ウサギはときに微笑んで
「クロル!」
良介がセンター長室の扉を開けた。
「良介•••。そうか、エルフが言ってたお客さんって君のことだったのか。」
クロルはそう呟いた。
「クロル。どうして地球に⁉︎」
良介に質問されるとクロルはすっと一通の手紙を取り出した。
「良介。君に会いに来たんだよ。」
クロルが出した手紙は良介が月から飛び立つ時にウサギへと託したものだった。
「この手紙と、とても素敵なプレゼントをくれたことにどうしてもお礼が言いたくて。」
クロルは窓の外へと視線を移した。
「もちろん。君が贈ってくれた素敵な宇宙船に乗ってね。」
悠が月へやってきて少しずつ良介は地球への帰還を意識し始めた。思い返せばここへ来てからクロルにはずっと世話になっていて、助けてもらってからロクに礼も出来ていない。なにか、ここを出るまでにクロルに礼をすることは出来ないだろうか•••。
「そういえば、買い物に行くための宇宙船が壊れてるって言ってたな。」
良介はクロルが壊れたと言っていた宇宙船のある倉庫へと向かった。その倉庫には、以前から良介が地球へと帰るためにコツコツと直していた宇宙船と、ホコリの被った宇宙船が残っていた。
「これがクロルの言ってた宇宙船か。」
良介は宇宙船へと手を伸ばした。次の瞬間
ガッシャーン!
長い間放置されていた宇宙船は良介の手が触れただけで見るも無残に崩れ落ちてしまった。
「あー•••。俺が直してたほう使うか。」
良介は元々自分が乗ってきたほうの宇宙船をクロルへのプレゼントにすることにした。
クロルが少しでも生活しやすいように。そして少しでも自分のことを、この宇宙船を見るたびに思い出してくれるように願いを込めて。
そして俺が月を出発するとき、そばに居たウサギに手紙を渡した。
「クロルに渡してくれ。」
ウサギは手紙を受け取るとコクンと頷いた。ニコッと微笑んでやると名残りおしそうに俺の顔を見て離れて行ったのだった。
「元気で。」
そう言い俺はウサギを見送ったのだった。
「良介、君に会えてよかった。手紙も、ウサギくんに託してくれてありがとう。」
「手紙、ちゃんと渡ったんだな。」
「ありがとう。」心の中で俺はあのウサギに礼を言った。
「本当に、エルフに頼んでよかった。」
そういえばクロルは月から来たのだ。普通なら他の惑星から地球に向かって何かが来ていればニュースになるはずだ。それに俺がクロルに渡した宇宙船。そんなに小さいものじゃなかったはず。そんな宇宙船を一体どこに置いているのか。
それに「エルフ」って•••。
「良介。そんなに難しい顔をしないで?」
「!」
どうやら俺は気づかないうちに難しい顔をしていたらしい。俺の様子を見ていたクロルは「フフッ」と笑うと
「良介、話をしよう。君に会ったら話したいことがたくさんあったんだ。」
そう言うとクロルはそばにあったソファーへと腰をかけると話を始めたのだった。