君は寂しげに微笑んで
「よかった。本当によかった。良介さんが無事で。」
突然、月へとやってきたこいつはクロルの家へと着くなりそう言った。
「ったく。相変わらずだな。悠。」
「えへへ。」
やってきたこいつの名前は悠。悠は宇宙センターの後輩で俺のいた開発部ではなく、宇宙飛行士としてセンターに入ってきた。
人懐っこい性格で悠がセンター入りしたばかりの頃に案内係として俺がセンター内を案内してやった事がきっかけでなぜか「良介さん。良介さん。」と俺の後を付いてくるようになった。変わったやつだ。
「そういや。悠はなんでここに来ることになったんだ?」
「僕が、呼んだんだよ。」
「クロルが•••?」
数日前
『やぁ。クロル。久しぶりだね。どうしたんだい?君から連絡だなんて。』
「久しぶり、エルフ。実は、君に頼みたいことがあるんだ。」
「良介。君は、やっぱり地球へ帰ったほうがいい。」
「•••は?」
クロル?
「君の居場所はここじゃない。地球だよ」
"俺の居場所"
「地球にはまだ君のことを必要としている人がいる。」
なにを言い出すんだ。
「だから帰るんだ良介。君の居場所へ。」
「そのために迎えに来たんですよ!良介さん!帰りましょう!」
俺の帰る場所。俺がいるべき場所。
「クロルは•••。」
ポツリポツリと言葉が出てくる。
「クロルは、俺が、いなくて大丈夫なのか?」
顔を見ることができない。今、クロルはどんな顔をしてるんだろう。
「寂しく•••ないか?」
何を言ってるんだ。俺は。
「•••大丈夫、だよ。だから安心して。」
何を聞いてるんだ。俺は。だいたい今まで1人でいた時間のほうが長かったんだ。俺がいなくなったところで、クロルは今までの生活に戻るだけじゃないか。
そして別れの日が来た。
「それじゃ、クロル。元気で。」
「あぁ。良介も元気で。」
クロルは抱きかかえたウサギの手を振る。後ろにいるウサギたちの表情はどこか寂しげに見えた。あぁ。クロルはどんな顔をしてるんだろう。
ムニッ。
「⁉︎」
「良介。そんな顔しないで。」
クロルは俺の両頬をつまむと笑いながらそう言った。
「会いたくなったら月を見て。月はいつでも良介を照らすから。僕も、見守ってる。」
クロルは少し下を向いて、それからなにかを飲み込むように言葉を選びながら、
「僕もそうするから。」
と、どこか寂しげで、でも輝くような眩しい笑顔で俺に言った。
「良介さん。そろそろ。」
悠が言った。
最後までクロルは笑顔だった。ウサギたちとともに見送ってもらいながら俺は悠と月を後にした。
ここまでで第1部終了です。
お付き合いありがとうございました。
まだ続きますのでこれからもお付き合いしていただけたら嬉しいです!