餅つきウサギと黒ウサギ
センター長室
「•••良介。」
クロルは呟いた。センター長室には今、彼1人だけがいた。
ここは本来センター長のみが入室を許されている。客人として会いに来た人でさえ、その部屋に入ることは無かった。
「まったく。急に来るからびっくりしたよ。事前に連絡くらいしてくれよ?クロル。」
「ごめん。急に会いたくなってね。次からはちゃんと連絡するよ。エルフ。」
クロルは目の前にいる少年にそういった。
クロルが「エルフ」と呼んだ少年こそ宇宙センターのセンター長である。普段はクロル同様の少年のような姿ではなく、成人男性に姿を変えて過ごしていた。部屋に篭っての仕事が多いせいかその姿を見た事がある者はほとんどいなかった。
「最初見たときは本当に驚いたよ。だってエルフ、僕が知ってる姿じゃなかったからね!」
「フフフ。しょうがないよ。部屋から出るときは極力姿を変えることにしてるんだ。地球人には地球人の姿で会わなくちゃ。」
「そういうもんかな?」
「そうだよ。それに月の出身だってバレたら色々と大変だしね。」
エルフもクロルと同じく月に住んでいた。もう何年も前に地球へ降り宇宙センターを作ったのだった。
「エルフが月を出てからもう何年にもなる。フフフ。僕、寂しくて途中で年数を数えるのをやめちゃった。」
「•••。クロル、もう少しなんだ。もう少しで月に帰れる。」
ピピピッ。センター長室にアラームの音が鳴り響いた。
「何だい?」
青年の姿へと変身しながらモニターへと話しかけるエルフ。
「うん、うん。わかった。彼をここへ通してあげなさい。」
ピッ。
モニターの通信画面を消しながらエルフはクロルの方を向いた。
「クロル。君にお客さんだよ。」
「僕に?」
「うん。しばらく部屋から出ているからゆっくりと話をするといい。」
そう言うとエルフはタッチパネルを触り、部屋から出て行った。
エルフが部屋から出て廊下を歩いていると、向こう側からすごい勢いで走ってくる青年とすれ違った。
青年はエルフには気づいてない様子だったが、エルフはその青年の後ろ姿をじっと見ていたのだった。