弁当食べたら突っ込んだ
「よう、遠藤。お前、委員長と付き合ってるって本当か?」
達也が登校するなり、友人の田中が声をかけてきた。
「耳が早いな。昨日から付き合いだした」
積極的に触れ回ることは無いが、聞かれたら正直に言う。
昨日達也と恵が決めた事だ。
付き合っているのを隠すカップルも居るようなので、一応決めておいたのだ。
「マジかよ。女子がそんな事言ってたけど、何かの間違いだと思ってたぜ」
「まぁ、初カノだからさ。イロイロ教えてくれよ」
「お、おう。任せておけ」
田中は、年上の彼女と付き合っていて、ヤりまくってる。
そう、自分で言っていた。
そんな彼のステータスを、達也は確認する。
名前:田中 鉄郎(童貞)
種族:人間
年齢:15
家族:父・母
体力:85
筋力:80
(以下略)
まぁ、このテの嘘が分かるのも、ステータスが見える強みだろう。
だからなんだ。というレベルだが。
「達也」
後ろから声をかけられた途端、ヒューと田中がテンプレ的に口笛を吹く。
振り返ると恵が立っていた。
声と田中の反応で予想はしていたが。
名前:高橋 恵
種族:サキュバス
年齢:16
家族:父・母・姉5
恋人:1
体力:212
筋力:361
(以下略)
恋人:1 に注目すると、「遠藤 達也」と出る。
思わずにやけそうになる顔を、達也は必死に抑えた。
「何ニヤついてるのよ」
抑えきれなかったようだ。
「何でもない。それより、何か用があるんだろ?」
まさか、彼女の恋人が誰かを確認してニヤついていた。等と言えるはずもない。
「どうせ、また変な事考えていたんでしょうけど……お昼、またパンでしょ?」
「もしかして、作ってきてくれたの?」
この流れで、「ついでに自分の分も買ってきて」とかは言われないだろう。
「一応、ね。お昼休みになっても、パン買いに行かないでね」
「りょーかい」
それだけ言うと、恵は自分の席に戻った。
――積極的に触れ回ることは無い。
そう決めた筈だが、こんな会話を教室で堂々とすると、触れ回っているのと同じではないだろうか?
「りあじゅうばくはつしろ」
田中の呟きは聞こえないフリをした。
-----------------------------------------------------
昼休み。
2人は社会科準備室で弁当を広げていた。
どうやら、恵は社会科担当教師から鍵を預かっているらしく、資料整理を手伝う代わりにある程度自由に部屋を使えるらしい。
流石は、優等生だ。
部屋の中で、ゆっくりと昼食をとる。
恵の「時空隔離」のお陰で、部屋の中の1時間が外の1分だ。
食事をして、おしゃべりして、軽く一発……
等と思ってふとももを触った手を、ペシリと恵がはたいた。
「だーめーよ。まったく、サルみたいに……恋人って、それだけじゃないでしょう?」
そう諭されたが、達也もヤりたい盛りの男子高校生なのだ。
無念さが顔にでてしまう。
「そんな顔しても昼休みはダメ。昨日帰ったら直ぐに母さんにバレたんだから……匂いとかで」
「う……それって、サキュバスの嗅覚で?」
親バレとか、恥ずかしいとかいうレベルではない。
母親なだけ、マシかも知れないが。
「何言ってるの、私の母さんは一人除いて人間よ」
恵が珍妙な事を言い出した。
「え? ちょっと待って。 恵って、何人も母親居るの!?」
言ってからしまったと思った。恵の実母は亡くなったか離婚したか、何か複雑な事情があるのだろうか?
そんな達也の後悔とは裏腹に、恵はちょっと得意そうな顔になった。
「ふーん、ステータスでもそういうのは分からないんだ?」
曰く。
恵の父親がインキュバスで、4人の妻が居るということなのだ。
恵の母親は第4夫人。先ほど話題に上がった「母さん」は第2夫人らしい。
もちろん、法的に結婚しているわけではなく、あくまで愛人という事になるのだが。
母たちの仲は良好。5人の姉のうち、同腹は1人だけ。
そんな家族の内情を、恵は嬉しそうに語っている。
驚くような家族構成だが、ステータスではそんな事は分からなかった。
多分、実母でなければ「家族」として表示されないのだろう。
「だから私、愛人に関しては寛容……というか、むしろ推奨よ。母さんたちみたいな家庭を築きたいの」
なにやら、話が飛躍する恵。
高校生に家庭がどうのというのは、気が早い。
少なくとも、達也にその覚悟はまだない。何よりも……
「いや俺、そんなにモテないし」
「そうかしら? 割とクラスでは人気あるんだけど……」
「マジで!?」
恵と被るので、他に達也の名前をパンツに書いている子は居ないが、「ちょっと日本人離れした顔がイイ」という子が居るとのことだった。
「日本人離れ……してるか?」
「ちょっと、欧州風……かな?」
とはいえ、疑問符が付く程度だ。みそ顔という奴だろうか。
「あー、婆ちゃんが金髪だし、そのせいかもな」
「へー、どこの人?」
「アマレス。ってとこ」
「……どこ? そこ?」
実は、達也も知らなかった。
親に聞いても教えてくれないし、自分でググってもレスリング関連しかHITしない。
そもそも、国名かどうかも怪しい。地域名かもしれない。
自分のステータスに「アマレス語」がある(「こんにちは」「ありがとう」くらいしか分からないが)ので、少なくとも言語はちゃんと存在しているのだろうが。
「たぶん、戦争か何かで国が無くなったんだと思う」
達也はそう結論付けていた。
親が祖母の……そして、従姉の国の事を話したがらない理由は、それ以外思いつかなかった。
「達也って、結構謎が多いよね」
サキュバスが言うな。
達也は思いっきり突っ込んだ。