠だ!
ただでさえ、昨今の魔法少女は脱ぐような要素があったり、なぜか風呂シーンが導入されたり、やたらと胸が強調されたシーンが多い。これは魔法少女というジャンルに対して失礼なものだ。そもそも、魔法少女というのは人々の良心的な部分から生まれた――。
って、そんなことよりも。
「は、早く、もう一度、想像するポニ!」
「しかし、これでもいいのでは? ボクは全く気にしないぞ」
「俺が気になるポニ!」
俺が必死に少女を説得していると――。
『ギ、ギギギ……マホウ……ショウジョ……ハッケン……』
マッド・ハンターの無機質な声が聞こえた。
しまった。忘れてた!
『ハイジョ……モード』
同時にマッド・ハンターの背中から更に三本の腕が生える。
な……!?
こんなマッド・ハンター見たことがない!
改良されている!?
「イメージ。イメージか」
再び、少女が目を閉じる。
「強い……イメージ。――剣の型」
少女が輝きだす。
それを阻止するようにマッド・ハンターの腕が伸びる。計五本の腕。それらは一直線に少女へと向かう。
――同時に少女が再び光りだす。
「やめろポニ! バリ――」
しかし、俺が叫んで魔法を発動しようとするが既に遅く、破壊の鉄槌は少女へと叩きつけられた。
「そん、な……」
無数の腕が叩きつけられた破砕音に絶望した俺は頭を垂れる。
ここで……ここで終わりなのか?
萌子の仇も討てず、俺は――。
「なるほど」
その時、光の中から声が聞こえてきた。
「……なるほど。原理は全くわからないが、魔法が想像力で作られるというのはよくわかった」
やがて、光が収まるとそこから現れたのは探偵帽を被ってインバネスコートとのベスト、チェック
のスカート、天眼鏡をかけた少女だった。少女は手にした手帳で易々とマッド・ハンターの五本の腕を押さえていた。
「……そ、それは!?」
その服装はまるで探偵のようだった。
「一度でもいいから探偵服というものを着てみたかったのだが、こんな形で夢が叶うとは」
マッド・ハンターの五本の腕が徐々に膨張していく。どうやら、少女の手帳を破壊するつもりらし
い。腕一本ですら、少女を易々と貫き破壊することができるだろう。それが五本ともあれば、さすがに魔力が宿った手帳といえども、長くはもたない。
「過信するなポニ! そのゴーレムは一話で出てくるような敵とは能力に差がありすぎるポニ!」
「大丈夫さ。コツは掴んだ。ステッキ!」
少女は落ち着いていた。少女が目を閉じると、軋みを上げる手帳に魔力の光が宿り、その形は変わっていく。
形状変化魔法!?
種を埋め込んだ物を変化させてロッド等に変える魔法の基礎。
無論、それはどの魔法少女でも使える簡単な基礎だ。
魔法というものは具体的なイメージで生まれる。
想像力が豊かな子供ならば比較的、容易いが、それでも魔法を使いこなすことは難しく、ここまで
早く順応するなんて本来ならばありえない。
魔法の才能は歴代の魔法少女よりも数段は高い。
やがて、手帳は一本のステッキに変化した。
「一旦、下がるんだポニ!」
変化させただけでも上出来だが、マッド・ハンター相手では、それだけでは無理だ。
種に埋め込まれた必殺魔法の使い方を――。
「はぁ!」
気合と共にステッキで五本の腕を一気に弾く。
「すごいポニ……」
普通なら少女にそんな筋力は無い。魔法を使えば筋力を強化することは出来る。しかし、それはあ
る程度、慣れた魔法少女ができることだ。
魔法の才能があるだけでも珍しいのに、魔法を使いこなす才能まであるのか。
とにかく、ゴーレムに隙が出来た今がチャンスだ!
「今ポニ! ここで名乗りポニ!」
「伊丹・フォン・アルデバルグ・ベルリッヒンゲンだ!」
「が、外人ー!?」
「正確にはドイツ人と日本人のハーフだ。幼い頃から日本にいたため、英語は全然、話せないがね」
「そうだったポニか。って、そうじゃないポニ! 新しい魔法少女になったなら、魔法少女名を名乗
らないと絶対に駄目ポニ! ……そうポニ! 今日からピュア・ホームズと名乗るポニ!」
「わかった。真実はいつもひとつ! ピュア・ホームズ!」
「アウトだポニ!」
「注文が多いな」
「『全ての事件を解決! Q.E.D』って口上するポニ!」
こくりと伊丹が頷く。
「全ての事件を解決! Q.E.D! ピュア・ホームズ!」
伊丹がステッキをマッド・ハンターに向ける。
「オッケーポニ!」
やはり魔法少女は口上を述べないとな!
「……これで何か変わったのかい?」
「いや、特に変わらないポニ。ただ魔法少女になったのなら、これは絶対条件ポニ!」
「そういうものなんだね。……おっと、向こうはそろそろやる気みたいだね」
マッド・ハンターがのしりのしりと重い足を響かせてやってくる。
「決定的な攻撃を与えないと。何かないのかい」
「ここで必殺技を使うポニ!」
魔法少女が最後に敵を倒す時に使う必殺魔法。本来ならば、もう少し魔法が使えるようになってか
ら教えるのだが、ここは必殺技が使えないと勝てない。
「そのステッキに意識を集中するポニ!」
俺の言葉に少女はうなずいて輝き始める。
ステッキに伊丹を介して、イメージが注ぎ込まれて、魔力が生まれる。
その光は魔力の輝きで明るく――。
「え? ど、どういうことポニ!」
いや、ピンクに染まっていく。
ステッキはピンクに変わり、温かく包み込むようなオーラを放つ。
「変な想像したんじゃないポニか!?」
「失礼な。ボクはなんでも切れるような感じで集中しただけだ」
魔法は大別すると攻撃魔法である火、水、風、雷、土とサポート魔法である光、闇の七種類しかな
い。
それなのに、どの属性にも値しないオーラの色だ。
まさか! 噂に聞いたことがある! 全ての魔法を無効にする伝説の魔法があると!?
禁呪の種というのは最初から魔法が埋め込まれている種なのか!? だから、最初から魔法が使えるというのか!
「と、とにかく、そのステッキで相手を斬るポニ!」
マッド・ハンターの五本の腕が伸びる。五本の腕は伸びていく途中で更に枝分かれして、計十本の腕となる。
まるで網の目のように広がった腕は伊丹を逃がさないとばかりに迫ってくる。
伊丹は慌てず、その網の目に向かって突進する。
――一閃。
振るったステッキは簡単に目の前に広がる腕を斬り裂いていく。その一撃でマッド・ハンター本体への道は出来た。
なんだ。あのステッキは……。いくら、魔力で覆われていたとしても、あんな簡単に同じ魔力で覆
われたマッド・ハンターの腕は斬り裂くことなんてできない。
あれが禁術の力!?
「探偵として、もう少しこれを調べたかったんだけど。しょうがないな」
マッド・ハンターに向かって伊丹が走り出す。
魔法で強化した脚力はマッド・ハンターの残った腕に捕まることはなく――。
「そこで心の内に沸き上がった呪文を言うポニ!」
それが魔法の種を介して生まれた魔法の発動キーだ。
「全ての謎は解き明かされる」
ステッキを大きく振りかぶり――。
「余罪追及――!」
って、なんだその技は!
斬――。
ピンクのステッキはマッド・ハンターの胴体を上下に分かつ。呆気なく、マッド・ハンターは地に
落ちた。
……やった!
半分に分かれたマッド・ハンターの体が霧となっていく。
こうまで簡単にマッド・ハンターを倒すなんて。
「それで、一体、これはどういうことなんだ? 詳しく説明してもらえるな?」
こうなった以上は仕方がないか。
「ああ、わかったポニ」
伊丹を魔法少女にしてしまったからな。きちんと説明しなきゃ駄目だよな。
最近、予約投稿覚えました。