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魔法少女殺人事件  作者: 宮元戦車
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新しい魔法少女

 そのまま、道路に出て、助けを呼ぶのかと思いきや、アパートの隅の目立たない場所へ俺を下ろす。


「なんで……助けたん、だポニ」


 まだ俺の体は治らない。かといって、あの状況は一般人には不可解で恐怖だ。てっきり、警察へと逃げ込むのかと思った。


「さっきも言ったけど、ボクは探偵だ。このまま何も知らずに逃げるのはボクの心得に反する。それに君が怪我をしたのはボクのミスだ。すまない」


 鋭かった瞳には後悔の念が浮かんでいた。


「だから……ボクが囮になろう」


「囮って……お前……」


「事態は全くわからない。しかし、あれはボク達を狙っている」


 少女は警棒を手にして、アパートの下から萌子の部屋を見上げる。


「なら、ここは無傷なボクがなんとかする」


 萌子の部屋からマッド・ハンターがゆっくりとした動きで出てきて、言葉も無く、何かを探るように首を振る。どうやら、俺達を探しているらしい。


 マッド・ハンターを倒すのは非常に難しい。


 ここは逃げの一手でいきたいところだが……。おそらくは魔法でアパート周辺を結界で覆っている

だろう。


 ということは、逃げられるかどうかも疑問だ。


「大丈夫。君はボクが守る」


 少女が初めて微笑む。


 言葉とは裏腹にその微笑みは年相応に幼いものだった。




「大丈夫。翼は私が守るよ。だって、私達は友達だもん!」



 なぜか、萌子の言葉を思い出す。


 似ていない。顔も性格も信念すらも違う。


 それなのに、少女の真っ直ぐなところは萌子に似ている。


 この少女を魔法少女にしたら、この危機も乗り越えられる。


 魔力が見えるということは素質もある。


 ……いや、一時の感情に流されるな。魔法少女はもっと厳選した結果の末に決めるものだ。


「君はここで休んで――」


「お前は魔法をどう思うポニ?」


 そう思っているはずなのだが、自然と口からこぼれてくる。


「魔法……?」


 不可解だと言わんばかりの表情をする少女。


 それでも、俺の真剣な顔に少女は手を口に当てて思索する。やがて、結論にたどり着いた時、少女は顔を上げる。


「そうだな。そんなものを使えたら、犯人との対決に役立てるね。犯人との格闘戦の時にボクが魔法

の力で後光が差せれば、目眩ましに使えそうだ」


 いや、もっとあるから! そんな救世主みたいな探偵嫌だよ!


 夢がなさすぎる。だけど――。


「は、はは、は!」


 堪えきれずに笑ってしまう。


「なぜ笑うのかわからないな」


 魔法に対して即物的で清廉潔白とはいえない心を持つ。この少女はとても魔法少女に向かな

い。……だからこそ、面白い。


 心の奥に忘れていた何かが呼び起こされる。


 遠い昔、萌子と一緒に置いていった何か。


「これをやるポニ……」


 取り出したのは禁呪の種。


「なんだ? この種は?」


「時間がないポニ。何かいつも手元にある大事な物はないかポニ?」


「大事な物と言われても……。強いて言えば、この手帳くらいか」


 少女はポケットから古びた黒い本革の手帳を取り出す。


「なら、その手帳にこの種を埋め込むポニ」


「手帳に種を? どうやって?」


「いいから、種を当てるポニ!」


 無理やり、禁呪の種を渡す。訝しげに少女はそれを受け取ると、手帳に種を当てる。


「……これは」


 すると、種は手帳へと吸い込まれる。


 どうやら、上手く人間界の物質へと融合した。


「この種は人間には融合できないポニ。だから、魔力を持った人間と縁が深い物に融合させるポニ」

 聖樹の種は魔力を持った少女にとって縁が深い物と融合して、魔力を持った者が魔法を覚えやすい

ように補助する――いわば、補助輪のようなものだ。


 慣れてくればこの種が宿った物を使わなくても魔法が使えるようになる。


「何を言っているんだ? 君は」


 少女の表情に戸惑いと懐疑が浮かぶ。


「この状況をなんとかするなら、これしかないポニ!」


 俺は真剣な表情で訴える。


「これというのは?」


「君は……魔法少女になるポニ!」


「……は?」


 少女の顔が呆気に取られる。


「パートナーになって欲しいと言ったポニね。その提案、受けるポニ! だから、ここは俺を信じるポニ!」


 その時、マッド・ハンターがこちらの魔力に反応して、ゆっくりと近づいてくる。


「……なんだかよくわからないが」


 少女が手帳を手にマッド・ハンターを睨む。


「ボクの命を救ったパートナーの君を……信じよう」


 この時、俺はなぜか、少女の背中に萌子が見えた。


「それでどうすればいいんだ?」


「……簡単ポニ。強い自分をイメージするポニ」


「強い……自分?」


「そうポニ。魔法はイメージで生まれるポニ。強い自分、なりたい自分、それを願うことでイメージ

に近い変身魔法が生まれるポニ」


 今回、渡したのは禁呪の種。一体、どんな効果があるのか。


 マッド・ハンターが手を向ける。漆黒の腕。それは少女の柔肌など簡単に引き裂く凶器そのもの。


「なるほど。自己暗示みたいなものか。やってみよう」


 少女が静かに手帳を手に目を閉じる。すると、手帳は光り輝く。


「発動が早いポニ! もう手帳が少女のイメージに呼応してるポニ!」


 手帳の光は更に大きくなり、少女を包み込む。


「これが……魔法?」


 光の中から少女の呟きが聞こえた。


「そうポニ! 光を受け入れるポニ! その光は敵じゃないポニ!」


 きっと手帳から流れた魔法が少女へと伝わっているのだろう。


 やがて、光が収まっていく。きっとそこには魔法で新たなる姿へと生まれ変わった少女の姿があ

る。


「不思議な感覚だ。まるで、素肌が風に当たっているようだ」


 こうして、新たに生まれ変わった魔法少女が――。


「って、なんでやねんポニ!」


 なぜか、少女は全裸だった。それはもう一糸まとわぬ姿で全く凹凸のないボディーを晒していた。


「これがボクの魔法の力。どこか清々しい」


 少女は手帳を片手に仁王立ちで俺へと微笑む。


「それは全裸の力ポニ!」


 しかも、少しは隠せ!


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