始まり
魔法少女。
とある魔法の国に存在するマスコットが少女の前に現れて魔法の力を授ける。
その後、場合によっては悪の魔法使いを倒す。もしくは魔法の力で人々を幸せにする。
それは台本と視聴率、流行によって決められている。
魔法少女とはテレビの中だけの話。
そんな風に思われがちだが――。
――魔法少女は現実に存在する。
枯草が広がる丘の上に少女は仁王立ちしていた。
見た目は十歳くらいだろうか。
煌びやかで優雅な様々な装飾品が施された白を基調としたどこかの王女のようなフリフリのドレスを身に纏い、整った顔立ちと腰まで届く長い黒髪が幼いながらも、彼女を一回り大きく見せていた。
「ゴーレム・ゲヘナ! 緑溢れる豊かな丘を汚すのはそこまでだよ!」
少女が丘の下に溜まった黒いヘドロを指さす。すると、黒いヘドロが大人くらいの大きさに盛り上がり、口と目が浮かび上がる。
「ゲ、ゲヘヘヘ! だ、誰だ!?」
その問いに少女は腕を交差して足を広げる。
「魔法の国からやってきた! 人々の幸せを願うため! 悪いやつを一撃必殺!」
びしっ、と効果音が付くくらい相手を再び指さす。
「魔法少女ライトニング・ピュア! 参上!」
どぉん、とライトニング・ピュアの背後が爆発して、黒い煙が上る。
「ゲ、ゲヘヘ! ラ、ライトング・ピュア! 現れたな! き、今日こそ、やっつけてやるぞ!」
「とお!」
ライトニング・ピュアが一気にコールド・ゲヘナに向かって駆け下る。
その動きはまさに電光石火。
「こ、このぉ!」
ゲヘナの体から無数の触手が生えて、一直線にライトニング・ピュアの胴体を狙う。
しかし、ライトニング・ピュアは身を低くしてその攻撃を避ける。
「ていや!」
ライトニング・ピュアは小柄な体を利用して低い重心から無数の雷をまとった手刀を繰り出す。
その全てがゴーレム・ゲヘナに直撃するがまるで水を切っているようにすり抜けてしまう。
「ゲヘヘヘ! オ、オラに打撃は効かねぇだ!」
対物理専用のゴーレム。
その薄い粘膜のような体はちょっとした風圧ですぐに拡散してしまう。
「だったら――!」
ライトニング・ピュアの動きが円を描くよう相手の周りを回るものへと変化する。
「む、む、む」
必死にゲヘナが目を動かすが、あまりの速度に目玉はついてこれない。
「はぁぁぁぁぁ!」
枯れ草を吹き上げるほどの速度をみせつける。さながら、小さな竜巻だ。
「ゲ、ゲヘヘヘヘ! そ、その程度か!」
ゲヘナが顔を歪めて余裕の笑みを作る。しかし――。
「オ、オラの体が……!」
あまりのスピードの蹴り足に風が生まれ、ゲヘナの体が散らされていくのだ。
「まだまだ!」
――更に速度を上げるライトニング・ピュア。
「ま、待ってくれ!」
ゲヘナはライトニング・ピュアの目的に気づき、慌てて声を上げる。
そして、ゲヘナの体が手のひらほどの大きさになった時、ライトニング・ピュアの動きが止まる。
ライトニング・ピュアの目的は高速の動きで風を起こしてゴーレムのコアをむき出しにすることだった。
ライトニングの名を持つほど素早い彼女だからこそ出来る技だ。
「とどめ! 大いなる雷撃で眠りなさい!」
ライトニング・ピュアの手のひらには魔法で作られた電撃が溜まっていく。
「マジカル・ヴォルティッカー!」
ライトニング・ピュアがゲヘナに向かって雷撃を打ち込む。
「ぐへええ!」
雷撃はゲヘナを溶かしつくして、塵と消える。
「正義は勝つ! えへへ」
テレビの前でブイサインして、ライトニング・ピュアははにかんだ笑みを見せる。
それはテレビの中の出来事。
魔法少女とは現実にあり、しかし、ブラウン管の中にしか存在しないもの。
今の俺にとっては――。
前作は大幅に改稿しています。
これはHJ文庫様のHPに載っているものを改稿しました。