荷物を運んだら見られた
「高橋、ノートを職員室まで運んでおいてくれ」
放課後、色々予定を考えていた達也だが、いきなり出鼻を挫かれた。
恵はこういった雑用をよく頼まれる。
まぁ、その報酬として資料室の鍵が与えられているのだが。
これまでは、恵から頼んでこなければ積極的に手伝ったりしなかったのだが、彼氏としては無視して帰るわけにもいかない。
「手伝うよ」
「ありがとう。でも、少し待ってて」
何を? と思ったが、直ぐに分かった。
必死にノートを書き写している生徒がまだ何人かいる。
2、3週に1回はノート提出があるのだから、それなりにでも板書を書き写しておけばこういった苦労は無いのに。
本人が苦労する分には「勝手にしろ」なのだが、こうして待つのは割と暇だ。
とりあえず、達也と恵はあたり障りのない会話をして時間をつぶした。
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待つのは嫌だと思っても、会話をしていればそれなりに時間が経つのは早い。
早々に職員室にノートを届けて2人で下校することにした。
放課後デートというやつだ。
人もまばらな放課後の校舎を下駄箱に向かっていると、前方の階段から突如段ボールが現れた。
その段ボールは、2人に気付いているのかいないのかどんどん近付いてくる。
あまりの出来事に2人で固まってしまったが、なんという事はない。
段ボールを3つほど積んで運んでいる人物が居るのだ。……おそらく、完全に前が見えていない。
その小柄なツインテールの女子生徒の事は2人とも知っていた。
「あれ……進藤さん……よね?」
「……だな」
彼女……進藤 陽子はちょっとした有名人だ。
身長こそ小学生並だが、その小さな身体からは想像もできないパワーを持っていることで知られている。
達也とは小、中と同じ学校だった縁で、中学の担任教師からウェイトリフティング部のある高校に進学するように説得されていた事も知っている。何故この高校に進学したのか、本人に聞いてみたこともあるのだが、理由は教えてもらえなかた。
「力持ちだとは聞いていたけど、実際に見ると凄いわね」
達也は何度か見ているのだが、圧倒される事は変わらない。
一体、どれほどの力があるのか?
軽い気持ちで、達也は彼女のステータスを見てみた。
名前:進藤 陽子(処女)
種族:鬼
年齢:15
家族:父・母
体力:181
筋力:541
(以下略)
「……鬼て」
うっかり呟いた声を、恵は聞き逃さなかった。
「鬼って、昔話とかのあの鬼? そんなの居るワケが……何でもない」
彼女自身がサキュバスなのだ。鬼や河童が居ても不思議ではないだろう。
まさか、同じ学校に居るとは思わなかったが。
たしかに、鬼ならば彼女の怪力も納得できる。
もしかしたら、電撃を出したり、空中に浮いたりできるのかも知れない。
まぁ、怪力だけでも目立っているのに、そんな事はやらないだろうが。
さて、荷物は軽々持ち運びができているようだが、彼女はどうやら前が見えていない。
実際、達也と恵の存在に気付かずに真っ直ぐ向かってきている。
手伝った方が良いだろうな。と達也が考えている時、恵が声を上げた。
「あ」
その声は意外に大きく、今度は進藤の耳にも届いた。
「ああ高橋さん、今帰り?」
相変わらず達也には気が付いていない様子の進藤の言葉にも、恵は答えずに微妙な顔をしている。
いや、なにやら指を下に向けて合図を送っている。下というよりも……スカート?
達也が先にその合図に気付いてしまい、目線を下げて……再び動きが固まった。
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達也に遅れて陽子が合図に気付き、自分のスカートの状態に気が付いた。
段ボールに挟まれいる。そんな状態で持ち上げていれば、当然スカートが捲れ上がる。
そう、彼女はパンツ丸出しでここまで荷物を運んでいたのだ。
慌てて彼女は段ボールを床に置き、挟まったスカートを引っ張り出した。
荷物を落さないだけの冷静さはまだ残っていたが、彼女の頭の中はパニックに陥っていた。
ずっと挟まっていたのか?
ここに来るまで、何人とすれ違った!?
ロクに前が見えていなかったので、周りの状況がさっぱり分かっていなかった。
彼女の名誉の為に言うと、実際は誰にも見られていなかった。それくらい放課後の校舎は閑散としている。
だが、そんな事は彼女には分からない。
「もう、お嫁にいけない……」
確かに恥ずかしい状況ではあるが、冷静に考えればそこまで思い詰めるような事ではない。
もし、ノーパンだったら大変な事になっていただろうが、学校でそんな事をするはずがない。
落ち着きを取り戻せば、大した事ではないと、頭を切り替えることができるだろう。
だが、彼女は落ち着くどころか、さらに混乱する事になった。
「大丈夫。達也ならお嫁にもらってくれるから。……ね!」
何でここで達也の名前が出るのかと一瞬疑問に思ったが、そういえば今穿いているのは昨晩用意したあの恥ずかしいパンツだ。
文字までキッチリ見られた訳だ。
いや、待て。
最後に何故彼女は「ね!」などと言ったのだ?
誰か他に居るのか?
あまり考えたくない想像が頭の中を支配するが、確かめないわけにはいかない。
立ち上がって、段ボールの向こうに居る人物を確認する。
案の定というか、やはり遠藤 達也が居た。
一番見られたくない相手に……いや、この場合は正しく見せる相手で良いのだろうか?
とにかく、見られた見られた見られた見られた見られたみられたミラレタ