温泉回
「はぁー、いきかえるぅー」
「温泉なんてあるんですね」
夕刻。遊び倒した一行は、少し早い入浴……オークの村の温泉を堪能していた。
皆、思い思いの体制でくつろいでいる。
……十代のJC、JKの中に混じっても全く遜色のない香苗やメアリは流石である。特に、メアリは子持ちの30代とは思えない肢体だ。──エルフなので平らだが。
一方、香苗はこのメンバー中一番大きな84のCだ。形も申し分ない。
実数字はともかく、見た目の印象なら、陽子が一番だろう。身長との対比で大きく見える。
メアリと同じエルフであるアリシャや、成長前の恵は中学生2人よりも小さい。……その中学生コンビについてのコメントは差し控える。
以上、何の話かは一切具体的には言及していないが、忖度していただきたい。
「コレって、日本からの輸入?」
「いや、温泉文化は、オーク独自のものだな。浴槽の造りとか給湯口とか、日本とは違うだろ?」
恵の疑問に、アリシャが答える。独自様式ではあるが、実はローマの公衆浴場に似た造りになっている。そういった知識が無い彼女たちには判らないが。
「オークの人達は全種族で一番の綺麗好きと言われているわね」
メアリがそんな豆知識を話す。
「セカイでも豚は綺麗好きらしいですね」
「豚とオークは全く別の生き物らしいわよ。似てはいるけど。でも性質も似たところがあるのは面白いわよね」
ゆかりの発した言葉に注釈を加えるメアリ。
とはいえ、生物学的な事は彼女も詳しいわけではない。例えば、別の世界の生き物なのに、セカイの人間もロームンドの人間も、人間として同じ種族だし、子供もできる。当たり前に受け入れているが、何故そんな事が可能なのか? 学術的な事は全く分からない。それに、エルフと人間の子供がハーフエルフのような半々の存在にはならず、必ず親のどちらかの種族になる。という事も、言われてみれば変な話なのだ。メアリ自身、アリシャが産まれた頃に知り合った日本の生物学者の話を聞くまでは全く意識していなかったが。
「なんかイメージ違うよねー。なんか、こう、汚いイメージがあった」
沙織がそんな言葉を漏らすと、思考の海に沈みかけていたメアリの意識が戻ってくる。
「ロームンドの一般人のイメージも変わらないわよ。というか、積極的に他種族と関わってたのって、所謂はみ出し者で、だいたいが盗賊だったらしいから……」
「あー、なるほど。種族的には綺麗好きでも、そんな人たちは汚かったんだ」
メアリの言葉に、沙織は納得の声を上げた。
「そうなると、女の人を襲う。というのも、間違ったイメージ?」
これは恵だ。
サキュバスとしては、性的な方面でオークには親近感を持っているので、確認しておきたい事柄だ。
「オークが男しか居ないのは確かだから、他の種族から女の人を連れてくる必要があったのは、間違いないわ」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
「とはいっても、ちゃんと正当な対価で奴隷を買ったり、娼婦を身受けしたり……あとは村で生まれた他種族の女の子を孕ませたり」
オークといえど、他種族と交わればその子供が親と同じ種族になるかどうかは半々の確率。子供が他種族になれば、当然女の子が生まれる可能性もある。というか、他種族が生まれたら、必ず女の子になる。
そいった女児は自動的にオークの母体になる。
と言うと悲惨な人間牧場的なモノが思い浮かぶが、彼女たちもイロイロと楽しんでいるらしい。
「えー、一応、未成年もいるので、オブラートに包んだ表現をしていただけると、助かるであります」
前述の事をかなりストレートな表現で話すメアリに、沙織が苦言を呈した。
そもそも、メアリと香苗以外は全員未成年なのだが。
だが、そんな沙織の言葉にも、メアリはどこ吹く風だ。
「んー、でも沙織ちゃんもカレシできたんでしょ? あんまりおぼこいこと言ってると、愛想つかされちゃうわよ?」
「へぁ!? ど、どこでそんな話を!?」
「ん? 普通に紗也から聞いたけど?」
「あうあうあうあう」
沙織は親類にこういう話をされるのはまだまだ耐性がきできていない。
「まぁ、ここには参考になる話を聞ける義姉さんが4人も居るんだし、新鮮なお話を聞かせてもらおうじゃないの」
『ええぇ!?』
こうして、湯のせいだけでなく顔を赤く染めたガールズトークが繰り広げられていった。
◇
一方、男湯はというと、女湯とは違い、達也ひとり。
どうやら、現地人の客はこの手の浴場はあまり利用しないらしい。
ちょっと泳いでみたりと、達也は広い風呂を独り占めできる機会を満喫していた。
「なんか、こう、水着なんかでもあるのとないのじゃ違うなぁ……心細いというか、位置が定まらないというか……」
何が。とは言わない。知りたくもない。
そんな風に風呂で遊んでいると、脱衣所の方から物音が聞こえてきた。
「おっと、貸切は終わりか」
流石に、他人が入って来たら泳ぐような真似はできない。大人しく湯に浸かる事にした達也だが、物音の主はなかなか入ってこない。
「人が居るのを察して入るのをやめたか?」
そもそも、客じゃなく従業員かも知れない。客が入ってたら従業員が使えない。とかはありそうだし、掃除をしようとしたもかも知れない。その場合も、入浴している客が居ればできないだろう。
「ま、そろそろ上がるか」
泳ぐくらいには堪能した達也は、そのまま上がる事にした。
脱衣所にも誰も居ないので、物音の主はとっくに出て行ったのだろう。
そんな事を考えながら体を拭いて居ると、誰か入ってきた。
「:#"@#“{〆、,,@!?」
アマレス語で何を言っているのかまでは分からなかったが、女の声だった。
「え?」
「あ」
驚いて声の主を見た達也と、その女の目があった。
「*(-¥、)*-¥#/〜……」
「あー、日本人。ラメ、アマレスメリ」
タオルを肩にかけ、身振り手振りで覚えている限りのアマレス語で伝える達也。とりあえず、アマレス語が不自由だと伝わればそれで良い。
「あー、ニホンジン、ね。ここに女の子が来なかったかしら?」
どうやら、彼女は日本語ができるらしく、ひとまず意思の疎通は可能なようだ。
「いえ、俺ひとりですが……」
「そう、ここだと思ったんだけど……邪魔したわね」
よくわからない事を言って、女は出て言った。
「新手のノゾキか?」
だとしたら、かなり堂々としたものだ。
「そうそう、アイツ痴女なのよ」
「マジかよ……って、いつの間に!?」
気がつけば、目の前に同い年か少し年下くらいの女の子が居た。
興味深そうに、何かを見ている。
その視線の先を追うと……
達也は急いで腰にタオルを巻いた。
「何だ、もう隠しちゃうんだ」
「痴女はお前だろう」
思わず、達也はそう突っ込んだ。




